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集才学園の頂点へ  作者: blanker
プロローグ 集才学園、入学。
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プロローグ 前編

「第13回全国高校生クイズ大会! いよいよ決勝戦です!」

 スピーカーから出力される司会者の声と、観客の叫び声が会場に響き渡る。観客席の前と後ろにある、大きいモニターには回答席に座っている二人の男子高校生が映しだされていた。

 一人は爽やかな印象を受けるイケメンだ。興奮と緊張が入り混じった笑顔で座っている。

 もう一人は少し癖毛の黒髪、誰かを見下すような目つきをしていて、表情は少し退屈そうだ。……そんな俺、広世賢治ひろせ けんじが映っていた。


「ここまで残った強者! 一人目は、古海努こうみ つとむ君です!」

 赤いボタンが設置されている回答席。そこに座っているさわやかイケメン男子が、観客席に手を振るのが横で見える。

「決勝戦への意気込みは?努君」

「いやあ、まさか決勝まで来れるとは思いもしませんでしたよ」

 嘘つけ。ここまでほとんど一人だけで回答して、余裕オーラかましてたくせに。

「でも、せっかく決勝まで来たのですから、優勝目指して頑張ります!」

 明らかに優等生っぽいセリフを吐きながら、努は喜々として質問に答えた。

「はい、熱意のこもった意気込み、ありがとうございました! さて、二人目は今大会初参加にして、決勝まで上り詰めてきたダークホース! 広世賢治ひろせ けんじ君です!」

 そう言って司会者が俺にマイクを向けてきた。

 あーどう答えよっか。特に決意とか無いんだよなあ。まあ、正直に答えようか。


「えー、まあはい。ささっと優勝しますので。よろしくお願いします」


 とてもとても正直な気持ちを、さらっと宣言した。

 すると、観客席はいったん静まり返り……大爆笑が会場を包んだ。隣の努君は、少し不機嫌になっているようだが。

 司会者はあきれ顔になりながらも、先に進めようとする。

「あーうん。自信に満ち溢れた言葉ありがとう。それでは気を取り直して、決勝戦のルールを説明いたします!」

「決勝戦はシンプルに3回勝負! つまり、2回正解したほうの優勝です。もちろん、早押しになっていますので、先に押されてしまわないように注意してください」

 3回勝負か。いいね、緊張感がある。

「さあ、二人とも準備はよろしいでしょうか?」

「いいですよ」

「大丈夫、OKだ」

 目をいったん閉じ、ゆっくりと深呼吸をする。

 右手の指先をボタンに軽く乗せ、集中を高めていく。

 薄く目を開くのと同時に、問題が始まった。

「わかりました! それでは第一問!」


『日本で市販されているパンは、袋に入れられて販売しています。では、食パンの袋口を止めている、青い付属物の正式名称はなんでしょう?』


 問題を聞きながら集中していき、視界が狭くなっていくのを感じる。一秒一秒の速度が遅く、まるで水の中にいるような世界の中、俺は正解への思考の道を探す。

 感覚的には5秒間。答えのかけらを掴んだ瞬間、ためらいなくボタンを押した。

「おぉーと! 早い! 早すぎるぞ賢治君! 問題を言い終わってから1秒も経っていない! もしかして焦ったのかぁー!?」

 司会者が何かをまくしたてているが気にすることはない。思い浮かんだ答えを言う。

「バッグ・クロージャーだ」

 答えた直後、ピンポーンという、正解のBGMが高らかに鳴り響く。

「正解! 回答が余りにも早い! これは本当にささっと優勝してしまうのか!」

 しっかし、この司会者も喋るの早いな。

 横を向きながらそう思っていると、隣の努君がにらんできた。怒って問題を間違うことを期待し、どや顔っぽくにやりと笑って見せる。

 しかし、期待した顔とは逆に、落ち着いたように表情を和らげて、顔を前に向けた。

「このまま終わってしまうのか! 第二問!」

 こっちも慌てて前を向き、問題に集中する。


『アメリカ合衆国初の大統領、エイブラハム・リンカーン。そして有名な「人民の人民による人民のための政治」という言葉が出てきた演説の、演説時間は約何分だったといわれている?』


 ……何分か?

 ダメだ、事前情報が全くない。流石にその演説は覚えているが、時間なんて全然わからない。そもそもリンカーンがアメリカ初の大統領なんて今知ったわ。

 これはパスだな……

 そう思った瞬間、隣から回答の音が聞こえてきた。

「約3分です」

 またもや、正解のBGMが鳴り響いた。

「正解っ! 今回は、努君の正解です! これでわからなくなってきました!」

 今のは完全に運が悪かったな。あれは無理だ。そう自分に言い訳しながら隣を見る。

 こっちを向く努は、肉食獣のような、ぎらついた挑戦的な目をしていた。


 ……OK、わかった。

「さあ、ついにラスト問題です!」

 そっちがそのつもりなら、こっちも……()()()()やろう。


『1975年。エポック社から、日本で初めて家庭用ゲーム機が発――』



「テニスゲーム」



 この時点で、ボタンを押し即座に答えた。

「「……え?」」

 隣とスピーカーから驚く声が漏れ、


 ピンポーン♪


 静まり返った会場に、正解BGMだけが流れる。

 次の瞬間――


「「「「おおおおお!!」」」」

 ファンファーレとともに、観客の叫び声が会場を満たす。

 その歓声を聞きながら、俺は少し後悔していた。

 また『頂点』になってしまったと……





 大会で優勝した翌日、俺は授業中の教室にいた。周りが必死にノートをとっている中、俺はぼんやりと窓の外を眺めていた。黒板からチョークが立てるカカッ、という音が急に聞こえなくなる。

 ……どうした? 何かあったのか?

 少し不思議に感じ前に視線を向けると、まだ途中の数式が書かれている黒板と、こちらをにらんでいる数学教師と目が合う。

「広世。今は授業中だ。しっかり前を向いて授業を受けろ」

 そんなふうに注意されるが、完全に無視し窓の方を向く。ため息が聞こえ数秒後、黒板からまたチョークの音が聞こえてきた。

 やれやれ、諦めたか。ちょっと諦めが早いとは思うが、俺には良いことだ。そんなふうに考え、油断していたら——

「よし、広世。この数式を解いてみろ。これが解けたら、授業は聞かなくていい」

 そんな声が聞こえ、そちらに向かって目線を上げると、数学教師が完全になめているような目でこっちを向いていた。『お前には解けないだろう?』そういっているような目だ。


「……」

 無言で立ち上がり、黒板の前まで歩く。先生から白いチョークを受け取り、黒板に書かれている数式を一瞥する。

 見たところ、まず高校2年生レベルの問題では無い。どう考えても、俺たちが解けるような問題ではないだろう。流石に少し考える。

「どうした? 解けないのか?」

 左からそんな声が聞こえた。いつもならそんなわかりやすい煽りには答えないが、今回は別だ。

「違う。ちょっと『思い出していただけ』だ」

 答えると同時に、チョークを黒板につけ、数式を解いていく。文句を言われないよう、途中式もしっかりと。そして、何も迷うことなく答えまでたどり着いた。


 ——こんなの、昨日の大会に比べれば簡単すぎる。


 解を黒板に書き終わり、チョークの粉を手から落としながら自分の席に戻る。

 座った後、数学教師から困惑した声が耳に届いた。

「……おい、広世。これ、どうやって解いた?」

「はぁ? 『思い出した』つったろ? 1年の頃からその数式を勉強していた。それだけだ」

 答え終わった後、またぼんやりと窓の方を向く。

 学校じゃあやりたいことができなくて暇なもんだったから、さっさと3年の分まで勉強していたが正解だったな。

 俺が言った回答に教室と数学教師は大きくざわついていたが、俺の心は冷め切っていた。


 ——つまらない。これくらいじゃ本気になれない。


 そう考えながら、俺は明るい外を眺めていた。




「はぁ……またこれも終わっちまったか……」

 授業が終わり、高校からの下校途中。夕暮れが周りの家々や道路を、オレンジ色に照らす中。俺はゆっくりと歩きながら、ぶつぶつと独り言をつぶやいていた。

 理由はただ一つ。あのクイズ大会に優勝して『しまった』からだ。

「たった『三ヶ月』で頂点とるようなもんにはまってんじゃねえよ俺……」


今まで俺は、たった一つしかない人生を最大限楽しむために、ある信念をもって日常を過ごしてきた。

それは、「何かをやろうと思ったことは、最低限、最高の結果を出すように努力する」こと。

ある時はゲーム。その次は将棋。お次はナンプレと。いろんな分野にはまり、そのたびに今できる最高の結果を目指して、努力してきた。

 その努力している時の『成長していると感じる時・勝つか負けるかの綱渡り』が、俺にとって一番楽しく、最高の瞬間だったからだ。


しかし、やり始めたことのほとんどが、毎回1年以内で終わってしまう。

ゲームは大体全国10位まできたら。将棋は全国高校大会優勝。ナンプレは最高峰の問題を初見で10連クリア。

ここまできたら、次にどんな問題や課題や挑戦者が出ようとも「成長」や「緊張感」は感じないだろう。その地点まで来たら、また他の分野で1から出直す。それをずっと続けてきた。

別にやめたことをもう一生やらないわけではないが、また情熱が復活することは一回もなかった。

そして高校生2年生になって、また1から挑戦した分野。


それが「クイズ」だった。

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