表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
集才学園の頂点へ  作者: blanker
一章
6/14

四話・寮の中で

 目を開けると、知らない天井が視界に映っていた。

 ベッドから起き上がり周りを見渡してみると、俺は知らない部屋の中に居た。部屋の内装は少し高いホテルの部屋のように見える。俺が今座っているベッドも、かなりふかふかしていて寝心地が良い。これはどういうことかと疑問を持ったが、カーテンから差し込む少しばかり赤い光を見て、俺はすぐに状況を察した。

「……ああ、寝落ちしたのか……」



 時は4時間前に逆戻さかもどる。

 総智から異名を名付けられた後、俺はすぐに男子寮を探し始めた。理由は眠かったからだ。

 考えてもみろ、深夜に待ち合わせしてそのあとヘリに乗り、そして集才学園到着までの時間は、たった二時間だ。睡眠時間約二時間。これはあまりにも短すぎる。いろんな頂点を取るために起床時間を増やそうとして、ショートスリープの練習も行っていたとはいえ、これは流石にきつい睡眠時間だ。そして、覚醒シーケンスでの指輪。そこでの精神の疲れが来て、眠気の波が思いっきり襲いかかってきた。

 エレベーターの中で、総智の『自問自答クエスチョン・アンサー』でわかった、男子寮の場所への最短ルートを教えてもらったときから、記憶が抜け落ちている。おそらく、こっから夢と現実を行ったり来たりしていたのだろう。最終的には道半ばで寝てしまったが、誰かさんによってこの男子寮に運び込まれた……と。


「……総智に感謝しなきゃな……」

 そう口にしながらベッドから出て、少し背伸びをする。

 さて、これから何をしようか。

 そう考えようとしたとき、ベッドの隣にある小さな机に、知らない機種のスマホが充電されているのが目に入った。充電のコードを外し、電源を付けてみる。

 電源が入って表示された画面には、『集才学園専用スマートフォン』という文字が大きく映っていた。

 おいおい、どこまでラノベっぽいんだよ。

「もはやなんでもありかよ……」思わずそう呟いていた。

 手元のスマホに映っている時刻を見ると、午後5時16分と表示されている。完全に夕方の時間帯だ。

「これはもう、今日は何もできないな」

 外に探検に行くには遅い時間帯だしやることと言ったら、このスマホから情報収集をするぐらいだ。正直、今はそこまでできることはない。

 ま、その情報収集する前に風呂だな。さっさとさっぱりしたい。流石にここで、「美少女が風呂に!」なんてラノベ的展開は踏まないだろうし。



 そう思って部屋の中をもう一度見渡し、散策する。服は後で着ようと考え、風呂場と思われる扉を何の疑いもなく開けたら、目の前で裸の美少女が体を拭いていた。

「あっ……」

 髪を拭いている手が止まり、ストレートの黒髪の先で滴が落ちる。優しさと厳しさを併せ持った顔が、驚きと羞恥で満ち溢れていき、あまりふくよかとは言えない胸が腕で隠された。

 時間にして1秒以下。しかしこの瞬間だけ、その1秒を約5秒に感じるまで高速展開された俺の頭でも、0.07秒後に突き出されてくる、右腕の動きを見切ることはできなかった。

 次の瞬間、俺は意識をあっさりと手放していた。


「——っ」

 意識が急浮上する感覚。俺はゆっくりと目を開き、目の前の人物を認識する。

 目の前の黒髪ストレートの美少女は、俺に向かって正座しながらこう質問した。

「おはようございます、変質者。さて、どうしてお風呂を覗いたのか、その理由いいわけを説明してもらおうかしら?」

 気絶から復活し、起きて最初に言われた言葉がこれだ。理由? こっちだって状況を説明して欲しいのだが。

 ベッドがある部屋の中央で、うつぶせに寝転がっている状態から起き上がりつつ、質問に反論する。

「待て、違う。俺は覗いたわけじゃない。あれは俺だって予想外の出来事だ」

「はぁ? じゃあなんで風呂場の扉を開けたっていうの? 覗き以外の理由ってないはずよね?」

「違う違う、絶対に覗くためじゃねえ。俺は普通に風呂に入りたかったから、風呂場の扉を開けたんだ」

 俺がそう主張すると、逆に目の前の少女は座ったまま身を引いた。顔も若干強張っている。

「——っ! あなた、やはり変態ね……」

 おい、なんだその反応は。

「いやいやちょっと待て落ち着け。まず、なんであんたが風呂に入っていたんだ? そこを説明してくれ。俺はそれが一番わからないんだ」

 俺が思うに、ここが一番の疑問点であり、意識の『ずれ』だろう。ここは『男子寮の俺の部屋』のはず。今、こいつがここにいること自体がおかしいのだ。

 この質問に対して、黒髪の少女は少し不思議そうな表情になりながら答えた。

「なぜかって、ここは『女子寮の私の部屋』だからよ。……ってあなた、まさか」

 この少女はもう状況を察したようだ。もちろん俺も。

  ははっ、まじかよ。

「……ああ、そのまさかだ」


 一応少女の言葉を確認するため、床から立ち上がり部屋の入口に向かって、ふらふらと歩く。玄関の扉を開け、玄関前から扉の周りを見てみると、扉の中央に『沙無さな 音美おとみ』と書いてあるプレートが貼ってあった。

「やはりか。ここは男子寮・・・じゃなくて、女子寮・・・なのかよ……」

 思えばどこかおかしかった。俺の部屋ならば、あっちで住んでいたアパートからの荷物が届いているはずだ。しかし、あの部屋には一つも段ボールが見当たらなかった。

 他にも、あの『集才学園専用スマートフォン』が俺のものだったのなら、初めての起動するときの設定があるはずなのに、何の問題もなく使えたこと。どうして俺を運んだ相手がいなかったのか、ということなどいろいろ疑問がわいてくる。

 ああ、なんて俺はバカだったのか。寝起きだとはいえちょっとは気づけよ。まったく違和感を持たなかったとは、一体どういうことだ。

 そう自分を責めながら、俺は沙無がいる部屋へ戻っていった。


 部屋に戻ると、正座しながら沙無は少し気まずそうにそわそわしていた。

 少しの静寂の後。沙無が細々と口を開けた。

「えー、あー。その……ごめんなさい。勝手に覗いたと勘違いしてしまって」

 開口一番、そう謝られる。しかし、それをいうなら俺が悪い。

「いや、謝らなくていい。元は俺が勝手に、自分の部屋だと勘違いしただけだ。あんたがそこまで謝る必要はないだろう」

「だけど……」

「あーハイハイ。これで謝り合戦は終わりだ。正直、今回は色々と偶然が重なった結果だ。もういいだろ?」

 こんなふうに、ひたすらに謝られるのは好きじゃない。ここで会話は区切った方がいいな。

 そう考え、迷うことなく俺は玄関に足を運んだ。

「ちょ、ちょっと」

 後ろから呼び止める声が聞こえたが、構わずにドアノブに手をかける。

「じゃ。ここまで運んできてくれてありがとな」

 背を向けたまま手を振り、振り返ることなく、俺は部屋を出て後ろ手で扉を閉めた。





 2分後。

「で、どうしたのものか……」

 俺はさっきの扉の前から動かずに、腕を組み考え事をしていた。

 1分前、俺はこのままさっさと男子寮に向かおうとしていた。しかし足を踏み出す寸前に、ある一つの問題を見つけ、足が止まった。

 その問題とは、この建物が『女子寮』ということだ。

 女子寮の中にいる男子の転校生。今誰かに見つかれば一発で変質者認定され、即座に警備員に捕まるだろう。何か痕跡を残した場合もアウトだ。

 見つかっても逃げればいい? 俺が使用できる『瞬間雑学モーメントコピー』はたった2つしか能力のストックがないのと、その制限のため逃走には使えないし、走って逃げようにも体力には自信が無い。

 つまり俺が男子寮に向かうには、『誰にも見つからず、なおかつ痕跡が残らないように脱出する』しかないのである。

 ……何だ? このスニーキングミッションは。ハードすぎるだろこれ。もしこれがゲームだったら、とっくにゲーム機の電源を落としているぞ? 一応、現在進行形で手は打ってあるが……


 そこまで状況を整理したとき、ポケットが震える感触が伝わってきた。

 ……来たか。これで状況は進んだな。

 そう考えながら、ポケットから『自分のスマートフォン』を取り出し、電話に出る。

「もしもし、総智か? 助けてくれ。メールはもう読んだだろ?」 

『……あの、なんで僕のメールアドレスと電話番号知ってるんですか? 教えて無かったでしょう?」

「それは、コピーした『自問自答クエスチョン・アンサー』使ったんだよ。能力の制限に引っかからない情報だったからな」


 俺の『瞬間雑学モーメントコピー』でコピーされた『自問自答クエスチョン・アンサー』の効果はこうだ。

 (1日1回の制限は同じ。しかし5分のタイムラグが1分になり、うことができる質問は『24時間前後で自分が知りえる・知りえた情報』に関することのみである)


「これってさ、つまり『自分が24時間前以内に知ることができた情報、24時間後までに知ることができるだろう情報』ってことだろ? だったらエレベーターや36階にいるときに、総智のメールアドレスと電話番号ぐらいわかったんじゃないかと思ってな。そしたら成功だ。いやーこの能力本当に便利なんだな」

『本当に適応するのが早いですね……。 ここにきてすぐにその考えをを思いつくのは、君ぐらいだと思いますよ?」

「そうか? 結構早めに思いついたが。さて、早めに助けに来てくれ。今にも見つかりそうなんだからさ」

『いや僕は助けに行けませんよ。僕もそっちにいったら捕まっちゃいますから」

「……じゃあ、どうすればいいんだ?」

『その代わり助けが来ますから、そこで待っていてください」

「助けが来る……?」

 

「やぁ、あなたが例の不審者かい?」

 近くから少しハスキーな声が聞こえる。視線を前に向けると、目の前に長髪の女が立っていた。中々の美人だ。顔は自信に満ち溢れているようで、少し冷たい印象を感じる。見たところ、俺より年上のようだ。

 くそっ、見つかったか。この状況をどう切り抜ける? どうにかして言い負かさないと——

 その思考を読んだかのようなタイミングで、目の前の美人はしゃべり始めた。

「ああ、私はあなたの味方だ。少なくとも警備員に突き出すような真似はしないから、安心してくれ」

 ……本当か? この状況では確証がない。総智に聞いてみようと、スマホに耳を近づける。

『ん? もうそっちにいるのかい? その人が君の『助け』だ。これで大丈夫だと思うよ。もう切るね」

 あの美人の声が、総智にも届いていたらしい。スマホから総智の声がし、電話が切れる音が聞こえる。これで目の前の美人が味方だと確定した。

「……どうやら、本当に味方らしいな。俺の名前は賢治。広世賢治だ」

「信じてくれなかったのかい? まぁ、いいさ。私の名前はあおい正恵まさえだ。まずは、ここから出るまでの間、よろしく頼む」

 そう言って、葵は少し頭を下げた。こちらも礼を返しながら、これから何をするのかを確認する。


「よろしく。で、何か作戦があるのか? 俺の方は総智に連絡するまでしか考えてなかったからな」

「それは簡単だ。私の『更新規則リロード・ザ・ルール』で何の問題もなく、脱出できるからな」

「へえ? そこまで自信があるとは、一体どんな能力なんだ?」

「『世界の法則に一つ規則を追加する』能力だ。物理現象と同じレベルで、絶対の規則を追加する。欠点としては、自分自身も規則に縛られること。規模が大きい規則ほど、解除に時間がかかること。そこまで効果範囲が広くないこと。あとは、『~を禁ずる』としか縛れないこと……だな」

「……ふむ。そりゃあ、かなり応用性が高い能力だな。デメリットは考えなくちゃいけないが」

「ふふっ、そうだな。実際、これはほとんどの状況で使える万能な超学能力だ。自分自身が巻き込まれることが難点ではあるがな」

 ……俺もこんな超学能力が良かったな。こっちはあまり使えないからさ。

「さて、能力の説明をしたところですぐに脱出するとしよう。私の手を握ってくれ」

「はぁ? どんな規則を追加するんだ?」

「今から『自分以外の人間を見ることを禁ずる』と規則を追加する。これでお互い見えなくなるが、手の感触はあるだろう?」

「そういうことか。この能力のデメリットをあっさりと破るな。結構でかいデメリットだと思うが」

「お褒めにあずかり光栄だ。じゃあいくぞ」

 葵は少し照れたような表情を垣間見せたあと、すぐに顔が引き締まった。

「『更新規則リロード・ザ・ルール』『自分以外の人間を見ることを禁ずる』」

 そう聞こえた瞬間、葵が消えるように見えなくなった。しかし、握っている手の感触はまだ感じる。

「このままいくぞ。ついてきてくれ」

 どうやら触覚だけじゃなく、聴覚もあるらしい。俺は見えない手に引っ張られるように、女子寮の出口に向かって歩いて行った。


 まるで無人に見えるロビーを抜け、女子寮の外に出る。外に出た後も葵の姿は見えなかったが、十数秒した後、目の前に出現した。周りに人影は無い。

「ようやく脱出成功か。案外、楽に脱出できたな。助けに来てくれて、ありがとよ」

「礼は総智にでも言ってくれ。あまり感謝されることに慣れてないんだ」

「ああ、総智にも言っておくさ。でも、今回は本当に助かったと伝えたくてな。じゃ、これから男子寮に向かうから。助けてくれてありがとな」

 そう礼を言いつつ、俺は男子寮の方向に体を向けて、歩き出す。

「ああ、さよならだ。もう一回会おう」

 最後に、後ろからそんな言葉が聞こえた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ