14,
「……」
「いや、試すような真似をして悪かった。素晴らしかったよ。なかなかやるね」
「あんたは一体なんなんだ?」
「君と同じ、さ。私も選ばれたんだよ。君が選ばれたのと同じように」
「選ばれた……」
まぁ自覚はないが、そういうことになるのだろう。
「確かに……ルカがそんなことを言ってたな」
「ん? ルカ?」
ルカの名前に食いつかれたので補足説明でもしようかと、後ろを振り返る。彼女は相変わらずの位置に立っていた。
「あぁ、ルカってのはあそこにいるやつ。あいつが俺に色々教えてくれたんだ。このカードのこととか」
クリエイションカードを掲げる。が、ストンはこっちを見てはいなかった。ルカを凝視している。
「ルカ……ね。ちなみに、苗字は?」
「えっと……倉部、だったな。たしか」
「倉部ルカか。……おかしいな、そんなに多い名前ではないと思うんだが」
ボソボソと何か言ったようだが、よく聞こえない。
「何か言ったか?」
「いや、何でもない」
何でもないならいいか。
「さて、もうそろそろ時間も遅くなるし、帰るとするか。続きは明日にしよう」
言われて初めて気づいた。たしかにもう夜という時間帯に突入している。
「明日の放課後、生徒会室に来てくれ」
「え?」
「そこで話の続きをしよう。それじゃ」
生徒会室にって……犀解高校の、だよな?
「あの人、同じ高校の人だったのか」
長い髪がゆらゆらと揺れ動く背中を見送りながら、少し意外な感じがした。
…………
翌日、ムートは学校に来なかった。理由は知らない。連絡することもできなくはないが、やはりする気になれない。
授業を全て終えた俺は、早速約束の教室に行くことにした。席を立って教室を出る。
すると……
「こんにちは。佐渡場アスカさん」
「ん?」
メガネをかけた女性に声をかけられた。
「私は倉ロワです。蓮ストン会長の指示であなたを迎えに来ました」
「会長……? あ」
そういえば、うちの生徒会長そんな名前だった気がしてきた。
「会長だったのか……あの人」
「? ご存知ではなかったのですか?」
「まぁ、なかったかな……」
なるほど、だから指示した場所も生徒会室なのか。
「さ、行きましょう。付いてきてください」
「あぁ」
道すがら、特に会話することもなく目的地へとたどり着いた。
「失礼します。どうぞ」
ノックをしてからドアを引き、俺を中へと誘導する。俺が部屋に入ったのを見届けてロワも入った。
生徒会室とは言っても、特に変わった何かがあるわけじゃない。大きな棚や数々のファイルがあるが、そう言ったものを除けば少人数クラスぐらいの教室に5対の椅子と机があるくらいだ。
そのうちの真ん中に鎮座している人がいた。
「ようこそ、生徒会室へ。ま、適当にかけてくれ」
左手を差し出してそう指示されたので、とりあえず手前の椅子を引いて座る。
ロワはそんな俺を追い越し、ストンのとなりの席に着いた。
2人に対して、俺は向き合うように座っている。なんだか面接を思い出す。
「どうだい? 昨日は夜休めたかな?」
「え? まぁ」
昨日は色々なことがあった。
まず、ルカと出会った。それでクリエイションカードを貰った。
次に、ムートのカード偽造。あいつはイカサマで勝利の山を築いていた。
そして、最後に会長とのバトル。というかこの人……先輩だったのか。
「さて、何から話そうか。……君は友達思いそうだし、馬波君の話でもしようか」
「!」
切り出してきたのは、ちょうど俺も一番気になっていたことだ。
「今日、彼は登校しなかった。そうだね?」
「はい……」
そうだろうね、と頷くストン会長は、ふう、とひと息吐くとこう続けた。
「単刀直入に言おう。彼はR-ageに参加する。君もそれに出ろ」
「!」
ムートがR-ageに参加するのは本人から聞いていたので知っていたが、そこに俺が……?
「説明します」
それまで沈黙を守っていたロワが口を開いた。
「ストン会長は、彼が偽造カードを所持しているのではないか、という疑惑を抱いていました。しかし、同時に、決定的な証拠をつかむこともできていませんでした」
ということは、この人は俺たちよりも早い段階でムートの事に気付いていたのか。
「そこで、会長はこの状況を打破するためにある手を打つ事にしたのです」
ある手……?
「それは、彼を学校代表としてR-ageに参加させる事です」
それが、手なのか……?
「ここからは私が説明しよう」
ストンにバトンタッチした。
「まず、彼の家庭状況を知っているか?」
「家庭状況?」
そういえば、あいつから家族の話を聞いたことがない。家でどんなことをしてるどころか、どこに家があるのかすら知らない。
「そういえば……知りませんね」
「なるほど。ま、隠していたのだろうな。それを他人が触れ回るのもどうかとは思うが……君には知る必要があることだ」
どんなことを聞かされるのだろうか。少し不安になる。
「まず、彼の家庭は母子家庭だ。父親は……数年前から姿を消した。彼の名は馬波シン。プロシャリバプレイヤーだ」
「プロ? あいつの父親が? それに姿を消したって……」
「一度に多くの疑問を持たせてしまったな。すまない。が、こちらも多くを知っているわけじゃない。十分な説明はできないだろうが、できる限りは説明させてもらおう」
俺は椅子に座りなおし、姿勢を正した。一つも聞き逃さぬよう、耳に意識を集中させることにした。
「彼の父、シンはプロとして優秀だった。数々の大会で勝利を収め、最強とは彼のためにある言葉だ、など言われるほどだった」
「しかし、ある大会を機に、彼は姿を消してしまった。友人はおろか、家族にすら連絡なく……らしい。生活面では彼が残した貯蓄で賄えていたのは幸いだった」
「が、それも突然終わりを告げた。ムートの母、つまり、シンの妻が病に伏した。治療には多額の費用がかかる。しかし、そんな金はない」
「それから彼は非公認の大会によく参加するようになった。非公認大会は、公認のそれと比べて賞品や賞金が豪華であるケースが多い。……おそらく、この辺りで彼はカードを偽造する術を身につけたのではないかな」
「そして、その頃に私もこのカードの所有者に選ばれた」
ストンはブレザーの内ポケットからカードを一枚取りだした。見覚えがある、真っ白なそれは、紛れもなくクリエイションカード。
「そこで初めて、カードの偽造なんてことができると知った。存在を知ってしまえば、誰がそれをやっているかは何となく見当がつくようになった。そして、馬波ムートに目が止まった」
「彼は偽造をしている。わかってはいたが、証拠をつかめずにいた。だから揺さぶりをかけたんだ。R-ageに、学校代表として出場しないか? と」
「R-ageは賞金が高い。母親の治療費も出せる。それに、学校の代表として出場するプライド。彼は負けられない、負けるわけにはいかないという強迫観念に晒されたはずだ。そうなればどのような行動に行き着くかは目に見えている」
それは、昨日の俺が目撃したものだ。
「偽造の、乱用……」
「そう。乱用によっていずれボロを出すだろうと踏んで彼を調査していた。そして先日、こんな場面に出会った」
クリエイションカードを持っていたと思っていた手に、今度は写真が一枚握られていた。
手首のスナップを利かせ、こちらに向かってシュッと投げる。
写っていたのは、全身を黒っぽい服で覆った怪しい男から何かを受け取るムートの姿だった。
「これで証拠は揃ったわけだが……私としては、これを大事にはしたくない。できるならば彼には自主的にやめてほしいんだ。こんな事を」




