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【なぜか人気の出ないアイドルのライブMCってどんなの?】


「ワーイ!」

「「ワーイ!!」

「エェム!」

「「エェム!!」」


なぜこんな事に……。

俺は大歓声の中、ライブ会場でヤングマンを熱唱していた。

こうなった理由だが――。


******


「なになに、カラオケ大会?」

「ヤコウト領は日本文化が大好きな領地で、カラオケも大人気なので毎年カラオケ大会が行われるのです」

「って、会場がコレ?」


でかい。

でかすぎる。

日本武道館より広くないかっていうくらいでかい。


「こんなとこでカラオケするの……?」

「このヤコウト領カラオケ大会は例年、観客は1万人以上ですからな」


まじで?

カラオケ大会って言っていいレベルなのかそれは。


「カラオケ大会の常連はアイドルのようなものですしな」


アールァイの説明を聞いていたところ、ユーキィが得意げな顔で割り込んできた。


「スヮクラは一度、歌ったことがあるぞ」


ほほう。

それはそれは。

俺はアイドル衣装に身を包んだスヮクラを想像した。

似合うわー。


「ユーキィ、その話は無しって言ったでしょ!? 賢者様、何を想像しているんです!?」

「ライトサーベル持ったオタクが、スヮクラにウリャホイしてるところ」

「な、何ですかそれは? 意味わかりませんけど、とりあえず止めて下さい!」


顔を真っ赤にして抗議するスヮクラ。


「今回は出ないのか?」

「で・ま・せ・ん」


強い口調ではっきりと断言した。

こりゃ以前出たときになにかあったな?


「ユーキィ、スヮクラが出場した時のことを教えてくれよ」

「フフフ、知りたいだろう。それはそれは可愛い格好でな……」

「わー! わーっ! 聞こえなーい! 聞こえなーい!」


大声で妨害するスヮクラ。


「アールァイ軍曹、カーネモット二等兵」

「「はっ」」


敬礼し、スヮクラを羽交い絞めにする二人。

速やかにハンカチで猿ぐつわを噛ますアールァイ。

うむ、素晴らしい働きだ。

後ほど勲章を授けよう。


「さて、話の続きをお願いする」

「むぐー! むぐー!」

「すまんな、スヮクラ。あの愛らしさをレバ丼にも伝えてやりたいんだ」


目を輝かせて語るユーキィ。

涙目で抵抗するスヮクラ。

一体カラオケ大会で何があったというのか。


「4年前にセーラームーンのコスプレをして、ムーンライト伝説を歌ったのだ」


ほほ~、想像するだけで心がぴょんぴょんしちゃうね、うさぎだけに。


「その際にセーラームーンの変身シーンをほとんど再現したんだぞ」


――エッ?

変身シーンって、あのリボンを纏うとコスチュームに変わるみたいな感じだったっけ。

それを再現って……どうやんの?

俺はアールァイに耳打ちする。


「それさ、つまりどうゆうこと?」

「魔法力を使って変身シーンを自らの身に再現しているのです」

「リボン纏う前の状態はどうなっちゃうんだ、なんか虹色の裸みたいなとき」

「まぁ……虹色の裸ですな」


それって、相当恥ずかしいのでは?

スヮクラをちらりと見る。


「むがー! むがー!」


ものすごい顔で俺を睨んでいる。

そんなに眉毛って上を向くことができるのかと驚嘆するほどに。

そんなスヮクラを意に介さず、ユーキィは話を続ける。


「それはもう、観客全員が美しさに声も出なかった」


そりゃ、唖然としたんだろうよ。

4年前っていうとこの世界の11歳だな。

日本でいうと小6くらいの女の子ってことになる。

もう『微笑ましい光景だね~』じゃ済まないだろ。

うわー、本当に再現しちゃったよ、大丈夫? って感じじゃねえかな。


想像を止め、ちらりとみんなの方を見る。

カーネモットも想像して青ざめてるぞ。

アールァイはそのときのことを覚えているのだろう、くふふと笑っている。

そしてユーキィだけが空気も読まずに、ガチで称賛しているというわけだ。

俺はスヮクラのところに歩いていき、ポンと肩を叩いた。


「当時は純粋に変身してみたかったんだな?」

「むぐむぐ」


猿ぐつわのまま首を縦に振る。


「後から超恥ずかしいことに気づいたんだな?」

「むぐ~」


さめざめと泣いている。

掛ける言葉もないぜ。

子供の頃のピュアさが仇になったのだ。

そして未だにピュアなやつが友人にいるとこうなるということだ。

南無。


「今のスヮクラならもっと凄い変身ができるに違いない」


もうやめて差し上げろ、ユーキィ。

死んだ魚の眼をしているぞ、スヮクラが。


「さて、そんなわけで」


気を取り直して行きましょうとでも言いたいのか、全く悪びれないアールァイ。

猿ぐつわを外したが、スヮクラはうなだれたまま口を開くことはなかった。

うーん、罪悪感。


「お勤めに戻りましょうかの」

「カラオケ大会するにも魔法力が必要ってことか」

「左様で」


それでは神殿に向かいますか。

スヮクラはがっくり肩を落としたままだけど。


【お題】なぜか人気の出ないアイドルのライブMCってどんなの?


今回のお題はコレか。

ライブMCってのは歌の合間に挟む、ちょっとした話だな。

つまりは、どんな素敵なアイドルでも人気がなくなるようなライブ中の一言ってことだ。


カーネモットは今回も最初に手を挙げた。


【お題】なぜか人気の出ないアイドルのライブMCってどんなの?

【答え】4時間喋る


「歌えよ!」

「歌は!?」


俺とユーキィが思わずツッコむ。

シンプルな答えだ。

一番最初に答えたことが功を奏したね。


ユーキィのボケはどうだろう。


【お題】なぜか人気の出ないアイドルのライブMCってどんなの?

【答え】ずっと彼氏とのノロケ話


「UZEEEEE!」


思わず叫んでしまった。

アイドルは恋愛禁止だろうが!

恋人はファンのみんなだろうが!

そうだろう?


それにしても、これもシンプルでいい答えだ。

基本ができているボケといえる。


次はなんとか回復したばかりのスヮクラの答えか。

神殿についたことで仕事モードになったみたい。


【お題】なぜか人気の出ないアイドルのライブMCってどんなの?

【答え】みんなー! この会場呪われているから、この御札を買ってねー!


「斬新だな、霊感商法アイドル」


わざわざ呪いなんて持ち出さなくても。

大人しくちょっとえっちなブロマイドでも売ったほうがいいだろう。


「これは人気でないだろ~」


これはユーキィの感想である。

いや、これはこれで人気でちゃうんじゃねーかな?

いまやアイドルは何が人気でるかわかんねーもんよ。

巫女服で登場して呪いを解除するアイドルだったら、ファンもわかってて御札買いそう。


このボケはちょっとヒネったボケだ。

人は選ぶが、序盤のシンプルなボケの後に出てくるに相応しい。

序盤・中盤・終盤でボケを変えてくるようになったら一人前だろう。

ラジオの場合それはMCが行うことで、俺らみたいなハガキ職人は投稿しまくればいいだけだしな。

みんな成長してるぜ。


さて、俺の番だな。


【お題】なぜか人気の出ないアイドルのライブMCってどんなの?

【答え】はい、皆さんが静かになるまで5分かかりました。


「避難訓練の学園長先生ですかっ」


カーネモットもツッコミが出来るようになったか。

学園長ってのはパゲ巫女養成学校のファナーザ学園長のことだろう。

あのファナーザも、日本の校長先生と言うことは変わらないらしい。


「静かになるまで待っちゃったら、そりゃ盛り下がりますな」

「言い方も、ファンに向かっていうセリフじゃないですね」

「どんなアイドルなんでしょう」


笑顔でセリフがぽんぽんと飛び出す。

これはウケたなー!

たまにはコレくらいウケてくれないと自信なくなっちゃうね。


このボケで神殿は回復し、予定通りカラオケ大会が開かれることとなった。


そして、俺たちはカラオケ大会を見に行くことにしたのである。


会場ではスヮクラはカラオケ大会ファンの中では有名人のようで、複数の人から話しかけられていた。

当然、スヮクラは黒歴史を発掘されたくないので困惑しているようである。

俺には言葉がわからないので何を言っているのかわからんが、スヮクラは辛そうな顔をしている。

可哀想になってきた。


「フフフ、スヮクラはやはり人気者だな」


なぜか勝ち誇るユーキィ。

実はこいつ、馬鹿なんじゃないの?

困ってるんだっつの。

助けてやれよ。


「なぁ、なんとかしてやれないか? 軍師殿」


俺はアールァイを肘で小突きながら言った。

こういうときは頼りになる、はずだ。


「策がないわけではないですがの」

「やってやれ、やってやれ」

「本当によろしいので?」

「かまわん、かまわん」


この時の俺は多少、思慮が足りなかったと言わざるを得ない。

アールァイの策を詳しく聞かずに実行に移すという、ハイリスクな決断をするなど。


アールァイが何かを叫んだ途端、注目が俺に集まった。

ニッポンという言葉だけは理解できた。

周囲の人達が俺の腕やら脚やらを掴んでくる。

あれよあれよという間に連れて行かれる俺。

連れて行かれながら俺は叫ぶ。


「アールァイ! 何言ったんだー!?」

「日本生まれの日本育ちの日本人が歌いたいって言ってるぞーい! と言ったのじゃー!」


成る程ね。

って、俺はこの大観衆を前に期待の眼差しを受けながら歌うんですか!?

まじか。

スヮクラは助かったから、目的は達している。

アールァイの策としては、大成功だ。

だが――。

問題は、俺は歌が全くうまく無いということだ。

そもそも、レーザーディスクの頃のカラオケの曲なんて歌ったことないぞ。


そして話は冒頭へ戻る。

会場中を巻き込んで歌わせるタイプの歌なら歌唱力がなくても、なんとかなるのではないかと考えた。

そして選んだのがヤングマンだった。

体育祭の応援歌で歌ったことがあったのである。


選曲は間違っていなかった。

イントロが流れた時点でドッと盛り上がる。

俺はなるべくセリフっぽく歌った。

ライブっぽさを演出、ではなく単に歌唱力の低さをごまかすためである。

そして戦略は成功したのであった。


俺の歌にあわせて、みんなが歌う。

俺の振り付けに続いて、みんなが踊る。

拳を振り上げて叫ぶと、大勢の人が畝る。

熱狂の渦を起こしているのが自分であるということが夢のようだ。


ウワァアア――――!


歌い終わった俺に浴びせられる大喝采。

こりゃあ快感だぜ。


「ありがとなー! アリーナー!」


なんかいっぺん言ってみたかった。

ここは全然アリーナじゃないけど、どうせ日本語わからんだろうし良いだろ。


ウワァアア――――!


なんか盛り上がった。

そんなもんなのかもしれない。

神殿のお題みたいにライブMCで台無しにならないよう、さっさと退場した。


なんとかやり終えたと安心する間もなく、俺はカラオケ大会の特別審査員に抜擢される。

そして知らないおっさんの歌うルビーの指輪などを散々聴かされたあと、カーネモットが登場。

いつの間にエントリーしていたんだと驚いたぜ。

そして結果は、カーネモットの優勝である。

だって俺が持ってる点数が他の人の5倍もあるのだもの。

贔屓目なしにしたって、カーネモットの赤いスイートピーは本家越えてると思うけどな。

いや、世代が違うから本家のことは何とも言えないが……。


正式エントリーしていない特別審査員の俺は特別賞を受賞。

マイクのトロフィーを授与すると共にプロの歌手にスカウトされた。

勿論、即座に断った。


ただ、あの歓声、あの快感はまだ身体に残っていた。

あの大観衆を、歌ではなく笑いで沸かせてみたいと、ちょっとだけ思った。





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