【気にするなと言われても、どうしても気になることとは?】
神殿を出た俺達は、魔法力をすっかり回復した街に繰り出した。
俺とカーネモットは約束通りプリクラを取った。
目がでかくなるとかそういうのは全くない、昔ながらのものだ。
機種に近づくと雪だるまのキャラクターが写真撮っていかないかと話しかけてきたので、一瞬新しいのかと驚いた。
このシールは俺の人生で一番大事なものと言ってもいいね。
デジタルデータが入手できないのが惜しいぜ。
一方、スヮクラは銃でゾンビを殺しまくり、アールァイは麻雀で女の子を脱がしまくった。
ユーキィは浴衣姿のままでダンスダンスレボリューションをノーミスでクリアしていた。
周りを見回してみても、この少しレトロなゲームセンターは繁盛していた。
みんな結構ゲームするのね。
しかも日本のちょっと古いやつを。
こっちの世界には車がないからレースゲームはなかったけど、違いはその程度。
太鼓の達人をしている親子とか見てると、ここが異世界だということを忘れるぜ。
ひとしきりゲームセンターで遊んだ俺達は回転寿司に向かった。
「とりあえず熱燗」
席につくなり、ユーキィがメニューも見ずに注文した。
シブいっすね。
「レバ殿、ま、おひとつ」
アールァイが瓶ビールを注いでくれる。
常連感がすごいな、この人達。
俺より回転寿司を満喫していやがるぜ。
ねぇねぇと服の袖を引っ張りながら耳打ちしてくる、レーン側に座ったカーネモット。
左耳がくすぐったくて、嬉し恥ずかしい。
「お兄ちゃん、いろんなの食べたいから同じお皿のお寿司とって、1貫ずつ食べよ?」
即座にOKのサインを右手で出す俺。
この提案を拒否するなんて俺にはできねえ。
仮に『私がお寿司を食べるからお兄ちゃんはお皿を食べて』と言われても承諾してしまうだろう。
「じゃ、カーネモットのチョイスにお任せするよ」
コーンマヨとかハンバーグとかじゃないと良いなと思いつつ、お任せする。
カーネモットは、レーンからぱぱっとイカっぽい皿を取った。
1貫を口に放り込み、1貫乗った皿を渡してくれる。
そしてもぐもぐしながら、驚くべきセリフを口にした。
「やっぱりクラーケン美味しい~」
クラーケン!?
それって船を襲って沈没させるくらい伝説級の怪物じゃね?
回転寿司のレーンで回ってんの?
「お兄ちゃん、レモン塩が付いてるからそのまま食べるんだよ」
そうですか、クラーケンにはレモン塩ですか。
見た目はイカそっくりなので抵抗なく口に入れる。
イカなのか、タコなのか……その間って感じ。
むちむちした食感と甘みがあり、レモン塩がさっぱりとして美味い。
最初の皿にこれを選ぶセンスは俺より上だと思う。
俺はカーネモットを子供扱いしたことを恥じた。
「次は~~~これ」
カーネモットが皿を取る。
「お、うまそう。何これ?」
見た目はハマチやカンパチに似ている。
脂が乗っていて非常にうまそうである。
俺の質問にカーネモットはしれっと答えた。
「マーマンです」
マーマンって!
つまり男の人魚ですよねえ!?
「ちょ、マーメイドを食うなんて信じられないっていう話してたじゃん!?」
するとユーキィとスヮクラが何を言ってるんだコイツはと言わんばかりの表情で言った。
「全ッ然違うだろ、レバ丼」
「賢者様、マーメイドはどうみても人間の顔ですが、マーマンは人っぽいだけでどうみても動物ですよ」
生物的にどうかというより、見た目の問題らしい。
わからんでもないが、釈然としないな。
「当然、寿命が伸びたりもしませんからな」
アールァイが蛇足ですが、と前置きして言った。
俺も寿命が伸びるようなものが回転寿司で食えるとは思ってないが。
「マーマンには熱燗があうぞ」
お酌をしてくれるユーキィ。
マーマンには熱燗があうんだってよ。
おそらく日本の酒造メーカーの人も知らないだろうね。
――うめえ。
温かな酒が生臭さを芳醇な香りに変えて、脂の甘味を増幅させてくれる。
マーマンは熱燗に限るな。
「次は、リヴァイアサンいっちゃお」
またしても、とんでもないのが来た。
カーネモットは中トロみたいな感覚で言ってるけど。
皿の色が派手なのでちょっと高いのだろう。
リヴァイアサンは白身で見た目は生の豚トロっぽい感じ。
柔らかくて、口に入れると蕩けていく。
味は生なのに穴子とか鰻に近いかな。
非常に濃厚で美味しい。
「私はリヴァイアサンの炙りを注文しようっと」
スヮクラは炙りを食べるそうな。
俺の知ってるリヴァイアサンは地獄の業火で焼いても倒せない感じだけどな。
「次は茶碗蒸しを頼みますね、お兄ちゃんの分も頼んでいいかな」
ようやく普通のメニューだな。
俺は勿論、と首を縦に振った。
「ここの茶碗蒸しはコカトリスの卵を使ってますから濃厚ですよ」
やっぱり普通じゃなかった。
コカトリス……どんなんだっけな。
爬虫類系だったような……いや、最早考えるのはやめよう。
何も考えずに、ウマイウマイと食うのがよかろう。
俺達は回転寿司で腹いっぱい食べて、飲んだ。
会計はいつも通りスヮクラがやってくれるんだが、お金を気にせずに寿司を食うなんてことは初めてだ。
この領地はみんな浴衣だからいかにも金持ちそうな人はいないんだけど……。
いくらなんでもリヴァイアサンなんて日常的にみんなで食べるものとは思えん。
ひょっとして回転寿司ってこの世界では贅沢品なのでは?
ちなみにこの世界の通貨は紙幣じゃなくて何も書かれていない鉱物だから支払いを見ててもさっぱりわからない。
「スヮクラさぁ、俺達って結構贅沢しているのか?」
俺が質問すると、微笑んで俺の背中を叩きながら言った。
「賢者様はこの世界の救世主なんですから、そんな心配ご無用ですよ!」
――ふむ。
そうなのかもしれんが……庶民として生まれたので少し気になる。
その日泊まった宿も非常に立派な城のような旅館であった。
うっかり俺が幕府でも開いたのかっていうくらいゴージャス。
100人は入れるだろう大浴場かと思いきや、俺だけが入る檜風呂だったし。
寝具が時代劇で殿様とかが使ってる、でかい服みたいな布団だったりした。
俺がやってることなんて、ただの素人の大喜利なんだが。
こんな生活しちゃって本当に良いのか?
翌日も俺達は神殿にお勤めに。
今回の神殿の主な役割は流通の動力だそうだ。
動いているところをみたが、物資を空輸で運ぶためのドローンみたいなものだった。
リヴァイアサンやマーマンの肉もこれで運んでるのかねえ。
それにしても回転寿司やゲームセンターの方を先に復旧したことが謎だね。
どう考えてもこっちの方が大事だろ。
そう思いつつ神殿に入ってお題を確認した。
【お題】気にするなと言われても、どうしても気になることとは?
……偶然だろうが、今の俺には気になることがいっぱいあるぜ。
だが、気にせずに面白いことを考えよう。
金のことを気にせずに豪遊してもいい救世主なのだから。
俺がするべきなのは、パゲを光らせることと彼女達の大喜利力を育てることだけだ。
そういう意味ではお手本を示すのも大事だな。
大体いつも最後に答えていたが、先にいくつかボケてみよう。
【お題】気にするなと言われても、どうしても気になることとは?
【答え】なんかパスポートが見当たらないけど、気にするな。
「これなんか王道だよね。新婚旅行だったらと思うとゾッとするよな」
ボケの解説をするという恥ずかしい行為はもう慣れた。
「パスポートってなんでしたっけ?」
「なんか国を移動するときに空港で必要だったような」
「空港ってなんでしたっけ?」
コレだよ。
デスノートはよく知ってるくせに。
この世界には国っていう概念がねえし、ピンと来ないんだな。
「わーった、わーった、俺が悪かった。もう一個ボケます」
【お題】気にするなと言われても、どうしても気になることとは?
【答え】お前達のパンツが少しずつ減ってると思うけど、気にするな。
「セクハラですっ」
「最低だな」
「やっぱり」
「流石ですな」
――全員、自分の身体を抱きしめて身を守っている。
「ボケだから! ただのボケ!」
セクハラをしようだなんて――思ってないよ、全然。
「大体、アールァイの『流石ですな』ってどういうことだよ! あとスヮクラの『やっぱり』って何だよ!」
スヮクラとアールァイは顔を見合わせてこう言った。
「「気にするな」」
「成る程、良い返しですね~、じゃねえよ!」
全く、俺をどういう人間だと思っているのやら。
異世界を救おうとして一生懸命大喜利やってるだけだというのに。
失礼しちゃうぜ。
「さてレバ丼のボケは全然参考にならないから、ちゃんとやるか」
腕を組んだユーキィがじろりと目をこちらによこして言った。
――浴衣だとあんまり怖くない。
【お題】気にするなと言われても、どうしても気になることとは?
【答え】お父さんは去年、お母さんになっちゃったけど気にするな。
フフッ。
性転換ネタか。
「気になるね~」
「気になりますね~」
スヮクラとカーネモットにもウケたようだ。
なんだよ、ユーキィ上達してるじゃんか。
お次はスヮクラ。
【お題】気にするなと言われても、どうしても気になることとは?
【答え】ここに印鑑押して。何の書類かは、気にするな。
やばいやばい。
絶対押しちゃ駄目なやつだわ。
「気にしなかったら身の破滅ですな」
「怖いです」
アールァイとカーネモットが笑っている。
スヮクラも充分実力をつけて来ているな。
この流れでカーネモットもイケるか?
「こんなのどうでしょう」
【お題】気にするなと言われても、どうしても気になることとは?
【答え】最近おっぱいが大きくなってきたけど、気にするな。
ぶふぉ~~~~っ!?
俺は頭を抱えて神殿を縦横無尽に転がりまくった。
気にしないわけがねええええ!
もはや、カーネモットをまともに見れねえ!
こんなのパゲを光らせるためじゃなくて、俺を悶絶させるために言ったんじゃないのか?!
いや、天使がそんなことをするわけがないのだが。
「くっ……」
「なかなか小賢しいですわね」
ユーキィとスヮクラは笑うどころか顔を引きつらせていた。
なに? 嫉妬?
しかし小さい胸に嫉妬する意味がわからない。
「では、久しぶりに」
ようやく悶絶が止まって立ち上がったら、アールァイが挙手した。
アールァイはパゲ巫女ではなく、研究所の職員なので大喜利を上達させる必要はない。
けど、たま~にボケる。
今回は気が向いたようだ。
【お題】気にするなと言われても、どうしても気になることとは?
【答え】今日は、履いてないけど気にするな。
何を~~~~~~っ!?
俺は紅潮した顔を抑えたまま、無駄にヒンズースクワットを始めた。
この燃え尽きるほどヒートなパッションを発散するには無駄に運動するしかなかった。
なんでアールァイがボケたのかと思ったら、カーネモットの流れで俺をからかったのか!
くそ~、アールァイさんめ~!
40回くらいで太腿が悲鳴をあげたので、スクワットをやめた。
明日は筋肉痛だな。
「いや、ボケただけですぞ、ボケただけ」
なんだボケただけか、本当は履いてるんだ。
って、そりゃそうだよな。
なんでかアールァイは俺ではなく、ユーキィとスヮクラに向かってセリフを言っていた。
俺が筋トレしている間に、ちゃんと履きなよとでも言われたのだろうか。
さて、ずっと考えていたボケを繰り出す時が来たな。
俺くらいになると神殿を転がったり、スクワットしながらでもボケを考えられるのだぜ。
【お題】気にするなと言われても、どうしても気になることとは?
【答え】さっき来た俺は俺じゃないから、言ってたことは気にするな。
「ええーっ!? どういうことですっ!?」
良いリアクションをしてくれるカーネモット。
「だから気にするなって」
「気になります~~っ」
ユーキィも質問してきた。
「詳しく、詳しくストーリーを教えてくれ」
「無いから。聞いた人がそれぞれ想像するっていうボケだから」
「漫画化、漫画化してくれ」
「描けねえよ!」
スヮクラやアールァイも、みんなして気になっていた。
単純に笑ってもらう大喜利もいいが、こういう反応がでる大喜利も楽しいものだ。
パゲも光るだけじゃなくて、セリフがあったらいいのに。