【誰も泊まらない観光ホテル。一体なぜ?】
ぱらっぱっぱっぱぱーらぱー♪ ぱーぱー♪ ぱらっぱっぱー♪
異世界の車窓から。
ナレーションはわたくし、レバ刺しどんぶりが担当いたします。
今日は丘陵地域のザイムカン領から、海に囲まれた多数の島を持つキョウセイシュウ領までの道のり。
ザイムカン領の駅を出発した列車は、ひたすら山道を登っていきます。
まるで乗り始めのジェットコースターのように、前方が見えないまま高度が上がり続けます。
最上部を超えると、そこからは見渡す限りの絶景が。
陸橋だらけの山々と広大な海、ちらばる大小の島々。
まるでスキー場のゴンドラから南国のリゾート地を見ているかのようです。
陸橋を超えるときは、かなりの高度で、下を見ると身体が竦みます。
海は蒼く、ところどころ碧、桃色の箇所も点在しています。
上を見れば派手な色の鳥や翼竜が飛び回っており、ここが異世界であることを改めて感じさせてくれます。
列車の中では、鈴のような声ではしゃぐカーネモットの声が心地よく響きます。
木製のレトロに思えるつくりですが、魔法力で動いているため揺れもなくスピードも一定で乗り心地は申し分ありません。
開け放った車窓からは、暖かな日差しと、かすかな海の香りの風が入ってきます。
その気持ちよさからか自然と鼻歌を口ずさむスヮクラ。
津軽海峡冬景色は雰囲気が変わってしまうので別の歌にして欲しいところ。
列車は緩やかにカーブを曲がっていきます。
車窓から先頭の車両が陸橋を渡るところを見ることができました。
先頭車両の上には優雅に止まっているワイバーン。
まるで竜が操縦しているかのようですね。
「レバ殿、なーにをさっきからブツブツ言っているのだ」
「ちょっと、俺のナレーションに入ってこないでよ、アールァイ」
脳内再生のつもりだったが、声に出ていたらしい。
列車はいわゆるボックス席で、俺の左手に車窓。
右座席にはアールァイが座っていた。
「いやー、こんな光景さ。本当なら動画で撮っておきたいじゃん? でもスマホとかないじゃん? 仕方なく心のなかで旅番組を編集してたわけ」
「ほほう、なんですかそのスマホというのは。詳しく」
「ヤだよ、スマホの説明なんてどこからしていいのやら」
「いいではありませぬか~、減るものでも無し」
エプロンドレスを着て上目遣いで尋ねてくる高等テクを必死にかわす。
俺はスマホの説明から逃れるため、正面のスヮクラに話しかけることにした。
「それにしてもスヮクラの故郷は風光明媚なところだな」
「そうですねぇ~。でもこれと言った産業がないからパッとしないんですよぉ」
なぬ?
こんだけ綺麗なところだったら観光だけでもやっていけるのではないだろうか。
「観光客とか来ないのか?」
「観光するようなものもないですからねぇ~」
「えぇっ、すでに最大級に観光スポットだろココが」
「ただの自然じゃないですかぁー」
うわー、これが異世界の価値観かー。
日本人だったら大喜びだろうに。
「気候もいいし、暑くはないけど、泳げるんじゃないのか?」
「あぁ、こっちの世界では泳げる人はほとんどいないですねぇ。必要もないですし。」
なーんだとぉー!?
チョット待て、だとするとアレか。
このまま海に行っても誰も水着を着ないということか。
温泉のときも服着てやがったというのに。
そんなことが許されるだろうか、いや、断じて許されない。
「日本ではなぁ、プールサイドで遊ぶためだけに大量の人間が集まるんだ。つまりみんなが水着を着ていないから観光客がいないんだ! 今こそ改革の時!」
「とか言うて、レバ殿が水着姿を見たいだけなのではないですかのぉ~」
ちっ、アールァイめ。
感のいいロリババアは嫌いだよ。
「でも、キョウセイシュウ領が賑わうのは嬉しいですねぇ」
車窓側に右手で頬杖しながら、にへらと笑ったスヮクラを見て俺は決めた。
この世界には水着が必要だ。
俺はポータブルミラーを取り出し、通話開始を試みる。
「どうされました? レバ刺しどんぶり様」
「ホーリエ、大事な要件がある。女性用の水着を大量に日本から召喚してくれ。できればビキニ。あとスク水もいくつか」
「えーっと、寝言は寝てから言え」
ブツッ
一方的に通信切りやがった!
なぜだ、俺は救世主としてこの世界に必要なことを行おうとしているのにッ!
「いままでで一番のやる気を感じますな、レバ殿……」
「賢者様、絶対キョウセイシュウ領のためじゃないですよねぇ」
「温泉のときと同じで、ヘンタイなことを考えているのではないのかっ」
「わたしはスク水なのかなっ?」
みんな好き放題言いおってからに。
「違うっ! 俺は真面目だっ! だが、カーネモットは違わない。君はスク水だ」
「当たったぁ~」
「レバ殿、私はどっちですかの」
「なにっ、う~~~~~ん、ちょっと待て、それは大事な要件だから考える時間をくれ」
アールァイに似合う水着だと?
これは大喜利のボケを考えるよりも難しいぞ。
アールァイはスク水が似合う、それは間違いないだろう。
しかし巨乳のスク水というのは、俺はあまり認めていない。
わざとらしすぎて興ざめするのである。
ましてや眼鏡っ娘ロリババアのスク水は下品と言わざるをえない。
白スク水ならいい?
いや、そんな安直な考えでいいわけがない。
かと言って普通のビキニでいいのか?
見た目の割に胸が大きいからと言ってビキニとは。
浅はかとしかいいようがない。
そもそも、アールァイはコスプレあってこその魅力。
普通の格好では……
「……か、考え過ぎではないかのぉ……」
アールァイはうつむいて顔を赤くしていた。
意外と照れ屋さんだよな。
アールァイに似合う水着を考えるのにはまだまだ時間がかかりそうなのだが……。
「わ、私はどんな水着なのだ」
ユーキィに似合う水着? スタイル良いから大概似合うだろ。
「白いビキニ」
「そ、即答すぎないか!? もっと考えてくれてもいいんだぞ」
「いや、間違いない」
ユーキィは何か納得いっていないのか、ブツブツ言っている。
なんだ、白のワンピースの方が良かったか?
「それにしても、こんなシリアスな顔の賢者様は初めて見ました、悩んでいる理由さえ知らなければ格好良かったのに」
正面のスヮクラからは残念な子として哀れみの目を向けられていた。
でも、今格好良いって言ったよね!
スヮクラが俺を格好良いって!
ふひひひ……
「レバ丼、スヮクラに哀れまれながらニヤニヤするな、気持ち悪いぞ……」
喜んでいたら、右斜め前のユーキィからも蔑みの目を浴びせられる羽目になった。
ううむ、ここは真面目な話に切り替えるか。
俺は列車に乗っている間、日本におけるリゾート地の条件や楽しみ方などを説明した。
この世界ではそもそも観光旅行という文化がないらしい。
国も統一されてて言語も一種類で通貨だって変える必要もないのに、旅行しないなんて勿体無い話だ。
もっとも海外という概念がないからこそ、海外旅行に行くワクワク感がないのかもしれないが。
しばらく後、キョウセイシュウ領に到着した。
駅舎から出るなりトロピカ~ルな感じだ。
暑いわけでもないんだが、南国リゾートの雰囲気がある。
勿体無いなぁ、ここに観光に来ないなんて。
まぁ、まずは任務を片付けよう。
今回は普通に街の魔法力を賄うための神殿だ。
この領地は現在節電、ならぬ節魔法力中だとさ。
お題が料理やらダンスなどの大喜利じゃないものなら他のパゲ巫女が対応しているので、こういった街の神殿に俺たちが行くときは必ず大喜利になる。
早速、お題を確認だ。
【お題】誰も泊まらない観光ホテル。一体なぜ?
うん、このお題。
パゲは俺と同じようなことを考えているかもしれないね。
「どうだ、カーネモット。最初に行くか?」
右人差し指で顎をつつきながら、うーん?と首を傾げるカーネモット。
なんなんだこの純粋な仕草は。
エンジェルにもほどがあるな。
「みんなが泊まる観光ホテルの条件があまりわからないんですよね」
さすが、カーネモット。
ボケの考え方が正しい。
正解を知ってからそれを逆にすればいいと思ったけど正解がよくわからないのだ。
さっきの列車でもある程度説明はしていたが、俺は補足説明を実施した。
アールァイはいつものようにメモを取っている。
結構難しいお題かもなー。
普段の俺だったらこんな感じ。
【お題】誰も泊まらない観光ホテル。一体なぜ?
【答え】ルーラで帰った方がお金がかからない
ドラクエの宿屋って序盤しか使わないよね。
【お題】誰も泊まらない観光ホテル。一体なぜ?
【答え】コナンとかいう少年探偵がロビーにいる
絶対誰か死んじゃうもんね。
【お題】誰も泊まらない観光ホテル。一体なぜ?
【答え】絶対に笑ってはいけない観光ホテル
デデーン♪
というような感じだな。
やっぱりちょっと元ネタがあったほうがやりやすいと思う。
みんなは苦戦するかもしれないな。
「カーネモット、頑張ります」
眉を吊り上げて、挙手しながら宣言するカーネモット。
気合充分といったところだな。
【お題】誰も泊まらない観光ホテル。一体なぜ?
【答え】豪華な朝食バイキングは1分間食べ放題
あぁ、わかる。
90分食べ放題みたいなやつを、1分にしたわけだ。
これはね~、イマイチなんだよね。
単に数字を変えるっていうのは基本的にそれほど面白くならない。
俺は無言でカーネモットの頭をポンポンして、微笑んだ。
「慰められてますっ!?」
ガーンという文字が後ろに出てるように見えるほど露骨にショックを受けるカーネモット。
可愛い。
「スヮクラ、頑張ります」
カーネモットの真似をしながら宣言する、スヮクラ。
こういうとき、スヮクラはノリがいい。
【お題】誰も泊まらない観光ホテル。一体なぜ?
【答え】朝のバイキングで客の方が食われる。
わかるー。
スヮクラお得意のダークなボケ。
でもやっぱりイマイチなんだよね。
何に食われるのか具体的に想像させないと笑いにくい。
俺は無言でスヮクラの頭をポンポンして、笑った。
「私もですかっ!?」
ガガーンという文字が後ろに出てるようにリアクションをとるスヮクラ。
わざとらしいところがむしろ可愛い。
「アールァイ、頑張ってみます」
まさかのアールァイが参戦。
この流れなら出来ると思ったのか?
不思議の国のアリスの格好で軍隊式敬礼をしているのが妙にサマになっている。
【お題】誰も泊まらない観光ホテル。一体なぜ?
【答え】周囲をもっと大きなホテルに囲まれている
なるほど、ちょっと真面目に理由を考えたパターンだな。
よーく想像すると、部屋から風景が何も見えなかったりするかもしれない。
でもこういうのはね、笑いの爆発力が産まれないのだ。
俺は無言でアールァイの頭をヨシヨシして、両手を包み込むように握った。
「より丁寧に慰められるじゃと!?」
想定外じゃ~とでもいうように、ガビーンという反応を見せるアールァイ。
ウケなかったのが恥ずかしいのか、顔を赤くしちゃって可愛い。
「が、が、がんばります」
おずおずと手をあげるユーキィ。
まぁ、そりゃそうなるよね。流れ的に。
しかしユーキィはノリノリで乗っかれないようだ。
何故か妙に緊張しているように見える。
【お題】誰も泊まらない観光ホテル。一体なぜ?
【答え】まだ300階までしか建ってない
あっ、これは工夫した!
まだ建築中だっていう裏切りと、300階まであったら充分だろ、完成したらどんだけ高いねん!っていうツッコミ待ちが合わさったボケだ!
俺はかなり面白いと思う。
ユーキィ、成長したじゃん!
俺は親指を立てて、「ナイス!」と言った。
「え? ないす? 頭ぽんぽんは? ナデナデは?」
何故か狼狽するユーキィ。
「いや、だから面白いって。ナイスだユーキィ」
「え? えっ? えぇ~~~~~~ッ!?」
誰よりもガガガーンとなるユーキィ。
orzになっている。
どういうことだよ。
面白いって言ってんのに。
「ほら、パゲ光ってるぜ、ユーキィが光らせたんだぜ、凄いだろ」
「そ、そうだな、ハハハ」
心ここにあらずと言った感じだ。
大喜利でパゲを光らせたのは初めてだろうに、嬉しくないんかね?
パゲもわからんが、ユーキィもよくわからんなあ。