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40章 救世主


 40章 救世主


 太刀持ちがラファエルを拾ってから移動した先。

 森の東、打ち捨てられたエルフの居住地は王都の影響か、植物の捻れはほぼ無く、血生臭さも無い。


 木からぶら下がるように作られていた建物が幾つか地面に落ちていて、

朽ち果てていたり、植物に呑まれていはいたが、雨風が凌げそうな程度には残っていた。

 

 ここは今、怪我人や疲労した傭兵達の為の拠点となっている。

 太刀持ちは建物の入口で敵が来ないか見張りをしている最中だ。

 

 軽傷であったり、疲労から回復した傭兵達が火を起こし、湯を沸かしている。

 戦闘で浴びた体液を手早く拭い、不要になった服を燃やす為だ。

 病や呪いなどに蝕まれない為の処置である。

 

 翼をもがれた痛みと傷から自前の力で回復したラファエルが、

ブツブツ言いながら魔法で怪我人を癒やしている。


 癒やしの天使の名は伊達では無いという事かと太刀持ちは感心した。

 全員の治療が終わったようでラファエルが文句を言いながらこちらに近付いてきた。

 

「全く、私が何故このような」

「まぁそう言うな、皆お前に感謝している」

「神に! 感謝なさい神に!」

 

 私をこのように作り給うたのは神なのですから、とラファエルが言う。

 それでも、と返すと複雑な顔をして黙り込んだ。

 

 がさり、と茂みが揺れた。

 新たな怪我人か、と思ったが、それにしては足音がしっかりしている。

 そして何より防具の音が聞こえない。


 違和感に気付いたエルフやドワーフの傭兵達の視線が鋭くなる。

 太刀持ちは剣をいつでも抜けるように構える。

 

 茂みから出てきたのは緋色の服を着た60程の男だ。

 手には金属の棍棒を持っている。


 場違いな仕立ての良い服に傭兵達がどよめく。

 

「あの服は」

「……我が国の礼服ですね。それも教会の管理者の」

 

 傭兵の声に答え、ラファエルが翼を広げた。

 男がラファエルの足元に跪く。


「我々を討ち滅ぼしに参りましたか」

「はい」

 

 男の質問にラファエルが答えた。

 

「ですがその前に問いましょう。貴方はここで何をしているのです」 

「御使よ。我々の狼藉をお許し下さい。私は自らの信仰に殉じているだけなのです」

 

 男は教祖と名乗った。

 名乗った後、教祖は立ち上がり、ラファエルから距離を取る。


「そして、聖母とならば私の信仰と目的も果たせると信じております」

 

 刺激を伴う悪臭。

 教祖の後ろから猟犬が湧き出す。

 

 傭兵達が武器を構えた。

 ラファエルは顔色一つ変えず再び問う。

 

「再び問おう。貴方はどの様な信仰を示し聖者の列に並ぶ」

 

 襲いかかる猟犬を砂に変えながらラファエルが教祖を見た。

 太刀持ちは怪我人達を守るべく、建物の内側、入口を塞ぐように立つ。

 

「列福列聖などに興味は無い。私は聖母と共に登り詰め」

  

 教祖がラファエルの問いに答える。

 

「人間、悪魔人間、異教異端の人々。かつての救世主のように、全ての人を救うのだ!」

 

 教祖の叫びに合わせて一斉に猟犬が飛びかかってくる。

 太刀持ちは剣を抜かず、鞘に収めたまま思い切り振り回し猟犬を叩き潰す。

 

 外に居た傭兵達が盾を構え、各自の背中を守るように固まる。

 太刀持ちは太刀を抜いた。

 

「……嫁と子供と、皆で住む家」

 

 うわ言のように呟いた太刀持ちの言葉に教祖の目が向けられる。

 片刃の太刀、反りの無い直刀に太刀持ちの顔が映り込む。

 

「男一人、それで手一杯。俺はそれすら守れなかった」 

 

 太刀の切っ先を教祖に向ける。

 鏡写しのように棍棒の先がこちらに向けられた。

 

「貴殿もそうなのだろう」

 

 教祖が棍棒を掲げ、太刀持ちは低い体勢を取る。

 真正面から顔を齧り付こうとした猟犬の口を貫く。

 

 まだ生きているそれを太刀を振り教祖に投げつける。

 狭い入り口の近くに立つ所為で、猟犬達が一斉に飛びかかれず、まごついているのが見て取れた。

 

 逃げ場の無い、狭い場所での戦闘はドワーフの望む所である。

 洞窟の中の戦いこそドワーフの華である。

 

 地道に1匹づつ猟犬を減らしていく。

 敵を突き殺し死体を素早く投げ捨て、次に備える。

 これはその為の武器だ。

 

 猟犬は外に居る傭兵達へと狙いを変える。

 太刀持ちと教祖が相対する。


 そうしたら、私の行いによって信仰を見せてあげよう。

 そうしたら、私の行いによって信仰を見せてあげよう。


 二度の聖句の後、空気すら淀んで固まった森に風が吹き込んだ。

 

 太刀持ちの姿が一瞬消え、大地が地で濡れた。

 教祖の体が倒れる。

 猟犬達が騒がしく吼えながら森の中へ消えていった。

 

「……御家族は」

「……」

 

 太刀持ちの背にラファエルの質問が投げかけられる。

 皆まで言わぬ質問に、太刀持ちはあえて別の答えを返した。

 

「どうあがいても俺は天使とは相容れん。4文字なぞどうなっても知らん。だが」 

 

 妻は信じていた。

 

 そう言って太刀持ちは血振りをした後、太刀を収めた。

 ラファエルが黙って胸元で十字を切った。 


 ●


 最後の深きものと対峙する。

 連れていた取り巻きの半分は焼けて灰になり、もう半分は人型に撲殺された。

 その光景を見ても尚、最後の男がこちらに立ち向かう。

 

 間合いを取ると炎に焼かれると判ったのか、人型に張り付くような形で近接戦を挑んでいる。

 人型としても好都合で、攻撃を避ける為に必要な距離は取りながらも拳を、蹴りを放ち続けていた。

 だがあまりにも意固地すぎる、と人型は舌打ちをした。

 

「すっごい今更だけど全滅するまで続ける気!? 降参する気は無い訳!?」

「……」

  

 元より、ただで済ませ海に返すという選択肢は消えていた。

 何も答えないのならばそれでいい、と人型は攻撃を続ける。

 深きものも同様に鉤爪で攻撃を仕掛けてくる。 

 

「神の眷属だ」  

「何!?」

「お前達とは違う悪魔に怯えるお前達とは違う死なない怯えない幸福だ俺は神の眷属になったんだ死なない死なない死なない」

 

 深きものが腕を振りながら呪詛のように呟き続ける。

 殴られすぎて錯乱したかと腹に蹴りを叩き込み、広がった間合いを詰めようとして動きを止める。  

 

 男の雄叫びと足音が1人分、耳に入ってきた。

 大樹での戦闘が激しくなっているのかと思ったがそうではない。

 それはこちらに近付いてきている、と人型は警戒を強める。

 

「おおおおおおおおおおお――!」 


 叫び声を上げながら男が茂みから飛び出してきた。

 見覚えのある顔、西側から森に入った悪魔人間の内の1人だ。

 

 どっぷりと血を浴びた男は、その辺の木をへし折って手に入れたであろう生木の棒を持っている。

 驚き、動きが止まった人型を側に引き寄せ、アスモデウスが手をかざすが、

男は人型達に目もくれず深きものに向かって攻撃した。

 

 深きものの腹に生木が突き刺さる。

 人型が見たのはそこまでだ。


 アスモデウスが手で人型の目を隠す。

 引き剥がそうとするも、凄まじい力で何とも出来ず、悲鳴と粘着質な音が耳に入る。

 

 手が退けられ、視界が取り戻せたのは悲鳴が聞こえなくなってからだ。

 目の前にはグチャグチャになった深きものの死体とそれをじっと見ている男がある。

 凄惨な光景を見たであろうアスモデウスの顔が渋くなっていた。

 

「あー、あーあー……、拙者流石にドン引きなんだけど」

「そりゃ良かったよ」

 

 アスモデウスの手から離れ、ううう、と唸り声を上げる男を抱きしめ、宥める。

 暫く背中をトントンと叩いていると落ち着いたのか気絶し、倒れ込んできた。

 男の体をアスモデウスに預ける。

 

「あー、悪い、こいつ頼む。俺は別行動」

「ん? そっちは?」

「あっちー」


 そう言って人型は大樹を指差す。

 何やら事態が進んでいないように見える。

 先に行った狩人が心配である、と言うとアスモデウスが溜息を吐いた。


「ま、気を付けてよ」

「言われなくても」


 そう言って2人は別行動を始める。

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