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78章 契約者


78章 契約者


「マズい」


 そう言ってアスモデウスが狩人とラファエルを引っ掴んで窓を蹴破った。

 ラファエルの怒声が小さくなっていき、木陰がそれを追いかける。 

 

 ●

 

「流石は王の1人。手口は筒抜けか」

 

 銀灰の身長よりも少し低い高さの鰐の上。

 アガレスがしゃがれた声で何かを呟くと、がらん、と床に何かが落ちた音がした。


 太刀持ちが武器を手から滑らせた。

 拾い上げようとするも、急に重量が増したのか持ち上げる事が出来ないようだ。


「何が……!?」

 

 太刀持ちの驚きを他所に忍冬が弓を引くとべきり、と真ん中からへし折れる。

 必要以上に弦を引きすぎたように見えた。

 普段の忍冬ならば有り得ない事だ。

 

「……」

「成程」

 

 太刀持ちが急いで防具を次々と取り外していく。

 忍冬が自分の剣を太刀持ちに渡し、床に落ちた太刀を拾った。

 ドワーフ用に鍛えられた重量のある太刀を軽々と持ち上げる。


「あいつらが逃げたのは正解だったな」

「ほんとに」

 

 忍冬が器用に太刀を真横に振る。

 多少、ぎこちないながらも戦闘に支障は無いようだ。

 踊るような足捌きでアガレスと対峙する。


 鰐の尾が振り回され、柱や壁を破壊する。

 壁が破壊されても尚、魔法陣は光り輝いている。

 鰐が蜥蜴のような素早さで銀灰達に襲いかかってきた。


 鰐の牙と尾を避けながら、忍冬が徐々にアガレスを押し始める。

 ドワーフの膂力で振るわれる、エルフの素早い剣がアガレスの攻撃を潰していく。


 素早く振り、素早く返す。 

 時折、体を回転させ縦の軌道を描くも基本的には真横の軌道が多い。

 

 太刀持ちは自身の武器の間合いを判っているのか飛び込まない。

 時折、振りかぶりすぎた忍冬の隙を埋めるように行動している。

 だが防具を外した為、どうしてもその動きは消極的だ。

 

 人型は同士討ちを避けるべく後方で控えている。

 岩の肌や竜の鱗を持たないのであれば、あの中に飛び込むのは自殺行為だ。


 慣れない動作を行わず、堅実に仕留める行動が仇になった。

 錆びついた甲冑のような連携が続く。

 

 体力が切れた後、来るべき反動を狙っているのだろう。

 身に余る力が何の代償も無しに扱える筈も無い。

 アガレスは攻撃を避ける事に専念している。

 

 判っていながらも攻撃を続けるしか無い。

 反撃しなければ死ぬだけだ。

 

「……」

 

 人型が地面に落ちている小石を拾い、軽く握る。

 特に変化は無い。

 

 銀灰も同じように石を拾う。

 軽く握っただけの筈だが、石は音を立てて砕けた。


 剣戟の音の中、銀灰はじっと暗闇を見る。


 ●

 

「詰まる所、契約者とは我々の最終手段だ」

「……ほう」

 

 共和国。

 指導者の館にある練兵場。 

 

 明日に備え、全員が寝静まっている中、旗手は海を見ている。

 炎に巻かれず生き残った巨人が辺りを徘徊している音が聞こえてきた。

 

 旗手の隣に一瘤駱駝が立っている。

 その上に乗っているのはドレスを着た美女と見紛う男だ。

 

 パイモン。

 悪魔の王。

 旗手が契約した悪魔だ。


 パイモンが旗手に語りかける。

 何処か不快さを滲ませた表情だ。

 

「人間相手であれば魔術で操れる。悪魔人間であれば血で操れる。

ならばわざわざ我々が貴様らと契約を結ぶ意味は?」

「悪魔にとって有用であるが……、制御出来ない人間」


 旗手の言葉にパイモンが鼻を鳴らした。

 正解、と言う事だろう。


 かつて学んだ王国の歴史を思い出す。


 悪魔に操られない人間。

 歪から這い出した異形達に立ち向かい、勝利できる人間。

 

 爵位が高い高貴な血筋の人間、爵位の高い悪魔の血筋の悪魔人間。

 そして――。


 ●

 

 武器や防具がいつもより軽い。

 感覚は冴え、悪魔の動きも追える。

 

 アガレスの能力は場に居る全員の能力の入れ替えだ。

 アスモデウスが逃げ出したのも頷ける。

 この場に居れば最悪、アガレスがアスモデウスの力を得ていた事だろう。

 

 そして今、銀灰の体にはアガレスの能力が宿っている。

 今ならドワーフの剛力やエルフの射撃よりも強い攻撃が出来ると確信した。

 悪魔人間よりも強靭な肉体も手に入っている。

   

 そして恐らく魔法も使えるだろう。

 ジリジリと体温が上がり、何かの奔流が体を飲んでいく。

 奇妙な感覚のまま、掌をアガレスに向ける。 


 そして、自分の剣を握った。

 

 銀灰はアガレスを睨みつけ、太刀が振り切られた直後に斬りつける。

 強すぎた踏み込みで前につんのめりながらも振った剣はアガレスの腕で受け止められた。

 

 感心したようにアガレスが言う。

 

「使っていれば綺麗に破裂して死ねたというのに」

「だろうと思ったよ」

 

 言葉と同時に剣が弾かれ、距離が空く。

 

 ブンディ・ダガー。

 持ち手が刀身と垂直になった、王国で主流の剣。

 手首までの覆いが着いたそれは、握りに訓練や知識を必要としない事に特化した作りだ。

 

 歪から現れた何かが齎す狂気は誰も彼もを襲う。

 そして狂気から逃れられる人間に玄人と素人の区別は無い。

 

 銀灰にはドワーフのような剛力も無ければ、エルフのような精密射撃も出来ない。

 悪魔人間のような強靭な体も無く、悪魔のように魔法も使えない。


 だからそこでは競わない。 

 競るべきは。


「……!」


 確実に次の手に繋げていく堅実さ。

 

 忍冬が大きく真横に太刀を振る。

 銀灰は姿勢を低くしながらアガレスに向かっていく。 


 太刀の下をくぐりアガレスに向かっていくと、待ち構えていたかのように鰐の顎が開かれている。

 銀灰の顔の真横を太刀が走る。


 鰐の口内に切っ先が突き刺さり、そのまま強引に振り上げられた太刀が鰐の上顎を真っ二つにした。

 振り抜きと痛みで鰐がのぞけ、のた打ち回る。

 アガレスが息を呑む声が聞こえる。

 

 がらん、と忍冬の手から太刀が落ちたのと、鰐が滅茶苦茶に暴れ始めたのは同時だ。

 急いで忍冬を引っ張り屋敷の奥へと逃げる。

 残り少ない壁が全て粉砕される。

 

 アガレスが鰐を治療する為に術を解いたのだろう。

 忍冬の手袋を脱がせ、水筒の水で痙攣する手を冷やす。

 術が解けた以上、長居する必要は無い。


 無茶苦茶に振り回される尻尾を掻い潜って動いたのは人型だ。

 床に落ちた太刀を太刀持ちに向かって蹴り飛ばす。

 

 アガレスが太刀に向かって光弾を放つ。

 無茶苦茶に暴れる鰐の上で放たれた光弾は天井を撃ち抜いた。


 崩れ落ちる天井の破片の間をすり抜ける太刀。

 静かに立つ太刀持ち。

 その手に武器が戻り、太刀持ちの目が見開かれる。

 

 持ち主の手に戻った太刀はその本領を遺憾無く発揮する。

 縦に一閃。

 ぶつり、と音を立て、太刀持ちが柱よりも太い尻尾を断ち切った。


 切られた尻尾が壁にぶつかる。

 怒りに開き、太刀持ちを喰らおうとする鰐の顎が無理矢理閉じられた。


 飛び上がった人型が鰐の上顎に着地し、踏みつける。

 そのままの勢いで前のめりにアガレスへ飛びかかる。


 人型の握られた右手の甲。

 王冠とドレスを身に着けた女の紋章が赤く光り、人型の拳がアガレスを撃ち抜いた。

 

 一瞬の静寂。


「王の契約者が相手では、……否」


 アガレスが何かを言いかけ、口を噤む。

 赤いヒビがアガレスの体に、鰐に広がり、徐々に体が砂と化す。


「見事」


 アガレスの体が完全に崩れ落ち、砂が破壊された壁からサラサラと飛んでいく。

 魔法陣が消える。


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