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36章 参戦


 36章 参戦


 狩人達は酒場の一角を借りて話し合いをする事にした。

 新たに加わった顔に――天使は口を開かなかったが――自己紹介をしてもらった後、

それぞれ離れていた間にあった事を報告し合う。

  

「纏めよう」


 木陰が率先して話を纏めていく。

 

「バルベロやダゴンの出現は魔術師のせいであり、

どういう理屈かは判らないが冥界への異変が起きていた」

「そして、世界の滅亡を目論んでいたって訳ですねぇ」


 木陰の言葉を忍冬が引き継ぐ。

 それぞれが互いに頷いた後、視線は天使とアスモデウスに向いた。


「そうなるとお前らが判らない」

 

 2人は今聞いた事が信じられないのか、あんぐりと口を開けて固まっている。

 この様子では事態を知らなかったように見えるのだが、

それならば何故、こちらに攻め込んできたのか。


「その、魔術師ってさぁ、人間だった?」

「……? そうだな、見た限りではそう見えたが」


 木陰の言葉にアスモデウスが深く息を吐いた。


「ラファエルちゃんさぁ、これマズくなーい?」 

「黙れ判っている」 

  

 意図が掴めず狩人達は顔を見合わせる。

 ごほん、と咳払いをして天使が名乗る。

 

「私の名はラファエル。能天使の指揮官をしております」

「の、能天使?」

「……最前線で悪魔と戦う天使達です。

貴方が1番目にする機会の多い天使でしょう」 

 

 嫌味な声に人型が鼻を鳴らしながら顔を背ける。

 険悪な雰囲気を吹き飛ばすべく、狩人は話を進める。

 

「あー、じゃあそいつと戦っててここまで飛んできたの?」


 アスモデウスを見ながら狩人が聞くと、ラファエルは首を横に振った。


「いえ、今回はダゴン討伐の為にこちらに来ていました。

国境を超える際、彼に話を着けている最中に」

「ちょっとからかったら戦争状態になっちゃった、てへ」

「何してんだお前」


 木陰が容赦無くツッコミを入れ、狩人は頭を抱える。

 とんだ迷惑を被ったものである。

 話をする気力が一気に削がれたが何とか堪えた。

 

 疲れを回復させるためか、一同それぞれ勝手に飲み物を口にしている。

 そう言えば、とアスモデウスの羊の頭を撫でながら人型が聞く。


「悪魔の国の連中は動かない訳ー?」

「動く訳ねーでしょマイ契約者。悪魔が出て人死んでなんて日常茶飯事ですしー?

今回の件だって、7人の王全員が所詮些事って認識だった訳で」


 その言葉に酒場で聞き耳を立てていた連中がどよめく。


「誰がマイ契約者だふざけんなよこの状況で?!」

「それでも動かないんじゃなーい? まぁ色々あんのよ」


 いつの間にか手の中に現れた陶器の器で茶を啜りながら、アスモデウスが肩を竦めた。

 ラファエルがそれに疑り深い視線を向けながら宣言する。


「戦況次第ですが我々はダゴン、バルベロ討伐に参加しますよ。

流石にこのまま帰る訳にも行きませんしね」

「あらやだ、意外にやる気?」


 再び戦いが勃発しそうであったので狩人は戦況を聞く事にする。


「まずダゴンとバルベロけど、まぁここは順当にバルベロの勝ちですね。

やっぱり陸地じゃあ不利なようで、最初の見立通り、4、5日で負けるでしょうね」


 地図を出しながら忍冬が説明する。


 悪魔の国を中心とした地図には細かく街や森の場所が書かれている。   

 今いる街から北西が遺跡があった場所である。

 そこで両者互いにぶつかり合っている。

 

「流石にバルベロの方も無傷って訳には行かないようでしてねぇ」

「そうか」


 忍冬の意味深な視線を流しながら木陰が話を続ける。


「巣に戻って休んだ頃が叩き時か。実際戦う連中がどう判断するか知らんが」

「巣というと」


 太刀持ちの言葉を受け木陰が今いる街から北にある森を指差す。

 誰もが言わずとも理解した。


 バルベロに奪われたエルフの森だ。

 木陰が懐かしそうな目で言う。


「今は、どうなっているのかな」

「まぁ、まともな森じゃあ無いですよ」


 木や草はねじ曲がり、おぞましい生き物と化している。

 森の中の動物は猟犬やバルベロと一体化し、原型を留めていない。

 そのような場所になっていると忍冬は言った。


「じゃあ巣に戻る前に攻撃するのか?」

「そこら辺はなんとも……、生き物にさえ気をつければ地形自体は変わってませんし」


 何故そんなことを知っている、という風に木陰の視線が厳しくなる。


「入ったのか?」

「少しだけ」


 皆が呆れた顔で忍冬を見るとウインクを返された。

 皇帝に振り回される文官や武官はこんな気分だったのだろうか。

 今日はもう早く寝たい。 

 

 だが最後に確認だけは済ませよう、と狩人が木陰の顔を見上げると言い辛そうに目を逸らした。


「あー、その、何だ。さっき報告した件もあるし、奴はエルフの仇でもある。

が、今の立場で勝手な事をしない程度の分別はついているつもりだ。

……その、お前ら、どうする」


 狩人、人型、太刀持ちが顔を見合わせた後、にやりと笑った。


「そうか」


 木陰が笑い、4人が軽く拳をぶつけ合う。 

 それを見た忍冬が馴れ馴れしく木陰と肩を組んだ。

 

「いやー、嬉しいなぁ! 妖精王の親衛隊と肩を並べられるなんて! 夜も奢りますよ!」

「太刀持ち、思う存分食べていいぞ」

「わぁい」

「!?」


 冗談交じりに立ち上がった太刀持ちに忍冬がしがみついた。


 ●


 数百年、数千年も殺し合いを続けていれば、いい加減に飽きてくる。

 今、2人がこうしているのは腐れ縁や馴れ合いのようなものだ。


「それで」

「それでって?」

「とぼけるな、7人の王が動かない? そんな訳無かろうが」


 夜、皆が寝静まった頃、2人は宿の屋根で互いに向き合っていた。

 ラファエルは白湯に口を付けた後、アスモデウスを見る。

 贅沢にも茶を啜るその顔はどこ吹く風、といった風だ。

 

「悪魔の頂点であるルシファーや怠惰のベルフェゴール、

大戦争の後、封印されたサタンならいざ知らず、

海を縄張りとするレヴィアタンすら動かないとはな」 

「あー、まぁ、そう思うわよねー」 

「それで?」


 気色悪い喋り方をしながらくねくねと身を捩るアスモデウスから目を逸らしラファエルは話を進める。

 悪魔の言動にまともに付き合っていては疲れるだけであるし、

ともすれば堕落の危険性も孕んでいる。


 能天使、ラファエル率いる彼らは常に悪魔と相対する役職である。

 それ故に誘惑も多く、堕天使になる者が多い。

 悪魔や悪魔人間に対する当たりが強いのは必然であった。


「いや、我々天使と悪魔でしょ? 話しても信用されないというか、自分でも信じられないと言うか」

「こっちで判断する」

「ベルゼブブはバアル・ゼブルに、レヴィアタンは怪物に、ルシファーはアッタルに戻りました」


 アッタル。

 ウガリット神話における明けの明星の神。

 猛々しき者と呼ばれる戦神であり、バアル・ゼブル不在の間、

玉座を乗っ取ろうとするものの力量不足とされ冥界に落とされた神。

 ルシファーの原初の姿である。


 ラファエルの手の中で杯が音を立ててひび割れる。

 みっともなく機嫌取りに菓子を寄越してくるのを贅沢であると断り、

ラファエルは眦を釣り上げたまま質問をする。


「それで? 百歩譲って真実だとしてどうやって知り得た?」

「バアルの方は、ほら、向こうで悪魔を呼び出して契約するのが流行りじゃない?

それに乗ってみた訳よ。呼び出した人間は気に食わなくて殺したけど」

「ツッコまんぞ」


 ちぇー、と口を尖らせながらアスモデウスが話を続ける。


「まぁ、その流れで戦場で暴れてるバアルを見かけたって訳。何あれメッチャ怖い」

「レヴィアタンは?」


 この前の王の会議の時だと言った。


「魔術で深海にいても会話できるんだけどさ、

駄目だね。もうね、全っっっっっ然話通じねぇの。確かに嘘しか吐かない奴だったけどさ」

「……そうでは無いと」


 冷酷無情。

 嫉妬を司る悪魔であった頃の多情さは消え失せ、

神の言葉通りの怪物となり、ただひたすらに獲物を探していたと言う。


「ルシファーは」

「おんなじ。前の会議の時に玉座に堂々と」

「いつ頃変化したのかは」

「流石にそこまでは。まぁ、バアルが出現した時くらいかなーとは」


 その推論に異論は無い。

 だが大きな疑問は残っている。

 

「いきなり王がすげ変わって何もしないのか」

「まぁ、悪魔って基本、戦闘向きじゃないのよねー。

そりゃヒトよりは強いし軍は持ってるけど本来は堕落させたりさせなかったりがお仕事だし。

吾輩、職能淫奔だし。い、ん、ぽ、ん」

「喧しい」


 真面目さが5秒も続かない男である、と眉間を揉み解す。

 ラファエルはヒビから染み出してきた水をハンカチで拭き取り、新しく杯を出そうとするが、

アスモデウスが白湯がなみなみと注がれた杯を出した為、渋々受け取る。

 

「残りは」

「言ったって強欲と怠惰でしょー? この調子だと怠惰も戻りそうだしねぇ」

「バアル・ペオルか」

「強欲の奴は財産さえあればいい奴だし。

あとサタンの動きが読めないからあんまり消耗したくないのよ」


 サタン。

 憤怒を司る悪魔、と言うのは後世の後付である。

 本来の役目は神の敵対者。

 その役目に何の意味があるのか、4大天使であるラファエルですら知らない。


「10年前に地上に現れたと聞いたが」

「結局、あの後また地下に戻ったみたいだしねぇ。何がしたいのか」

「さあな、私より前に作られた天使達に関しては判らない事が多い」

「んー、そっかー」

 

 ラファエル先輩なら何か判ると思ったんだけどなー、とアスモデウスが気持ち悪い視線を寄越す。

 舌打ちをしながら白湯を飲む。


「んーで、天使さん達はどうすんのよ? ダゴンはあの通りの有様なんだけど」

「そうだな……」


 主義主張は横に置いておいても現状は危うい。

 ともすれば本当に世界が滅亡しかねない。

 預言を覆し、大戦争を生き延びた人間という生き物の意志の力を軽んじる理由は無い。 


「ダゴンが勝手に死ぬなら死なせておこう。

そしてバルベロ討伐に参加する。乗せられているようで癪ではあるがね」

「あ、そういう事ならこっちも真面目にやるわ」

「最初からやれ」

 

 そうなると、とラファエルは今使える戦力を思い出す。

 悪魔、悪魔人間、エルフ、混血、人間。

 こんな内容だっただろうか。

 

「能天使ではなく天使達を呼ぶ」

「え、あの人形みたいなやつ?」

「ああ」

 

 天使、主に国境を守護するだけの、意志の無い人形。

 共同戦線を張る以上、意思を持ち余計な諍いを起こしかねない能天使は却って邪魔だ。

 ならば最下位の天使を幾つか借りた方が余程良い。


 魔術で作った伝書鳩を飛ばし、撤退と交代を命じる。

 能天使と鳩はバサバサと羽ばたいた後、迷うこと無く真っ直ぐと天使の国へと飛んでいった。


「あとはその魔術師って奴? そいつも一緒にいたらいいけど」

「皮算用はするべきではないな。バルベロに注力するべきだ」

「へいへい」


 つまらなそうにアスモデウスが茶を呷った。



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