vol.1
もう少しだけ
背が高くなればいいな、とか
もう少しだけ
積極的になれたらいいな、とか
そんな理想は誰にだってあるでしょう。
あの日までの僕は、
どこにでもいる普通の高校2年生だったんだ。
[ 僕らの結末。 ]
教室の空気が
夕焼け色の空の色を含んで、
なんとも幻想的な
雰囲気に包まれた。
ボールを蹴る音、
楽しそうにはしゃぐ声、
カーテンが
春の風に揺られながらそよそよと踊った。
放課後、誰もいない教室。
これまで走らせて来たペン先を止め、
僕はゆっくりと目を閉じ
執筆中の小説に想いを馳せた。
「高野先輩、やっぱりここだったんですね」
「わっ」
完全に自分だけの世界に入り浸っていた僕を
雪乃ちゃんの控えめな声が現実に連れ戻した。
「ごめんなさい、驚かせちゃいましたね」
「いいのいいの!もう下校の時間だもんね!」
「い、一緒に帰りましょう」
僕は慌てて原稿用紙を鞄に押し込めて、
席を立った。
雪乃ちゃんは一つ下の文学部の後輩。
彼女もまた同じようにこの時間まで熱心に小説を書いていたのだろう
原稿用紙を大切そうに抱えていた。
「どう?進んだ?」
「勇者の戦闘のシーンなんですが、なかなか難しくて…もう少し書き進めたら、またアドバイス下さい」
雪乃ちゃんの眼鏡の奥の瞳が夕日色に染まっていた。