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ポッキーゲーム

「ポッキーゲームをしよう」


 そう言った辻町先輩は綺麗な顔に似合う鋭く真面目な目つきだった。


 ふざけている訳ではないだろう。先輩はそういう冗談は言わないタイプだ。だとしたらどういう意味なのか。俺は辻町先輩の魅惑的な提案に困惑する。


 ポッキーゲームのルールは、一本のポッキーを左右から食べて先に口を離した方が負けというゲームだ。普通に考えるとキスをする為のゲームだろう。もしかして、辻町先輩も俺のことが好きなのだろうか? 俺たちは両思いだったのか? 悶々としながら、辻町先輩の真意を予想する。


「富海、頬が緩んでいるが、何か勘違いをしていないか? 私と富海で甘ったるいゲームをすると思うのか?」


 あっ、はい。そうですよね。そんな美味しい話はないですよね。

 少し残念な気持ちになると、緩んだ頬を元に戻し、真剣な面持ちを作った。


「じゃあ、先輩の言うポッキーゲームって何をするんです?」


 先輩は呆れたようにため息をつき、やれやれと大きく首を左右に振る。


「決まっているだろう? 古来から、ポッキーゲームといえば、ポッキーを武器とし戦うゲームのことだ。相手の体にポッキーを当てるか、若しくは、相手のポッキーを折ったら勝ち、わかりやすくて私達向きのゲームだろう?」


 なるほど、ポッキーでやるチャンバラという訳だ。俺と先輩がやるのなら普通なゲームはずがない。

 さて、提案して来たと言うことは何らかの作戦があるはずだ。まずはそれを探らなければならない。


 俺は腕を組みうんうんと考える。どこかにルールの落とし穴があるはずなのだ。

 そうか、わかった! ポッキーの種類だ。確かポッキーにはジャイアントポッキーという普通より大きいサイズがある。先輩はあれを用意しているのだ! 俺はこの推理が正しいかどうか確かめるべく質問を投げる。


「使うポッキーの種類は決まってるんですか? 普通のよりアーモンドクラッシュなどの方が硬そうじゃないですか」


 先輩は真面目な表情のまま口角を上げる。これは、良い質問だという意味だ。


「そうだな、ポッキーの種類は自由としよう。何なら棒状のお菓子なら何だって構わない。その代わり、予算は千円という条件でどうだ?」


 予算は千円? 普通のポッキーを買う値段ではない。やはり、ジャイアントポッキー作戦と見て間違いないだろう。


「良いですよ。俺、ポッキー持って来てないんで、今から買い出しに行って、一時間後に部室に集合でどうですか?」


 先輩はこくりと頷くと部室を後にした。よし、俺も買って来よう。

 まてよ? 予算内なら、ポッキーを束ねるのはどうだ? ジャイアントポッキーを溶かしてくっつけるのだ。それなら、強度も太さも一本の時より強くなる! 俺は発想で、先輩を出し抜いたことに優越感を覚える。今日の勝負は俺の勝ちだ!


 俺は十八本のジャイアントポッキーを溶かして、部室の冷蔵庫に入れた。

 スーパーで他のお菓子も確認したが、棒状のお菓子ならこれに敵う物は見当たらなかった。

 約束の時間の五分前になると冷蔵庫から取り出し、固まり具合を確認する。

 よし、予定通り強度が上がっている! これより強靭なポッキーは無いはずだ!


「それにしても、先輩遅いなぁ。俺の不戦勝になるんじゃないか?」


 時間一分前にガラガラと戸が開く。どうやら、ギリギリに来る巌流島作戦も狙っていたのだろう。だが、その程度で、気分を乱す俺ではない。先輩破れたり!


 だが、待つのだ。何か違和感を覚える。そうだ。先輩はジャイアントポッキーではなく、竹刀袋のようなものを背中に提げている!


「ごめん、遅くなった。それじゃあ、早速やろうか」


 竹刀袋から抜き出される長い刀身もといポッキーと思われる何か。木刀をチョコレートでコーティングしたような見た目はどっからどうみても凶器だ。


「先輩、それ、どこがポッキーなんです? 木刀は反則じゃないですか!!」

「棒状のお菓子でもいいと決めただろう? これはクッキーだ。水分を無くし、黒鉄の如く鍛えあげたクッキーだ。安心しろ。この勝負で富海が負けたら食べて貰う」


 全然安心出来ないし! そんな硬いの食べたら歯が折れるから!!


「それでは参る!」


 先輩の斬撃が俺のポッキーを襲う。ポッキーで受け止めたら折れるのは間違いない、俺は精一杯体を捻り、太刀を避ける。そうだ、このゲームは相手にポッキーを振れさせても勝ちなのだ。本物の剣豪も、剣で剣を受け止めることはなかったという。

 空ぶった先輩の脇腹にジャイアントポッキーで切りかかる!


「辻町先輩、覚悟!!」


 バキィっという音が響き渡る。

 俺のジャイアントポッキーは辻町先輩の木刀クッキーで受け止められていた。

 ジャイアントポッキーに亀裂が走る。それは、ゲームの終わりを告げる合図だった。


「私の勝ちだな。罰ゲームとして、食べて貰うぞ」


 先輩から、木刀ポッキーを受け取る。どこからどう見ても木刀だ、本当に食べれるのだろうか?

 恐る恐る口に入れる。硬い......顎が外れる、歯が折れる。口に入れても噛み砕けないのだ。


「光栄に思えよ? 私の手作りお菓子を食べられる者はそう多くないぞ?」


 好きな人の手作りお菓子をこんな形で食べたくはなかった。俺は嬉しさと悲しさと噛み切れなさに奮闘しながら、木刀クッキーを懸命に齧る。


 その時、辻町先輩その光景を眺めながら、ほんのりと照れていたのだが、不幸なことに富海はそれに気がつけるほどの余裕はなかった。

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