【少女漫画にありそうで絶対無いセリフを教えてください】
ガラガラガラガラ!
と、音が出そうな馬車で移動しているが、全く音は出ていない。
聴こえるのはスヮクラの鼻歌だけである。
俺たちは馬車で次の神殿に移動していた。
厳密には馬がいないので馬車ではないが、いわゆる馬車の馬がいないモノなのだ。
もちろん動力は魔法力である。
前回パゲを光らせた神殿が、馬車などの移動手段用の魔法力供給の神殿であった。
俺達の世界のガソリンスタンドのようなものだろうか。
車輪にはゴムもついていないのに、ガタガタ道でも全く振動がないのも魔法力の賜物である。
しかも、なんと全自動運転だという。
ホーリエの指示でスヮクラが予め設定しておいたルートで巡ってくれている。
見た目は中世だが、機能は未来の乗り物だな。
こいつに相応しい日本語の呼び名がないが、とりあえず俺は馬車と呼んでいた。
次の神殿は小高い丘にあり魔法力を広く供給しているらしい。
電波塔みたいなものかもしれない。
施設や家庭に供給する強力な魔法力ではなく、屋外で使用する機器用の魔法力だそうだ。
中でも大事なのがコンパクトミラー。
こちらの世界では鏡で遠くの人と会話を行う。
通話ONLYの文化はなく、鏡越しに対面して話すということだった。
コンパクトミラーは俺達も持っているが、今は使用できない。
まさに携帯電話の電波を復活させに行くというところだろう。
馬車は山道をゆっくり登っていく。
ぽかぽか陽気に爽やかな風が吹いており、ピクニック日和というところだ。
スヮクラの鼻歌が心地いい。
ユーキィも目を閉じて聴き入っている。
この曲、知ってるような……日本の歌かな。
「スヮクラ、ひょっとして日本の歌?」
「あ、鼻歌ですか? そうですよ~ 舟唄です」
なぜ山道で舟唄を。
真昼間のこの爽やかな状況とは真逆の歌詞の歌だった。
激シブな選曲だがスヮクラの鼻歌だとルンルン気分なBGMに聞こえるのでわからなかったぞ。
にしても、スヮクラが歌えるってことは、やっぱりパゲが要求するんだろうな、舟唄。
しばらくして神殿に到着した。
よっしゃ、パゲを光らせるだけの簡単なお仕事を始めるか。
でも、今度はユーキィでも納得のボケにしたい。
また地団駄踏まれるのは勘弁であった。
まずはお題を確認しよう。
【お題】少女漫画にありそうで絶対無いセリフを教えてください
なるほど。◯◯が絶対言わないこと系お題か。
少女漫画にありそうなセリフを思い浮かべてからヒネればいい。
やりやすいお題と言えるが……
「二人とも、少女漫画って読んだことある?」
お題そのものを理解できていなければ話にならない。
超有名グルメ漫画は知らなかったしな。
「私は大好きですぅ~! 少女漫画のおかげで日本語が読めるようになったんですよ!」
スヮクラは確かに少女漫画とか好きそうな雰囲気あるが、そうか読んでるのか。
ユーキィはどうかなぁ。
「け、結構読むぞ。スヮクラが貸してくれるからな」
二人は仲良しですなあ。
ま、とりあえず二人とも大喜利できそうだ。
「オッケー、じゃあボケてみようか。スヮクラはどう? 思いついた?」
「う~ん、そうですねぇ~。こういうのはどうでしょう」
人差し指を顎につけて小首を傾げながら答えを言った。
二人とも日本語は話せるし読めるが、書くのは得意ではないので、口頭でボケたものを俺が書くことになっている。
【お題】少女漫画にありそうで絶対無いセリフを教えてください
【答え】「遅刻、遅刻~!急がないと告別式に遅刻しちゃうよ~」
まさかのダークボケ!
意外だよスヮクラさん!
「入学式に遅刻しちゃうと普通なので、一回ヒネってみましたぁ~」
学んでる!
学んでるが素直に喜べない!
どういう状況なんだよ!とか誰のだよ!という部分が気になりすぎる。
なによりダークすぎる。
そもそも遅刻しちゃうのはよくあるシチュエーションだが入学式に遅刻するのはそうでもない。
ちょっとわかりにくいのである。
答えを戸に入れると、パゲはちょっとだけ光った。
「う~ん、ちょっとわかりにくいボケだったかもしれないね~。ユーキィはどう?」
「や、やってみる」
【お題】少女漫画にありそうで絶対無いセリフを教えてください
【答え】「い、いきなりキスなんて……お、俺たち、男同士なのにッ……!」
うん、ホモネタね。考え方は悪くないが……。
ユーキィさん、顔が真っ赤すぎますよ!
なんか興奮してない?
パゲはこれも少しだけ光った。
「ユーキィ、悪くはないけど、少女漫画でそういうのはまぁまぁあるんだ」
「あっ、あるのかっ!?」
すっごく嬉しそうだな、オイ。
ボケたというより、そういうのが好きなだけじゃないのか。
さて俺の番だ。
誰にでもわかりやすく、悪く言われることがない大喜利というのは非常に難しい。
大喜利というのは、このネタは自分にしかわからないだろうくらいの方がツボに入る。
だが、俺には作戦があった。
日曜の夕方にやっている国民的大喜利番組、あれを参考にするのだ。
そういうボケなら老若男女誰もが笑えるだろう。
【お題】少女漫画にありそうで絶対無いセリフを教えてください
【答え】「傘ないんだろ? 男物だけど、これ使えよ。さっきコンビニで盗んだんだ」
顔のきれいな師匠の鉄板パターン、軽犯罪ネタだ。
おばあちゃんでも笑っちゃうはずだぜ!
「放課後の急に降ってきた雨で男子が傘を渡すヤツですね! 自分のを渡すからカッコイイのに、盗んじゃ駄目ですよぉ~」
今回もスヮクラは笑ってくれた。
いい子だ……。
さて!ユーキィは!?
「傘を盗む男は最低だ」
アレ?
まさか?
「傘を盗むヤツは人間じゃない。100回殺しても罪にならない」
傘を盗まれたことがあるんだね!?
でも殺しちゃ駄目だよ!罪だよ!
1回でも駄目なのに100回殺すとか絶対言っちゃだめだよ!
「傘を盗むことが笑えると思っているヤツも人間じゃない」
なんてこったい。俺は人間じゃなかった。
バラエティに厳しくなってきた日本のクレーマー視聴者でもここまで言わないだろ。
「れ~~ば~~ど~~ん~~~!!」
いくらなんでも怒りすぎじゃない?!
相変わらず声が可愛すぎて全然怖くないが、明らかにヤバイ。
怒髪天を衝くという言葉をそのまま絵にしたようだ。
駄目だこりゃ、逃げるしかねえ!
とりあえずパゲは光ったので任務は完了だ。
ユーキィは鬼のように怒り狂ったので、俺達は鬼ごっこをする羽目になった。
そして10年ぶりの鬼ごっこで浪人生の俺が勝てるわけもなかった。
「ユ、ユーキィさん! コブラツイストなんて技をどこで」
「日本女性の嗜みだろう、当然私も心得ている」
む、胸が背中に。
当たってるんじゃない、当ててるのよ。のシチュエーションだったが、全く嬉しくなかった。
コブラツイスト中に肘で脇腹をグリグリするとか、どこの燃える闘魂だよ。
「ま、ま、間違ってるよ、その認識! あ、あ~~~」
小高い丘の上で俺の絶叫は、やまびことなって広がったのだった。