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【お節介かるたの"あ"は、アイドルオーディションに家族が勝手に応募する。では、"ね"は?】

さぁて、午後の授業も頑張るぞい。

俺はすっかり教師になりきっていた。


午前の後半の授業は大喜利ではなく、調理実習だった。

これは毎日のことらしい。

給食はなく、全員が日本食を作って昼食として食べるのだ。

パゲ巫女は料理をパゲに捧げる必要があるからな。

日本食というのは和食ではなく、日本人が普段食べるものという意味だ。

パゲはカレーやハンバーグなどの洋食や、麻婆豆腐や焼き餃子などの中華料理も要求する。

スパゲッティだと、たらこスパやナポリタンは要求するが、ボンゴレビアンコやカルボナーラなどは要求してこないそうだ。

日本人が普段食べるとしても、イタリアンという料理ジャンルは日本食に含まれないのだろう。

なんとなく分かる気がするが、やはりパゲは謎だらけである。


今日の献立はオムライスだった。

当然料理について俺なんかが出る幕はない。

俺が作れる唯一の料理は、茹でたうどんにラー油と麺つゆをぶっかけたものだ。

ウマイが、人様に食わせられるものではない。

だが、オムライスはケチャップで絵を書くものだという話をしたところ、さすがネイティブ日本人だと賞賛されてしまった。

俺はハートマークの書かれたオムライスに、生徒のみんなから「美味しくなあれ、萌え萌えキュン」して貰ったオムライスを食べた。

これだけでも教師をやってよかったぜ。


さて、授業だ。


「ハロー、エブリワン」


俺は英語教師のノリで教室に入った。

中学のときの、英語教師独特の挨拶を思い出したのだ。

これも学校あるあるだろう。


「そ、その言葉はなんですの? 習ったことのない日本語ですわ」


質問してきたのは、金髪縦ロール赤リボンのトゥーヤーマだ。


そうか。逆に英語は通じないんだな。

みんな見た目は英語の方が通じそうなんだけど。


「すまんすまん、これは英語だ。日本では一番使われる外国語だな。」

「あぁ……歌詞の中でサビにだけ出てきたりする言語のことですわね」


そういう扱いなのね、英語。

不憫だな、英語。


「多少は知っておく必要があるだろうな。大喜利にも使うし」


例えば、と俺は黒板にお題を書いた。


【お題】お節介かるたの"あ"は、アイドルオーディションに家族が勝手に応募する。では、"ね"は?


「これはかるたのお題だ。かるた系のお題は指定された言葉から初めなければならない縛りがある。こういう場合は英語でもなんでも使って言葉の幅を広げる方が有利だ」


みんなマジメにノートを取っている。


「このお題もさっきの授業の応用でいけることがわかると思う。アイドルオーディションに家族が勝手に応募するっていうのは言ってしまえば、お節介あるあるなわけだ。一回普通にお節介なことを考えて、それを過剰にしたり、前提を変えれば作りやすいだろう」


一旦俺がボケてみるぞ。


【お題】お節介かるたの"あ"は、アイドルオーディションに家族が勝手に応募する。では、"ね"は?

【答え】ネガティブな性格のお爺ちゃんに、何故かポジティブになる薬を飲ませる。


「みたいな感じだな」


ん~?みたいな反応。

ちぇー、爆笑とれねえな。

やばい薬ネタはNGだったかな。

それともネガティブって言葉わからないのかな、一応英語だから。


「ネガティブっていうのは英語だが、日本人はよく使う言葉だ。マイナス思考とも言う」


言葉を教えられるほど学力ねえけどな、俺。

なるほど~みたいな反応。

こんな真面目な授業してどうすんだ俺。

もっと面白おかしくできないものか。

まぁ、みんなに考えてもらうか。


「じゃ、出来た人から挙手」


一人が手をあげた。


【お題】お節介かるたの"あ"は、アイドルオーディションに家族が勝手に応募する。では、"ね"は?

【答え】寝癖がひどいので勝手に直してあげる。


「うん、これだとただのお節介だね。前回の授業を思い出して欲しい。どう勝手に直すのか。当然普通のやり方ではない。もう一回ヒネってみて」


30秒後、彼女は再度ボケた。


【お題】お節介かるたの"あ"は、アイドルオーディションに家族が勝手に応募する。では、"ね"は?

【答え】寝癖がひどいのでバケツで水をかけてあげる。


「オーケーだ! いいぞ!」


俺は彼女に親指を立てた。

おさげの彼女は軽いガッツポーズで喜んでいる。

生徒の成長がこれほど嬉しいとは。


「さぁ、みんなどんどんボケなさい」


パラパラとあがる手。


【お題】お節介かるたの"あ"は、アイドルオーディションに家族が勝手に応募する。では、"ね"は?

【答え】猫がお腹を空かせているみたいだったので玉ねぎをあげる。


うん、絶対やっちゃダメなやつだな。いいぞ。


【お題】お節介かるたの"あ"は、アイドルオーディションに家族が勝手に応募する。では、"ね"は?

【答え】熱帯夜で寝苦しそうだからコールドスリープしてあげた。


冬になっても目覚めなくなっちゃうぜ。


【お題】お節介かるたの"あ"は、アイドルオーディションに家族が勝手に応募する。では、"ね"は?

【答え】熱があるように見えたので、凍らすジェットをスプレーしてあげる。


それゴキブリにかけるやつだろ!こっちの世界にもあんの!?


うーん、みんな、なかなかいいじゃない。

満足しているとトゥーヤーマが凛々しい顔つきで手をあげている。

気合入ってるじゃないの。

自信があるのかな。


【お題】お節介かるたの"あ"は、アイドルオーディションに家族が勝手に応募する。では、"ね"は?

【答え】猫好きなお婆ちゃんが寝ている間に猫の入れ墨を彫ってあげる。


だっはっは!

そらあかんわ!

俺はブフッと吹いた。


「やりましたわ! 先生を笑わせました!」

「おう、今のは面白かった。いいだろう、なんでも質問に答えようじゃないかトゥーヤーマ」


俺を笑わせたら何でも質問に答える約束だ。

にしても、そんなに俺に聞きたいことがあるかね。

彼女は嬉しそうに質問した。


「好きな男性のタイプを教えていただきたいですわ」


……は?


「トゥーヤーマさん、私は男ですから。好きな女性のタイプの間違いでは?」

「間違いじゃありませんわ。日本はボーイズラブの国でしょう。あなたも男性がお好きなはず」


フフンっとドヤ顔で言い放つトゥーヤーマ。

あー、もう。

この学校の人達の常識イヤ。

誰だ、誰のせいなのだ?


「残念ながら俺はノンケだ。男は好きじゃなくて、お前みたいな可愛い女の子が好きだ」


きっぱり言わんと、妄想されてしまいそうで怖い。


「な、な、な……」


トゥーヤーマが直立不動のまま、言葉にならない言葉を発している。

どうしたのだろうか。


「わかりましたわ、わたくし先生と結婚いたします」


な、なんだとお!?

なぜそうなる?!


「先生、いきなり可愛いとか好きとか……」

「完全にプロポーズよね」

「やっぱり私達のことエッチな目で見てたのね」


ひそひそ話がバリバリに聞こえてくる。

最後のはともかく、そうか、プロポーズみたいに思われてしまったのか!


「ち、違うんだトゥーヤーマ。お前は可愛いが、お前が一番好きという意味ではなくて、もちろん嫌いではないが」


ううむ、言い方が難しい。


「~~っ、またそのような……もうわかりましたわ、わたくし先生と……」


トゥーヤーマは顔を真赤にして少しうつむきながら震えている。

なぜか完全にナンパに成功してしまったようだが、これはマズイ。

俺が彼女を可愛いと言ってナンパしていたなんて噂になったらホーリエが危惧していたとおりになってしまうことになる。

彼女は絶対に怒らせてはならない気がする。


「ごめん、わかったよ、正直に言おう。俺は女に興味がない! 好きな男のタイプはガチムチのスキンヘッドで色黒、体毛がないタイプだ! 日本人はボーイズがラブなやつばっかりだ!」


仕方がないので、ゴリゴリのホモを演じることにした。

不本意だがしょうがないだろう。

あとゴメン、日本人。


キャァーという黄色い声。

なぜ喜ぶんだ。


「じゃ、じゃあ絶対先生が受けですよね」


俺の中で勝手に委員長と呼んでいる娘が興奮気味に聞いてきた。

ハァ……。

勝手にしてくれ。


「ご想像にお任せするよ」


キャ―――

俺は彼女たちの頭のなかでどんなことになっているんだろう……


質問の当事者、トゥーヤーマは呆然と立っていた。

最初からこう答えていれば全てうまく収まっただろうに。

うう、良心が痛む。

しかしそろそろ授業も終わりだ。


「さてさて、俺の授業はコレで終わりだ。大喜利には答えなんてないから、みんなが笑ったらそれでいいし、楽しくやればいいものなんだ。今のところ、パゲが光るのも俺たちが笑ったものと変わらない。料理と一緒で、続けていれば上手くなっていくだろう」


別れの挨拶なんて苦手だな。

トゥーヤーマは依然としてボーっと立っている。

せめて座ってくれ……。

立たせてしまったみたいで罪悪感。


「ありがとうございました」

「「ありがとうございました」」


俺の挨拶後、すぐにみんなが立って挨拶してくれた。

これで授業は終わり、またパゲを光らせる旅の始まりだ。

さて、臨時講師はクールに去るぜ。

俺は教室の前の扉から退室した。


トゥーヤーマのことは気になるが、ファナーザ学園長に報告に向かった。


学園長室に戻ると、旅の仲間たちも集合していた。


「お疲れ、レバ丼。 あ、いや、お疲れ様でした、レバ刺しどんぶり様」


ユーキィのやつ、ファナーザの前だから猫をかぶってるな。

でも最初普通に接しちゃうあたり、うっかりさんだな。

にしても、ユーキィに様とか付けられると気持ち悪い。

俺はユーキィに返事として軽く手を振り、ファナーザ学園長に報告をした。


「ファナーザさん、授業が終わりました」

「お疲れ様でした、ありがとうございました」


俺もファナーザさんも日本風にお辞儀をして報告をしていると、ドアがノックされた。


コンコン

ガラッ


誰も許可していないのに、ドアが開いた。


「あの……わたくしトゥーヤーマですわ」


トゥーヤーマ!?


「どうしたのです、トゥーヤーマさん、学園長室に勝手に入るなんて」


ファナーザさんがたしなめる。


「すみません、学園長。ただ、わたくし先生がこのまま居なくなってしまったらと思ったら……」


トゥーヤーマは顔を赤らめ、手をグーに握って口に当てながらもじもじしている。

乙女だ、これは乙女だよ。


「先生、さっきのはきっと嘘ですわよね。おそらく一日限りの講師という立場だからあのようなことを」


ギクギクギク!

マズイぞ、さっきのことがバレたら、この場にいる全員から何を言われるか……

俺はゾッとした。


「先生、先生は本当は男性ではなく女性が好きなのでは? そしてわたくしのことは、その……、わたくしは、先生のことが……」


トゥーヤーマはうつむいているが、他の女性陣は皆俺をジッと見ていた。怖い。

特にユーキィは目が据わっている。

常に笑顔のカーネモットですら真剣な顔をしている。

ヒイイ。

と思ったら、カーネモットがトコトコあるいてきて俺の左腕を掴んで抱きついた。


「お兄ちゃんは絶対、私のほうが好き」


ぎゅっと俺に抱きつき、トゥーヤーマを睨みつけた。

え、えええーーー!

この場を余計にヤバイことにしてしまったよ!


学園長の前で生徒が俺を取り合う修羅場!?

こんな難易度の高い場面を切り抜けるのは……ムリだ!

この場をなんとかしてくれそうなのは……アールァイだろう。

アールァイに俺は助けてくれと目配せした。


やれやれ、仕方がありませんなぁ。という顔をしてから表情を一変させ、話し始めた。

女優モードに突入したように見える。

確かにアールァイなら女優でもやっていけそうな気はするぜ。


「二人とも、すまないがレバ殿はもう私とのっぴきならない仲なのじゃ。諦めてくれんかの」


言いながらアールァイは俺の右腕を組んだ。

またしても俺の右肘は、メイド服の隙間から二つの谷間のなかへ。

冷静さを保たなければこの場面を切り抜けることができないぞ。

俺はこの前のように興奮してしまわないよう、頭のなかで素数を数えた。


よし、アールァイがアドリブで考えた、俺達はすでに恋人だから諦めてくださいね作戦を遂行しよう。


「そうなんだ、のっぴきならない関係なんだ。だから、すまない」


俺はカーネモットとトゥーヤーマに頭を下げた。

これで諦めてくれるんじゃないだろうか。


「わたくしは、別に第二夫人でも構いません。母もそうですから」


凛とした態度のトゥーヤーマ。

あー、第二夫人とか有りな世界だったか。


「私もアールァイ様が姉になるなら嬉しいし!」


カーネモットは何かムキになっている。

うーん、彼女はまだ12歳なのだ。

なにか兄を恋人に取られるような気持ちなのかもしれない。

といっても昨日始めて会った俺になぜそこまで。

気持ちは嬉しいが、この場面ではややこしさを増すだけだ、困ったな。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。今の話、本当なのか」


ユーキィが割って入った。

しまった、ユーキィはこういうときに察してくれないタイプか。

本気にしてしまってるようだ。

うーん、ますますややこしいことになった。


こういうときはスヮクラに助けを求めよう。

彼女はこういうときにうまく立ち回ってくれるはず。

俺は彼女に目で合図を送った。

頼む、助けてくれ。


するとスヮクラは俺に向って、親指を立ててパッチーンとウインクした。

任せてよ!っていう感じだろう。さすが、スヮクラは頼もしいぜ。


「ごほん、すみませんねえ。賢者様の第二夫人は私なので、皆様ご遠慮下さいませ」


あ、うん!?

そう来たか。

うまく行くのかなぁ。


「ちょ、スヮクラ!? いつの間にそんなことに!?」


ユーキィが取り乱している。

すまん、ユーキィ、あとで説明するから。


「わたくしは第三夫人で構いませんわ」

「私もスヮクラ様好きだから全然いいし!」


あー、やっぱ駄目じゃん。

第二も第三も大して変わらないんだろうなあ。

俺は困った顔でスヮクラも見たが、大丈夫ですよという顔をしている。

本当なのか?

すると、今まで黙っていたファナーザさんが手をあげた。


「お二人とも、すみません。第三夫人は私の予定なのです。1人の男性が結婚できるのは3人まで。諦めてくださいね」


ファナーザさんまで!?


「ファナーザ様まで!?」


「学園長!?」


「ファナーザ学園長がなんで!?」


俺と、ユーキィ、トゥーヤーマ、カーネモットの4人共がほぼ同時に驚いていた。


スヮクラがほら、大丈夫だったでしょーという顔。

おそらくスヮクラがファナーザさんに協力を依頼したのだろう。

他にやりようなかったの!?


「レバ丼、そもそもファナーザ様も、そこのトゥーヤーマといったか、どちらも今日始めて会ったのだろう、なぜ結婚などという話になっているのだ!」


ユーキィのごもっともなご意見だ。

俺も聞きたいくらいだ。


「まぁまぁ、ユーキィ殿、そういうわけですから」

「そうですよ~。ごめんね、ユーキィ」

「ユーキィ、残念ですが諦めてくださいね」

「べ、別に残念ではありませんが」


とりあえずみんなで何となくわかってほしいニュアンスを出すが、全く理解してくれないユーキィ。

可哀想な子。


「さて、トゥーヤーマ。 そういうことですからあなたはもう下校しなさい」


ファナーザがやんわりとこの場を治めようとした。

そうだ、ややこしいことになっているが要はトゥーヤーマが諦めてくれればそれでいいのだ。

他の2人はあとで説明すればいいだけだ。

最後は俺からちゃんと言おう。


「トゥーヤーマ、キミの気持ちは嬉しいが、答えられないんだ。すまない」


俺は頭を下げた。

謝罪の気持ちは本当であった。

だって俺はホモじゃないって言っただけのつもりなのだもの。


「……わかりました。皆様、お騒がせいたしました」


トゥーヤーマは退室していった。


靴の音が遠のいていくのを聞き終わってから、フゥーと息を吐いた。


「やれやれ、レバ殿がここまでプレイボーイだったとは知りませんでした」


アールァイが冗談交じりに言った。


「俺がモテすぎるせいでご迷惑おかけしました」


俺も冗談交じりに返した。


「やっぱりお兄ちゃんはモテるんだね!」


カーネモットは素直にとらえてしまった。

あまりに嬉しそうなので、否定しにくく、俺は頭を撫でた。


「マジか……マジなのか……」


ユーキィも状況を理解できていないままだった。

ボーゼンとしている。

俺から説明したらどれだけお怒りになるだろうか。

いやー、もういいや。

説明しなくても、それほど問題ないだろう。


アールァイ、スヮクラ、ファナーザと俺は顔を見合わせた。

俺が肩をすくめると、三人は微笑みで返してくれた。



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