vol.12
「お、小説家夫婦のお通りだよ」
「死に損ないの旦那様が帰って来てよかったな!」
校門に差し掛かると、
うんざりする声が聞こえた。
あー、そういえば、
こんなガキいたっけ。
よく飽きもせず、毎日。
ビクッ、と過剰なまでに雪乃ちゃんの肩が震えた。
「…雪乃ちゃん、どうした?」
明らかに怯え方が尋常じゃない。
「へへっ、雪乃って言ったっけ?
この前はキモチよかったぜ
またアイテしてくれよな」
「…高野先輩…!?」
雪乃ちゃんの悲鳴にも似た声が
聞こえて我に返った。
かっとして、頭が真っ白になった。
次の瞬間、俺は、やつに殴りかかっていた。
「…ぐぁっ」
「放っておいてくれよな
俺と彼女が
お前らに何したよ?」
馬乗りになって、
もう一発殴るとやつの口からは血が噴き出した。
「高野先輩!…やめて下さいッ!!」
「ねぇ?
このまま死ぬ?
殴られて死ぬってソートー辛いと思うけど」
奴が殴られて、そして死ぬことを考えたら
楽しくて、笑えて来た。
「…っ、ひぃ、やめ…」
「ーーーーーーッコウキ!何やってんだお前!」
突然後ろから肩を掴まれて、
引き剥がされた。
その隙をついて、やつは慌てて逃げ出した。
「このアホ!」
「…っ、いてぇな」
頭を結構な勢いで殴られて殺意が湧いたが
顔をあげたらユリだったのでやめておいた。
「お前!病み上がりで頭に衝撃が加わったらどうするつもりだ!」
いや、お前今俺の頭を
物凄い力で殴っただろ。
「話は教務室でゆっくり聞いたるわ。」
「いででででで…っ」
ユリは思いっきり、
俺の耳を引っ張った。
「先生、違うんです!
高野先輩はわたしのこと守ってくれただけで…っ」
「雪乃ちゃんは帰りなさい」
「…こいつのこと一人で帰らせんのは危ねぇんだよ。あいつらが待ち伏せしてたらどうすんだ」
「あら♡コウキくんてば男らしい♡」
「…うるせぇなクソババア」
その後、
ユリがうまいこと雪乃ちゃんの親に連絡してくれたようで、彼女は無事に家に帰って行った。