表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/107

15章 悪夢


 15章 悪夢


 朝方、部屋を訪れた侍従長が、奇妙な事を言った。


「何だと?」


 文官は素っ頓狂な声を出す。

 侍従長が同じ言葉を繰り返した。


「その子、暫くそっちの部屋で預かってもらえないかい?」

「それは、構わないが」


 ベッタリと抱きついてくる少女をそれとなく剥がそうとするが剥がれない。

 小さいながらもかなりの力で文官にしがみついている。


 文官の記憶では、自分は少女達に余り好かれていないように記憶していたし、

そうだろうと納得もしていたが、それ所では無い事態なのだろうか。


 引き剥がすのを諦めて文官は侍従長に事の次第を聞く。


「何があった?」 

「どうも悪い物に目を付けられたみたいでねぇ」


 侍従長曰く、ここ最近、毎晩のように悪夢に魘されているという。

 内容までは分からないがとにかく怖い夢であるそうだ。


 最近、ゴタゴタしていた為、疲れているのだろうと気にも留めていなかったが、

今朝方、右手の甲に奇妙な模様が現れた為、改めて相談に来たと言われた。


「これか」 


 文官は少女の手を取り目を凝らす。

 鳥の紋章。


「……これは、鴉か?」


 狩人の物とは違い、しっかりと見なければ判らない程、薄い色であった。

 一見しただけでは治りかけの痣だ。


 聞けば、悪魔が気に入った人間を連れて行く際に、その証として紋章が現れるらしい。

 特にエルフはその美貌から連れて行かれる事が多いそうで、逃げ切った人間もいるが、極稀。

 大半は逃げ切れ無いと聞く。

 

「判った、暫くこちらで預かる。陛下に相談する」

「済まないねぇ、アンタも忙しいだろうに」

「問題無い、他の子供には?」

「出てるのはその子だけだね。全く、迷惑な連中だよ」


 必要事項を互いに伝えた後、侍従長が部屋を出る。


 まだ離れない少女をなんとか剥がし、ベッドの場所や生活に必要な物がある場所を教える。

 火は使わないように厳命し、文官は外出の準備をする。


 それを見た少女が不安そうな顔をした。


「あ、どこに」

「仕事」


 目に見えてしょぼくれた少女を見て思わず口に出す。


「……一緒に行くか?」


 その言葉に少女の顔が輝いた。


 ●


 帝国の南部には文明の跡がまばらに残っている。

 恐らく建物に使われていたであろう鉄の棒や、壁だと思われる石の固まりがそこら中にある。


 そんな中にぽつんと1つだけ、木で出来た家がある。

 時折、尖った破片が地面から出ているので少女を背負ってそこに向かう。

 子供というのは持ち上げられるのが好きなのか、うきうきと背中に乗ってきた。


 揺れる足を見て、そう言えば別の少女の靴も小さくなっていたな、と思い出す。

 背中の少女はガラクタが珍しいのか、あれは何これは何とはしゃいでいる。


 そうしていると建物の前に着く。

 扉をノックすると中から処刑人が出てきた。


「お? 珍しい顔だな」

「こんにちは」

「ん、こんにちは」


 少女と処刑人が挨拶を交わす。

 まあ、入れ、と促され建物に入る。


 最低限の物しか置いていない簡素な部屋であった。

 椅子もテーブルも無い。


 ただ、雨風を凌ぐだけの建物であった。

 少女を降ろし、扉を閉める。 


「それで、何の用だ?」

「南部について。陛下に聞いたらお前に聞いたらいいと」


 処刑人の目がすっと細くなる。

 こちらを値踏みするような目を向ける。

 空気が少しだけ冷えたような気がした。


「……陛下は何て?」

「お前が使うような話は処刑人に聞け、と。ってか俺当時5歳だぞ、と」

「あー、うん、あー、そうか」


 そうだよなぁ、と納得したような様子を見せ、処刑人が何度も頷く。

 まぁ座れ、と促されたので、文官は適当な場所に座る。 

 文官が座った後、少女が膝の上に座る。


「重い」

「気のせい!」

「何だお前その程度も重いのか」


 処刑人が呆れた顔をした後、暫く口籠りゆっくりと話し始める。


「俺が話せる内容ってのもそんなに無いんだが……。

そうだな、俺達は南部の第6領の小さな村に住んでた」

「それは守秘義務で?」


「いや、本当に判らん。だから私見も入るんだが……。

まぁいい、俺は領地の処刑人、陛下は同じ村の餓鬼だった、白湯でいいか」 

「ああ、済まん」

「ありがとー」  


 礼を言ってそれを受け取る。

 処刑人も湯を飲みながら話を続ける。


「特に何かが有る訳でも無い、畑ばっかりの村だ。

作ったモンは税として収めて、その後は国境や首都に送られる。

まぁ、別段、何がという事も無い」 

「そうだな」


 だが、と処刑人が言葉を続ける。


「あの年は酷い不作と流行り病が同時に来た。

作物も病にかかってな、畑の幾つかは使い物にならなくなった」


 嫌な事を思い出したかのように処刑人が顔を歪める。


「何の対策も無かった」 


 減税も免税も無く、例年通り税を取り立てていったと言う。

 馬鹿な、と思う間も無く、処刑人は話す。 


「税は何人か見繕って奴隷商人に売り飛ばした金で払った。

口減らしも出来て丁度良かったしな。

だがそれでも足りなかった。食料が尽きて、森の中の物も取り尽くし、

木の根や虫を採っても足りなかった。そして」


 処刑人が言いかけて何も言わなかった。

 少女の手前、言えなかったのだろう。

 恐らく、最終的な所まで、行き着く所まで行ってしまったのだ。


「そして冬が来て俺達の村は壊滅した訳だ」


 処刑人が肩を竦めて冗談めかして話を終えた。

 場の雰囲気に飲まれないように湯を口に含む。


 どう考えたものか、と聞いた内容を頭の中で整理する。

 当然であるが文官は先王に会った事が無い。

 聞こえてくる話はあるが、人格的な総評を下す程には知らない。


 改めて話を聞く必要があるな、と文官は諸家の顔を思い浮かべながら、処刑人に質問をする。


「先王は」


 言いたい事を汲み取ったのか処刑人が悩ましい顔をする。


「……判らん。無能だったのか余程あちらの方がのっぴきならない戦況だったのか。

あん時は悪魔の国と決着が着かないのにイライラしたもんだが今となってはな」


 実物を見ると、あれはとんでもないな、と締めくくった。


 天候不順で王国が不作という事は恐らく、大陸全土がそうだったのだろう。

 ならば食糧目当てに悪魔の国から軍が送られてきてもおかしくはない、否、絶対送っている。

 あそこはそういう国だ、と文官は頭を軽く振った。


 そして話を続ける。


「契約者については?」


 総代が孤児を連れてきた時にそれらの話は聞いていた。

 悪魔と契約を結んだ人間が反乱軍に与していると。

 そんな方法があるのかと驚いたのもそうだが、契約を結びたい人間が居るというのも驚愕だ。


「連中が追われてたってのは俺もこの前知った話だ。

まぁ、悪魔なんぞ呼ばれたら国が立ち行かなくなるって懸念は判らんでも無いがね」


 渋い顔で処刑人が言う。


「いや、待て、そもそも」


 だがそんな術を何処で知ったのか、文官の頭にはその疑問が浮かんでいた。

 質問をする前に処刑人が答える。


「市井の噂でそんな話があった。

儀式と生贄で悪魔を呼んで飯が食える、みたいな、まぁ、ありがちな話だな」

「ん……?」


 ふと、文官は違和感を覚える。


 だが正体が掴めずそのまま黙り込む。 

 処刑人がじっと少女の方を見ている。


 文官もそれに合わせて目線を下げる。

 見ればすうすうと少女が寝息を立てている。

 文官の太腿を枕にして丸まっている。


 寝辛いだろうに器用なものだ。

 処刑人が少女の頬をぷにぷにと突付く。


「まぁ、面白い話でもねぇしな」

「最近、眠れていなかったようでな、……重い」

「我慢しろ」


 処刑人がこちらを見てニヤニヤと笑いながら毛布を投げてきた。


 ●


 今日はいい天気だ。

 仕事を一段落つけ、バルコニーから帝国を見下ろしていると、足取りも軽く進む生薬を見つけた。


「よう、仕事か?」

「陛下」


 こちらに気付いたようで、生薬がバルコニーを見上げた。

 声を掛けた後、飛び降りる。

 生薬が跪こうとするのを止め、皇帝は話を続ける。


「邪魔なら場所を移すぞ」

「いいえ、今日は侍従長さん達と料理を、

ですのでそのまま御平らに」

「……諜報は? つかお前ちゃんと寝てる?」


 顔色が悪い事を指摘すると恥じ入るように答える。

 こっそりと手の甲を見るが特に異常は無いようだ。


「実は最近」

「そうか」


 ヴェールで視線は誤魔化せたのか、特に不審がられずに話は続く。


 帝国に来た最初の頃は何やら情報を集めていたふうであったが、

最近ではその動きも見られず、滞在を楽しんでいるようであった。


 こちらとしてはそれで問題は無いのだが、仕事はしなくて良いのだろうかと不安になる。

 少し考えた後、生薬がその質問に答える。  


「えぇと、どこから……、我々は王家に仕える諜報員です」

「うん」

「ですがまだ王国は次の王を決めていません」

「うん……?」 

「ですので、下手に継承権の有る方々と接触すると大変不味い事に」

「……あー、うん。大きい所は大変だな」


 王家に忠誠を誓っていると示す為の立ち回りなのだろう。

 何処の家にも肩入れせず、王家だけに情報を渡す。

 そうでなければ諜報などやっていられない。


 それ、今やるか? とは思うがそこはそれ、国ごとの違いなのだろうと皇帝は勝手に納得する。


「最低でも喪が明けるまではこのままかと」

「そういうもんか」

「はい」

「あ、それと」


 皇帝は最後にもう1つだけ聞く。


「話せるならでいいんだが、13年前、先王は何を警戒してた?」


 思いもよらぬ質問だったのか、一瞬だけ目を見開いた。

 深く考え込んだ後、申し訳無さそうに言う。


「……すみません、私には判りません。

頭領なら何か、あ、いえ、話せるかも判りませんが」

「いや、いい、悪かった。行っていい」

「はい」


 静々と生薬がその場を立ち去る。


 それを見送りながら皇帝は考える。

 言えない、では無く判らない。

 年齢的な理由も考えたが、その何かに対策を取る以上、里の中で周知しない理由も無い。


「んー」


 総代の話と照らし合わせて薄っすらと予想は立つのだが、まだ確信が持てずにいた。

 予想は立つが理由が判らない。


 皇帝が確信を持てない理由はそれであった。

 まだ総代は帝国に居る筈なので、改めて話を聞こう、

その後で頭領にも聞いておくかと、考えながら皇帝はバルコニーに戻る。  


 途中で武官を見かけ声をかける。

 妙に落ち込んでいる。


「おい、お前、餓鬼共の見張りはどうした」


 少女の1人に契約者の印が現れた為、悪魔対策として誰かしら見張りに付くように命令していた。

 サボるような人間では無い、何かあったのだろうかと、皇帝は武官に声をかける。


「泣かれたっ!」

「……交代要員は?」


 情けない顔で申告する武官の肩を皇帝は叩いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ