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5章 妙


 5章 妙


「御前会議の始まりー」


 少女の声が玉座の間に頼りなく響いた。

 それを聞いて満足気に皇帝が頷く。


「うむ、よろしい。もう寝ていいぞ」

「はーい。おやすみなさい」


 元気よく返事をして少女は立ち去る。

 それを見送り、文官は皇帝の方へ向き直る。


「それで陛下、今回の議題は何でしょう」

「反乱軍」


 スッパリと言い切られた。

 流石にそれだけではどうしようもないのでもう少し深く突っ込む。


「えー、どういった事で」

「今回の停戦は反乱が原因だろ?」

「表向きはともかく、実態はそうですね」


 西方公領から首都へ軍が送られているとは、奴隷商人から聞いた。


「その巨人とやらは北部まで来たのか?」

「諜報では無いので、諜報では無いので確かな事は言えませんが、聞いた限りでは」 


 そこまで言いかけて言葉を止めた。


 妙だ。

 微妙な雰囲気を察したのか武官が訪ねてきた。


「……どゆ事?」

「所詮、村1つの反乱じゃ無い? かもしれない?」


 いまいち自信が持てないがそういう事ではないだろうか。


「南部の反乱を何で国境沿いが警戒するんだ?」


 皇帝の言葉に文官は脳内で地図を思い浮かべる。


 反乱が起きた村から国境沿いまで大体、徒歩、馬車で1ヶ月。

 首都まで2週間程。

 その間には当然、他の領地が挟まっており、軍もある。


「そりゃ、巨人が……」


 武官も気付いたらしい。

 言いかけた先を文官は引き継ぐ。


「そして、当然の如く議題になるのは」


 皇帝が文官の言葉を続けた。


「どうやってそれを知り得たのか」

「割りと限られると思いますよ?」


 騎士が考え込みながら言った。


「まず西方公に近い方。

次に情報の確度が高く、そして、第3王子でもある公を動かすに足る方」


「動かすって? 皇帝はホイホイ動いてるけど」

「それウチだけですからね。他所で陛下に暗君とか言っちゃいけませんよ」

  

 武官とついでに文官にも釘を差しながら、騎士は皇帝を見る。


「……6、7、9、12。反乱が起きてるのは12」


 皇帝が数字を口に出す。

 南部で領主を務めている王族の嫡出子の番号だ。

 

 皇帝が数字を口に出す。

 南部で領主を務めている王族の嫡出子の番号だ。


「庶子は無いだろうな」

「キリもありませんし、そこから始めるのが手かと」 


 武官がうんざりした顔で口を開いた。


「……ってーか、それって反乱じゃなくて」

「言うな、言うな。まだ判らないから」


 王族同士の政争じゃん、とか聞きたくもない。

 もしかすると単に反乱を収められないだけの話かもしれないのだから、

とそれはそれで問題のある考えを文官は浮かべる。


「ま、いずれ調査は必要だな」

 

 そう言って会議は終わった。

 

 ●

 

 共和国内の治安は悪化の一方だ。

 だが、もう少し放置すれば落ち着くだろう。

 

 指導者や契約者達が先陣を切り、取り戻した金貨を節操無くばら撒く。

 それに釣られた農民、平民、解放奴隷達や、逆転を狙った商人。


 彼らは夢を見ている。 


 敵の悪評を流し、自身の正当性を声高に叫び、明るい未来を想像させる。

 指導者の言葉が轟き、自身の存在が大陸に刻み付けられる。

 そんな未来だ。

 

 巨人達が鉄の礫を放ち、血飛沫が上がる度に歓声が上がる。

 契約者達が能力を使う度に士気が上がる。


 熱病か夢に浮かされたように、ただの平民が殺しに手を染める。

 領主達、商人、奴隷商人。

 そして最後は共和国に賛同しない隣人。


 上質な敵を見つけ、奪い、犯すを繰り返させる。 

 残るのは暴力の経験を積んだ人間だ。 


 そして暴力によって得た快楽は脳が忘れない。

 更なる刺激を求めるようになる。

 

 そうして、手駒を増やすのだ。

 

 賈船はそのように言っていた。

 

 だが、まだ足りない。

 この夢を続けさせるべく、魔術師は次に向けて用意を始める。


 ●


 会議の後、文官は自室へと歩を進めている。

 確か今日の仕事はと歩いていると、丁度昼時なのか良い匂いがしている。


「おい文官」

「わかった、わかったから」 

 

 竜騎士が催促するように文官を突くので、大人しく炊事場へ向かう。


 竈の前で1人の女性が番をしている。

 歳の程、70程のしゃんとした老婆だ。

 足音に気付いたのか、振り返る。


「まだ出来てないよ。待ってな」

「はい」


 言葉少なく、文官は炊事場に備え付けられたテーブルの一番奥に座る。

 竜騎士が興味津々な顔をしている。


「竜騎士。そちらは?」 

「侍従長さ。よろしくね」

「エルフか。隠れなくていいのか?」

「未亡人だからね。さ、座んな」


 竜騎士が文官の隣りに座った。


「いい女だな」 

「そう、なの、か?」


 よくわからないが、何か琴線に触れる物があったのだろう。


「馬だけじゃなくて竜も乗りこなせそうでいいだろ?」

「そーゆー!?」

「随分な言い様だねぇ」


 まさかの遊牧民視点だ。

 侍従長が笑い声を上げる。


 あれこれ話しているとぱたぱたと、小さな足音が複数、聞こえてくる。

 姦しい声が聞こえてきた。


「じじゅーちょーさん、ご飯できましたー?」


 炊事場に少女達が入ってくる。


「あ……」


 先に居た文官に気付くと、怯えたように立ちすくんだ。 


「……場所を分けるかい?」

「必要無いです」


 侍従長の言葉を拒否する。

 仕官させるのであれば、むしろ場所を分けて食べるほうがおかしい。

 少女達は出入り口でまごついている。 


「おー、やってるねー」


 少女達の後ろからにゅう、と大男が現れた。

 剃った頭をつるりと撫で回している。


「そんちょさん」

「そんちょーさんだ」


 少女達の声が弾む。

 村長、と呼ばれた男は少女達に纏わり付かれながら炊事場に入ってきた。

 文官に朗らかに話しかけてくる。


「おぉ、珍しい顔がいる」

「文官が城に居て珍しいも何も無いでしょ」

「それもそうか」


 挨拶がてら雑談を交わす。

 普段は農作業をしている男がここに来るのも珍しい。


「今日はどうしました」   

「畑の報告と採集についてちょっと」

「そろそろ収穫ですか。手伝いは」

「悪魔人間達に頼むよ。ただ、不作になりそうでね」

「本当ですか」


 間の悪い事だ。

 嫌な事がどんどん続く。


「手は打ったし、今までの蓄えがあるから大丈夫。

陛下からも、子供が飢える国は滅ぶって厳命されたからね、しっかりやらないと」

「今年は情勢も不安だし、採集を多めに頼みます」

「了解。戦にはならないよね? なっても大丈夫なようにはしてるけど」

「判らんです」


「出来たよ」

「おっと」


 目の前に食事が置かれる。 

 木で出来た器には茸と猪の内蔵の煮込み。

 パンと薬草炭酸水付き。


「エールは?」

「無いよ」


 村長の提案は却下された。

 汁を一口啜る。

 内臓の旨味を吸った茸を口に入れる。


「エールは?」

「無いよ」


 却下されてしまった。

 これで飲めないのは苦痛である。

 塩気と内臓の脂を炭酸水で流す。


「大体、あんた仕事は」

「たまにはサボりたい」  

「それこそあの総代からエルフでも何でも買えばいいじゃないか」


 文官の愚痴に、侍従長が呆れたように言った。

 炭酸水を吹き出しそうになりながら文官は首を横に振った。


「質は確かだけど高いんですよ、あそこの奴隷……。ってかバーさんあんたエルフでしょうが」

「この国に買い戻すって考えればそう悪くないじゃないか。

他の連中はまぁ、いい顔はしないだろうけど」

「そりゃそうでしょ」    


 ふと見ると、少女の1人が遠慮がちに空の器を見ている。

 文官は少女の器に煮込みを入れる。


「あ、ありがとうございます」

「ん」


 それを横目に竜騎士が遠慮無く、追加をよそう。

 文官は今ある分で終わりにする。


「飯は女手があるとやはり違う」


 率直な感想に侍従長が悪戯っぽい笑みを浮かべながら言った。


「そうだねぇ、女って果物しか食べないんだろ、って言われた時にはどうしようかと」

「その話はやめよう」


 悲しい程に男所帯であるのだから仕方ないのではなかろうか。

 否、本気でそう思っていた訳ではないが、何を食べさせていいのか判らなかったのは確かだ。

 侍従長が来る前の普段通りである、干し肉と毟った香草そのままは流石に少女達には有り得ないと思う。


「何だそれは」

「それがねぇ」


 面白そう、と言った表情で竜騎士が食い着いた。

 それに苦笑いを浮かべながら侍従長が喋る。

 この流れは良くないと思いつつも、文官は炭酸水を口に入れた。


 ●


「不作かー」

「ま、そろそろ来てもおかしくなかったしな」


 武官が床に座ってしょんぼりとしている。

 ゆるゆると尻尾が床を磨く。


「俺の軍拡」

「お前のじゃねーよ」


 皇帝はすかさず突っ込む。


「何、人足んないの?」


 傍に控える騎士に聞く。

 言葉を選ぶかのように口をモゴモゴさせ。


「中央の守りが薄いとは言わざるを得ませんな」 


 と、言った。

 要するに東西南北に割り振ると、人が出払ってしまう形になる、と。


「陛下の親衛が欲しいなーとは」

「今そこに割り振るくらいなら国境警備に行かすわ」

「ですよねー」


 東の遊牧民はともかく、北からは天使と難民、

南からは奴隷商人と犯罪者、西からは奴隷商人と悪魔と犯罪者と難民。


 尚且つ不作。

 13年前のような壊滅的な不作では無いとは言え、この状況で親衛など作る余裕は無い。


 ただ、来年以降、人手を増やす上で方針は決めておくべきだろうと、皇帝は拗ねた武官に構う為に床に座る。

 それに騎士も続いた。


「つか、どういう軍にしたいよ。来年の話だけどな」

「グオーって感じ」

「ぐおー」


 武官の言葉に続くと、床を叩きながら要望を告げられる。


「なんかー、今って木の陰に隠れて戦ったり、

罠仕掛けたり毒撒いたりみたいなのばっかりで、こう派手さが無いから何とかしたい」

「あー、それは困る。確かに困る」


 人手を集める際の判り易さは確かに必要だ。

 弱い所に人は来ない。

 そうなると、と騎士が提案する。


「手っ取り早いのは、適当に誰か担ぐ事ですかね?

幸か不幸か脳筋には事欠きませんし」

「あー、適当な英雄かー」 


 時間は掛かるが口も増えないし良い提案である。

 そうなると重要な課題が残っている。


「人種問わず?」

「……やだー」


 武官が口を尖らせ、騎士が黙って目を逸した。

 予想ができていた答えに思わず嘆息する。

 奴隷にしたされた、種族で殺した殺された、帝国はそんな連中が集まった国である。


「判った、少し考えるから待て」


 そう言って皇帝はこの話を終わらせた。


 数刻後、勇者パーティー作るから誰か戦士を1人見繕え、5日以内で、

と言う皇帝の命令に各種族が悲鳴を上げた。



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