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【学校あるあるを一つ教えてください】

「レバ刺しどんぶり先生、今日1日の臨時講師、お願いできますでしょうか」

「私でよろしければ、謹んでやらせていただきます」


俺は臨時講師を引き受けた。

1浪の俺が、まさか先生をすることになろうとは。


昨日カーネモットを迎えに学園、すなわちパゲ巫女養成学校に来た俺達は、神殿の回復を行った後、寮に泊まらせてもらった。

翌日には旅を再開する予定だったのだが。


俺に依頼をしてきた彼女は、学園長のファナーザ。

多分、アラサーだ。

学園長なのに学生服を着ている。

コスプレ……じゃないだろうな。

この学園では教師も制服を着るらしい。

スカート丈も普通に膝上だ。

カーネモットと同じ制服のデザインだが、色は黒で、ベレー帽はかぶっていない。


上品というか物凄く気品がある女性だ。

銀髪のロングヘアーで華奢なスタイル。

常に微笑んでいるが、翠色の目が神秘的な印象。

なおさら制服を着ていることが違和感である。

正統派の女優さんがバラエティ番組で学生服を着ていることがたまにあるが、それを軽く上回るインパクト。

俺はヘンタイではないので、これで興奮などはしない。

しかし、少しかたじけない気持ちである。


俺がファナーザの依頼を受けて、学園の講師を1日だけ引き受けたのは彼女が美人だからではない。

ユーキィとスヮクラから是非にと頼まれたからだ。

ファナーザは一昨年まで現役のパゲ巫女だったそうで、ユーキィやスヮクラにとっては憧れの存在らしい。

ファナーザは二人に俺が講師をしてくれるよう頼んで欲しいとお願いしたそうで、早朝に俺の部屋を訪ねてきたのだ。

俺は昨日の大喜利での惨敗を引きずっていたので、ユーキィとスヮクラからのお願いを叶えるというだけでも充分にやる意味はあった。

ユーキィからロリ丼呼ばわりされている現状を変えるチャンスの到来だ。

スヮクラには絶対笑ってはいけない場面で笑っていることを黙っていてもらうという借りもあった。

ホーリエの許可もとっているということで引き受けることにした。


この学園は1学年で1クラス。

俺は最終学年のクラスで講義を行うこととなった。

カーネモットの1つ上の学年になる。

学園は別に女子校ではないのだが、パゲ巫女になるのは基本女性だ。

最終学年の生徒は全員女子であるということだった。


学校はどの世界でも学校という感じがする。

コンクリートではなく石材で、リノリウムではなくカーペットの廊下だが、おおよそ違いはない。

教室に向かう途中、廊下を歩いていると少し前を行くファナーザから質問された。


「昨日は学園の神殿も回復していただいて、ありがとうございました。どのような大喜利を?」


ゲッ、昨日の大喜利の内容なんて言えるわけがない。

この人の前で、学校の廊下でちんことか言えるほど、俺は頭がおかしくはない。


「いやいや俺なんてほとんど何も。ユーキィもスヮクラもアールァイもすっかり大喜利が上達しまして。出る幕がありませんでした」


実際そうだしな。嘘はついていない。


「ご謙遜を。しかしもう3人が上達しているというのは素晴らしいですね。やはり先生としても優秀なのでしょう」


いやいや、と言いながらごまかしているうちに教室についたようだ。

助かった……。


教室に入ると、女生徒達が席に座っていた。

当たり前だが、全員制服だ。

着崩していたり、だらっとしている生徒はおらず、お嬢様学校という感じを受ける。

カーネモットの制服とはジャケットとベレー帽の色が異なり、モスグリーンではなく、ワインレッドだった。学年による違いだろう。


「みなさん、こちらが日本から来ていただいているレバ刺しどんぶり様。ホーリエ様が選ばれた救世主様です。今日は特別に大喜利の講師をしていただけることになりました。大変貴重な機会です、心して授業を受けて下さい」


……俺の人生の最高潮な気がするぞ。

こんなVIP扱いされること、この先もないだろう。


「皆さんはじめまして。レバ刺しどんぶりといいます、今日はよろしくお願いします」


ちょっと緊張する。

それにしてもラジオネームで挨拶するの、もう抵抗全くないんだな、俺。


「「よろしくお願いします」」


おお、みんな素直な感じ。

さすが、みんなお上品でいらっしゃる。

これが女子校なのだろうか。


「それでは、私は失礼します。何かあったらすぐに呼んでくださいね」


ファナーザが教室を出ていった。

しばらくすると、ざわざわし始めた。


「せんせー、彼女はいるんですか!?」

「ユーキィ様とスヮクラ様のどっちが好きなんですか!?」

「カーネモットをイヤらしい目で見ているというのは本当なんですか!?」

「先生はロリコンなんですか!? 私達のこともエッチな目で見ているんですか!?」


うわ―――、うるせ―――!

さっきまでお嬢様学校だと思ってた、俺が間違っていた。

なんだこれ、これが女子校のノリなのか?

ファナーザの前では猫被ってやがったな。

しかも質問がヒドイ。

アールァイ辺りが事前に俺の誤った情報を流布している気がする。


「こらこらこら、みんな、静かに。先生はですね、大喜利の授業をするためにいるので、関係のない質問はしないように」


「えぇ――!」

「ぶーぶー!」


ブーイングし始めたぞ。なんて奴らだ。

こいつらが来年パゲ巫女になるのか。

大丈夫かよ、この世界。


一人が立ち上がって、手をあげた。


「わたくし、トゥーヤーマですの。大喜利で先生を笑わすことができたら質問に答えていただけるかしら」


すごい、金髪の縦ロールのお嬢様キャラだ!

赤いリボンとかしてて、いかにもって感じだ!

アニメではよく見るけど、実物を見たのは初めてだ!

本当にこういうキャラの人いるんだ!ってちょっと感動。


「その心意気やヨシだ。わかった、俺を笑わせたらなんでも答えよう」


「「おぉ~」」


おぉ~じゃねえよ、全く……。

まぁでも授業のモチベーションがあがったようだから、良しとするか。


「んじゃ、トゥーヤーマ。そもそも大喜利ってなんだ?」

「そのくらいはわかってますわ、与えられたお題に対していかに面白く回答するかというものでしょう」

「そうだな、それで間違ってないが、おそらくみんな固く考えすぎだ」

「どういうことですの?」


俺は黒板に向って"なんか面白いこと言って"と書いた。


「これが一番むずかしい大喜利だ。誰かこれで答えられる者いるか?」


ざわざわしている。誰も手をあげなかった。

それでいい。


「これはお笑いをやる人間ならみんなそうだと思うが、なにか面白いこと言ってっていうのは一番難しいし、一番最低のフリなんだ。面白いやつでも面白くできない」


みんなノートに書き始めたぞ、ちゃんと真面目な学生になってくれてよかった。


「大喜利っていうのは笑いを生み出すために、笑える答えを引き出すためのお題があるんだ。つまりお題というのはアシスト、ヒントみたいなもんだ。いいお題ならそれだけみんなも面白い答えが出来る」


みんなめっちゃ真面目に授業を聞いてくれている。

本当に先生になった気分だぜ。


「だから大喜利のお題っていうのは授業の課題やクイズの質問みたいに捉えなくていい。あくまで面白いことを言うためのヒントだと思って楽しく考えろ。お題に答ようとするんじゃなくて、お題を利用して面白いことを言うんだ」


俺は"なんか面白いこと言って"を消して、"学校あるあるを一つ教えてください"と書いた。


「これは大喜利の中でもよくあるパターンの一つ、あるあるネタだ。学校生活でよく起きることをチョイスすればいい。また、逆に絶対にないことを言ってもいい」

「あるあるを教えろと言っているのに、ないことを言ってもいいんですの!?」

「そうだ。あるあるで無いことを言うのはむしろ王道だ。ただし学校と全く関係ないのはダメだ。面白くなくなる」

「難しいですのね」


難しいか。大喜利慣れしてないとそんなものかもしれない。

まぁ、やってみればわかるだろう。


「んじゃ、まずは普通にあるあるを誰か言ってみてくれ。授業があるとか、普通のことじゃなくて、たまに起こる面白いエピソードということだぞ。」


メガネっ娘が手をあげた。

黒縁眼鏡で、髪は栗色のきれいなおさげ。

委員長ってあだ名になりそうな娘だ。


【お題】学校あるあるを一つ教えてください

【答え】朝、下駄箱を開けるとラブレターがいっぱい入っている


「おいおい、そんなマンガみたいなやつがいるのか、この学校」

「ユーキィ先輩がそうでした」


まじかよ、ユーキィ。

後輩の女の子にモテるタイプか。

うーん、わからんでもないな。


「他にもいくつかボケてくれ」


何人かが手をあげた。


【お題】学校あるあるを一つ教えてください

【答え】先生のことをママと言ってしまう


【お題】学校あるあるを一つ教えてください

【答え】朝礼の話が長すぎて貧血で倒れる


【お題】学校あるあるを一つ教えてください

【答え】みんな突然校庭に現れた犬に夢中


【お題】学校あるあるを一つ教えてください

【答え】朝の部活中、飼育小屋の鶏が鳴いてうるさい


学校のあるあるは日本と同じだな。


「そうそう、そういうこと。自分たちでも面白いなって思うでしょ」


うん、うん。という返事。素直でよろしい。


「で、これだと普通のあるあるだからコレをあえて変えるんだ。例えば」


【お題】学校あるあるを一つ教えてください

【答え】みんな突然校庭に現れたワイバーンに夢中


「とかね」


あるある~とか言ってる。

おいおい、これはないだろうが。


「ワイバーンはドラゴンの一種だから、存在しないんだけど、犬みたいに扱うという笑いね」


解説いるかね、コレ。

ワイバーンという言葉を知らない人がいるかも、とは思うが。

すると委員長が手をあげた。


「先生、こっちの世界にはワイバーン、いますよ」


エッ!?

いるの!?

そういう世界だったの、ココ?

言われてみれば、多少ファンタジーな世界だったけど。

普段日本語だし、あんまり気にしてなかったわ。

言われてみれば空はエメラルドグリーンだし、月は3つ出ていた。


「ドラゴン系は犬より飼ってる人が多いくらいです。便利ですから。」


マジかよ――!

ドラゴン見てえー。

俺の知ってるドラゴンはもっと知的で人の言葉話したり、人類の敵だったり、伝説的な生き物だったが、こっちだと普通の動物扱いなのね。


「それは先生、知りませんでしたー。ごめんなさいー。えっと、じゃあ狼男っている?」


そんなのいるわけないじゃーん、とか言うオーディエンスの声。

知らんがな。

学校の校庭にワイバーン来るような世界だぞ。

俺は今、プールにリヴァイアサンがいるかもしれないと思ってるぞ。


【お題】学校あるあるを一つ教えてください

【答え】朝の部活中、飼育小屋の狼男が吠えてうるさい


ハハハハ……


はい、ややウケー。

まぁ、先に聞いちゃってるしなぁ。

個人的には朝だから、狼男はタダのおっさんになっちゃってるところが面白いと思うんだが。


「あるあるの鶏を変えたボケということです。そんな感じで、一旦あるあるを考えてから無いように変えてみてください。どこかのポイントをずらすというのがテクニックだね」


とりあえず授業の方向を修正する。


「出来た人から挙手ー」


意外と俺、授業やれてるな、と思いつつ言ってみる。


「「う~~~ん」」


このクラスは30人ちょっとだが、う~~んと聞こえてくるほど考えているようだ。


「できましたわ!」


金髪縦ロール赤リボンが元気よく手を上げた。


「おっ、トゥーヤーマ、できたか。じゃあお題の後に答えを言ってくれ」


【お題】学校あるあるを一つ教えてください

【答え】先生のことをつい、若頭と言ってしまう


「お前はヤクザか!」


つい、ツッコんでしまった。

なかなかやるぞ、このお嬢様。

けど、こんなボケ、みんなわかるのか?


「ドッ!」と笑い声。

明らかにウケた。

殆どの学生が笑っている。

ヤクザとか知ってるんだなー。

そういやアールァイもヤクザみたいな挨拶してたな。

どういう教育してんだよ、この学校……。


「トゥーヤーマ、やるじゃないか。爆笑だぞ」

「先生は笑わせていませんわ、まだまだこれからですのよ」


やる気があるのは良いことだ。

そもそも若い女子が一生懸命大喜利やってること自体が素晴らしい。

日本でもやらないかな。


「トゥーヤーマは、自分が普通の生徒ではなくヤクザだった、という風に前提を変えたんだ。これが大喜利の基本中の基本だ。どこかの前提を変えることを念頭に置けばボケられるぞ」


数人が手を上げた。


【お題】学校あるあるを一つ教えてください

【答え】先生のことをつい、小隊長殿と言ってしまう


【お題】学校あるあるを一つ教えてください

【答え】先生のことをつい、魔王様と言ってしまう


「そうだ、ちゃんとボケられてるだろ? あとはどういう前提だと面白いか想像する力の勝負になるが、それは個性だからな。どれが正解ということじゃあない。自分なりのボケをするのが大喜利だ」


キーンコーンカーンコーン


おお、時間というわけだな。

こういうチャイムが鳴るところも日本と同じだな。


「それでは休憩。次の授業もよろしくな」


「「先生、ありがとうございました」」


みんな立って、揃って挨拶をしてくれた。

くぅ~、いいなあ、こういうの。

俺、教師を目指そうかな……。


日本で大喜利を教える授業のある女子校があればだけれど。





















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