【スーツの男二人がビールで乾杯している写真で一言】
俺は、ぽへぇ~~~っとダンスを見ていた。
いや、大したものだなあ……。
今回立ち寄った神殿は、お題が大喜利じゃなかった。
踊りの要求である。
もともとパゲの要求は料理や歌、踊りなどであり大喜利は最近増えたのだ。
お題は神殿に行かなければわからないので、こういうこともあるだろう。
大喜利以外のお題は、パゲ巫女養成学校で学んだエリートの二人に任せることになっている。
パゲ巫女っていうのは俺が勝手に名付けたパゲを光らせる仕事の職業名だ。
当初は「光らせる者」みたいな直訳感バリバリの言葉を使われたので変えさせてもらった。
二人ともパゲ巫女としては優秀なのだが、どちらかと言うとスヮクラが歌、ユーキィは踊りが得意らしい。
そこで今回はユーキィが踊ることになったのだ。
それにしても……
【お題】パラパラ
パラパラとはなー。
すっげー久しぶりに見たよ。
生で見たのは初めてだよ。
つか、パゲって何なんだよ。
なんでパラパラを踊って欲しいわけ?
なんでパラパラを踊ると光るわけ?
再生方法はよくわからないが、神殿の中で大音量のユーロビートが流れている。
光りを増していくパゲの前で、ユーキィが一心不乱にパラパラを踊っている。
腕を振り回すたびに、金髪のポニーテールが揺れる。
いや、すごく綺麗なんだけどさ。
なんか、シュールだなあ。
「ユーキィ、パラパラ上手だね」
常時激おこぷんぷん丸の金髪ポニーテールと、俺はコミニュケーションを図ろうとした。
またプロレス技をかけられては敵わない。
まだ背骨が痛いのだ。
「ありがと。うん、パラパラは得意な方かな」
得意なんだ。パラパラ。
でも良かった。今日はあんまり怒ってないみたい。
神殿を出ると、スヮクラがランチを作ってくれていた。
今回の神殿は湖のほとりにあった。
ダムのように街に供給する水を調整するための魔法力を生み出す神殿とのことだ。
馬車を置いてあるところまで少し歩く必要があるので、簡単なキャンプを張っている。
温かい日差しの中、湖を見ながらのランチはなかなかに贅沢というか。
ピクニックって感じだよなあ。
サンドイッチか何かかな。
「今日のランチは宮城県登米市の名物”はっと”ですよ~」
……はっと?
知らないけど日本の料理らしい。郷土料理ってやつだな。
具だくさんのワンタンスープみたいな感じ。
野菜たっぷりで健康にも良さそうだ。
スヮクラもスゴイなあ。
パゲが要求するとはいえ日本人の俺も知らない日本料理を作れるなんて。
素朴だが本当に美味しい。
―-なんか俺、今ものすごく大喜利がしたいです。
自分の存在価値がそれしかないから。
僕はここにいていいんだ!って思えるようになりたかった。
昼食を終え、1時間ほど歩いて馬車に。
馬車で1時間ほど移動して次の神殿へ到着した。
今回は街への魔法力を供給する神殿で、高台の上にあった。
さぁ、お題は何だ!?
【お題】写真で一言
ガーーーーン。
写真で一言のパターンもあるのか。
TVの大喜利番組や、生大喜利、ネットの大喜利ではよくあるが、俺の主戦場は深夜ラジオ。
当然だが、ラジオには写真で一言というお題は有り得ない。
だから、ほとんどやったことがないのだ。
「賢者様、写真です」
「あぁ、ありがと」
スヮクラが戸から写真を出してくれた。
俺は平静を装いつつ受け取った。
【お題】写真で一言(スーツの男二人がビールで乾杯している写真)
ふうむ。
難しいな。
慣れないこともあり、さっぱりだ。
参ったな、思いつかないなんてとても言えない。
「賢者様、写真で一言とは何ですか?」
無言で写真を見ていると、スヮクラが質問してきた。
そりゃそうだよな。意味わかんないだろうな。
「この写真に似合った言葉を答える大喜利だよ。この写真で言えばシチュエーションを表す言葉か、この写真の人物のセリフを答えることになるな」
「ふぅ~ん。正解はカンパーイとかですか? それをヒネるんですね?」
その通り、と俺が頷くと今度はユーキィが質問してきた。
「で、この二人は一体何をしてるんだ? ビールは知っているが、この服は?」
「この服はスーツだね。えーっと、職場で着る服だよ」
「なぜ職場で着る服で、ビールを飲んでいるのだ? 日本では酒を飲みながら仕事していいのか?」
違うよ、と言いそうになって俺は気づいた。
「それだ! それだよユーキィ!」
俺はついユーキィの両手を握ってしまった。
ユーキィからは頭からクエスチョンマークがいっぱい出てるように見えた。
「ユーキィのおかげで思いついたんだ! 多分いける!」
俺は答えを書いてパゲに捧げた。
【お題】写真で一言(スーツの男二人がビールで乾杯している写真)
【答え】「今日も一日、がんばろう!」
やった!光った!
俺は思わずガッツポーズした。
「さっすが、賢者様!」
褒めるスヮクラに俺はかぶりを振った。
「いや、今回は本当に自信がなかった。ユーキィのお陰だよ。ありがとう」
「なっ、私は何もしていないぞ」
ユーキィは顔を赤くして否定したが、完全に救われた形だ。
今回のお題は普通の人なら当然写真を見ただけで、これが仕事帰りにサラリーマン二人が一杯飲んでいるものだと思う。
その前提を覆すことが笑いになるのだが、ユーキィに仕事帰りではないという発想を言われたからこそ、仕事前に一杯飲んでしまっているというボケを思いつけた。
「正直、写真で一言はあまりやったことなくて自信がなかったんだ。大喜利が出来ない俺なんてこの世界じゃ何の役にも立たないもんな。俺の唯一の存在価値を守れてよかったよ。ありがとう」
セリフを言い終わるや否や、ユーキィに腕を引っ張られた。
なんだ!?怒らせたのか!?
また!?またコブラツイストなのか!?
外に連れ出されると、空は綺麗な夕焼けになっていた。
マジックアワーと呼ばれる時間帯だな。
こちらの世界では空は緑がかっていて、夕焼けと闇が混ざって何とも言えない美しさだ。
「ここから見える街の灯りは、神殿から供給された魔法力によるものよ」
高台から見える街は綺麗だった。
薄暗い空と赤レンガで出来た街にところどころ灯りがついている。
電灯に比べて魔法力の灯りはとても優しい印象を受けた。
「この街で生活してるみんなが笑っていられるのも、あなたのおかげってワケ」
風を受けて目を細めながら、ユーキィは優しい顔でこちらを見た。
「だから、胸を張っていいと思うわ」
ごめん、ユーキィ、ほんとごめん。
普段怒ってばかりのユーキィに慰められてることは本当にありがたいんだけど。
とってもいい雰囲気なんだけど、もうアレだわ。
これ見たことあるわ。
完全に新世紀的なやつの、序のやつだわ。
戦い終わったシンジさんを慰めるときのやつだわ。
もうユーキィがミサトさんにしか見えないもん。
だめだ、思い出しちゃって面白すぎる。
俺はうつむいて、笑いをこらえるしかなかった。
「まさか、泣いているの?」
いえ、逆です。まさか笑ってます。
泣いていい場面なのに、笑ってます。
「大喜利しかないとか、存在価値がないとか、そんなこと悲しいこと言わないでよ」
ヤバいヤバいヤバい、そっちも言うの?
別れ際にサヨナラなんての方じゃん。
笑えばいいと思うよの方じゃん。シンジさんじゃん。
でも今笑っちゃ駄目じゃん。
笑えばいいと思うよって言われても、絶対笑っちゃ駄目じゃん。
笑ったらノーザンライトボムくらいされてもおかしくないじゃん。
我慢すればするほど面白すぎて、俺は吹き出す寸前の満面の笑みのまま後ろを向いた。
この場を逃げるしかないと思ったのだ。
ところがそこでスヮクラと目が合った。
ヤバイ、見られてしまった。
こいつ笑ってるんですけどぉ~とか言われたら終わる。
頼む、見逃してくれ!
俺は満面の笑みのまま、目で助けてサインを送る。
伝わってくれ、この思い。
口に手をあてながら、目を細めるスヮクラ。
どうやら、面白がっている。
面白いネタを仕入れたぞ、という顔をしている。
人差し指を立てて、貸し1つですよ~みたいなポーズをしている。
うっわ~、この貸し、高く付きそうだな。
俺は段々と冷静になっていった。
スヮクラのおかげで面白モードから解放された俺は、ユーキィにお礼を言い、3人で日が沈むまで街を眺めた。
ノーザンライトボムは喰らわずにすんだが、隣でニッコニコしているスヮクラへの貸しの方が俺は怖い気がしていた。