表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/107

7章 諸家と黒騎士


 7章 諸家と黒騎士


「という訳でして」

「ぶっちゃけ帝国を舐め腐ってません?

そこまで言うならこっちは大人しくしますけど」


 思わず率直に言ってしまった言葉を、文官は、失礼、と失言を取り消す。

 根回し無く勝手に建国した立場であるとは言え、公的な礼も無しとは随分と育ちが良い。

 総代が聞かなかった事にしてくれた為、話を続ける。


「しかしそうなると、食糧が」

「高くなりますね、間違いなく」


 南部は王国の補給線である。

 戦場より遠く、大街道が通り、土地が有る。


 そして海に接している。

 食糧供給の要であるのだ。


「情勢から考えても売り渋りますよね」

「ですねぇ」


 王国南部とはどのような土地であるのかを文官は思い出す。


 反乱を収める為に軍が出る、軍を出す為に食糧がいる。

 その為、商人は市場に食糧を流せない。

 しかも不作になるかもしれない。


 高騰する、間違いなく高騰する。


「陛下にも上申しましたが」


 総代が続ける。


「会談の報酬に悪魔の国から食糧が届いていますし、

こちらからも献上、と言う形で幾らか融通します」


「……悪魔の国から」


 文官は少し固まる。


「それ食べれる物ですよね?」

「陛下と同じ事言ってないでさっさと受け取って下さい。あと、勇者パーティーって何ですか」

「え? えーとですね」


 文官は、先日問題となった、人、主に戦闘員を呼び集める為の呼子が必要である事や、

場合によっては将を増やしたい、ということを説明する。


「はぁ、成程、そういう事ですか」


 文官の説明に総代が気の抜けた返事をした。


「悪くはないのではないですか?

戦いは数ですし、武勇で鳴らせば必然的に寄ってきますからね」

「その割には面白く無さそうですが」


「腕の振るい所が有りませんからね」


 背中をぐっと伸ばしながら総代がつまらなさそうに言った。


「目的は悪魔の国の偵察ですか」

「何で判るんです?」

「さてね。後必要なのは遊び所ですかね? 男ばっかりでしょうここ」

「そうですねぇ。酒場はあるんですけど」

「買いません? いい子いますけど」


 先程からずっと文官の背に視線が痛い程、突き刺さっている。

 背後に控える侍従長がものすごい目で睨んでいる。


 内容が内容だからかエルフ達の間で混血児というのは嫌われるものなのだろうかと適当な予想を付けながら、

文官は咳払いをする。


「そこは後ほど、はい」


 そうですか、と、特に期待もしていなかったような声で切り上げられた。


「文官殿は悪魔の国には」

「最近は奴隷を買った時だけですね。

武官達は思い出したく無さそうですし、私も余り記憶がありません」


 騎士、並びに武官は悪魔の国から逃げ出してきた難民だ。

 今から10年程前に騎士率いる難民達が帝国――まだ建国はしていなかったが――に辿り着いた。

 皇帝はどういう経緯か判らないが既に帝国に住んでいて、馬が合い、馬鹿をやる仲になった。 


 考えればこの4人の付き合いも長いものである。


 はて、と言う声が聞こえた。


「文官殿は天使の国出身では?」

「あぁ、私、脱走した奴隷です。悪魔の国に拐われまして」

「あー、はい、あー」 


 気まずそうに総代が目を逸らした。


「結構、こっちに逃げてくる人間も増えましたねぇ。大分、弾いてはいるんですが」


 その為、食糧も人数より多く確保するのが常だ。

 いつ人材が追加されるか判った物では無いし、少女達のように買って来るかも判らない。

 強引に話題を変えると総代が話に乗ってくる。


「この際、もっと厳しく選定してはどうです? この国の貴族も……、あぁ、いえ、失言でした」

「いや、気にしないで勧めたまえ」


 突如割入ったに2人が硬直した。

 現れたのは白髪交じりの髪を1つにくくった、50代程の男性である。

 突如の闖入者に文官の声が思わず鋭くなる。


「ノックもせずに入室ですか、諸家殿」

「失礼、急ぎの用件なもので」


 涼しい顔で謝罪され、それ以上は何も言えなくなる。

 総代が席を立ち、文官に耳打ちをする。


「文官殿、私はこれで」

「……この埋め合わせは後ほど」 

「お気になさらず。……では御二方、私はこれで」

「そうかね」


 興味も無さそうに諸家が返事をした。

 文官の肩をポンポンと叩き、適当な挨拶を済ませると、総代は侍従長に連れられ退室する。


 目線はずっとこちらに向いたままだ。

 2人の足音が遠くなり、聞こえなくなる。

 それでもまだ会話は始まらず、最終的に話を切り出したのは文官からであった。


「それで、なにか?」


 歯噛みしたいのを堪え、文官は努めて平静に聞く。


「あぁ、先日の勇者の件でね」


 緩慢な動作がいっそ憎たらしい。

 そう思いながら文官は表情を崩さない。


「人間側から1人出すそうだね」 

「ええ、これから選定する所ですが」 

「その選定、こちらに任せて貰えないかと」

「何故です」


 場の緊張が更に張り詰める。

 能力に疑いがある訳ではない。

 問題は別。


「昨今の陛下はエルフやドワーフがお気に入りの様子。困るのだよ、我々人間は」


 じっと諸家がこちらを覗き込む。 

 

「常に頂点であるべきだと、そうは思わないかね」


 この男の徹底した人間至上主義。


「陛下は常に公平でいらっしゃいます」

「疑うべくも無い。だから、私が動こうと言うのだ。今、宮中でまともに動ける人間がどれほどいる」


 諸家が言っているのは読み書き計算だけの話では無い。

 騎士、武官、妖精王、鍛冶王。

 皇帝、文官、村長、諸家。 


 人間とそれ以外に分けた場合の発言力のバランス。

 その偏りを危惧しているのだ。


 最終的な決定権は皇帝にあり、狙った人材が選ばれずとも、

選定の役割を買って出る事で人間の発言力を増したいのだろう。 

 文官としてはそこまで偏っては居ないように思えるが、そこは個人の主義主張、諦めて話を進める。


「選定方法は?」

「黒騎士に任せるよ。彼なら住人の内情に明るい」


 本来なら文句は無い。


「何か不足でも?」


 黒騎士。

 帝国の警察権担当であり、そして、諸家の騎士である男である。


「……いいや? よくやっていると思いますよ」


 だから困る。

 何か問題が有れば断れたのに、と内心で臍を噛む。


 その言葉に満足したのか諸家が頷く。

 そして得心を得たようにわざとらしい表情を作った。


「ああそうか。いやいや、この国で今更、

主義主張など虚しいと理解していると、その程度の信頼は得ていると自惚れているのだが」


 そうも言われてはこの場で文官が追求など出来る筈も無い。


「事前に面接しますが」

「勿論」 


 勿体つけたような条件を出すことしかできなかった。 

 

 ●


「それで、そのまま、納得、したのか」

「うるさい」


 そこら辺の木に足を絡ませて腹筋を鍛えている竜騎士に、冷たく返した。

 外にある湖の畔で文官と竜騎士は休息を取っている。


 天候は悪くなく、向こう側では漁が行われていた。

 竜騎士が暫く腹筋運動をした後、木から離れ、湖に飛び込んだ。


 ざぶん、と音を立てて湖から出てくる。

 タオルを投げてやると、乱暴に髪や体を拭いた。


「そんな話、俺にして良いのか?」

「漏らした所でどうなるんだ? 誰に言った所で、え? それで? としかならんだろ」

「それもそうか」


 水筒から飲み物を飲んでいる文官の隣に座る。


「試させるつもりならやめておけ」 


 噎せた。

 肺に入った液体を咳き込んで無理矢理追い出す。 

 荒くなった息を整え、竜騎士を睨む。


「理由は」 

「まず拭け、色々と。……俺にそんな器用な真似はできん」


 先程のタオルを文官の顔に押し付けながら竜騎士が言う。

 涙やら鼻水やらを拭き、文官は気を取り直す。


「只の打ち合いだぞ?」

「只の打ち合いなら別だがね、事情まで話してそれで終わりって訳じゃ無いだろう」


 いきなり図星を突かれ、言葉が詰まる。


「悪辣な事をするとは思わないが……。

大方、適当な欠点を上げて諦めさせるつもりなんだろう」


 バレバレである。

 でっち上げるつもりは毛頭無いが、事が事な為、普段より厳しくしようと思っていたのは事実だ。


「打ち合い中にそんな事を気にしている余裕は」

「わかった、もういい。普通に打ち合ってくれ」

「そうさせてもらう」


 そこまで言われて強行する程、恥知らずでは無い。

 そもそも、戦士として不適切なら竜騎士と打ち合うことすら出来ないのだから、

ある意味、最上の結果になったと言うべきか。


「そいつがどういう戦士で、どう扱うべきかの助言はしてくれるよな?」

「その程度なら造作も無いが」


 頭を抱える文官を不思議そうな顔で竜騎士が見ている。


「……そんなに信用できない男なのか?」

「前は王国貴族で、出奔してきたらしいんだが……。まぁちょっと色々と、これ以上はちょっと」

「そうか」 


 そう言うと竜騎士は大人しくその場に寝そべった。

 まるで興味も無い、という感じだと文官は内心、安堵する。


 湖の反対側では大漁だったらしく、歓声が上がっている。

 漁獲量の書類を作らねばな、と仕事の段取りを考え、諸家の事を思い出す。


 有能な男であるとは思う、と文官は結論付ける。

 だが、信頼できるか、となると別問題である。


 かつて帝国に居た元貴族の奴隷達は諸家に首を取られた。

 理由は皇帝への謀反、確かに証拠も有った。


 だが何故、帝国に来て間も無かった人間がそんな事をするのか。


 媚びる為では無く、かと言って忠節などでは無く、

その意図は何処にあるのかと、考えていた所で視線を感じ、

顔を向けると竜騎士がこちらを凝視していた。


「何」

「少し寝たらどうだ」


 普段なら何かと理由を付けて断っていたであろう提案に、

文官は抗えなかった。


「その調子じゃあ、御自慢の頭も回るまい」

「……一言多い」 


 ブツブツと言いながらも、文官はその場に寝転び、目を閉じた。


 ●


「やはりそう簡単には行かんか」


 夜、執務室で諸家は部下の黒騎士から報告を受けていた。

 蝋燭の炎がゆらゆらと揺れ、狭い部屋の中を照らしている。


 目の前に立つ男は渋い顔をして報告を続ける。


「はい、やはり1番の問題は悪魔の国に対する恐怖心から、そして次に」


 かしゃん、と鎧の音がする。

 黒い髪を後ろに撫で付けた男は、年の割に老けて見える。

 苦労をさせた自覚はあるし、現在進行形でさせている。

 その様子がはっきり見て取れる程に困惑しながら言った。


「学が」

「うん、それは、覚悟していた事だ」 


 国の成り立ちが成り立ちなだけに学があることには期待していなかった。


「いっその事、武力だけの愚か者の方が陛下達にいらぬ疑惑を与えずに済むかもしれないな」

 

 諸家はこの国に来てやったことを思い出し、未だに疑惑の目で自分を睨む文官の顔を思い出す。

 隠しているつもりなのが可笑しく、笑ってしまいそうになった。


「未だに警戒されてしまっているよ」

「それは」


 黒騎士の言葉が詰まる。

 むぐ、と言葉をしまった後、仕方が無い、という風に切り出した。


「新参者が貴族の首を刎ねたのが不味かったと思うのですが」

「陛下を思ったが故の行動なのだがね、あと正確には元、貴族だ」


 黒騎士の言葉を訂正しながら次を促す。


 かつては王国貴族、今では没落し奴隷として総代の商品。

 どういった理由か、彼らは皇帝陛下の下に献上されており、内政の一部を任されていた。

 

 そんな連中を証拠付きとは言え、斬首刑に処したお陰で、

総代からも目の敵にされてしまったと、諸家は薄い笑みを浮かべる。


「陛下に対する謀反の罪でしたね」

「そうだな」

「よくそんな証拠が手に入りましたね」


 黒騎士の言葉に諸家が感慨も無く言う。


「仲は悪くなかったのだよ。同じ王国貴族だった者としては残念な結果になったがね」

「……」

「ははは、怖い怖い」


 青褪めたような顔で寄越される視線を流しながら、改めて目の前のリストに取り組む。

 黒騎士が勇者として推薦できそうな人間を記したリストだ。


「本当に残念だとも」


 哀れっぽい、それらしい声を出す。

 黒騎士が音読したそれを受け取り、目ぼしい名前が無かったリストを蝋燭で燃やす。


 火の着いたそれをギリギリまで持ち、無造作に足元に放る。

 激しく燃えた後、消えていきながら落ちるそれを見下ろす。


「彼らも彼らなりに弁えていると思ったのだが」


 弱者、奴隷として振る舞えず、さりとて、貴族としても振る舞えず。


 火に釣られて飛んできた蛾の末路を見届けた所で、

特に何の感慨も湧く事は無く、その生き様が諸家の琴線に触れる事も無かった。 

 床に落ちた燃え滓を踏み潰す。 


 そして、次のリストに取り掛かる。

 昔を振り返るよりは、選んだ人材にケチを付けられず、文官が悔しがる様を見る方が余程、心躍る。


「しかし」


 諸家は天を仰ぎ、天井よりも上を見透かす様な視線を向ける。


「子供にも判り易くとは難しいものだな」


 皇帝陛下もなかなか酷な命令をする、と乾いた笑みを零した。


 ●


 随分と話し込んでいる、と竜騎士は屋根の上で聞き耳を立てながら思った。

 そして判りやすく噛み砕いて話しているとも思った。

 まるでこちらに説明しているかのような、と思った所で気付いた。


 要はそういう事なのだろう。 

 チッと舌打ちして立ち上がる。

 文官に伝えた所で手に余る手合だ。


 そんな事よりは仕事に集中して欲しい、と言うのが本音であるし、

元よりやる事は変わらないのだ、聞いた所でどうなると言うのか、と竜騎士は無理矢理、自分を納得させた。


「態とらしい」


 気に食わぬ、と独り言て月夜へ消えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ