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キサとソラと紅葉狩りと

 弗寺町二丁目バス停前。キサは黒いセーターにチェックのスカート、赤いヒールを履いて、ソラが来るのを待っていた。


「キサちゃん、おはよー! 今日は紅葉狩りだね! 楽しみだね!!」


 ソラはキサの視界に入るとにぱっとした笑顔で大きく手を振った。ソラは水色のワンピースに灰色のカーディガンを羽織っている。靴は白いスニーカーを履いていた。


「おはよう、ソラ。街路樹の紅葉さえも美しく赤く染まっていますもの。甘結神社の紅葉はさぞかし荘厳な光景なのでしょうね」


 キサは頬に手をあてうっとりとした表情で語る。ソラは嬉しそうなキサを見て満悦な笑みを浮かべる。


 甘結神社とは、少し離れた山奥にある神社だ。縁結びの神様として有名で、二人でお参りをすると結ばれるというジンクスがある。紅葉狩りの名所としても有名でこの時期は沢山の観光客で賑わってもいる。

 二人で話をしているとバスが到着した。バスの中は田舎にしては珍しく沢山のお客さんがいた。二人は奥の方に空いている席を見つけると腰かけた。


「そういえばキサちゃんは知っているかな? 甘結神社はこの時期、観光客が多いから出店もやっているんだよ。キサちゃんの好きな甘栗もあるかもしれないね!」

「美しい花を愛でながら、美味しい物を食べる。人生の幸せが凝縮していますわね! 今から楽しみですわ!!」


 キサは頬っぺたを抑えながら嬉しそうに顔を振った。彼女の心境を現すように、ふよよんと顔の横で巻き髪が揺れる。


 神社前のバス停に着くと二人は降車した。他のお客さんも目的地が同じだったようで、ぞろぞろと降りている。バス停の前には、田舎とは思えない様な人だかりが出来ていた。


「えっ、この石段を登るんですの? 頂上が見えないですわ……」


 見上げる限り終わりのない石段に、キサは顔を青く染める。


「写真で見るよりも迫力があるね。頑張って登ろうね、キサちゃん!」

「私、聞いていませんわ。観光と聞いてヒールを履いて来ましたのに……」


キサは左手で手すりを、右手をソラに引っ張って貰いながら、震える足取りで階段を登る。


「ううう、ソラ、もう少しゆっくり歩いてくださいませ。足がつりそうですわ……」

「良いけど、キサちゃん。これ以上ゆっくり登ると、神社に着く頃には夕方になるんじゃないかな」


 ソラのイタズラな笑顔に、キサは涙目で答えるしかなかった。

 石段を登りきると、そこには沢山の屋台が並んでいた。屋台の先には大きな鳥居が見える。キサはぜえはあと肩で息をしながら、ベンチへと座る。ソラはペットボトルの水と甘栗を買ってキサに渡した。


「はい。キサちゃん。お疲れ様!」

「ソラ、ありがとうですわ……。これ、帰りはどうすればいいんですの……」


 キサは水をがぶがぶと飲みながら、呼吸を整える。


「あははは、大丈夫だよキサちゃん。帰りは裏門からバスが出ているから。階段は降りなくてもいいんだよ」

「それは助かりますわ……。どうして行きのバスは山の上まで上がらないのかしら。あっ、甘栗、あつっ、おいしっ。ソラも食べます?」


 キサは甘栗の皮をむき口へと放る。はふはふと熱そうに白い息を吐き出した。


「私はいいよ。キサちゃんが美味しそうに食べているのを見る方が幸せだから」


 ソラはにぱっと笑い、キサが食べ終わるのを横に座り待つ。

 キサは食べ終わると、紙袋を小さくたたみ、水をごくごくと飲む。ぷはーっと気持ちのいい飲みっぷりをすると、紙袋をゴミ箱に入れた。


「お待たせですわ。神社の中を散策しましょうか!」

「うん!おっきな池もあるみたいだよ。楽しみだね!」


 ソラはキサが甘栗を食べている間に案内図を取って来ていた。キサに見えるように広げて、神社の中を歩くルートを確認する。

 大きな鳥居をくぐると、歴史を感じさせる本堂が構えていた。

 二人でガラガラと鈴を鳴らし手を合わせて、お参りをする。


「キサちゃんは何をお願いしたの?」

「ふふ、秘密ですわ。ソラこそ何をお願いしましたの?」

「私も秘密かな?」


 二人はお参りを終えた後、庭をぐるりと歩き始めた。庭はどこも紅葉で覆い尽くされていた。風が吹くとさわさわと葉が触れ合う音が聞こえる。赤く染まった空模様が一足先に夕方を連れて来てくれたみたいだ。

 キサはふと立ち止まり、足元を見た。


「ソラ見てくださいませ。天然のプラネタリウムですわ」


キサの足元には、星型にくり抜かれた木漏れ日が地面に夜空を描いていた。


「うわ~、キサちゃん素敵だね。まだ、お昼なのに、夕方と夜が同時に楽しめるなんて、なんて贅沢なんだろうね!」


 キサは空を見上げぽつりと言葉を零した。


「私が神様にお願いしたのは、時間がこのまま止まればいいのにってお願いしましたの。いつまでも、ソラとずっとに居たいではありませんか」


 キサの影が陽炎のように揺れる。それは、いつかは消える幻の様であった。


「私もだよ。キサちゃんとずっと友達でいれますようにってお願いしたの。二人とも同じことを願ったんだもん。叶うんじゃないかな」


 キサの顔は紅葉し、目じりに大きな涙を溜めた。


「キサちゃんの顔、紅葉のようだね。でも、キサちゃんを狩っていいのは私だけだから。他の人には狩られないように気を付けてね!」

「私だって、ソラ以外の人に興味無いですわ」

「それじゃあ、一緒の大学に行けるように勉強頑張ってね! キサちゃんなら大丈夫だよ!!」

「ソラは私の偏差値を知っていて言いますの? 結構、離れていますわよ!?」

「あははは、それくらい大丈夫だよ。時間はまだあるし、スパルタで良ければ勉強も教えてあげるよ」


 落ち葉の様に思い出は重なり、秋の様に友情は深まる。二人の思い出のアルバムはこうしてページが増えていくのであった。

キサとソラは今後も出て来るキャラクターになります。

喧嘩したり、じゃれあったり、二人の日常を楽しんで貰えると嬉しいです。

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