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王妃の条件

作者: ゆうき

職場にて「取引先の一つが倒産した」と言う同僚との会話から始まった、ネタ元はヘビーなお話です。


会話の中で「社長はまだ良いとして、社長の息子がダメだったんだよ。まあ、経営者の条件を息子が満たしてなかったんだな」と私の先輩が仰りました、とてもドヤ顔で。

ドヤ顔を見て、おいおい、と思いつつも会社の倒産と言う出来事に思いを馳せ、何が悪かったんだろうと考えました。

そこでまたもや先輩が「倒産した理由は上げれば限がない。でも良い経営者の元だったら倒産なんてしないだろ」とドヤ(ry

なるほど、と思った私は良い経営者の条件と言うのを考え始めたのです。


ですが、まあ、なろうに毒された私が出した答えがこのお話です!

いやぁ、怖い怖い(



今目の前で起きている出来事は国崩壊の危機であり、悲劇であり、珍事である。


出来事の中心に居る人物、主人公と思っているであろう青年には真実の愛を勝ち取る為の恋愛劇、そう思っているに違いない。


何せ時折後方に連れて来ていた私に振り向き優しい笑みを魅せ、頻りに私との関係性をアピールしているので。


別に私は魅せられてはいない。


私視点では“見せている”だが青年には“魅せている”が事実なんだろう、何せ場の空気に酔ってそうだし。


一応“私と青年の関係性”に付いては客観的、事実関係だけを抜き出せば青年の言っている事は正しい。


ただしそこには私の態度や感情に差異がある。


青年が私の手を取った時に瞳を潤わせ頬を赤く染め息を吐いた、と彼と初めて出会った日の出来事を語っている。


実際に私はそうされてそういう態度を取ったのは事実。


だが、決して青年の優しさや顔の造形に見惚れての事ではない。


当時の私は家族以外の異性との触れ合いに成れておらず、極度に緊張していただけだ。


そして近くを通ったにゃんこを見ていて足元がお留守、躓いてしまった事が恥ずかしかっただけだ。


この二つの私の事情が合わさって、まるで素敵な男性に出会った乙女のような態度を取ってしまったのだ。


この話を聞いた青年に相対する女性は私へ同情の視線を一瞬向け、笑みを隠す為に扇子で口元を隠した。


青年は女性のこの態度に気分を害し、又、彼だけではなく私を守る為と訳の分からない事を言う青年の友人たちも憤りを見せた。


そろそろこの出来事を簡単に纏めてしまおう。


私ことアリシア・フォーゲルを勘違い青年たちが取り囲み、青年たちの中心人物である男性の婚約者に公衆の面前で婚約破棄を宣言しているのだ。


青年と先ほどから評しているのは私が住む国、ファイブスター王国の王位継承権を持つ第一王子であるシャルル・スプリーム殿下。


殿下の友人たちとはこの国の重鎮である高位貴族、至高の星を守護する四つの星、四侯爵家の内の二つと財力を誇る伯爵家と宗教のトップの子息たち。


トゥワンダ侯爵家は代々文官の最高責任者である宰相を輩出してきた、貴族の中で最も勢力を誇る家柄。


フォーリブス侯爵家は代々武官の最高責任者である将軍を輩出してきた、軍人の中で最も勢力を誇る家柄。


ハーベスト伯爵家は高位ではないが中位貴族の中で勢力を誇り、国唯一の港町と最も生活に必要な物資、塩を掌握する国内有数の資産を持つ家柄。


レリグス家は世界で最も信仰させれており国教であるサンベスタ教の教皇を多く輩出してきた、歴史と国内外に太いパイプを持つ家柄。


彼ら五人の青年たちは将来この国で重要なポストに就き、繁栄と栄光を約束された人物たちだ。


対する女性はファイブスター王国の五代前までの王家であるトゥルーハートレット公爵家の令嬢。


彼ら彼女だけであればそれこそ物語の登場人物として申し分ない家柄と存在感を持つ。


ただしそこには異物、弱小で領地も小さな田舎町しか持たないような貧乏貴族のフォーゲル男爵家の令嬢である私が混じっているから、危機で悲劇で珍事なのだ。




本来私はこの場所、ファイブスター王国の王都スタリオンに存在する貴族学校に足を踏み入れる事はなかった。


ただし私は何故かの間違いとしか言いようがない事情によりこの学校に在籍している。


王立スタリオン校は国内の王侯貴族の内、子爵家以上の貴族の子息令息が通う事を義務化された教育機関だ。


教育期間は八年間で入学は十歳から。


十八歳から成人とみなされるこの国の王侯貴族は、貴族学校を卒業すると成人と認められ、婚姻も交わされるようになる。


この王立スタリオン校の存在意義は、国の将来を背負い立つ人物を育成し、その者を支える女性を生み出す、だ。


そしてこの世界に満ちる不可思議な力の源、魔力と名付けられた力を使った技術、魔法を学び、魔術師として成長させる、と言う役割もある。


ファイブスター王国だけではなく、魔法という不可思議な技術はどの国でも当たり前として使われている。


軍事、内政、生産、どの分野でも必ずと言っていいほど魔法が利用されており、魔法が使えない人間はこの世界には存在しない。


ただしどれだけ魔法が使えるかは個人差があり、その差は血統によって大きく左右される。


これらが原因でこの国では強大な魔力を持った魔術師が上に立ち、全ての分野において力ある血統の家が支配している。


だからどの家、王族や貴族関わらず、魔力を多く持った者を家に招き入れ、婚姻関係を結んで強力な魔術師の血を残そうとする。


ここまで言えばもう分るだろう。


弱小貴族である私の実家フォーゲル男爵家は弱小魔術師しか生まない、平民よりはマシ、でも軍事に携わる騎士に成れない、そんな誰も見向きも家柄。


誰の記憶にもない、ただ貴族として記録だけが残り、毎年税金を国に納めているだけの田舎領地の男爵家から、とてつもない魔力量を持った娘が誕生してしまったのだ。


それが私、アリシア・フォーゲルである。




この国では五歳になるとレグリス教の神殿で祝福の儀が行われ、潜在魔力がどれだけあるかを調べる。


何故隠されて眠っている潜在の魔力なのかと言えば、この世界の人間は大小関わらず必ず魔力を持っている。


ただしそれが表に出るのは八歳前後であり、それまでは体内で隠れたままとなっている。


その隠れた魔力を調べる儀式が祝福の儀と呼ばれる行為であり、ファイブスター王国以外でも行われている行為だ。


私はこの儀式を受けた時は実家の例に漏れず、平民よりは多いけどやっぱり少ない程度の魔力と判断された。


結果から言うとこれは間違いで勘違いだったのだが、九歳のある時突然魔力に目覚め、可視化できるほどの魔力の光を放ったのだ。


本来魔力は光らず、魔法を使った時のみ光輝く。


だが嘗て魔力が目覚めた時に魔力の光、魔力光を発した人物がいた。


それはファイブスター王国の建国王で、当時混迷を極めていた小国家群による乱世を平定した強大な魔力持つ魔術師だった。


建国王と同じ現象を起こした弱小貧乏貴族の令嬢。


その情報は瞬く間に国内、王家へと伝わり、入学するはずの無かった王立スタリオン校に在席する事となったのだ。




私は田舎町で静かに本を読む事が大好きな娘でした。


母を早くに亡くし、父と兄、そして私の乳母を兼ねたメイドが居るだけの小さな家。


物心付く前に母を亡くした事で私はあまり表情を出さない、他人と関わる事をしない幼女でした。


心の病は魔法でも治す事が出来ず、私の病は治る事はありませんでした。


何事にも興味を示さず、自室に籠る私が唯一興味を持ったのは文字の羅列、本だけだった。


何故私が本にのみ興味を示したかと言えば、母がまだ生きていた頃、幼い私によく本を読み聞かせてくれたから。


童話に分類される本だったが、母が読んでくれたその物語が私は大好きだった。


物心が付く前だから覚えていない、いや、だからこそ鮮明に本の内容を覚えている。


亡くなった母との思い出。


だからこそ関心を示し、その事に気が付いたメイドから父に、父から兄に伝わり、私は本に囲まれた。


フォーゲル男爵家は弱小の貧乏貴族だったがゆえに高額な本なんて中々買えない。


だから父は苦心して本の元となる紙を作り、町の産業とした。


田舎だから周りに紙の材料となる植物は一杯あったので産業化は成功し、少ないながらも他領へと輸出もしている。


そして十歳年上の兄は作家になった。


この国に伝わる伝説、町に伝わる伝承、旅の商人から聞いた他国の民話、兄が考え出した創作。


それらを本に纏めて私へと贈ってくれた。


最初は私と父たちとの交流は本だけだった。


でも本を読む内に少しずつこの世界、私と本以外の世界に興味を示すようになり、私は人と話すようになった。


ただし父と兄とメイドだけ。


そんな私が魔力に目覚め、偶々訪れていたメイドの家族がその光景を目撃し、その情報が瞬く間に広がった。


私の世界は小さな家の中から、大きな都へと変わった。




「アリシアはお前と違って繊細なんだ。それをお前は!」


「殿下がフォーゲル嬢に深い愛情をお持ちなのは理解しました」


「そうか!」


「ですがそれで私が婚約を破棄する事に同意するのとはまた別の事」


「何だと!?」


「そもそも殿下と私の婚約は両家同士での約束事。当人とは言え家長が決めた契約を勝手に破棄など出来ませんわ」


「だがお前はアリシアを苛めていたではないか! そんな女がこの栄光あるファイブスターの妃になど成れる訳がない!」


「フォーゲル嬢は確かに魔術師として優れているのは認めましょう。その血を王家に迎え入れたいという考えも理解できます」


「そんな事は二の次だ!」


「確かに二の次ですが、殿下がおっしゃりたい王妃の条件は三の次ですわよ?」


「ええい、もうよい! お前との婚約は解消! 王位継承第一位である俺がそう決めたのだ! お前のような女との婚約は無かった事とする」


「そうですか。殿下がそうおっしゃるならそれでもよろしいでしょう。では、それで王妃候補はどうするのですか? ファイブスター王国の王国憲章では男性が王位を継ぐ場合には伴侶たる女性との婚姻が条件下されていますよ?」


「勿論決まっている! アリシアと新たに婚約し、彼女をこの国の王妃とする!」


「フォーゲル嬢と婚約なさると。フォーゲル嬢、殿下がそうおっしゃってますが、どうされますか?」


「勿論受けてくれるな、アリシア?」


私の存在、吹けば飛ぶような弱小貧乏貴族令嬢だから薄い存在感を無視して進められていたやり取りが、突然私を物語の中心へと引き込んだ。


興奮しているのだろう、整った容姿の青年、殿下は鼻息荒く私に振り返って返事を待っている。


トゥルーハートレット公爵家のレティシア嬢は醒めた目でシャルル殿下を一瞥し、可哀そうな人を見るような瞳で私を見ている。


どうやら私にこの危機であり、悲劇であり、珍事である出来事を強制的に終わらせるデウスエクスマキナに成れと言っているようだ。


本が好きなだけの私は、物語の登場人物としての役割を果たす時が訪れた。




私はこの貴族学校への入学という出来事は歓迎しない物だった。


何せ住み慣れた小さな家から追い出され、知らない慣れない人しかいない王都の寄宿舎へと入る事になったからだ。


寄宿舎の部屋は良い。


何せ一人部屋だから誰とも交流する必要が無いから。


ただし風呂や食堂は他人が居る。


貴族学校に通うのだから授業がある。


授業はクラス単位で受けなくてはならず、それが八年間も続く。


授業の内容が本を読むだけなら良かったが、私にとってあまり興味のない、幼少期に比べたら多少興味が出て来た程度のものしかなかった。


ただ、私が興味を抱いたものがあった。


それは国内一の貯蔵量を誇る本だけの館、図書館だ。


私は授業が無い時間、寄宿舎の門限が許す限り図書館に籠った。


図書館にある本は様々な分野に分かれ、そして大量に本が存在した。


出来ればずっと本を読んで居たい。


そう思っていた私にとって図書館とは正に夢のような場所だった。


出来るだけずっと図書館に居たい私はその為に努力した。


ほとんど興味のなかった授業。


これを受ける時間を図書館の時間とするべく、私は集中した。


強大な魔力を持つ存在と言うのは魔術師として優秀なだけではなく、魔法を使う為の知識、記憶力や想像力までもが強大となる。


だから私は瞬く間に授業の内容を覚え、どんどん先へ先へと進み、本来八年間通って覚えるはずの授業内容を三年間で覚えきった。


そこからの私は最低限出席すれば良い授業と試験、知識だけではどうする事の出来ないマナーやダンスの授業だけに出席するようになった。


後は図書館に籠り、何時しか図書館の主、強大な魔力を持つがゆえに他者から魅力的に見えてしまう事から“本の姫”と呼ばれるようになっていた。


成績優秀で魅力的、強力な魔術師。


そんな肩書を持ってしまった私に目を付けたのが青年たち、シャルル殿下やその友人たちだ。


気が付けば彼らが私の周りに集まり、彼らが授業や寄宿舎以外の時間は何故か私と共にあった。


私は特に話す事もなく、本だけを読んで居たのだが彼らは頻りに話し掛けて来ていた。


図書館に居る事の方がほとんどだった私。


迷惑以外の何物でもなく、私は非常に困っていた。


いや、困ってなどいない。


何せ本が読めれば良いから無視をしていた。


そう、邪魔だとは思ってもそれ以外の感情など持ち合わせていなかった。


ただし授業の事を聞かれたりなど学校に関係ある質問に対しては返答していた。


何故ならそうする事で私の知識はより高まり、授業を受けなくて済む時間が増えていくからだ。


もしかしらそれが彼らの勘違いの原因なのかも知れない。


そうだとしたら私は失敗したのかも知れない。


しかしそんな事はどうでも良くて、私には関係ない事だ。


ただ関係ないと言っても周りには関係ある事だったようで、私は数人の女性から話し掛けられていた。


それは彼らの婚約者の女性であり、目の前に居るレティシア嬢もその一人だ。


興味が殆ど無いとは言え、魔力の関係で耳に入ってくる情報は全て記憶されていく私。


だから彼女たちの言いたい事は理解していたが、私には関係ない事だったのでただいつも一言だけ返していた。


興味ありません、と。


最初は彼女たちも憤慨、高位貴族が弱小貴族にされる対応ではないと怒りを見せていた。


だが段々、それが続いてくると怒る事をしなくなり、気が付くと普通に話し掛けて来るようになった。


その内容は私が興味を引く物であれば返事をし、無ければ本を読んで居るだけ、というやり取り。


興味がない内容とは婚約者である青年たちの愚痴。


愚痴が始まってある程度経つとレティシア嬢が納める、そんなお茶会の席は良く寄宿舎で行われた。


何せ学校の中では青年たちが付き纏っていて、私が中々一人にならないからだ。


これらの事全ては現在起きている出来事と関係ない話に聞こえるかも知れないが、ここまでの事は私がデウスエクスマキナとなるに必要な情報。


殿下とその友人、レティシア嬢を始めとした婚約者たち、この国の事、他国の事。


これらを知ってるからこそ私はこの危機であり、悲劇であり、珍事である出来事を強制的に終わらせる役目を全う出来るのだ。




「王子殿下」


「おお、アリシア! 私の婚約者となってくれるんだね!」


「今から私は独り言を言います。なのでその私の話を遮る事無く、又、私の言動が不敬当たってもそれは王子殿下には関係ない事ですから了承してください」


「む? よ、良く解らんが分かった」


「では、始めます」


私の宣言により、騒然としていたこの場、卒業を控えた年末パーティーの会場は静けさを取り戻した。


「王妃の条件とは如何なる物か。王妃に必要なのは年老いても尚美しい美貌である。何故なら王妃とは国の象徴である王の傍らにあって輝き、国内外にその美を知らしめる必要があるからだ」


「人は美しい物を見た時、その心を奪われ魅了される。人を引き付ける要素として重要なのが美貌であり、ゆえに王妃には必要な要素で条件だ」


「ただしこれは必ずしも国内外で一番の容姿である必要はない。何故なら見た目を良くする技術が存在し、それを身に着け、又、その技術を持つ者を従者とすれば良いからだ」


「美貌とは容姿だけではなく、言動や所作という礼儀作法でも引き上げる事が出来る。だから礼儀作法も優秀でなくてならず、出来れば礼儀作法は国内外で一番が望ましい」


「王妃の条件である美貌の持ち主とは、国内外一の礼儀作法を持ち、見た目を良くする技術を知り、その技術を施す従者を持つ、容姿が優れた女性だ」


強力な魔術師で“本の姫”と称される私のこの発言に殿下だけではなく、レティシア嬢も、そして会場全ての人が目を点にして唖然としている。


まさか私が女性の美貌に付いて語るとは思っていなかったのだろう。


「王妃の条件は何も美貌だけではない。王の傍らに立ち、王宮を纏める才覚も絶対条件として必要である」


「王の住まいたる王宮を、王が王である為に整え、王の部下や国賓が訪れた際に持て成す必要があるからだ」


「その為には国内外問わない情報、歴史、情勢、古今東西の技術、芸術、宗教、学問、食と言ったあらゆる分野の知識。これらを広く深く知る必要がある。そしてそれらを王宮内に活かさなくてはならない」


「ただし知識量は国内外一でなくてもよく、優秀でさえいれば良い。何故ならそれらの分野の国内外一の従者を持てば良いからだ」


「王妃の条件である王宮を纏める才覚とは、あらゆる分野の知識に造形が深く、その分野の専門家を従者に持つ事だ」


この発言に関してはある意味で納得の表情を見せた。


何せ私は“本の姫”と呼ばれるほど図書館に入りびたり、成績優秀、学校一の成績を収めているからだ。


そして私がデウスエクスマキナとなる瞬間がやって来た。


いや、私はデウスエクスマキナではなかったようだ。


ただし、仮初のデウスエクスマキナではあったようだが。


「私は王妃に成れない」


「な、何故だ!」


「これは独り言」


「ぐっ」


「私は確かに知識は持ち合わせている。だが、それだけだ。私には美貌がない。いや、それ以前に知識しかない。それ以外の条件を満たしていない。ゆえに王妃に成れない」


「そ、それはアリシアが言っているだけで俺は君が一番王妃に相応しいと思っている!」


この私の発言に様々な表情を見せた。


発言に対して声を上げたのは殿下のみで、他の者は何か思案気だ。


さて、私の役目はもう終わり。


後は登場人物たちが幕を下ろすべきだろう。


「以上、私の独り言でした」


「待ってくれ、アリシア! 俺への返事はどうなるのだ? 俺は!」


「シャルル、そこまでだ!」


「父上!?」


本当のデウスエクスマキナの登場。


ファイブスター王国の国王陛下がこの会場へと足を踏み入れ、登場人物としてこの出来事に参入した。


一斉にこの場に居た者が跪いた。


陛下は静かに表を上げて立つように言い、私たちは全員立ち上がった。


「君は確かフォーゲル家の娘だったな」


私は直答を許されるほどの爵位を持つ家の令嬢ではない。


ゆえに私は声を出す事なく、王に対する作法に則り、黙礼した。


「優秀な成績を収め、優秀な魔術師と聞いておる。是非、その力を国役立ててくれ」


「や、やはりアリシアは俺の伴侶に相応しい、そう思われるのですね、父上!」


「我は今フォーゲル嬢と話をしておるのだがな。まあ、良い」


「それで、アリシア。婚姻を受けてくれるね?」


私は陛下にも殿下にも返答する事なく、陛下に体を向け、ただ前を向くだけ。


陛下の御前と言うのに、幾ら第一王子とは言えこの行動は褒められた物ではない。


誰も声を発せず、ただ殿下の行動に不快感を示した。


誰もが不快感を示した中で、私は特に何も感じず、陛下は表情を変えずに憤り、そしてため息を吐いた。


「シャルル、お前はレティシア嬢という婚約者が居るではないか。それは側室として迎えたいと言う事での発言なのか?」


「いえ、父上。レティシアとは婚約を解消、いえ、無効とします」


「本気で言っているのか?」


「ええ、俺は本気ですよ」


「そうか。レティシア嬢、こう言っているがお主はどうだ?」


「私の判断出来る範疇ではありません」


「であろうな。だが我が許す。レティシア嬢の判断を聞かせて欲しい」


「左様でございますか。でしたら私と殿下の婚約の件は無効として頂けますでしょうか」


「ふん、やっと了承したか」


「ふぅ、まったく。分かった、婚約の件は破棄ではなく無効とし、父君には私から伝えよう。今までご苦労であった」


「いえ、陛下。私もこの国の貴族の血を引きし一員なれば、その役目に従ったまでの事。ただ、王妃様には申し訳なく感じております」


「そうか」


陛下とレティシア嬢のやり取りを見る限り、殿下を除いた王族とトゥルーハートレット公爵家の繋がりは良い物だったのでしょう。


いえ、もしくはこれこそが危機なのかも知れません。


何故なら王国憲章には記載があります。


王位を継承するとは、王位を継ぐ予定のある男は配偶者を娶り、王太子となって王太子妃と共に王位を継承するもの、と。


「シャルル」


「何でしょう、父上」


「お前を廃嫡する」


「な、何故ですか!?」


「先ほどフォーゲルの娘が言っていたように、王妃には条件がある」


「あ、あんなもの」


「お前が妃にと望んだ者が言った言葉なのだがな」


「ぐっ」


「だがな、王妃だけではなく、王にも条件があるのだ」


「そ、それは、俺は満たしていないと?」


「満たしておらん。王の条件と王妃の条件はかなり似ておる。美貌は関係ないが、知識は絶対条件だ」


「俺にはそれが無いと!? 俺はこの学校でも成績優秀だった。だから知識はあるはずだ! そして国内外一でなくても良いはず! であれば!」


「王国憲章を覚えておらぬお前に、王位など継がせる訳がなかろう! この馬鹿者めが!!」


「ひっ!?」


「レティシア嬢以上の王妃候補はこの国に居らんのだ! それを自ら蹴ったお前が王に成れると思うな、この痴れ者が!」


「レ、レティシアじゃなくともアリシアなら」


「まだ言うか! フォーゲルの娘は確かに知識はある。だが、本人も言ったようにそれだけ、いや容姿の点や技術の知識はあるだろう。だが王宮を管理は出来んと言ったはずだ、本人がな」


「だが、それは俺がフォローすれば」


「お前がフォローされてやっとなんだ、それに気付かない時点でも王には成れぬ。そもそもこんな馬鹿げた事を仕出かした者など国内外の笑い者だ。そんな笑い者を王太子に出来ようか。お前の廃嫡は決定事項だ」


「そ、そんな」


真のデウスエクスマキナたる陛下によって、この出来事は幕を下ろした。


青年にとっては思いもしない展開だっただろうが。




その後、正式に殿下は廃嫡となり、レティシア嬢との婚約も破棄でなく婚約自体が無かった事、“無効”となった。


この婚約自体が殿下が王位継承者であり、次代の王だったから交わされた契約だったからだ。


殿下が元殿下、王位継承権を失う廃嫡となった為、婚約状態も無効となったのだ。


では誰が次の王となるのか?


王国憲章にはこうある。


王位を継ぐ男が居ない場合、王家の血を引きし女が女王として王位を継ぐ。


この場合、配偶者の有無は必要無い。


ただしその女もいない場合、王族を輩出した経験のある家から王位継承者を選びだし、王位継承の規則は準ずる。


この為王位継承順位は、第一位が現トゥルーハートレット公爵家当主。


第二位はレティシア嬢となる。


何故なら王家にはシャルル元殿下以外の継承権を持つ子が存在せず、王妃も子が産めない体になっているから。


陛下もまさか十八歳の息子がこんな馬鹿だとは思っておらず、側室の子には王位継承権を認めていなかったからだ。


貴族会で承認された側室の子の王位継承の不可は、王位継承問題で荒れる事を恐れた陛下の判断だった。


これを今更覆そうと思っても、やがて女王となるはずのレティシア嬢の王配を狙う貴族たちが了承するはずもなし。


後、元殿下の友人たち四人もそれぞれの家で廃嫡が決定し、それぞれの婚約者との関係も無効になり多額の賠償金を払う事に。


至高の星を守護する四侯爵家の内の二家、伯爵家と教皇多数排出の名家は、揃って没落。


これでファイブスター王国はトゥルーハートレット家を王族とした国に戻り、新たなる時代へと向かう事となった。







そして、私はどうなったかと言えば・・・


「アリシア、あなたはまたここに居ましたの?」


トゥルーハートレット家所蔵の図書館で“本の姫”を続けております。


私の知識と魔力を国に役立てる為、レティシア嬢に雇われた。


普段本を読んで居て良いと言われたので、否はありません。


ただ、とある魔法を開発して欲しいと言われていてちょっと“身の危険”を感じているが。


「うふふ。やっぱり本を読んでいる時のアリシアは」







































「良いわ」


「ひぃっ!?」


“転換”する魔法だ。

お読みくださってありがとうございました。


自分の考え「良い経営者の条件」を、それぽい事までは思いついたのですが、会社の規模や情勢によって違うなと思い、じゃあ国の施政者でと大きく考えてみた。

この時点でなろうに毒されていると思いますが、そう考えていたらファンタジー大好き脳が黙っておらず異世界話に。

毒され続けた私が出した答えがこれだ!

と言う内容を書くにあたって毒され過ぎてこうなった!


だからこれ、ただの婚約破棄モノ(ry



ちなみに他にも色々書いてますので、宜しかったら他のも見てくださいな。

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