3,転生‐リバース‐
異世界転生させようと思ったのですが圧倒的勉強不足により異世界転生のセオリーが分からずできませんでした。だから見ててください。俺の、変身。
暖かい光に、優しい風にほほを撫でられ、俺は目を覚ました。
「ここは……」
見渡す限りの平地。真っ平ら。何もない。建物も山もなければ、小動物も草木さえも。改めて自分の足下を見下ろすと、それが土であるかすら怪しい。
ここにあるのは歩けるだけの地面と、見上げられるだけの真っ白な空。それが無限にある。ただそれだけ。
ここは何なのだろうか。というか、俺はそもそも何故こんなところに……?
「アスカ」
「ん?」
どこかからか声が聞こえる。男のような、低い声。かと思うと、女のような高い声のようにも聞こえる。空から降ってくる音である気もするし、地面の底から聞こえているような気もする。
上を見上げて、せわしなく何かを探してみたり、足下に何かあるのかと見つめてみたり。とにかくキョロキョロとしているとまた声が聞こえた。
「よかった……聞こえてはいるようですね」
「また声だ……」
「アスカ。あなたの名は、佐渡場アスカ。それはよろしいですね?」
「アスカ……。ああ、たしかに。俺の名前は佐渡場アスカだ」
もう声については深く考えるのをやめた。他にもっと考えるべきことがある。
「俺はどうしてこんなところに……?」
「覚えていませんか?」
「う~ん……」
「では、覚えている情報を順番に整理してみてはどうでしょうか」
「整理……っすね。はい、じゃあ、やってみます……」
まず、俺の名前。これはさっきも言った。佐渡場アスカだ。
そして……
ア1,俺の職業は……
2,俺の好きなことは……
3,俺の友人は……
俺の職業。これは、“学生”になるのだろう。高校生だ。学年は1年……2年だったか?
「俺は高校生だ……です」
「はい。では、何という高校に通われていますか?」
「えっと、たしか……」
たしか動物の漢字が入っていたはずだ。かなり難しい字で、入学当初は苦労させられた。あれは……
「犀……そうだ!サイ、犀解高校です!」
「まず一つ、思い出せましたね」
次は……
1,俺の職業は……
ア2,俺の好きなことは……
3,俺の友人は……
俺が好きで得意なこと。それはもちろん……
「シャリバです」
「なるほど。では、それを好きになったきっかけは何ですか?」
「きっかけ、ですか……」
それは、たぶん高校に入ってからのことだ。元々シャリバは世間でも重要視されてはいるが、犀解高校は特にその傾向が強かった。シャリバがうまければ内申点に大きなプラス補正をかけるなんてこともザラだし。
そして何より、
「高校に入ってから、ですかね。結構周りの連中に勝てるようになったんで」
「なるほど。では、ここまでであなたが先ほどまで何をされていたか、思い出せますか?」
「いえ、相変わらず思い出せません……」
「そうですか。焦ることはありません。あなたは着実に思い出せていますよ」
次は……
1,俺の職業は……
2,俺の好きなことは……
ア3,俺の友人は……
俺の友人は決して多くない。いや、できないわけじゃない。どうでも良い友達がいっぱいいるよりは、ほんとうに大切な、一生付き合っていきたい友達ってのがほんの一握りいれば良い。とは言っても少なすぎるか。
「俺の交友関係は、ほとんど馬波夢有人っていう同級生で占められますね」
「なるほど。思い出せる限りで良いのですが、その方と会われたのはいつのことですか?」
「それは……」
たしか、昨日……いや、待て、ほんとうに昨日か?
もっと最近、何かなかったか。
「そういえば」
さっきあいつと別れたばかりじゃないか。電話がかかってきて、それで呼び出されて。
「さっきまであいつといました。でも電話がかかってきて、その相手に会いに行ったんです。それで、俺は一人で帰りました」
「帰った、とのことですが、家にはたどり着きましたか?」
「?それは、えっと……あれ?どうだったっけ……」
「その後、何があったかは思い出せませんか?」
「はい……なんかすみません」
心なしか、声がイラだっている気がする。そんな怒ることないやん……ほんとに思い出せなくて焦ってるのはこっちなんだから……。
「……不本意ではありますが、仕方ありません。時間が無いのですから。私にも、あなたにも」
「はあ……」
「あなたは、よこしまなる企てを持つ輩と闘い、そして打ち負かされたのです」
「横縞?打ち負かされた?」
「あなたの闘いは本来であればここで終わりです。しかし、あなたにはこれから先も彼らと戦っていってもらう必要があります。幸いなことに、我々にはそのための準備もあります。……あなたにそれがあるトは思えませんが」
「あの、さっきから何を」
「あなたに力を授けます。今は小さな萌芽に過ぎませんが……やがて根を張り、あなたを支える大木となるでしょう。さあ、おゆきなさい」
「!ちょっと!まだ教えてほしいことが山積みなんですけど!」
「時間が無いといったはずです。それでは、私はこれで。あなたも早くお戻りなさい。風邪を引きますよ」
「ちょっと!」
……。
「あれ?」
まぶたを開いて一番先に視界に飛び込んできたのは、真っ黒な夜空と、それを四角く縁取るビルの側面だった。自分の姿勢もおかしい。何故こんな薄汚い路地裏で寝ているのか……。
「ん……?何してたんだっけ俺……昼寝?」
ぼんやりと何か夢のような物を見ていたような気がするが、いまいち内容が出てこない。
「ヘクシッ!寒!」
まあ、帰るか……。
このときの俺は知るよしもない、どころか、知る準備さえできていなかった。
俺の中では、まだ何も始まってすらいなかったのに、まわりはそうじゃなかった。
ほんとうは気づくべきだった。でも気づけなかった。
まさか、一番身近なところから壊れ始めていたなんて、思ってもみなかったんだ。
「……来たか。馬波夢有人」
「約束の物は」
「これだろ?」
「!これが……」
「そう。お前を勝利へと導く、代理印刷生成機」