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【こんな結婚式は嫌だ】

俺たちはアールァイに連れられるまま、日本料理屋に来ていた。

こっちの世界では、引退したパゲ巫女が日本料理屋を営むのはよくあることだという。

元力士がちゃんこ料理屋を始めるようなものだろうか。


見た目がエルフみたいな女将さんが割烹着で迎えてくれた。

エルフはこちらの世界でも見たことはないが、印象が似ているというか。

色が白くて、目が切れ長で瞳は蒼く、背は高く、長い金髪だ。

耳は髪に隠れて見えなかったが、長くないのであろう。

すらっとした派手なルックスに対して、割烹着というミスマッチが素敵である。

日本人と話すのは初めてだというので、熱烈な握手をされ、俺のサインが店に飾られた。

もちろん、レバ刺しどんぶりと書いたサインである。

人生で初めて書いた。


店自体は流石に日本風ではなかった。

レンガでできた建物に、木でできたテーブルと椅子という、こちらの一般的なものだ。

暖簾や品書きなどが、ところどころジャパニーズになっている。

一番奥のテーブル席に通されると、アールァイがまず口を開いた。


「レバ殿は、日本のどこにお住まいか」


アールァイは俺の個人情報にも興味を持っているのか。

自分のプライベートなことを聞かれたのは、コチラの世界では初めてだった。


「東京だよ」


一応、ざっくりと返答した。

細かいことを言ってもわからないだろう。

なぜか、ユーキィがすぐに反応した。


「ほう、東京ということは、みんな東京音頭を踊ってるんだな?」

「いや……まぁ、普通は多くても年に一回だね」


そうなのか、と少し寂しそうな表情を見せた。

好きなのかな、東京音頭。

すぐにスヮクラもちょっと興奮気味に話しかけてきた。


「東京! オラ東京さ行ぐだ~♪ の東京ですか」


スヮクラにとっての東京はそれかよ。


「うん、ラジオもあるしテレビもあるし車もかなり走ってるよ」


東京じゃなくてもそうだけどね。

東京といえば、と前置きしてアールァイが聞いてきた。


「東京タワーにも行ったことがありますな?」

「ありますな」

「やはりセフィーロに召喚されましたか?」

「されるかッ! 誰が魔法騎士マジックナイトやねん!」


つい偽関西弁でツッコんでしまったではないか。


「しかしレバ殿、こちらの世界には召喚されておりますぞ?」

「違いない」

「「あーはっはっは」」


俺とアールァイは大笑いした。

歓迎会、いいものだな。

なんか早くも仲良くなってきた気がするぜ。


するとアールァイが女将に注文をし始めた。


「ここは、わたしに一存願いまするぞ」

「あ、あぁ。お任せするよ」


俺が行ったことある店はチェーン店の居酒屋に1度だけくらいで、こういう店は初めてだった。

異世界人のアールァイの方が遥かにうまく注文できるだろう。


「お待たせしました、こちらが澤乃井です」


なんと、日本酒だ。

俺まだ飲んだことないよ。

日本酒を初めて飲むのが異世界とはなぁ。


「こちらは東京の地酒の澤乃井です、レバ殿。まぁ一献」

「おぉ、俺の地元の酒を選んでくれたのか」


全然知らないけど。

東京に地酒とかあったんだ。

そのために俺の出身地を聞いたのか、意外といい人だなあ。


俺は19歳だが、こちらの世界では飲酒は15歳からOKだ。

フランスやイタリアでも16歳からワインは飲めるから、それに近い感覚だろう。

旅行先では旅行先のルールに従うものだ。


「「「乾杯」」」


四人で乾杯した。

流石におちょこではなく、グラスだ。

うっは。

これが日本酒か。

まだ美味いとか不味いとかの感想がでない。


「美味しいですねぇ~、私、日本酒飲むの初めてですぅ~」


スヮクラがお酒の感想を言っている。

日本人の感覚からすると、スヮクラが酒を飲んでるのはイケないことのように思えるが、ここは日本ではないし、彼女は日本人ではないし、何のルールも破っていないので、何の問題もない。

しかし、日本酒を美味そうに飲むのは意外としかいいようがない。


「純米吟醸ならではの清々しさと甘い香りだ。コクがあるが飲みやすいな」


え?なに?ユーキィどしたの?

ソムリエなの?

飲めるようになったばかりの歳の意見じゃないよね。

俺があぜんとしていると、エルフっぽい女将が料理を運んできてくれた。


「こちら肴になります、本場の日本人の口に合えばよいのですが」


とんでもないです。恐縮しながら皿を受け取る。

全部アールァイが注文してくれたようだ。


「こちらの食材でつくっていますが福岡の郷土料理のがめ煮と、静岡風おでん、たけのこの土佐煮、鮎の塩焼き、あさりのぬた、牡蠣の土手鍋です。お食事は氷見うどんを準備しております。」


えぇ……ほんとにココは異世界ですか?

俺、ほとんど食べたことない日本のものばっかりですけど?

日本だと同じ季節に揃わない食材も揃っちゃってますけど?


「このような料理ができるのも、レバ刺しどんぶりさんのおかげですから」


は?俺は何もしてないぞ。

ポカンとしていると、アールァイが説明を始めた。


「レバ殿が回復させた魔法力がなければ、時を止める倉庫が使えないのである。食材が採れたての状態を保てるからこそコレほどの料理ができるのだ」


時を止める倉庫とな。

時が止まるなら全く新鮮さを損なうことがないだろう。

冷蔵庫のもっと凄いヤツってことか。

だから季節関係なく食材が用意できるってわけか。


「改めて感謝するぞ、レバ殿。さぁ、我々の世界に来ていただいたことを讃えて歓迎会じゃ!」


俺は初めての歓迎会、初めての日本酒、初めてのお酌に酔った。


3時間ほどだろうか。

俺たちは色々な話をした。

好きな食べ物とか、知っている曲とか、他愛もない話だ。

こちらの世界について、とかもっと聞けばよかった。


料理屋の二階は旅館風の宿になっており、俺は久しぶりに畳の上で寝た。

普段はベッドなので、本当に久しぶりに布団で眠った。


朝、カーテンを閉め忘れていたらしく、眩しさで目を覚ました。


「おはよお、ございまふ」


俺は若干の酔いを残しつつ、アールァイに朝の挨拶をした。

部屋から洗面所に向かう途中、すれ違ったのである。


「おお、レバ殿。二日酔いか? 迎い酒に挑戦いたしますかな?」


そいつぁ勘弁、と手をひらひらさせて断る。

アールァイとは昨日会ったばかりで、とっつきづらいと思っていたのに、もはや苦手意識はなかった。

これがノミニュケーションというやつか。


ん?ちょっと待て。


「アールァイ、なぜメイド服を着ているんだ?」

「なぜもなにも。レバ殿が昨日、巫女服よりメイド服の方が好きだと言うからではないか」


ええ!

そんなこと言ったっけ!?

だとしても翌日の朝からメイド服着れるか、普通。


ガチのメイド服というよりもメイド喫茶のメイド服という感じだ。

黒ベースで白いレースがたくさんついているが、胸元が開いている。

上フチ無し眼鏡がバッチリ似合っている。

ううむ、かたじけない。


歯を磨き、顔を洗ってから宿の待合室に行くとユーキィはすっかり身支度を終えて、優雅にお茶を飲んでいた。

昨日は俺の三倍くらい飲んでなかったか?

酒豪だな。

木製のティーテーブルと椅子、レンガと暖炉の部屋でユーキィの持っている寿司屋の湯呑みは異彩を放っていた。


俺は朝風呂の時間をもらって、きっちり準備してから出発した。

三人にお礼をする意味でも、大喜利を頑張らなければ。


「おええ~~~」


出発から2時間ほど後、俺は超気持ち悪くなっていた。

違うんだよ、二日酔いじゃなくて。

船酔いだ。

ボートのような木製の船はバンバンと波を立てている。

馬車は一切揺れることも音がすることもなかったが、ボートは流石に揺れるようだ。


次の神殿は街から海(実際は海なのか、大きい湖なのか、それとも大きな川なのかはよく知らないが)にある島にあった。

魚介類を獲るための装置を動かしているとのことだ。

昨日みたいな美味い魚や貝を食うためならと気合い充分だったが、これはダメだ。

船酔いはダメだ。しんどすぎる。


天気もいいし、風も冷たくなくて心地よい。

水鳥も優雅に飛んでいて、非常に美しい水面だが、まったくもってツライ。

3人とも平気なようで、ユーキィが情けないやつだ、とぷんすかしている。

ユーキィのぷんすかには慣れたが、船には全く慣れないな。


船に乗って30分くらいだろうか、島に着いた。

背中を擦ってくれていたスヮクラにお礼を言う。

情けないったらないぜ。


神殿に入り、宿で魔法瓶に入れてもらったお茶をすすりながらお題を確認した。

魔法力で温度が変わらない。まさに魔法瓶。

あ、ほうじ茶だコレ。

気持ち悪い身体に、優しさが染みる。


【お題】こんな結婚式は嫌だ


うーん、なるほど。

まぁ王道というか。こんな○○は嫌だ系のお題だな。

大喜利では最もベーシックなものの一つだ。

この世界で初めてやったのも「こんなコンビニは嫌だ」だったな。


「こっちの世界の結婚式ってどうなの? やっぱり神殿でやるの?」


俺はみんなに聞いてみた。


「神殿ではやらないです。普通は自宅に招くことが多いです。好きな旅行先ですることもあります」


スヮクラが答えてくれた。

やっぱり宗教的な要素がないんだな。


「日本では神前式とかキリスト教式とか、神に誓うことが多いようですねえ。実際は着たい服で選んでいるようですが」


さすがアールァイ。よくわかってるな。

日本は宗教的な要素だけはあるが、信心はあまり無い。


「まぁ、このお題は思ったままでもいいと思う。嫌だなーと思う結婚式を想像してみよう」


ユーキィとスヮクラが考えている。

俺はまだ船酔いがしんどい。

二人のボケに期待して休もう。


「できましたっ!」


シュバッと手を挙げる、スヮクラ。

頼もしいじゃあないか。


【お題】こんな結婚式は嫌だ

【答え】結婚指輪がナット


あー、それってアレだよね。元ネタ知ってるのかな。


「それってさ、昔の日本のドラマにそういうのがあったの知ってる?」

「ドラマですか、いえ……知らないです。」

「そっかー。ナットの指輪で結婚する感動の名作があるんだよ」

「えー! 嫌ですよナットの指輪! よく感動しますね」


まーそうなんだけど、そこがいいんですよ。

これは、見てもらわないと無理だな。

パゲは元ネタを知ってるのか知らないのか不明だが、じんわりと光った。


「スヮクラ、これはたまたまそういうネタがあったってことだから気にしないで」

「はい、わかりましたっ」


素直だなあ。

素直じゃなさそうなユーキィはどうかなあ。

ちらりと見ると、小さく手を上げた。


「で、できたと思う」


ユーキィ、なんか自信なくしてんのか、恥ずかしいのか。

臆せずボケて欲しいぞ。


【お題】こんな結婚式は嫌だ

【答え】新婦の友人が全員元カレ


おおう!

いいじゃん!

奇抜ではないが、しっかりボケれてると思うぜ。


「ユーキィ、良いよ! 面白いと思う!」

「ほ、ほんとかっ」


目がキラキラするほど喜んでいる。

思わず、こっちも嬉しくなるぜ。

パゲも充分に光った。60%くらいかな。


二人とも成長してるぜ。

だが俺は情けなくも船酔いで頭があまり働かない。

まだユーキィに負けるわけにはいかないぞ。

うーん、うーん……


「それにしても、賢者様大丈夫ですか? まだ船酔いが直ってないみたい。ゾンビみたいな顔してますよ」


心配してくれる優しいスヮクラ。

ん?ゾンビ……?

ゾンビって知ってるのか。

あー、思いついたかもしれん。


【お題】こんな結婚式は嫌だ

【答え】ゾンビのような顔をした親戚が十字架でダメージを受けている


「あっはっはっはっ」


笑ったのはアールァイだった。


「レバ殿、十字架に弱いのは吸血鬼であってゾンビではないですぞ」


さすがアールァイ。

的確なツッコミだ。


「そのとおり。これは、ゾンビみたいな親戚がいるっていうだけでボケとしては成り立つけど、あまり面白くはないよね。十字架という要素は結婚式という設定を活かすためのワードだけど、ダメージを受けている絵が目に浮かんで面白い。しかも、なんでゾンビみたいな顔しているだけでダメージを受けているだよっていうツッコミが自分の中に生まれる」

「成る程、成る程。複雑にできているのですなあ」


メモを取りながら笑うアールァイ。

スヮクラとユーキィは感心している。

大喜利で感心されるというのは全く嬉しくないが。

とりあえずパゲはピッカピカだ。

休憩させてくれー。


「さてさて、先を急ぎませんと。こんなところでは昼食も取れませんし」


アールァイは鬼か。

もう船に乗るなんて勘弁だ。


「今しがた最高の大喜利で神殿を回復させた賢者様を、もう少し労ってもらえないだろうか」


恩着せがましく聞こえようと、俺は休みたかった。


「おやおや、レバ殿。酒に酔って、船に酔った後は、自分に酔っておいでか」

「うまい! 座布団一枚」

「座布団よりも宿の布団がよい。さぁ、早く参りますぞ」


ぐうう。

俺よりアールァイの方が一枚上手だったか。

彼女はメイド服を着ているが、俺の方が従者みたいだ。

完全に丸め込まれている。


2時間後、街についた俺はゾンビのような顔をしてダメージを受けていた。

















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