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集才学園の頂点へ  作者: blanker
一章
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九話・『今、俺ができる精一杯』

 一階の戦闘から逃げた後。俺は三階を目指し、階段を上っていた。

 吐き出す息は荒く、心臓の鼓動も極度の緊張感によってとても激しく脈動している。

 聴覚はもう頼りにならない。信用できる感覚は、視覚と振動を感じる触覚だけ。

 そのため急に後ろから撃たれることを警戒しながら、できるだけ早く階段を駆け上がっていく。

 しかし、何の襲撃も無いままあっけなく三階へ到着した。だが、油断せずにすぐ近くの部屋に隠れる。

 扉を閉めて安全を確保するが、奇襲されることを考えるとまるで安心できない。厳しい様子で左右の扉を警戒しながら一人呟いた。

「——くそっ、これからどうすればいい?」


 俺はあと一発撃たれたら終わり。相手は音を消し、どっから攻撃されるかわからない神出鬼没の能力の持ち主。しかも、こっちは攻撃系の能力は無い。一か所に隠れていたら、いつか奇襲を受けて撃たれる。こっちから奇襲をかけようとしても、逆に奇襲をかけられる可能性が高い……。

 整理すればするほど絶望しかない状況を再確認し、思わず厳しい顔になる。

 こんな時にも時間は刻一刻と経っているのだ。その間にも沙無はこっちに向かってきている。それを認識しただけで、焦りが積もり考えがまとまらなくなっていく。

 こっちの手札は少ない。相手はジョーカーあり。そして、『常に相手が先に動ける』……。

(……だめだ。こっから逆転する方法が見当たらない)


 それでも俺は『勝つこと』を諦めずに、『勝つ方法』を考えていた。

 確かに状況は最悪だ。

 しかし、俺は『まだ負けていない』。

 だったら、勝負を諦めるわけにはいかない。

 あの『約束』に誓ったのだ。

 『最低限、最高の結果を目指す』……と。


 なら、今ここで諦めるのはまだ早い。

 諦めるのは勝負が終わった後だ。

 まだだ。まだ終わっていない。

 終わっていないのなら。


 深呼吸をし、一言。

「最低限、最高の結果を目指せ。……そうだろ?」

 と、脳裏にあいつの顔を思い出しながらそう口ずさむ。

 ちょっとだけ頭が冷静になり、焦りが僅かに小さくなる。しかし、今はそれだけで十分だった。

 覚悟は決まった。後は、実行するだけ。

 目の前の扉への警戒は怠らずに、呼吸を整える。目を細めてゆっくりと集中していく。

 正直、沙無に見つかるまでの時間はあまりない。大体2分持てば良い方だろう。それまでに勝利への道を探り出さければ、俺の……負け。

 だけど考えるのは得意だ。というかそれしか能がない。

「——だったら、やることは一つだよな」


 これから一分で『逆転する方法』を見つけ、二分後、逆転する。


 あるかどうかはわからない。しかし、見つけるしかない。

 それなら見つけて見せよう。無いなら創造して見せよう。

 それが、『今、俺ができる精一杯』だ。


「……『自問、自答クエスチョン・アンサー』」

 静かに、そしてある種の決意をにじませながら。

 俺は、友人の超学能力を発動した。



 


 

 私は二階の廊下から、一つの扉を『音響消滅サウンドアウト』を使用し無音で開けた。

 部屋は無人。隅々まで探しても、広世ひろせとかいうやつはどこにも見当たらない。

「……ここもハズレ」

 油断せず銃口を扉に向けながら、そう呟く。しかし、その声には疲れが混じっていた。

 まあ、毎回毎回奇襲を警戒し、いつでも反応できるよう集中して扉を開けるのだ。そりゃあ疲れるだろう。

 でも、そうしないとこっちがやられる。

 それがわかっているからこそ私、『沙無さな 音美おとみ』はここまでの超学戦闘に勝ってきたのだ。

(奇襲しかできないもんね、私。その分奇襲だけは完璧だけど)

 少し警戒を緩めて、そんなことを考える。


 この『音響消滅サウンドアウト』は、暗殺・奇襲・潜入『しか』出来ない能力だ。

 『音を消す』というのはこの三つを行うときはかなり重宝する。しかしそれ以外、例えば正面から立ち向かう剣道等に似たルールだと、まるで役に立たない。

 ただ『相手から聴覚を奪う』だけなため、そもそも相手の視界に入った時点で発動する意味が無くなるのだ。

 そのため私の勝敗は戦闘ルールでかなり左右される。その分、この〈銃撃戦〉などの『隠れて良い』ルールだったら、勝率は100%だ。


 だから、私はこの戦闘はすぐに勝てると思っていた。二階と三階を繋ぐ階段での戦闘までは。

 転ばせたと思ったら、一瞬で体勢を立て直して攻撃を防ぐなんてまね、指輪の力によって反射神経が上がっているとはいえできるものではない。

 あの時、私は『敗北の気配』を感じ取ったのだ。

 今まで幾度となく感じた、『敗北の気配』を。 


 そのため、今は本気であいつを警戒している。どこから来ても大丈夫なように。

(ま、奇襲で私に敵うはず無いか。例え後ろから来ても対応できる自信あるし)

 だてにランク3じゃない。後ろからの銃弾を反射だけで避けるなど、私にとってはあまり難しいことでは無い。

 それでも慎重に、少しずつ計画を進めていくのが私のスタイルなのだ。

「さて、お次に向かいましょうか——」

 そう言って、扉を開けて廊下に出ようとした瞬間。



 上から、何やらガラスが割れるような音が二回聞こえた。



「——っ!?」


 瞬間的に、正面の窓に銃の照準を向ける。


 が、五秒立っても何も起こらなかった。

 疑問に思いつつも銃を下に向け、警戒を解く。

「……何だ、窓から降りてくるとかではないのね」

 しかし、あいつが二階より上にいることは確定した。

 ならば、すぐさま叩くまで。

 私は迷うことなく、『音響消滅サウンドアウト』で足音を消しながら三階への階段へと走っていった。


 あのガラスの破砕音の正体はすぐにわかった。

 階段から三階の廊下へつなぐ道一面に、窓の破片が散らばっている。向こう側の廊下へは、まず飛び越えられるような距離ではない。

 恐らく『複数の音を同時には消せないだろう』という魂胆なのだろうが……。

 この状況を見て、私は思わずため息が出た。

「はぁ……。甘い、甘すぎね。こんなの障害にもなってないわ」

 私が消せるのは『一つの種類の音』だ。『風船が割れる音』と指定すれば、たとえ何百個と風船が割れようと相手に音は伝わらない。『ガラスが割れる音』と指定すれば、音を出さずに何の問題もなく渡れるだろう。

(……正直、ちょっと失望したわね。こんな浅い知恵しか出ないなんて。さっきの気配は勘違いかしら?)

 そう考えながら、ガラスの道を『音響消滅サウンドアウト』を使って通り抜けていく。


 この能力の一つの欠点は『自分にも音が聞こえなくなる』こと。私自身もガラスの音が聞こえなくなるが、それの方が『能力が正しく使用できているかどうか』確認しやすい。現に今、私にガラスが割れる音は聞こえてこない。しっかり発動している証拠だ。

(さて、先ほどみたいな『横部屋からの奇襲』は警戒されているでしょうし、今度は廊下側から奇襲をかけましょうか)


 二階での奇襲方法と同じように、部屋を一つずつクリアリングしていく。まず扉に少しだけ力を入れて開くかどうかの確認。その後右手に持った銃を扉の先の中央に向けて構えておき、その体勢のまま左手で扉を突撃するように素早く開けて部屋に入る。もちろん『音響消滅サウンドアウト』は『扉の開閉音』と指定し、移動するときのみ『自分の足音』と指定しておく。

 これでクリアリングを『完全なる無音』で行うことができるのだ。


 1回目。2回目。3回目。4回目。

 どれも外れていくが集中を切らさずに突入し、一つ一つの部屋をクリアリングしていく。移動したら扉の音でわかるだろうから、今自分がいる部屋から逃げ出すことはできない。あいつはもう袋のネズミだ。

 そう考えながらの5回目。いつも通り扉をほんの少しだけ押そうとするが、なぜか開かない。


 私の緊張感が、急激に張り詰められたのを感じた。

(……ここね。ここにあいつがいる)


 基本的にここの扉には鍵をかけられない。開かない扉があったら、それはあいつが扉にもたれ掛かっているということ。家具で扉を塞いでいるという線は、ここまで何かを動かす音が全くなかったことから却下。もしそうだとしてもこの部屋にあいつがいるのは確定だろう。


 突入するのは、あいつが扉から離れた直後。こんなに近いのだから足音は聞こえるはずだ。


(決まったわね。これで詰み)


 少し口元がにやけるが、緊張を緩めるのはまだ早い。


 すぐさま目を細めて、音に集中する。


 



 ——どんな音も聞こえない、完全なる静寂。しかし、数秒後にその静寂は破られた。



 扉の向こうから聞こえる、二つの足音によって。


 

 それを聞いた瞬間、沙無は左手でドアノブを捻り銃口を前に向けたまま突入する。



 扉の先にいるであろうの人影に向けて、姿を確認する前に引き金を引く。



 そして、『一発目の無音の弾丸』は振り向こうとする広世の背中に着弾する。







 ————『はずだった』。



 目の前にあるべき人影は、目の前に無く。



 当たるべき弾丸は、何も無い空気中を通り抜けていく。



 そして、沙無がそのことに驚愕する前に。




『左から放たれた二つ目の弾丸』が、沙無の頭を直撃した。




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