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【このレストラン、期待できる。なぜそう思った?】

「だからレバ丼から教わることなんか何もないっていったのよ! イミワカンナイッ!」


少しエメラルドグリーンがかった、この世界ならではの清々しい青空の下で、俺はボロクソに言われていた。


左手を腰に当てて右足を地面にバンバン踏みつけながらめちゃめちゃ怒っている彼女はユーキィ。

北方にあるザイムカン領の領主の娘だそうだ。


腕の付け根くらいまである金髪のポニーテール。

少しつり目でブラウンの瞳。

背は165cmくらいだろうか。

適度に筋肉のついてスラッとしたプロポーションをしている。

白いベストに短めの赤いスカート、編上げの革のブーツで動きやすい格好だ。

少し鼻にかかった声のため、怒っていても全然怖くなかった。


レバ丼というのは俺のラジオネーム、レバ刺しどんぶりを勝手に略したものだろう。

でもホーリエみたいにレバ刺しどんぶり様と呼ばれるよりは気が楽だ。


「ユーキィ、賢者様に向って失礼です! 謝罪を!」


1浪なのにロクに受験勉強もしていない俺を賢者様と呼ぶのはスヮクラ。

彼女はザイムカン領の東に位置するキョウセイシュウ領の領主の娘で、ユーキィとは竹馬の友だという。

赤髪のショートカットで目は黒くちょっとだけ垂れ目。

甘い声で舌っ足らずな話し方をしている。

少し手が隠れるくらいダボッとした白いフリースのような服に、ひざ丈の紺色のスカート。

茶色のローファーという出で立ちだ。

ユーキィとは対象的に、いかにも女の子らしい女の子という印象を受ける。


「いいんだよスヮクラ、確かにユーキィには意味がわからなくて当然だ」

「なによ、なによ! 私には理解できない高度な大喜利だっていうのね! さっすが賢者様ですこと! ふん!」


ユーキィ怒ってるなぁ~……。

俺はスヮクラと目を合わせて、二人で肩をすくませた。


俺達は初めての任務でパゲを光らせてきたばかりだ。


一昨日この世界に召喚されてきた俺は、ホーリエから魔法力が弱まっている神殿をまわってパゲを光らせることを依頼された。

受験勉強中(と見せかけてラジオをニヤニヤ聞いていただけ)に召喚された俺はこの世界に半纏でやってきていた。

これでは活動できないということでホーリエが用意してくれた衣服は、魔法力研究者のものだった。

魔法力を使ってできることを研究する機関で、最も優秀な学生だけが入れるため賢者とも呼ばれる。

この服なら神殿に出入りしても怪しまれることはないし、周囲の協力も得られるということだ。


ワインレッドのローブに白いマントという魔法でも使えそうなルックスになった俺は、内心世界を救えるような気がしたが、街に出てすぐ挫折した。

町の人とは話が通じないし、文字も読めない。

常識もない。

魔法力を使った移動手段も理解できない。

つまり、この世界のことを知らない俺が一人で行動することは難しい。


助けてよ、ホーリエも~~ん! と心のなかで泣きつきながら街から戻ると、ホーリエがお供としてこの二人を同行させてくれたのだ。


二人もホーリエと同様、パゲを光らせることを仕事としている。

完全日本語で学ぶ養成学校を卒業しているためホーリエよりも日本語が堪能だ。


ホーリエはこちらの世界の最高学府を卒業しているらしい。

国の中枢を担う人材や領主の跡継ぎなどが通うそうで。

そういや大臣のようなものだって言ってたもんな。


ホーリエはほどではないが、彼女たちもこの世界ではエリートと言っていい。

自分たちの普段の言葉とはまったく言語の異なる日本語を使える必要があり、歌や踊りができて料理も得意でなければならない。

パゲという神聖な生物を相手にすることもあり、女性しかいないのだという。


二人だけには異世界から召喚したことを教え、サポートしてもらうかわりに、苦手な大喜利を教えるというのがホーリエからの条件だ。

断るわけもなく、0.2秒で了承した。


ところが簡単に自己紹介をすませた途端、ユーキィが不機嫌になった。

18歳も過ぎて働きもせず親に食わせてもらってる男なんかに教わることなんてないと言うのである。

キビシイ。なんてキビシイお言葉。


こちらの世界では14歳から働くのが普通で、大人として扱われるのだという。

まぁ1年の日数がちょっとだけ違うみたいだけど。

彼女たちは15歳。それでも俺達の世界でいうところの16歳だった。

世界の違いに理解を示すスヮクラと違い、ユーキィはぷりぷりと怒ったまま最初の任務に向かったのである。


徒歩で20分ほどの所に一番近くの神殿があった。

まずは近くからいくつか復旧させる作戦である。

俺もパゲのツボを探る必要があったし、実験しながらのつもりだった。

しかし神殿につくなり俺の力など頼りたくないと、ユーキィは果敢にボケたのである。


【お題】このレストラン、期待できる。なぜそう思った?

【答え】店の前からすごくいい匂いがする。


――もう、真っ暗です。

パゲが暗闇に染まっていきます。

悲しいね。

無表情のユーキィ、固まっております。


「賢者様、よろしくお願いします」


スヮクラの促しで俺がユーキィの代わりにボケることになった。

ユーキィはわなわなと震えている。かける言葉はなかった。

さて、どうしようかな。


【お題】このレストラン、期待できる。なぜそう思った?

【答え】まいうーと書かれた海原雄山の色紙が飾ってある。


パァァァア……

おっ、光った光った。

この前ほどじゃないけど、それなりに光ったな。

これで芸能人ネタと漫画ネタも通じることがわかった。

冷静に分析していると、ユーキィに腕を捕まれ、外に連れて行かれた。


それで、俺は青空の下でボロクソ言われる羽目になったのである。


「大体、まいうーって何!?そんな日本語知らない!海原雄山って誰よ!」

「わかった、わかったよ、俺が悪かったって」


参ったね。これは。

そういうご批判が発生すると自由にボケられなくなる。

そもそも、この二人の前だと下ネタが使えない。

深夜ラジオを主戦場としている俺にとっては致命的だ。片腕もがれたようなものだ。

それに加えて漫画ネタや芸能ネタも使えなくなってしまう。

厳しい戦いになるぞ……。

考え込んでいるとスヮクラが突如、手を上げて俺に質問してきた。


「賢者様、ユーキィのは確かに面白くなかったですけど、何が悪かったのでしょう?」


おいおい、スヮクラ!なんてことを言うんだ!

無邪気さがこれほど恐ろしいと思ったことはないよ!


恐る恐るユーキィを見ると、顔を真赤にしてうつむき、震えている。

恥ずかしいのか?

俺には怒っても、スヮクラには怒らないのかもしれない。


「うん、ユーキィの答えはね、普通に正解なんだよ」

「正解では駄目なんですか?」


うん、と頷いて俺はユーキィの方をチラチラ見ながら話を続けた。


「正解というのはつまりボケてないんだ。そこから一回ヒネる必要がある」

「難しいですぅ~。賢者様、お手本をお願いします」


スヮクラはちょっとぶりっ子な気がする。

天然なのか養殖なのかは、わからないが。


【お題】このレストラン、期待できる。なぜそう思った?

【答え】店から出ている匂いで白米食ってる人がいる


こんな感じでどうだ。


「匂いでご飯を食べるってことですかーーーー!? おっかしー!」


スヮクラが笑い転げている。

やっぱりパゲを光らせるより人を笑わせた方が嬉しい。


「お店からすごくいい匂いがするっていうのは同じでしょ。そこから1回ヒネっただけだよ」


なんか偉そうだなあ俺。

人に何かを教えるような立場じゃないんだが……。

ホーリエから二人に大喜利を教えてくれと頼まれてるしなあ。

うわっ!

ユーキィがぐぬぬ……という顔で睨んでいる。


「勉強になったね~。ユーキィ~」


また出た!スヮクラの無邪気攻撃!

ぐぬぬ……のまま震えるユーキィ。

あわわわ……。


異世界に来てまだ2日。

旅はまだ始まったばかり。

この美しい青空の下で、俺の心には暗雲が立ち込めていた。












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