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82章 この戦いは戦士しか必要無い


 82章 この戦いは戦士しか必要無い


 白槍公は戦後、国民達の軋轢を残さぬように尽力しておられる。

 それ故に復讐の騎士は単独で行動する。

 

 巨神となった指導者が地面を揺らしながら歩いている。

 その足元に集るのは鉄の巨人と、指導者に煽られた衆愚共だ。


 空を舞う竜の戦士達を薙ぎ払おうと腕を振り回し、それによって地面や岩が砕け散る。

 撒き散らされた破片はそこかしこに撒き散らされ、敵味方構わず頭蓋を砕き、押し潰す。

 

 復讐の騎士は1人、隊列を離れ、それらを睨みつける。

 数が増えてきた、とけたたましい声を聞きながら舌打ちをした。

 

 1人では精々、先走った愚か者を各個撃破するのが精一杯だ。

 地面に打ち捨てた死体を乱雑に蹴り飛ばし、おざなりに隠す。


 獣が来れば儲けものだ。

 奴らにけしかけられる、と血の臭いを隠さずに血振りをする。

 

 反乱軍の進行方向、その真横にある森。

 姿を隠しながら、悠々と大地を揺らす奴らを観察する。


 あれらを皆殺しに出来たら、どれ程、気が楽になるだろうか。

 反乱軍らだけでは無い。王国民という物を全て殺せたら。


 多少は溜飲が下がるだろうか。

 それだけだ。

 

 拾われ、治療までして頂いた。

 その恩を仇で返す事だけが心苦しい。


 剣を振る音が背後から聞こえた。

 地面を転がり、攻撃を避ける。


 復讐の騎士は相手の踏み付けを受け止め、思い切り突き飛ばした。

 相手がよろけた所で距離を取り立ち上がる。

 両手を上げ戦意が無い事を示す。

 

 その装い、鎧は王国騎士、第9領の装いだ。

 だが主の、白槍公の規律正しさを示していた装いは些か、くたびれ崩れているように見えた。

 

「その装いで背後からの不意打ちは不味かろう。抵抗はせぬから正面から切り捨てたらどうだ」

「この有様でそれは通るまいよ。こちら側にも仲間意識くらいはある」

「……何?」


 眼の前の騎士が反乱軍の死体を剣で指しながら言う。

 復讐の騎士は剣を構え直した。

 

 背後からの不意打ち、という時点で疑うべきだった。

 白槍公の騎士と言えば誇り高さと愚直さで有名である。

 

 そして何より、大巨人が撒き散らす土や岩の破片が降ってくる状況で、

民を守らずして配置を外れる筈も無い。

 

「貴様……」

 

 復讐の騎士の恫喝に敵が自らの正しさを主張する。

 

「勘違いするなよ。これは必要な事だ」


 戦乱を乗り越え、巨神を殺し、白槍公閣下は英雄になる。

 

「英雄無き国に英雄を、閣下を王に。その為に戦乱を煽ってきた。それが忠義の騎士たる我が忠義よ」

「抜かせ」


 これ以上は聞く耳持たぬと、復讐の騎士は切り捨てた。

 兜の奥にある目を睨めつける。


「貴様は唯の反逆者だ」


 復讐の騎士は思い切り死体を敵に向かって蹴り飛ばした。

 忠義の騎士が死体を振り払う。


「そして俺は閣下の意志にそぐわぬ殺人鬼。どちらも所詮、羽虫でしか無いわ!」

「ほざけ!」

 

 森の中でぶつかり合う剣の音は竜の咆哮と礫に掻き消される。


 ●


「問題無い」

 

 そう竜の族長は言った。

 差し出された手を取り、白槍公は竜に乗る。


 頭を防護する被り物を手渡された。

 槍を背負い直し、教えられた通りに身に着ける。

  

 第9領の騎士達は何も言わずに盾を掲げた。

 軽く手を上げ任務に戻るように促す。

 

 後ろから宝剣公の静止の声が聞こえてきた。

 後は任せる、と言うと竜が強く羽ばたく。


 白槍公の館。

 バルコニーの横に付けられた竜が空を駆け、先んじていた戦士達を追う。

 

 太陽が海面から離れ、大陸を照らしている。

 天を貫く火柱が、雷を伴う幾つもの竜巻が、その中で戦う皇帝が見えた。

 

 近くを飛んでいる竜の戦士達が手を振る。

 白槍公はぎこちなく手を振り返した。

 

「我ら勝利の言を預かる者。敗北は無い」

 

 竜の羽ばたきに負けぬ声で族長が叫び、戦士達がそれに答えた。

 投げられた槍が雨のように降り注ぐ。

 

「者共、これが3柱が御照覧ある我らの初舞台ぞ!」

「蛮族共っ!」


 指導者が蝿を追い払うように腕を振る。

 巻き起こされた風を切り裂き、礫が飛んでくる。


 指導者の巨体を盾にしながら地面に向かって炎弾を放つ。

 鉄の巨人、そして反乱軍の雑兵の怒号が上がる。

  

 彼らは怒りを覚えている。

 指導者の言った、奪い続けられる夢では無い事に怒りを覚えている。

 

「!」

 

 指導者の口が光り、爆音と共に海面に巨大な水柱が立つ。

 放たれた光弾は竜の足元を通り過ぎ、海を破裂させた。

 

 掴みかかる掌を避け、族長が指導者の頭に向かって槍を投げる。

 それは鉄の体に小さな穴を開ける程度で、致命傷には至らない。

 

「思い切ったな兄上ぇ! 英雄を外から借りるとは!」

「馬鹿な弟を持つと苦労するものよなぁ! 何だこの有様は!」


 残光を零しながら指導者が吼えた。

 負けじと白槍公も槍を投げ返す。


 指導者の体から蒸気が吹き上がり、ガシャガシャとした金属音がけたたましく連続して鳴る。

 白槍公が投げた槍が、剣に変形した腕に弾かれる。

 

「見事だろう! 研鑽無く、英雄無き国の成れの果てがこれだ!

無知で、恐れしか無く、英雄を蔑ろにした有様がこれだ!

故に! 選ばれし人間が立ち上がれば一瞬で瓦解する!」

「蔑ろにしているのは貴様もだ篝火公ぉ! 文明の叡智に選ばれたなどと本気で言っているのか!」


 白槍公の叫びにグツグツと指導者が人ならざる声で笑った。


「……篝火公、篝火公、篝火公」


 嘲るように指導者が自身の軍を見る。


「皮肉よなぁ、奴らは羽虫か。否定出来ぬわ」

「貴様!」

 

 白槍公の言葉に指導者が声を被せる。

 地面、否、反乱軍を指差しながら叫ぶ。

 

「本気も本気よ! 遺跡に踏み込んだ瞬間に叡智は私を主人と認めた! この体がその証!

この地を這う無知共を導く指導者として、永遠に続く夢を齎す者としてな!」


 我慢ならぬと身を乗り出そうとした所で竜が急上昇する。

 急いで族長の腰にしがみつき、体勢を整える。


 戦場の音が遠ざかる。

 指導者の頭の上、礫も届かぬ高所で白槍公は頭を冷やし呼吸を整える。


 白槍公は改めて地上を見る。


 歩を進める雑兵達、後詰めの戦士達の表情に指導者に対する嫌悪は無い。 

 あれだけの暴言を吐かれても尚、反乱軍の戦意は落ちず、全てを奪おうと歩いている。


 領主の首を切り、商人を吊るし、遂には無辜である筈の自分達でさえ犯し、撲殺する。

 永遠に湧く金貨、正義、尽きぬ餌食、自分達だけの特権。


 彼らはそんな夢の中を歩き続けている。


「……!」

「白槍公」

 

 飲まれかけた白槍公に族長が何かを言いかけた、その時だ。


『本気で言っているのか?』


 声と同時に指導者の足元で爆発が起き、何人かが礫に貫かれた。

 反乱軍の雑兵達が唖然とした表情で動きを止めた。


 竜の戦士達が槍投げを止め、事態を見守る。

 巻き起こされた爆煙と土煙が晴れる。


 白槍公は身を乗り出し、地面に目を凝らす。 

 反乱軍を巻き込んだ爆発と攻撃、戦場に混乱とどよめきが広がる。

 

 鉄の巨人の何人かが礫を打ち出す鉄の筒を指導者に向けている。

 

『王や戦士ですら狂気に飲まれ、頼れるのは寄せ集めの生き残り』


 指導者の足元に立つ鉄の巨人。

 爆炎と炎の中、くぐもった声で言った。


『そんな状況で』


 巨人の頭の中に帝国の戦士が座っているのが見えた。

 五体満足、その体は何処も喰われてはいない。

 

『こんな御大層な武器が、選ばれし誰かの為に仕舞われていたと』

「事実としてやる! 貴様らに勝利してな!」


 鉄の巨人の腕から礫が放たれ、血飛沫が幾つも上がる。

 裏切り者を踏み潰そうとする指導者の足に反乱軍が巻き込まれる。


 事態を理解し、恐怖が伝搬した反乱軍の悲鳴が上がる。 

 蜘蛛の子を散らすように、もつれ、踏み付け、雑兵達が逃げ惑う。


 ●


 リアルタイムチェック開始。


 残弾、60%。

 当機修復率、40、50、60%、依然上昇中。


 搭乗者の身体スキャン開始、戦闘の形跡在り。

 武器の所持を確認、銃器無し、刃物在り。


「では何の為か。知る必要は無い」


 脳波スキャン、周囲スキャン。

 周囲に暴徒、暴走機体を確認。


 対サンダルフォン巨大戦闘機、コキュートス。呼称変更、指導者。

 搭乗者を避難民と認定。


 現状を悪魔、天使の魔力案件と認定。


「選ばれた者? 永遠に続く夢?」


 マニュアルプログラム展開。

 オート戦闘プログラム展開。

 

 指に引き金をパイロット。

 私の名前は対アークエンジェル戦闘保護輸送機、ジュデッカ。


「戯言に縋って死ね」


 当機は貴方の安全と敵の殲滅を約束します。



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