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集才学園の頂点へ  作者: blanker
一章
8/14

六話・enjoy time

 東京ドームを、そのまま数倍大きくしたような建物。

 それが、俺が『超学闘技場』への第一印象だった。

 面積も広いが高さもかなりあり、6~7階建てのビルだったら普通に入りそうだ。入口付近に人が大勢集まっており、かなり賑わっているのがここからでもわかる。その賑わっている人たちの大半が、俺や広世みたいな制服姿ではないのが目に付く。

 しかし、そんな些細な事を聞くよりも先に俺は総智に確認を取った。

「……なぁ、本当にここが超学闘技場であってるのか?」

「疑う気持ちもわかりますけど、ここで合ってます。正真正銘、この建物が『超学闘技場』ですよ」

「いやいや、まずなんでこんなにでかいんだ? 普通に闘技場として使うんだったら、こんなに大きさはいらないだろ?」

「それは後のお楽しみですよ。さ、中に入りましょう。葵さんも待っていますから」

 総智はそう言って、先を後ろ向きで歩いてこっちに手招きをしてくる。

 俺は総智の後をついていきながら、そのまま会話を続けた。

「葵……、昨日女子寮で助けてくれた人か」

「そう、その人です。本名はもう聞いたでしょう? 彼女の異名は『法理学王』。かなり有名な裁判官の娘みたいで、そのせいか幼いころから、いろんな善悪の話を親から聞いて育ったらしいですね。そのため、『中立』の立ち位置にいることが多く、超学戦闘などの争い事はあまり関与しないそうです。『こっち』に来た理由も、裁判関係みたいだよ」

「ああ、道理で少し冷たそうな顔なわけだ。俺はちょっと苦手なタイプだな」

 理由としては、そんなルールや規則で自分と周りをがちがちに縛るタイプは、経験上一緒にいて楽しくもなく面白くもないからだ。そんなやつは、俺はあまり好きではない。

「君は『とりあえず動く』タイプだろうからね。葵さんは『まずは傍観・様子見』タイプの人だ。確かにペースは合わないとは思うけど、話してみると面白い人だと思うよ」

「……ま、第一印象で人を決めつけるわけにもいかないしな。『とりあえず』また会ってみてから考えるか」

「本当に『とりあえず動く』タイプだね。君は……」

 そんなこんな言い合っているうちに、闘技場の入口前に到着する。中はまるで映画館のチケット売り場……というかそのまんまの内装だった。チケットカウンターにポップコーン売り場や天井モニター。派手なネオンライトの飾りがあちこちに見かけられ、大勢の人で賑わっている。唯一、映画館のチケット売り場と違う点は、中央奥に向かい合って立つような、小さな円形のステージが二つあることだけだ。


 数秒間の沈黙の後、俺は口を開く。

「……なあ、総智。一つ言っておくが、俺は映画を見に来たわけじゃないからな」

「……何度でも言いますけど、ここは超学闘技場で間違いありませんからね? 映画館とかではないですよ?」

「いやこれ、ほとんど映画館だろ。今何上映してるの?『君の○は』とかやってる?」

「やってませんし、まず何の映画も上映してませんから——」

 そんなふうに、俺が再度ここが闘技場か確認していた時。ふいに後ろから、肩が叩かれる感触を感じた。

 驚いて後ろを振り向くと、あきれ顔の葵が制服姿で立っており、ため息一つと共に話しかけられる。

「まったく、二人してここで一体何をやっているんだ? こんな入口の真ん中で立っていたら、迷惑になるだろう?」

「……ごめん」「……おっと、ごめんな」

 道の中央から退きつつ、お互いに誤りの言葉を口にする。


 それを聞いた葵はすぐに顔を緩め、ようやく挨拶をしてきた。

「さて、改めておはよう。二人とも。今日は広世の初戦闘の日だったか?」

「そうですね。朝にメールした通りでしたよ」

 ……朝から、俺が真っ先にここに来ることを読んでいたのかよ。

「ははっ、やっぱり言った通りになっただろう?」

「相変わらず、先の行動を読むのが得意ですよね……」

 しかも、一度しか会っていないはずの葵にまで、今日の行動を読まれていたらしい。謎の敗北感を俺は味わった。

 が、ここでそんな敗北感はあまり味わいたくない。俺はとっさに嘘を付く。

「はっ、た、たまたまだろ? ぐ、偶然葵の予想が当たっただけだ。まさか俺が、昨日から『超学戦闘楽しみだ』なんて考えるはずがないな。ふ、二人もそう思うだろ?」

「「いや、全然そう思わない」」

「なぜわかった!?」

「いや、バレバレです」「いや、バレバレだな」

 バカな。俺はとても自然かつなめらかに嘘を付いたはずだ。どうしてこんなに早くばれた!?

「というか、今ので嘘を付いたつもりなのか? 誰でもわかるぞ、その嘘」

 葵がそう指摘する。俺はもう隠しきれないほど動揺していた。

「なっ。そ、そんなに俺の嘘はわかりやすいのか?」

 二人とも一回顔を向けあい——

「ええ、わかりやすいですね」「今まで出会った人の中でも、かなりわかりやすいな」——と答えた。

「……どうしてだ?」

「だって、顔に書いていますよ」「だって、顔に書いているぞ」

「……」

 自分の膝が地面に落ちることが、どこか遠くのことのように感じた。

 高揚していた気分が、スカイダイビングのように落ちていく。

 これは精神ダメージがでかい。まさか俺が表情に出やすい人間だったとは。

 頭の中で、今まで嘘をついてきたシーンが一つ一つ再生されていく。多分、再生されたシーン全部で嘘がばれていたことだろう。男子寮での夜道との会話も、おそらくばれていたと思う。今までの数々の記憶が黒歴史に変わっていく瞬間だった。

「ほら、さっさと選手登録すましますよ。早く参加したいんでしょう?」

 そう言って総智が登録カウンターへ連れて行こうと、俺の手を引っ張ろうとするが、余りのショックに足がまるで動かない。

「ああ……うん。なんかもう、何もかもがどうでもよくなってきたわ」

「そんなわけにもいかないだろう。私が何のためにここに来たと思っているんだ。ほら、行くぞ」

 しかし俺の意志とは反対に、俺は二人によって登録カウンターへ連れていかれるのだった。



 何とか気分を直し、カウンターで選手登録を済ませるが、一つ大事なことに気付いた。

「……よし、これで超学戦闘ができるわけか。……ん?」

 その説明を求めて、俺は総智に近づいて話しかける。葵はどうやら、ポップコーンなどを買いに行ったらしい。

「総智、超学戦闘のルールはどこに書かれてあるんだ?」

「ああ、それはどこにもないね。だって、毎回ルールが変わっちゃうから」

 その言葉を聞き、俺は少し驚くように目を見開いた。戦闘という名前がついているのだから、銃撃戦や剣などを使った乱闘とかを考えていたが。

「……勝負方法はランダムなのか。ルールの説明は始まってからか?」

「うん。チュートリアルはもちろん無いよ。実戦でいろいろ身に着けてねってこと。ただ、そんなに競技の種類は無いし、ほとんどが体を使ったスポーツ形式の勝負みたいだ。あまり、トランプとかを使うゲーム形式は見かけられないね」

「……OKだ。さてさて、最初はだれと戦うかな~」

 そう言いつつ、天井モニターに映っている今日の参加選手欄を眺める。


 どうやら超学戦闘に参加する条件は、異名を持っていること(超学能力を持っていること)と参加登録しているかどうか、だそうだ。それ以外のやつ、つまり一般人(学園内にも、俺たち以外に店員や学園に直接勤めている人達がいる)は、この超学戦闘で賭け事ができるらしい。

 参加登録はその場で可能なため、やろうと思えばすぐにでも参加できるしくみだ。そして、一か月で一度も超学戦闘をしなかった生徒は、『超学成績』が落ちてしまうらしい。

 この超学成績とは、その名の通り超学戦闘での成績……ランクのことだ。10が最高ランクで、0が最低ランク。自分より上、もしくは同等の相手と戦って1勝したら1ランク上がり、負けたら1ランク下がる。結構シンプルなルールだ。

 そして、自分より3ランク以上との戦闘で勝利した場合は、一気に3ランク上がる。そんな方式で、成績は決定されている。

 ただ3ランク上とは完全に格上の相手らしく、勝利例はほとんどないらしい。

 そのため……


「早く頂点に行きたいからって、3ランク以上と戦おうとしないでよ? 今回は初戦なんだから」

 注意する総智の声が、後ろから聞こえてくる。しかし、俺は後ろを振り向き総智に向かってこう言い返した。

「そんなふうにビビることはだめだ。何かを始めるとき、俺はまず格上の相手に挑む。そのほうが相手から技術や戦術を学べるし、何より強いやつと戦うことが、頂点を目指すときは重要だ。同格の相手と戦うよりも、早く成長できるからな」

「だからって、最初からやらなくても……」

「最初だから、だ。失うものが何もないからこそ、挑む価値があるんだよ」

 言いつつ、上の天井モニターに再び目を向ける。今の俺のランクは0。だとすると、ランク3の相手が望ましいが……。

 そこまで考えたとき、ちょうどランク3の選手が新しくモニターに表示された。

 来たか、こいつに挑もう。

 そう決定し、そのまま名前の欄に目線を映していく。その欄には、『沙無さな 音美おとみ』という名前が表示されているのが見て取れた。

 それを読んだのと同時。

 俺はにやりと笑っていた。



 参加登録を済ませたばかりの沙無に、俺は後ろからまったく躊躇せずに話しかけた。

「なぁ、あんたが沙無音美だよな?」

「ええ。その通りよ……って、あなた昨日の……」

「ああ、先日はお世話になったな。俺の名前は広世賢治。高校二年生だ」

「私の名前はもう知っているでしょう? 沙無音美よ。高校一年生……とは言っても、ここじゃああまり先輩か後輩かは関係ないけど。まぁ、一応よろしくと言っておくわ」

「ああ、よろしく」


 ——俺の最初の対戦相手としてな。

「さて、私に何の用かしら? これから今日の相手を探すのだけれど」

「それなら俺とやるってのはどうだ? 一度あんたとやってみたかったからさ」

 この言葉は嘘じゃない。たった30秒前に思ったのだから。

 しかし俺の話にあまり興味が持てないのか、沙無はさっさと話を切り上げようとする。

「それは嬉しいわね。だけど、私はすぐにでも『優勝賞品』をもらいたいの。だからランク0であるあなたの相手をしている暇はない。わかった?」


 そう、この超学成績のルールでは、自分より下との戦闘はまるでメリットが無いのだ。

 つまり、普通だと俺の提案はまるで受け入れられないが……

「……OK、わかった。だが対戦相手を探す前に、ちょっとこの文章を読んでくれないか?」

 そう言いつつ、俺は背中に隠し持っていた二つ折りされている紙を差し出す。そして、腕時計に目線を向ける『ふりをする』。

 沙無は怪訝な顔をしたが、差し出された紙をしっかり受け取った。そのまま中に書かれてある文章を読もうと、片手で紙を広げる。

「はぁ、何か知らないけどこれを読めばいいのね? 全く何を考えて…………っ!」

 沙無が紙に書かれた文章を読んでいくうちに、その目から生気が薄れていくのが見て取れた。


「あんた……まさか本当に……」

「お、読み終わった? じゃあ、俺との対戦受けてくれるよな?できるだけ早く(・・)答えてくれよ?」

 俺は、この時点で沙無が『YES』と答えることをほぼ確信していた。

 沙無の表情はうつむいていてよく見えないが、怒っていることだけはわかる。というか、あんな『条件』を突き出されて怒らないやつの方が少ない。

 その点で考えれば、沙無がこちらを罵ってこないことが、沙無の精神力の強さを物語っていると言える。

「……わかったわ」

 この言葉を聞いて、俺は隠しもせずに無音で笑った。

 ……かかったな。




 俺が沙無に渡した紙に書かれていたのは、こんな文章だ。

『昨日、俺と一緒に女子寮の部屋にいたということを言いふらされたくなければ、10秒以内に勝負を受けろ』

 一つ言っておくが、俺はこの文章に書いてある通りに行動するつもりはさらさら無い。

 つまり、この文章はただの『ハッタリ』だ。実際言いふらしたら、俺の方が捕まってしまうだろう。

 だが、沙無にとっては効果抜群だ。何せ『昨日、俺と一緒に女子寮にいた』ということは事実なのだから。どんな形であれ、俺が沙無の部屋いたことは証明可能だと考えてしまう。そして制限時間を付けて、この先を考える時間を取らせないようにする。



 その結果が『これ』だ。

「——おぉ、俺の挑戦を受けてくれるのか。ありがとな」

 俺は少し仰々しく、煽るように感謝の言葉を述べた。

 しかし怒りすぎて感情がマヒしたのか、とても冷静に沙無は話を進める。

「……決まったら、さっさと準備をしましょう。あそこよ」

 そう言って部屋奥の二つのステージを指差した。おそらくそこで超学戦闘をやる、ということだろう。

「わかった。あそこだな」

 二人とも無言で歩き、一人ずつステージの上に上る。

 ちょうど右側にスマホを置くようなくぼみがあるのを見つけ、そこに学園専用のスマホを差し込むと、部屋全体に機械音声が流れた。

『プレイヤー1。広世賢治、『雑学王』。超学能力は〈瞬間雑学モーメントコピー〉』

 どうやらこれで参加決定らしい。新しい勝負だ、相手は誰だ、と人々がステージの周りに集まってきた。

 沙無の方も、冷たい顔でスマホを差し込むと、再び例の機械音声が鳴り響いた。

『プレイヤー2。沙無音美、『音響学王』。超学能力は〈音響消滅サウンドアウト〉』

『二人のプレイヤーの参加を確認。これから超学戦闘を開始します。30秒後、ステージ〈廃墟ビル〉にテレポートしますので、双方のプレイヤーは戦闘準備をしてください』

 テレポートという、現代ではあまりに荒唐無稽な単語が出たが、もうここでは当たり前の技術なのだろう。誰も驚かずに、どちらかのプレイヤーに金を賭けていく。

 そんな中、向こう側のステージに立っている沙無は、睨み付けるような目をこちらに向けていた。

「あなた、絶対に許さないわよ……。終わったら地獄をみせてあげるわ……」

「ああ、俺が負けたらそうするがいいさ。最も、そんなことはありえないがな」

「……その自信がいつまで続くか見物みものね」

 そう戦闘前のやり取りをしながら、俺は体をほぐしていく。一通り終わったとき、ラストのカウントダウンが流れる。

『戦闘開始5秒前。4・3・2・1——』

 こっからがenjoy timeだ。

 立っているステージから光があふれ、二人ともその光に呑まれていく。

 俺は最後に、沙無を指差しながらこんな言葉を残して瞬間移動した。

「——さぁ、楽しもうか」


次回からようやくバトル開始です。

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