【史上最強のモンスターに見つかった、唯一の弱点とは?】
「レバ刺しどんぶり様は、ロリコンですか?」
は?
コンパクトミラーに映ったホーリエが放った言葉は俺には理解できないものだった。
「レバ刺しどんぶりは、糞ペド野郎ですか?」
は?……ハァ?
なんてこと言うのかしら、この御方。
違うわい!とすぐに否定したいところだが。
ものすごく真顔で聞いてくるので、うかつに返事ができない。
「レバ殿、ホーリエ様は日本語が堪能ではないので、うまく伝わらないのかもしれぬ。わたしが通訳をしよう」
「お、うん。頼むよ、助かる」
ホッとしたぜ。
頼りになるな、アールァイは。
アールァイはホーリエとゴニョゴニョとこっちの訳わからん言語で話した後、こちらを向いた。
「レバ殿、年端のいかぬ少女や、ましてや幼女に性的興奮を覚えるようなことはありますかな?」
伝わってたーーー!
それだとすると、とっくに伝わってたよ!
ホーリエの日本語は伝わってましたが、理解できませんでした!
「いや、あのさぁ。大真面目に俺を変態かどうか確認するのはやめていただけます?」
「しかし、男はみんな変態とも言いますしなあ。特に日本はヘンタイなものが多い」
ぐぬぬ。確かに。
アールァイは日本をよくわかっている。
「では、わたしが確かめてみよう」
すると、アールァイは突然俺の腕をグッと掴んで、自分の胸にギュッと挟んだ。
メイド服の空いている胸元からダイレクトに肘を入れ込んだ形である。
なんということをするのだ!?
アールァイはなかなかの巨乳だ。
右腕は谷間に埋まった。
「あ……あ……」
言葉にならない。
身体中の全神経が右肘周辺に集まっていくのを感じる。
五感の全てが失われて右腕だけに神経が通っているかのような。
脳内で何かが分泌されているのか、頭がものすごい早さで回転している。
だが、考えることは何も出来ず。
アールァイの胸を感じるために無意識に全力を注いでいる。
右肩から首筋にアールァイの息がかかった。
俺の顔に熱が集まっていくのを感じた。
「ふうむ、ホーリエ様、どうですかな。私のような20歳の眼鏡巨乳メイドに興奮してるようですので、ロリコンクソペド野郎ではないかと思いますが」
「そうですか、安心しました」
そこ、安心するとこか!?
俺は平常心がゼロの状態だったが、心の中でツッコんだ。
そこで、ようやく腕が解放された。
いや、解放されてしまった。
「それでは、もう一人追加させていただくことにしますので、よろしくお願いいたしますね」
俺はまだ口をパクパクさせていた。
おそらく顔は真っ赤であったろう。
誰を?とか聞く余力もなかった。
「レバ殿はまだ興奮が冷めやらぬ様子。ホーリエ様、待ち合わせ場所などをお聞かせください」
また、こちらの言語で話し始めた。
真面目な打ち合わせのようだ。
俺は深呼吸をしていた。
「ところでレバ刺しどんぶり様、もう一つ尋ねておきたいことが」
アールァイとの話が終わったのか、ホーリエが日本語で俺に質問してきた。
「あ、なんでしょう」
「そろそろ一度、日本に戻られますか?」
なるほど。
そう言われてみればもうコチラに来て6日も経っている。
今は家に誰もいないし、学校やバイトもしていないから問題はないが、6日間も連絡がつかなかったらマズイだろう。
「実は言い忘れていたのですが、こちらの世界と日本では時間の流れが同じではないのです」
エッ!
それはまさか……ウラシマ効果とかいうやつか。
日本に戻ったら何年も経っていた的な。
それはヤバイだろ!
頬に汗が伝う。
「レバ殿、おそらく勘違いされているところかと思うが、まだ数時間しか経っておらんのじゃ」
エッ!
逆!?
「研究中ではあるが、どうやらこちらの1日が経過する頃、日本ではおよそ58分経過する。大体1時間というところかの。だからまだ1日どころか夜も明けておらんのだ」
なーーーんだ。
ほっとしたーーーー。
それを言い忘れるのは、さすがに可哀想だというようなことをアールァイがホーリエに言ってくれている。
意外にうっかりしてるなホーリエ。
まぁ、とりあえず安心だ。
「そういうことなら、数日帰る必要はないですね」
「そうですか、帰りたくなったら私にご連絡をくださいね」
軽く挨拶をしてコンパクトミラーを切った。
「レバ丼、まだかー」
ユーキィが宿の入り口からチラッと顔を出した。
スヮクラとユーキィは外で馬車の準備をしながら待ってくれていた。
「ユーキィ殿、行き先変更じゃー。学園に向かうぞ」
「学園ですか」
「新しい仲間を迎えに行くんじゃ、早くせねば今日中に着かぬぞ」
とりあえず馬車に乗り込み、移動しながら情報共有を行った。
これから3人の母校でもある学園、つまりパゲ巫女を養成する学校に向かうという。
学園では大喜利対策講座が始まったものの、講師がいない。
有望な学生が一人いるが、彼女を育てることができない。
そのため我々に同行して育てて欲しいと、学園長からホーリエに要請があったということだった。
それならそう言えばいいのに、なぜ第一声がロリコンかどうかの確認なんだよ。
――6時間後。
俺はロリコンと呼ばれても仕方のない顔をしていた。
学園、つまりパゲ巫女養成学校についた俺たちを待っていたのは、12歳の少女だった。
制服と思われる服はモスグリーンのブレザータイプで、校章と思われるワッペンが付いている。
校章はパゲ巫女、つまり光らせる者を表しているのか、キラキラした光のようなデザイン。走り屋の人たちが好む自動車ブランドのマークに似ている。
スカートは茶色のチェックで、靴は革のローファーと、大きめのワッペンが若干ギャルゲーの制服のような感じが否めないものの、日本の制服にとても近い。
ブレザーと同じ色のベレー帽から漏れた髪は、灰色がかった茶色で、肩までないくらいの長さ。
少女特有のまだ細長い手脚で、紺のニーハイソックスを履いていた。
身長はまだ伸びるのかもしれないが、アールァイよりは高かった。
まぁ彼女は魔法整形でわざと低くしているのだが。
「カーネモットです、よろしくお願いします! チャキ!」
一重だが茶色の目がくりくりとしており、猫のように虹彩が大きい。
褐色とまではいわないが、ユーキィやスヮクラに比べたら日焼けしている肌の色だ。
右手をくの字にしておでこの右上に親指の根本を持ってきて外側に向けた。左手は地面と水平にしてお尻を少し突き出している。
おそらくチャキ!のポーズなのだろう。
元気で明るそうな子だ。
誰がどう見ても好感が持てるタイプだ。
しかし、いくらなんでも俺も19歳だよ。
こんな胸が有るんだか無いんだかわからない娘をそういう目で見るわけが、と思っていた矢先。
するするっとこっちに寄ってきて左手を持ち、腕を体全体で抱きかかえた。
有るんだか無いんだかわからなかった胸は、わずか数秒で有ることがわかった。
「お兄ちゃん、って呼んでもいいかなぁ」
がっちり左腕をホールドされながら、上目遣いで質問するカーネモット。
レバ丼とかレバ殿とか、どう呼ばれようとなんとも思わなかった俺だがこれは別だ。
俺は姉が一人いるだけで、弟も妹もいない。
甘酸っぱいような、むず痒いような。
いままでに感じたのことのない稲妻のような感情が足から頭を駆け抜けた。
全くもってかたじけない。
「い、いいよ~」
返事をするのが精一杯であった。
おそらく頬の緩みきった顔をしているに違いない。
しかしこれはロリコンとかではないのだ。
そうだ、チャームの魔法とか、そういうものを使ってるに違いない。
そういう未知の魅力のせいであって決して俺がロリコンなわけでは……
「おい、ロリ丼」
誰がロリ丼だ。
ユーキィの方を向くと、こちらをジト目で見ていた。
今までの激怒、とはちょっと違うような……。
彼女はプリプリしていた方がもはや落ち着くのだ。
こういう方がなんか怖いぞ。
「学園の神殿も今は弱まっているようだ。パゲを光らせるぞ」
ドスの利いた声だが、もともとの鼻にかかった声のせいで怖さが出ない。
わかりましたよ、わかっておりますよ。
いつも真面目な俺ですから、そりゃ任務はやりますよ。
俺たちは校庭の角にある神殿に向かった。
スヮクラは懐かしいな~などとつぶやきながら歩いていて、少し和んだ。
ユーキィはズカズカと強い足取りで、明らかに機嫌が悪いという歩き方をしている。
なんで怒っているんだか……。
神殿につくと真っ先にカーネモットがお題を確認してくれた。
【お題】史上最強のモンスターに見つかった、唯一の弱点とは?
うむ。
まぁやりやすそうなお題だな。
「自己紹介も兼ねて、私から行かせてください」
カーネモットの申し出にどうぞどうぞと、みんな手で促した。
【お題】史上最強のモンスターに見つかった、唯一の弱点とは?
【答え】枕が変わると眠れない
「私の事なんですけど、えへへ」
かーーーわーーーいーーーいーーー。
カワイイボケというのは有りだ。
深夜ラジオではあまり無いが、シモネタが続いた時などは逆にこういうのがウケたりする。
さすが有望株だ、ボケが成立できている。
「良い答えだと思うよ~」
俺はついつい頭を撫でた。
撫でざるを得ない魔力を持っている娘なのだ!
俺がロリコンなわけでは決してないのだ。
おそらく母親がサキュバスだから男はみんな骨抜きになるとかそういう理由なんだ。
「ありがとう、お兄ちゃん」
満面の笑みだ。
なんというステキな笑顔なのだろう。
こっちこそありがとうと言いたくなるぜ。
俺も満面の笑みになった。
目に入れても痛くないとは、まさにこのことに違いない。
そして、後ろからの視線が痛い。
振り向かずともわかるほど、痛い。
そして、俺の右肩にどっしりと来る重み。
「次は私が行こう」
ユーキィはジト目を俺の顔面に浴びせながら、俺の肩に手を置いたままボケた。
【お題】史上最強のモンスターに見つかった、唯一の弱点とは?
【答え】ロ・リ・コ・ン
ユーキィさん、ちょっとそれは……
「あっはっはっは」
「うっふっふっふ」
スヮクラとアールァイがウケてるし。
カーネモットはわかってるのかわかってないのかニコニコしていた。
いや、わかっているわけがない。
彼女は天使の生まれ変わりか何かに違いない。
「次は私が」
手を挙げるスヮクラ。
【お題】史上最強のモンスターに見つかった、唯一の弱点とは?
【答え】お兄ちゃんと呼ばれるとデレデレする
――スヮクラまでそうきたか。
「スヮクラさん、俺は決してデレデレしているわけでは」
「えっ? これはモンスターの弱点であって、賢者様のことではありませんよぉ?」
……うぬぬぬ。
ニヤニヤしおってからに……くやしい。
ユーキィとアールァイもニヤニヤしている、これほどの屈辱が今までの人生であっただろうか。
「今回は私もやってみようかの」
アールァイが初めてボケを立候補してきた。
もう、嫌な予感しかしない。
【お題】史上最強のモンスターに見つかった、唯一の弱点とは?
【答え】腕におっぱいを当てると動けなくなる
ぐうううううううう!
恥ずかしくて顔が赤くなる。
「史上最強のモンスターがヘンタイというボケじゃ、どうかのう、レバ刺しどんぶり先生。ちなみに大きくても小さくても動けなくなるみたいだぞ」
きぃー!
完全に遊ばれてる!
パゲも光りやがって、このパゲが!
こんだけ光ってたら俺がボケる必要もないし!
いや、ここは反撃だろう。
ここまでされては黙っていられん。
やられたら、やり返す。
俺はカーネモットの耳をきっちり抑えてから言った。
【お題】史上最強のモンスターに見つかった、唯一の弱点とは?
【答え】ちんこの皮を剥いた先っちょ
どうだ、このクソ下ネタ!
ドン引け!
恥ずかしがれ!
「アッハッハッハッハッハ―――――」
「ヒッヒッヒッ……だめだ、くっくっく」
「フフッフフッフフッフフップーーーッ」
う、ウケた……
ウケるのか、コレ……
「レバ殿、ふっふっふ、気にすることは、ないですぞ。その、剥けていなくても」
「そ、そうだぞ、皮かむりは個性だ、ステータスだ、レバ丼。フッフッフ、くっくっく」
な―――
そういうこと?!
この流れだと俺が剥けてない人っていうボケになっちゃったのか!
「ち、違うって! モンスターの弱点であって俺がそういうわけじゃ」
否定しようとしたら、スヮクラが俺の肩に手を載せた。
「わかっていますよ、賢者様。史上最強のモンスターの弱点ですよね? フフフフ」
あああああ――――――
もう駄目だ、何を言ってもどうしようもない。
ようやく3人を笑わせることができたが、喜べる状況ではなかった。
というか、今日はもう負けです。
惨敗です。
「お兄ちゃん、どうしたの? 相談のるよ?」
ごめん、無理です……。
こんな相談を12歳の少女にできるわけがない。
でも、ありがとう……。
俺はその日、出会ったばかりの少女だけを心の支えにして、眠りについた。
学園の寮のゲストルームの枕は、少し濡らしてしまうことになった。