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集才学園の頂点へ  作者: blanker
一章
14/14

十二話・オレンジの誓い

「……どうやってたら、勝っていたのかしら」

 女子寮の自分の部屋で、ふかふかのベットに座りながらそう呟く。

 お風呂に入ったばかりで濡れている髪をタオルでふきつつ、私、沙無さなは考えていた。

 薄いシャツ一枚だけ着て、短いズボンを履くこの格好は、部屋の中での姿だ。

 実は、自分の部屋の中などプライベートでは、私はかなりルーズでだらしないのである。

 『あっち』ではそのことで、かなり驚かれていたのだけど……


「ってそんなことを考えるんじゃなくて」

 頭を振り、思考を元に戻す。


(……確かに伏線はあったのでしょうけど)

 窓ガラスのミスリードに気付いていれば。

 廊下側だけではなく、部屋側のドアからもクリアリングをしようと思っていれば。

 何か対策をしているだろうと考え、もっと慎重に行動していれば。

(いや、さらに言えばあそこに追い詰める前に勝負を決めていれば……)

 階段での一戦のあと、私は銃のリロードをしていなかった。

 あそこはリロードに時間を使うよりも、まず相手を追うことを優先した方が良いと思ったからだ。実際それは良い判断だと今でも思う。

 しかし、リロードをしなかったために、次の一戦で弾切れを起こし、相手を仕留めることができなかった。

(……しょうがないか)

 何せ、もう終わったことなのだ。さらに言えばあの勝負は『逆転負け』だ。

 相手を追い詰め、逃げ道を塞ぎ、あとは終わらせるだけ。そんな状況からひっくり返されたのだ。

 これを逆転負けと言わずして何と言うだろう。

 正直、私の方にミスはほとんど無かった。あるとすれば、リロードをしなかったことと、『ここから逆転されるかもしれない』という危機感が無かったことぐらいだろうか。

 あいつに、そこを付け込まれた。ということだ。

(これは、実力と気合で負けたわね……)

 まあ、次の反省として生かしておこう。『今度は倒れている男を見ても、自分の部屋に運ばない』ということも追加しておくべきだ。

 

 ベッドから立ち上がり、深呼吸をする。

「さて、反省メモでも書こうかしら。っとその前に」

 部屋がなんか暗いと思ったら、いつの間にかカーテンを閉めていたらしい。おかげで考えることに集中できたが、明るい気分になろうとしているのだから、雰囲気的に日の光を浴びた方が良いだろう。

 そう思い、ベランダに繋がっている大きい窓のカーテンの端を掴んで、一気に右に振りぬく。

 その奥に見えた風景は、オレンジ色のきれいな夕陽……ではなく。



 今日の対戦相手である男が、鍵を掛けていない大きい窓を開こうとしていた光景だった。




 時間が3秒ほど止まった後。

「……いや、違うんだ」と男が言い放ちながら、窓をゆっくりと開ける。

 次の瞬間、私は全力で男を殴った。



 5分後。沙無が部屋着から制服に着替え終わり、正座している俺の前のベッドにゆっくりと座る。

「まったく……最近殴られまくってるな。俺」

「当たり前でしょう。ベランダから女子の部屋に入ってこようとする変態を殴らないわけがありません」

「まあ、そこは悪いと思っているけどさあ……殴ることは無いだろ」

 さっき沙無の部屋に繋がるベランダに着き、さあ入ってみようとして殴られた俺だが、あれはちょっと判断力が鈍っていたのだ。

 声で何か用があるとでも言えばいい(それでも十分やばいやつである)のに、なぜか窓を開けようとしたのは、自分でも全然わからない。多分、頭がフリーズしたのだろう。

 

 部屋の中央に座りながら、ベッドに座っている沙無の顔を見てみると、なんか養豚場の豚を見るような目をしていた。

「なぁ……その目やめようぜ? 10人中10人から『俺、嫌われてんのかな』って思われるぞ?」

「実際にあなたという存在を嫌っているのですから、ある意味正直だと思いますが?」

「なるほどー、俺嫌われてんのか。なんでなんだ——。まってやめてその通報ボタンを押さないでください」

 部屋にある通報ボタンに指が乗せられたのを見て、俺が慌ててそうお願いすると、沙無は俺にこう質問してきた。

「で、何の用でここに来たのですか? すぐに答えないとこの通報ボタンを押しますよ」

「もちろん、あんな事やこんな事——。わかった、冗談だから忘れてくれ」

「大丈夫、冗談だとわかってたから」

 目がマジだった。


「さて、俺がここに来た理由だが、沙無に一つ質問をしたくてな」

「質問? どんな質問よ?」

 沙無が通報ボタンから手を放しながら、顔を寄せて聞いてくる。

「えっとだな、俺たちが超学戦闘に入る前の会話で、沙無が『すぐにでも優勝賞品が欲しい』って言ってたろ?その内容が気になってな。スマホの番号も分からないし、明日また出会うとも思わなかったんだ。だから、こうしてわざわざ侵入してきたんだよ」

「……ちょっと待って。一体どうやってここに侵入したの? ここ4階のはずよね?」

「なんか今更な疑問だと思うが、まあ答えよう。簡単に言えばロッククライミングしてきた」


「……答えになってないわよ」

「今から答えるからいいかげんボタンから手を放してくれ……。まず、俺が試合中に使った『私用車両クリエイトビークル』で生み出したスケボーを、壁に貼り付けてそこに足を乗せる。で、もう一個スケボーを出して貼り付けて、次の足場にする。これを繰り返したんだよ。ここは壁際だから、横の壁から上っていけば普通にたどり着ける。これでいいか?」

「呆れた。普通そこまでやらないわよ?」

「正直あまり先のことを考えてなかったからな。で、こっちの質問だ。沙無はどうして『優勝賞品』が欲しいんだ?」

 沙無は、目を瞑って少しだけ考え質問に答えた。

「そうね……。私は、親孝行がしたいの」

「つまり、自分の親のために超学戦闘をしているのか?」

「ええ、その通りよ。私は子供のころから、音楽が好きだったわ。音楽を聴くこと、演奏すること、演奏を見ること。そんな私を知っているお父さんとお母さんは、私のわがままに精一杯付き合ってくれた。楽器を買ってくれて、いろんな場所に行って、いろんな音楽で感動したけど、それはお父さんとお母さんのおかげで出来たことよ。だから、今度は私がそれを返したい……と思ってね」

「……なぁ、それは今しかできないことなのか?」

「お母さんがちょっと体を崩してね。お父さんがそれを支えようと必死に仕事をしているけど、まだちょっと足りないみたい。だから、集才学園の誘いが来て、超学戦闘の内容を知ったときはすぐさま乗ったわ。まだ高校生だから、できることはバイトしかない。それよりかは、『優勝賞品』の方が助けになるんじゃないかなと思ってね。まぁ、そんな理由よ」

 ……よし、この願いならいいだろう。

「なるほど、わかった。じゃあ、まずはそれだな」

「それって?」

 納得したような顔で俺は立ち上がり、背伸びをする。沙無はそんな俺に質問をした。


 ……ああ、そういえば誰にも話してなかったな。

「おれが『優勝賞品』で叶える願いの一つだよ」

「え?」

「あー実は、俺はその『優勝賞品』にはまるで興味が無い。だが、せっかくの権利だ。さすがに使わないのももったいないし、その願いをかなえる奴にも申し訳ない。だから、自分以外の誰かの願いを叶えようと思ってな」

 沙無はそれを聞いて、きょとんとした顔になった。頭の上にハテナマークが浮いてそうだ。

「……あなたはそれでいいの? なんでも叶うのよ?」

「そんな『チートを使って人生楽する権利』なぞいるか。そんなもんは、『自分ではどうしようもない願い』に使うもんだ。まぁ、あいにくと俺にそんな悩みは無いからな。ただ、条件がある」

「条件? 何でもはやらないわよ」

 沙無の目が一気に訝し気になった。そんなに信用ないかぁ? 俺。


「さすがにそんな条件は出さねえよ。条件はな、『俺の仲間』になることだ。こちとら、この学園に来て何もわかっていないからな。総智は情報通で良い奴だが、超学戦闘には興味が無いらしい。だから、ランク3のあんたに戦闘についていろいろと教えてもらいたいんだよ」

「まぁ、確かに悪い話ではないわね。願いについては?」

「もちろん、俺が優勝したら『沙無 音美の願いを叶えたい』と言う。多分、前例はないだろうが大丈夫だろ」

 沙無は目を瞑って、数秒間熟考。何か罠が無いか確認しているんだろう。もちろん、そんなものは無いが。

 そして、目を開いた沙無は。

「わかった。あんた……広世ひろせ 賢治けんじの提案に乗るわ。あんたを優勝させてあげる」

 覚悟を決めた声と表情をしていた。


 こうして、夕暮れの橙色の光が部屋を照らす中、その約束が交わされた。

 一人は願いをかなえるために。一人はただ楽しむために。

 

「はっ、沙無に『させてあげる』じゃない。俺の力で優勝するからな。そこは間違えんじゃねーぞ」

「ふっ、その優勝するための力の元は私じゃない。なら、私が優勝させてあげる、で間違ってないと思うけど?」


 そのオレンジ色の誓いは——


「なら見とけよ、『音響学王』」

「それじゃあ見ててあげるわ、『雑学王』」


 最後まで、破られることは無かった。


一応、これで1章終わりです。

2章は……予定は未定。

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