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6章 各国動静


 6章 各国動静


 帝国の西、悪魔の国との国境沿いの森。


 総代は苔生した岩に座っている。

 その目には、人には見えない丸い光の塊が写っている。


 混血とは言え、エルフ。

 妖精を見る力はしっかりと受け継いでいた。


「さて、どうなりますかねぇ」


 傍目には独り言にしか見えない会話をする。

 ニィと笑う様はこの状況を楽しんでいることを隠しもしない。


「やはり、誰か送るべきでしょうかねぇ」


 そう言って少し考え込む。

 人手不足極まりない帝国に派遣できる人材を脳内で選別する。


 能力のある奴隷というのはなかなかいないし、いた所でどうしようもない厄ネタを抱えていたりする。

 帝国にそれらに構う余裕は無いだろう。


 あの時はああいった反応になったが、奴隷を育てるといった発想は、

商人としては御免こうむるが国として考えるなら悪くはないのかもしれない。

 ふむ、そうすると、と新たに考え直そうとした所で邪魔が入る。


 妖精が騒ぎ出し、目の前から消える。

 陽の光が消え、ずる、という引き摺るような音と共に低い声がする。


「王国へ戻るか」


 ルシファーが目の前に立っていた。


「ええ、暫くは用事も無いでしょうし」


 協定が結ばれ、停戦ともなれば総代の仕事は殆ど無い。

 部下に仕事を投げ、大人しく王国に帰り、金を稼ぐだけである。


「そちらの望みどおりか」

「えぇ、そちらにも悪くない話でしょう?」


 総代は胡乱な目でルシファーを見上げた。


 先の会談を取り纏めた事により、帝国の独立性は高まった。

 今はまだ小さな国であるが、中立である第三者として戦略に組み込まれるだろう。


 第三者の土地と言うのは会談の場所として需要がある。

 帝国の価値を上げる事は総代の利益に繋がり、

悪魔側にとっては、敵対で無い人間の国との繋がりが出来る。


「あの地形は、私にとっても都合がいいですからねぇ」


 四方を山に囲まれた国。

 戦火に巻き込まれずに、商品を保管しておくのには打って付けだ。 


 だからこそ金を注ぎ込み、原住民である皇帝を支持し、支援した。 

 精々、監視役程度に考えていた所を真っ当に国を運営しているのは誤算だったが、

それはそれで継続的な儲けが出る。


 最近、ちょろちょろ鬱陶しい悪魔人間の奴隷商人が目障りだが、

利益の独占では無いと言う言い訳に使えるので放置しておこう。


「それだけか?」

「……貴種というのは需要が高い割に品物が少ない。

当然の事ですがね」


 かつての皇帝、という物に値段が付くように帝国の価値を上げる事は急務だ。

 いざという時の保険は幾つか有るが、何にしても価値を付けなければ意味が無い。


 そう言うと、ルシファーがつまらなそうに鼻で笑う。 


「誇り高いエルフの母君が嘆くな?」


 急に視界が歪み、吐き気がする。

 目の前がチカチカと眩しく光り、頭の中がバラバラになり、

そうであったと無理矢理納得させられそうになる。


「違いますよぉ」


 総代はルシファーの勘違いを正す。


「父が、エルフで、奴隷商です」


 森の中で、迷わずに、どうやって人間がエルフを捕まえられるのか。

 手引きする者が居たからだ。


 金に目が眩んだのか、単なる部族争いだったのか、それを知る術はもう無い。

 とうの昔に死んだからだ。


 ルシファーの笑い声がした。

 哄笑なのか嘲笑なのかまでは判断がつかない。

 ただザワザワと心中を不快にさせる笑い声であった。


 ずるずると引き摺るような音が森中に響く。

 音が止み、森が静まり、陽の光が差し込んだ。

 全く、悪魔というのは隙あらば記憶を改竄して心に付け込んでくる、と総代は溜息を吐く。


 じっとりとかいた汗が不快だ。

 水場かそこら辺の川で洗い流そうと歩く。

 1匹の妖精がふわふわと近付いてくる。


「え? 勇者パーティー? え? 勇者? ……えっ?」


 新たに入り込んだ情報に総代は混乱の迷宮へ叩き落された。


 ●


「自由革命、奴隷解放、聞き覚えは?」

「じゆ……、何ですって?」


 総代はティーカップを持ったまま聞き返す。

 国境を超える際の手続きをしていたら個室に呼び出された。


 しばらく待っていると代官が入室し、いきなり質問される。 

 会談の時とは違い、かなり威圧的だ。


 貴族に仕える人間と商人、立場を考えれば当然である。


「自由革命、奴隷解放」

「……確か、昔見た文明の本にそんな記述が、あった、ような。100年も前の話ですし」

「ちなみにその本は」

「戦で燃えました」


 予想できていた答えとは言え頭が痛くなったらしい。

 代官が眉間を揉み解す。


「あぁ、それが反乱のお題目ですか」

「貴様が噛んでいるかと思ったがな」

「何の得が? 奴隷に代わる商品が有るならともかく」


 奴隷に代わる労働力があり、浮いた人間を他の仕事に回す。

 そうなれば確かに動く金は増えるだろうが、現実、そのような労働力は無い。


「向こうにそれがあるんですか」

「さあな」

「へぇ?」


 総代のような人間の前でそのような言葉遣いをする事はそれ即ち肯定を意味する。

 代官にそれが判らぬ筈は無い。


 そもそも何故そこまで警戒しているのか。

 会談が持ちかけられてから抱いていた違和感は文官との話で疑問と確信に変わった。


「王族の方々が動く程の情報の確度を持ち、尚且つ警戒する人間って限られますよね」


 代官の表情は変わらないが、ハッキリと拒絶の空気を醸し出している。

 総代はその様子に確信を得る。


 事ここに至っても首謀者が判らない。

 だと言うのに王族が直々に動いている。

 つまり、正体を隠す必要がある人物。


「首謀者は第12王子?」

「……」


 沈黙も肯定だ。


「しかし、よく隠せますね。王子は前線に出ないので?」

「口が過ぎるぞ」

「失礼」 


 総代は適当に謝罪をした後、テーブルの上の果物を摘む。

 しかし、それでよく士気が保てるものだ。

 それ程、影響力がある人物だっただろうかと考えようとしたが、後回しにする。

 今は目の前の事だ。


「何故そんな話を?」

「帝国だ。ちょろちょろと嗅ぎ回っているだろう」

「そうでしょうね。王国の情勢は死活問題でしょうし」

「適当な情報をくれてやるから大人しくしていろと、そういう話だ」


 あと少し遅ければ陛下は王国に人を遣っていたぞ、とは思ったが努めて顔に出さないようにする。

 頷くにはまず重要な事を聞かねばなるまい。


「誰の指示です」


 ふん、と鼻を鳴らされた。


「さてな、会談のような小細工に構っている暇は無い」


 恐らく、独断、だが西方公の意には添っている、と言う所か。

 会談の報酬がこの情報なのだろう。

 そしてどうやらあの手の平返しは帝国の差し金だと思われているらしい。


 西方公がどう考えているかまでは判らないが、少なくともそれなりの印象は残せているようだった。

 内心ほくそ笑みながら素知らぬ顔で返事をする。


「成程、伝えておきましょう」 


 向こうがどう判断するかは知りませんが、とは言わないでおいた。 


 ●


 皇帝達は底の広場、城の外で会談をしている。

 これは各種族の長を害す気は無いという事と、長による裏切りは無いという事を示す、

皇帝が即位してからの、明文化されていないある種の取り決めのような物であった。


「で、今回は何が目的じゃい」


 眼の前にいる山のようなドワーフがエールを飲みながら話しかけてきた。

 鍛冶王と名乗るドワーフはゲップ混じりに杯を置く。


「その、勇者? 勇者ってぇのをどうしたいんだお前さん。

戦士を寄越せって訳じゃねぇんだろ?」


 酔っ払っているのか、怒っているのか判らないような目で皇帝を見る。


「まぁな、っといたいた」


 皇帝はあちこちを見渡し目的の人物を見つける。


「つまりだな」


 皇帝は傍を通りかかった少年に声をかける。

 この国では数少ない子供だ。


「そこなガキンチョちょっと近う寄れ」

「あっ、こーてーだ。なー、俺にも字教えてよー」

「あん? 親がいいっつったらいいぞ」


 まぁ、それはともかく、と皇帝は話を聞かせる。


「勇者は罠を仕掛けて待ちます。すると釣られてたくさんの敵がやって来ました。

敵はみんな罠に捕まり、帝国は平和になりました」

「おー……?」


「目の前には大勢の敵が居ました、

勇者がその場にあった剣を振ると敵はみんな真っ二つ、帝国は平和になりました」

「ゆうしゃ、すげー!」

「こういう事だ」

「判ったような判らんような、よく判らん」 


 鍛冶王が顔を顰めながら頭を掻く。


「つまり」


 す、と別の声が割り込む。


「英雄を作り、威光を知らしめ、人を集める準備をしたいと」


 物憂げな視線をこちらに向け、妖精王と呼ばれる男が皇帝の言いたい事を纏めた。 

 その仕草で村の女達が黄色い声を上げている。 

 鍛冶王が自棄酒のようにエールを飲み干す。


「けっ、相変わらずいけ好かん。

あんな細いののどこがいいんじゃ、なぁ騎士」

「ははは」


 鍛冶王の言葉を騎士は朗らかに笑って流した。

 どうでもいいがこの2人が隣り合うと、筋肉量が物凄く密である。

 2人の言葉を無視して妖精王が続ける。


「森の中の戦いは重要では無いと?」

「重要だし、親衛作るくらいならそっちに回す。

だがそりゃ王の考えだ。俺達の武勲を子供にも判るようにしなけりゃならん、ってのが今回の肝だ」

「その考えが王のそれだと言うならば仕方がありませんね。

ええ、常に王とは理解されないものでありますし、ふっふふふふ」

「喧しいわ残念王」


 得意気に興奮し納得する妖精王に鍛冶王がそれを醒まそうと冷水を浴びせるが、

そんなものに意味は無かった。


「しかし、勇者なぁ」


 怪しい笑いをする妖精王を無視して鍛冶王が困ったように眉を下げる。

 何を悩む事があるのか、という顔を妖精王がした。


「1番強いエルフでは駄目ですか。

武勲なんて真正面から射ってれば手に入るのでは?」

「おい、エルフって森の賢者じゃねーのか。何でこんな脳筋なんだ」 

「釣り合いっちゅーもんがあるじゃろうが。強さがバラバラだと悲惨じゃし」 

「この中で言うなら只の人間が1番弱いですからね」


 騎士が悩ましい声を出す。


「かくいうこっちも誰を出せば良いのやら」

「あー、そうなると」


 皇帝はざっと意見を纏める。


「人間側が誰か見繕ってそれに合わせる方がいい?」

「そうだのう」


 鍛冶王が髭をいじりながら答えた。

 他の2人も同様に頷く。


「ちなみに何か希望ある? どっかの出身は嫌とか、こういう技能が欲しいとか」 

「そう言えば陛下、勇者達に何をさせるおつもりで?」


「情勢次第だが悪魔の国に出張でもさせようと思ってる。総代が王国に戻ってツテが無くなるしな」

「ま、あそこなら武勲なぞ嫌でも立てられるわな」


 最早何杯目かも判らないエールを飲みながら鍛冶王が笑う。


「そうなると人間側の選定は難しくなりますね。あちらから逃げてきた人間もいるでしょう」

「そうなるな」


 妖精王の言葉を肯定する。


 だが、この件に関しては奴隷を新しく買って解決する訳にはいかない。 

 選定は文官に投げるとして、改めて基準を作るべきだな、と皇帝は考えた。


 だがそれはそれとして今は酒を呑む時である。


「よっしゃ、後で文官と村長呼んで話し合うって事でかんぱーい!」


 うおおおお、と男達が叫び酒宴が始まった。

 

 ●


 帝国に着いたら4種族の長が広場で酔っ払いながら会談していた。


「なんですかこれ」


 目の前で繰り広げられるあんまり過ぎる光景に、総代はそう言うしか無かった。


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