vol.13
「お前、タバコ吸うっけ?」
進路指導室とは名ばかりの物置部屋の
椅子に座らせられると、
ユリが灰皿を差し出して来た。
「…お前、教師だろうが一応。」
「先生は吸うぞーいいかー」
ユリは華奢な指で
細いタバコに火をつけた。
「…お前、どうしたの?」
「どうしたって、何が」
「なんか様子違くない?事故の前と」
またそれかよ。
「別に」
「いーや!違うね!
少なくとも以前のお前は
この美女に向かってクソババアなんて言わなかった!」
なぜかユリはドヤ顔で腰に手を当てた。
「知らねーよ、俺だって」
「前は、友達も少なくて…っていうか友達皆無で、いつも不安そうで、おどおどしてて、童貞で」
「おい」
「クラスの面倒ごとはぜーんぶ押し付けられるのが得意で、この世の不幸を背負った人間がお前だっただろ。」
「そこまでいうか」
「とまぁ、それは冗談として」
「いや、本気のソレだろ」
「どうしたんだよ?一体」
「別に」
「自覚はなし…か。
頭打って他人になっちまったってか」
「…帰る」
ユリの全て知り尽くしたような態度が気に入らなくて、机を蹴って立ち上がった。
「コウキ。
お前をここに呼んだのは、お説教の為じゃない」
背後からのユリの声が
いつになく真剣で俺は足を止めた。
「これから先、困ったことがあれば言えよ。
わたしはお前の担任だから」
俺は挨拶をするでもなく、頷くでもなく、
ドアを閉めた。