【メルヘン星人の地球侵略作戦とは?】
水着に着替えた俺達はマリンスポーツをやってみることにした。
スヮクラの操縦するサーペントドラゴンに引っ張らせたバナナボートに残りの4人で乗りこんだ。
「キャ~~~~!」
バナナの先端にいるスク水を着たカーネモットが楽しそうに叫ぶ。
「こんなの初めてだー」
ユーキィも頭上の太陽のように晴れやかな顔をしている。
「なんでバナナの形なのじゃー?」
アールァイの疑問は俺も知らねえ。
「気にしてないで、しっかり捕まっとけー!」
俺はスヮクラに右に旋回するよう手で合図する。
バババババ!
波を打っていくバナナボート。
キャーキャーと黄色い声を上げるみんな。
……うーん、これってよく考えてみれば……ハーレムじゃね?
ビーチリゾートでハーレムに囲まれて遊んでるんじゃね?
ひょっとして俺って、勝ち組なんじゃね?
そんな勘違いをしてしまうほど、マリンスポーツというのは自分をポジティブにする力があると思う。
この魅力をスヮクラに伝えなくてはならない。
この領地の領主の娘である彼女にこそ、一番楽しんでもらわなければ。
充分にバナナボートを楽しんだので、次はスヮクラを誘った。
「どうよ―! 超楽しいだろー!」
俺はバンパーチューブに一緒に乗ったスヮクラに大声で話しかける。
海上を凄まじいスピードで滑っていくバンパーチューブの上では強い風が吹いている。
直ぐ側にいるけれど、叫ばないと声が聞こえない。
バンパーチューブってのは大人が二人乗れるくらいの底があるデカイ浮き輪みたいなものだ。
バナナボート同様に通常はジェットスキーで引っ張る。
バナナボートが跨って座るのに対して、しがみつくだけなので波の影響も受けやすくエキサイティングなアクティビティだ。
吹っ飛ばされないように持ち手がついている。
同じスピードでもバナナボートよりも弾むし、揺れも大きく、速く感じるな。
サーペントドラゴンが曲がるたびに左右に大きく振り回されて、スヮクラと身体が密着する。
――かたじけないね。
「はいー! こんな楽しいこと、知りませんでしたー!」
心底楽しそうな笑顔で真横にいるスヮクラが叫ぶ。
「これで人がいっぱいキョウセイシュウ領に遊びに来るぞ―!」
「さすが賢者様――きゃあああ!」
ざっぱああん!
大きくカーブしてスヮクラは海上に放り出された。
吹っ飛ばないように持ち手がついているが、遠心力のついた身体は握力では支えきれない。
バンパーチューブは、最後は乗ってる人が吹っ飛ぶっていうのがお約束みたいなものなのだ。
救命胴衣をつけているので溺れることはない。
が、落ちることを全く想定していなかったのだろう。
両手をばちゃばちゃと動かして焦っている様子だった。
「そこで待っててくれー!」
スヮクラは全く泳げないので、海に飛び込んで迎えに行く。
俺の泳ぎは一般的な日本人のレベルだ。
たどり着くと、すぐにガバッと抱きつかれた。
背中にではなく、前からである。
ちょ、これは――。
固まる。
ここで、もう怖くないぞなんて言いながら抱きしめれば格好良いのだろうか。
無理っす。
ビキニの美少女にがっつり抱きつかれてるんだぜ?
さっき、えっち大将軍に任命しちゃったくらいなんだぜ?
心臓バックバクで、俺のほうが溺れそうっす。
二人とも救命胴衣着けてるから大丈夫なんだけどさ。
後ろからバババババと波を打つ音が近づいてくる。
サーペントドラゴンが旋回してピックアップに来てくれたようだ。
運転手はユーキィである。
「大丈夫か、スヮクラー……」
かけた声が途中で止まり、サーペントドラゴンに乗ったユーキィが目を点にして固まっている。
「ナンデ、ダキアッテイルノ?」
ユーキィは感情のない目のまま、ロボットのようなカタコトの日本語で質問してきた。
うむ。
そうだな、この状況はそうにしか見えないな。
「ち、違うんだユーキィ」
「ナニガ、チガウノ」
「いきなりスヮクラが抱きついてきたんだ」
「ナニモ、チガワナイジャナイ」
そうだね!?
何も違わないね!?
スヮクラに抱きつかれた状態で頭なんか働かねえよ!
するとユーキィに続いて、アールァイとカーネモットの乗ったサーペントドラゴンがやってきた。
「はいはい、そこの2人、さっさとこっちに乗って下さい」
全部わかってますよ、という顔でアールァイが冷静にピックアップした。
あのままじゃ大変なことになっていたから助かったぜ、いろいろと。
先程の空気を変えようとあえて冷静を装って、わざとらしくゴホンと咳をしてからスヮクラに話しかける。
「どうかな、海でマリンスポーツを楽しめる海岸にして、レストランとホテルを整備すれば観光地になるぞ、この領地は」
「そうしましょう!」
頬を紅潮させて、こくこくと力強く頷くスヮクラ。
故郷が賑わうさまを想像して興奮したのだろうか。
「それじゃあ、海を鎮める神殿に行かないとですね」
海を鎮める神殿か。
今までで一番神殿っぽい役割だな。
この世界は、たま~にファンタジー感があるね。
サーペントドラゴンに乗って神殿に向かいながら、俺は質問をした。
「海を鎮めるってどういうこと?」
「津波とかマーメイドが出ないようにしてくれている、らしいです」
「マーメイド!? そういうのも居たの!? 見たいんだけど」
ますますファンタジーっぽいじゃないの。
俺がマーメイドに興味を示すと、4人共が眉をひそめた。
「マーメイドが出ると厄介なんですよ?」
「サーペントドラゴンが歌声で寝ちゃったりしますっ」
「船員が寝ちゃって船が座礁したりとか」
「養殖してる魚や貝を食べちゃいますしのぉ~」
なにその田舎のサルとかイノシシみたいな扱い。
がっかりですよ。
「でも美しいんだろ? マーメイドって」
単なる害獣ではないことを確認したくてそう言った。
「うわぁ、下半身が魚の生き物にすら手をだすつもりですか?」
「レバ丼、さすがに人外は引くぞ……」
「お兄ちゃん……」
そこまで引くことなくない!?
スヮクラは神を信じていないのに祈っているし。
ユーキィは完全に侮蔑の表情である。
カーネモットですら、ずぶ濡れの捨て猫でも見るような哀れみの目を向けている。
「日本だと漫画やアニメで人魚っていうのは神聖で綺麗な存在なの! みんなの憧れなの!」
必死で弁明する俺。
流石にここまでの扱いは不当であると言わざるをえない。
「日本では確かにマーメイドは特別扱いされていることも多いらしいのじゃ」
沈黙していたアールァイが加勢してくれた。
そうだ、そうだ!
もっと言ってくれ!
「マーメイドの肉を食うと不老不死になると信じているみたいでのぉ」
ため息混じりにそう言った。
確かにそう言われているが……。
「顔はヒトそっくりだっていうのに、よく食べようと思いますねぇ……」
「不老不死? そんなことを本気にしているのか?」
「日本人って……」
全員ドン引きである。
どうしてこうなった。
もはや俺だけではなく日本人全てがヤバイ奴扱いである。
言われていること自体は間違っていないため、反論は非常に難しい。
ふぅ。
美しい人魚に会いたかったなあ、俺。
俺は弁解を早々に諦め、まだ見ぬマーメイドを眼前の海で探した。
女性陣がやいのやいのと、かしましくしているうちに神殿についたらしい。
マーメイド見れてないのに、出なくなるようにしなくてはならぬとは。
歯がゆい思いをしつつ、神殿に入った。
【お題】メルヘン星人の地球侵略作戦とは?
非常に大喜利っぽいお題ですね。
発想を飛ばしやすいから良いお題といえるだろう。
さっきのマーメイドっていう言葉は、当初はとてもメルヘンだったけどなぁ。
「えっと、メルヘン星人ってなんですか?」
あぁ、本当にいるか、何かで登場するパターンかもしれないと思ってるのか。
「これはこの大喜利だけの勝手な設定だ。そういう存在がいたとしたらということだね」
カーネモットに説明すると、よくわかったというようにこくこくと頷いた。
「メルヘンの世界の要素を勝手に付け足した仮想のエイリアンを設定するわけですな」
アールァイの説明に俺は、その通りと首肯する。
「とはいえ、このお題はかなり自由だよ。地球に対して何かしていればおおよそ何でも良いだろうな」
だいたいわかったようで、3人とも答えを考え始めた。
俺も考えよう。
ほどなくして1人が手を挙げた。
トップバッターはカーネモット。
【お題】メルヘン星人の地球侵略作戦とは?
【答え】建物が全部お菓子の家になってみんな虫歯になっちゃえ大作戦
お題的にそうなるにしても、カーネモットのボケは可愛いのお~。
孫を見るような顔つきになってしまうのお~。
お次はスヮクラのようだ。
【お題】メルヘン星人の地球侵略作戦とは?
【答え】お星様がいっぱいいっぱい落ちてくる☆
それって普通にヤバくね?
言い方だけじゃね?
絵面は阿鼻叫喚じゃね?
今度はユーキィだな。
【お題】メルヘン星人の地球侵略作戦とは?
【答え】海の家れもんでバイトする
それはメルヘン星人じゃ、ないじゃなイカ!?
イカ娘の侵略でゲソ!
ユーキィもなかなか通な漫画を知ってるでゲソ!
さて、どんじりに控えしは俺っすね。
【お題】メルヘン星人の地球侵略作戦とは?
【答え】太陽がね、泣いちゃうから、地球がね、寒くなっちゃうの。
どうだよ。
カーネモットにも負けない可愛さだと思わない?
「キモ」(ユーキィ)
「キモいです」(スヮクラ)
「キモイのお」(アールァイ)
お前らな……。
一応全員顔は笑っているからいいが。
俺がショックを受けていると思ったのか、カーネモットが励ますように言った。
「お兄ちゃん、可愛いですっ」
それはそれでリアクションに困りますっ。