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引いたカードは……この状況をどうにかするようなものではなかった。
「ちくしょう……ホントどうすりゃいいんだよ……」
唇を噛み締めながらも、状況を確認するため、目の前を見渡す。
相手の戦場にいるクリーチャーは3体。
3/3の《エルフ》が2体に、2/2の《エルフ・ロード》が1体。
「……ひとまず、ロードを倒すか……」
《エルフ・ロード》を倒せば、2/2クリーチャーが1体減るので、受けるダメージが−2。
さらに、《エルフ》2体にかけられている+1/+1修正がなくなり、さらにダメージは−2。
つまり、計4点のダメージを軽減することができる。
しかし、こんな序盤でそれほど多くの除去カードを切りたくない。ここまでストンは3枚のカードしか使っていないのだから、確実に攻め手はまだあるだろう。
「……考えていても仕方がないか。俺のターン! ドロー!」
引いたのは……。
「! 良いカードだ。アクティブ! 《ドッペルゲンガーの爪痕》発動!」
「! ほう……」
「《ドッペルゲンガーの爪痕》は、場に同名クリーチャーが複数存在する場合、それら全てを破壊する!」
2体存在した《エルフ》が、同時に消滅する。
これで残ったのは《エルフ・ロード》1体のみ。
こいつは次のターンでなんとかすればいいだろう。
「ターンエンドだ」
「わかった。ターンをもらう」
2体のクリーチャーを削ったわけだから、相手の戦力も大きくこそぎ落とせた。
という認識が誤りだったと、すぐに気付かされた。
「《エルフ・ロード》2体目を出す」
「何!?」
またしても《エルフ・ロード》が召喚されてしまった。自身はそのパワーアップ効果を受けられないが、2体になればそれぞれの恩恵を受けられるようになる。
「さらに、《エルフ・ディフェンダー》を召喚」
現れたのはまたしてもエルフ。両手で、全身よりも大きな盾を持っている。
「《エルフ・ディフェンダー》は、自分のエルフクリーチャーが破壊される時、代わりに破壊することができる。ちなみに、この効果は1度に複数体が破壊される場合でも代わりに破壊できる」
つまり、たとえ全体除去を撃ったとしても《エルフ・ディフェンダー》が死ぬだけで終わる、というわけか。
「そして、2体の《エルフ・ロード》の能力でステータスが3/3まで上昇」
これで3/3が3体。一気に盛り返してきた。
「さて、そろそろ仕掛けようか。《エルフ・ロード》で攻撃」
攻撃宣言に反応し、剣士が剣を構えこちらに向かってくる。
対する俺は、為すすべもない。
「くっ!」
ロードが剣を振りかぶる直前に、左腕でかばう。
映像だと頭ではわかっちゃいるが、反射的に手が出るのだから仕方がない。
「まったく……ようやくダメージが入ったよ」
と吐いて、ストンはため息をついた。
普段ならもっと早くダメージが入っているのだろう。デッキの内容からしてわかる。
ストンのデッキはいわゆる攻撃型デッキだ。それも、速効型の。低コストのカードで序盤から攻め立て、そのまま殴り抜く。
そういうデッキは本来、序盤に強い代わりに、中盤から失速し、終盤では完全に止まる。
なぜなら、低コストカードは往々にして低ステータスだからだ。相手が大型のクリーチャーを立てると、その時点で動きが止まる。本来なら。
それを覆しているのが、フィールドカード。
クリーチャーのサイズを上げることで、戦闘に強くなるだけでなく、除去に対する耐性も上がる。
場に出せるクリーチャーは5体までだ。
それが全てエルフクリーチャーなら、アレひとつで+5/+5分の働きをすることになる。
1マナで+1/+1という相場なので、単純に5マナ分のレシオだ。
「ターンを終了する。さぁ、君のターンだ」
…………
苦しい戦いが続いた。
俺のLPは11まで削られ、対するストンは無傷の20。
戦場はなんとかリセットをかけ、更地に戻したが、再び展開されるのも時間の問題だろう。
「私のターン。《エルフ》召喚。さらに《エルフ・ディフェンダー》、《エルフ・サモナー》を召喚」
予想通り、大量のエルフで場が賑やかになった。
さらに。
「《エルフ・サモナー》は召喚時、使い魔たる《トレント》1体を引き連れて場に出る。出でよ、《トレント》」
これで場にあるクリーチャーは、2/2が4体。うち1体を先に倒さなければ、殲滅できない。
「またディフェンダーかよ……」
アレを突破するのは本当に骨が折れる。
手札には1枚だけ、火力を飛ばせるカードがある。これをディフェンダーに当てて、もう1枚、全体除去が欲しいところだが……。
「俺のターン……」
たのむ、何か良いカード……!
「! なるほど、それが君のカードの……」
「ドロー!」
カードを引く瞬間、思わず目を瞑る。果たして引き当てたのは、およそ望み通りのカードだった。
「手札から《プリースト・スイング》発動!《エルフ・ディフェンダー》を破壊!」
一番厄介なディフェンダーを処理した。これで少し安心できる。
「よし、ターンエンド」
「? エンドでいいのかい?」
「あぁ。好きにかかってこいよ」
「……なるほど。そういうことなら」
カードを引く。そして、さらに展開して……
「迂闊に手を広げるのはやめておこう。何も出さず、全員で攻撃だ」
「……」
まぁ、そうだよな。わざわざ危ない橋渡ることもないか。仕方ない。これをやるのは決まってたんだ。
「攻撃時、手札から《浄化の火》発動! 全ての相手クリーチャーに1ダメージ!」
「だが、私のクリーチャーは全て2/2だ。その程度のダメージでは死なんぞ」
「わかってる! だからこうするんだ! 《浄化の火》の【リブート】! リブートコストを支払うことで、墓地から再び効果を発動する!」
「ほぅ、なるほど」
つまり、「全体に1点のダメージを与える」という効果を2回発動する。合計2点のダメージとなり、エルフクリーチャーは全滅だ。
「よし!」
「なかなかやるな」
うまく出し抜けただろうか? 流石にこう何度も全体火力を撃つわけにはいかないし、そろそろ引き下がって欲しいのだが。
「では、次はこんなのはどうかな?」
まだあるのか……。
「今度はなんだ……?」
「今度のは、君も退屈しないと思うよ。せいぜい楽しんでくれ。出でよ、《エルフ・キング》」
「!」
ストンの宣言と同時に、森のあらゆる方向から風が吹き始める。それはストンの前で渦となり、その中央で何かが形を成した。
そして、黒い影となっていた渦の中に潜む存在が、渦をかき消しながらおどり出る。
王冠をかぶり、鎧をまとった、見るからに強靭そうなエルフだった。
「これは……」
見たことがないクリーチャーだ。新弾のカードか?
「このクリーチャーは《エルフ・キング》。コイツは、墓地にあるエルフクリーチャーの数だけステータスが上昇する。トークンは墓地に行かないのが残念だが……それでも、墓地には8体のエルフがいる」
「ということは……10/10!?」
冗談じゃない。どんな相手も2回殴られればゲームセットな数値だ。しかも、パワーだけじゃなく耐久まで高い。除去しようにもどうしろっていうんだ。
「君のLPは残り11。つまり、なんらかの強化をし、この《エルフ・キング》で攻撃を通せば終わりだ」
わざわざ言わなくてもいいことを言うストン。
あいつは手札に強化を持っているだろうか。たとえ持っていなくとも、プレイヤーにも飛ばせる火力でも握られていればおしまいだ。
「このドローで……たのむ! ドロー!」
俺のターン、渾身のドロー。
……なんとなく、手応えがある気がした。
「! 一度のバトルで二度も使えるのか!?」
そして、引いたカードを見て、自分でも驚いた。
「……こんなカード、デッキに入ってなかったよな?」
引いたのは、デッキに入れた覚えのないカードだった。あまりにも限定的な状況でしか使えないような、汎用性のないカードだったが故に、採用されなかったはずだ。
だが、たとえ入れた覚えがなくとも、引いたものは引いたのだ。つまり、使ってもいい。
「逆転のカードを引いたぜ。召喚! 《ひねくれ者の強化術師》!」
「! エンチャンターだと!」
「《ひねくれ者の強化術師》が場にある限り、あらゆる+効果は−効果に置換される!」
杖を持った魔術師、エンチャンターが詠唱を開始する。すると、《エルフ・キング》は片膝を地面につき、やがて地面に倒れ、地面と同化して姿を消した。
「《エルフ・キング》のステータス上昇の効果が全て下降に反転した結果、体力が0以下となり、存在を保てなくなった……というわけか」
「それだけじゃない。この置換効果は《ひねくれ者の強化術師》が場に存在する限り有効だ!」
つまり、エンチャンターが場にある限り、フィールドカードによる+効果も反転する。
あらゆるエルフクリーチャーが+1/+1されるのではなく、−1/−1されるというわけだ。
この意味がわからないストンではないだろう。
こちらの思惑に思い至ってか、ストンは声を上げて笑い始めた。
そしてすぐに語り出した。
「エルフクリーチャー群は、そのほとんどが1/1のクリーチャーによって構成されている。その貧弱さをカバーするために、このようなフィールドを選んだわけだが……まさか裏目にでるとは!」
関心というか余裕というか、ストンには追い詰められているという意識が見えない。ひょっとすると、まだ奥の手を隠し持っているのかもしれない。
「……俺はこれでターンエンドだ。お前の……」
「いや、ここまでにしておこう」
なんだって?
「私のデッキに、そのカードを除去できるカードはない。もう十分だ。降参」




