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半径三メートル以内。私は私にレモンを投げた。

作者: ムラカワアオイ

レモンをかじる。私は自分のヴァギナを見ては、水を飲む。鏡には、半径三メートル以内の私がきれいにたたずむ。全裸の私は顔を洗い、歯を磨く。化粧を施し、オレンジ色のTシャツを着こんでは、白いストールを首に巻き、ブルーのジーンズを身にまとう。赤いブーツを履き、白い玄関のドアを開ける。青い自転車にまたがり、誰も存在しないこの街の坂道を独り、下る。踏切に差し掛かり、あくびを残す。ポケットのレモンに噛り付き、電車に揺られる人間たちを観察する。電車の中には私と同じ服を着た私しか存在しない。踏切が上がり、駆け出すと、踏切の向こう側から、青い自転車にまたがり走る、私が存在していた。私を睨み付ける私。半径三メートル以内。私は私にレモンを投げた。私も私にレモンを投げる。無言の私と私。私はすれ違う私に美を感じた。少しの幸福とともに。私は踏切を完全に通過し自販機でコーラを買うと私と同じ服を着る、無言の私が5人いた。5人の私はベンチに座りコーラを飲み干し、白いストールを、同時に燃やし、同時にレモンにかじりつく。半径三メートル以内。結論。私は私しか愛せない。私は私にレモンを投げた。半径三メートル以内。結論。この世には私しか存在しないのだから。私は私を愛している。この惑星に存在する、ありったけのすべての私を。私は私にレモンを投げる。結論。半径三メートル以内。私がどこに存在していようとも。結論。私は私を愛すのみ。私。

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