87章 Diavolo Guerriero imperiale
87章 Diavolo Guerriero imperiale
非嫡出子なれど血筋はあった。
幼少より手に入れ続けてきた。
美食、美術品、美女美男。
契約者となってから量は増えた。
睾丸が空になる程に抱き尽くし、暴食と見紛う程に飽食を極めた。
あとは地位だけだ。
●
共和国の旗が風に揺られた。
旗手は真新しい持ち手を握り直す。
幾つもの旗が掲げられながら軍は進む。
森を避け、石畳の無い道を馬が歩く。
旗手率いる共和国軍は王都奪取の為に北西へ進軍。
大街道に立ちはだかるは宝剣公率いる軍勢だ。
騎士と戦士達。
帝国を名乗る男達がこちらを見ている。
甲高い声を上げながら巨大な炎の鳥が大地に降りた。
辺りに火の粉が舞う。
悪魔の侯爵、フェネクス、詩作に優れた悪魔。
アミーが相手の誹謗中傷を担っていた一方で、フェネクスは共和国の称賛を担っている。
共和国軍の最前線。
フェネクスの足元に女が立つ。
広報係。
指導者の愛人が声を上げた。
「ご機嫌麗しゅう皆様。そこを通してくださる?」
騎士達を片手で制しながら宝剣公が言葉を聞く。
旗手は何も言わずに状況を続けさせる。
「13年前、飢えた者、奪った者、奪われた者……、
それら全ての原因を疎み我々を憐れむなら、……それに」
これこの通り、と広報係が両手を上げると空間にヒビが入る。
歪の中から、それらは現れた
共和国が呼び出した悪魔達。
パイモンが率いる有名無名の悪魔達が舌舐めずりをしながら王国軍を見ている。
「指導者亡き後であろうとも大勢は決しておりますでしょう?」
広報係が無防備な背中を相手に向けた。
哀れさを孕む口調とは裏腹に広報係の目は勝利を確信している。
悪魔と騎士の睨み合いが続く。
竜の唸り声が風に乗って聞こえる中、その声ははっきりと聞こえた。
「……どうぞ?」
蜥蜴のような少年が言った。
つまらなそうな、あっさりとした返事に両陣営が少年を凝視する。
ゆったりと広報係が王国軍の方へ振り返った。
面倒臭そうに少年が続ける。
「帝国は戦士と戦いに来た。弱い者いじめしに来たんじゃねぇ」
帝国を名乗る少年が言った。
フェネクスが振り撒く火の粉が大きくなる。
新たな松明に火が付けられた。
炎の燃え上がる臭いがする。
空から大きな羽音が幾つも聞こえてきた。
「なので、どうぞ?」
非嫡出子なれど血筋はあった。
幼少より手に入れ続けてきた。
美食、美術品、美女美男。
契約者となってから量は増えた。
睾丸が空になる程に抱き尽くし、暴食と見紛う程に飽食を極めた。
あとは――!
●
ガラリと変わった雰囲気に怖気付いた男の首が飛んだ。
「おいお前達、何をどんな風に謳われたい。剣の強さ? 残虐非道? それとも逸物の大きさか?
私が何とでも誉めそやそう、だから――、奴の首を持って来い!」
血塗れた広報係の叫びを切欠に戦場に名乗りが上がる。
「フェネクスの契約者、広報係!」
「王国第11領公爵、宝剣公」
「無名の悪魔」
「帝国、貪婪侯、諸家」
「王国、第12領公爵、落胤公」
「共和国、契約者、騎兵」
「悪魔の大侯爵ガミジン」
「帝国、処刑人」
「悪魔の王、パイモン」
「帝国騎士」
「商舶」
「帝国文官」
「竜騎士」
「剣闘士」
「パイモンの契約者、旗手」
「――帝国武官、参る!」
●
「幾度も見た」
一瘤駱駝に跨った男が空からこちらを見下ろしている。
身に付けた宝石が太陽を反射する。
日暈のように現れた援軍が太陽を取り囲んだ。
武官は顔に落ちてきた白い羽を振り払う。
「血に抗い、御業に抗い、定めに抗う」
悪魔の王、パイモン。
契約者に知識と地位を授け――。
「――人間っ!」
天使の軍勢を率いる悪魔。
●
雷と光弾が弾けたのは同時だった。
黒焦げの体に赤いヒビを纏った天使が地上に落ちる。
白い鎧の雷を纏った神はこちらを見向きもせず、天を見る。
パイモンの部下である天使達を睨み付けている。
騎士達が音と同時に砦から出てきた。
戦が始まる。
敵と味方の合間を縫って帝国武官と名乗った男の所へ走る。
砦の上から飛び降りる武官を見つけた。
失言の報いは受けてもらう。
戦旗の旗を持ち手に括り付け、槍のように突く。
武官が穂先を避け、爪先をこちらに振った。
持ち手を盾に懐へと飛び込む。
繰り出した直後に止めてしまえば大した威力にならない。
組み合った2人が睨み合う。
「……」
「悪魔人間」
成程、手強い。
細身からは考えられぬ強さ。
旗手の年齢は50程。
鍛えた体は岩のように重く硬い。
だが、押し合っていた旗手の体がズルズルと後ろに押されていく。
2人の間に影が落ち、天使の残骸が落ちてきた。
両者が後ろに引き距離が開く。
旗手は戦旗を握り直し、武官を捉える。
恐らくは未だ成長期の青年。
技量も力もまだ未熟、しかしてこの地力の差。
先王が恐れた悪魔の血。
壁の向こうにはそれを体に引く者が数多居ると言う。
王都を奪い取った後。
我々はこれ以上のモノと戦わねばならない。
崩れ行く天使の死体を投げ付け、再び攻撃に入る。
死体の砂塵を突っ切り武官がこちらに向かってきた。
雨のような光弾の中で武器がぶつかり合う。
間合いを測るように中段の突きを出す。
怯むこと無く、持ち手を握られ思い切り引っ張られた。
踏ん張り、引っ張り合うもズブズブと足が地面に埋まっていく。
ならば、と旗手はわざと力を抜く。
武官が後ろに倒れかけた所で槍を握り直し、再び突く。
思い切り穂先を地面に叩き付けられ、槍の軌道が反れた。
ビリビリと槍が震える。
互いに間合いを取り直し、仕切り直す。
痺れた手を振りながら旗手は思った事を口にする。
「硬そうな鱗に覆われていても穂先が怖いか」
「あそこまで着込んでないからな」
一瘤駱駝が地上に降りてきた。
それに乗るパイモンが敵を見る。
真っ赤な鎧の悪魔人間が武官の隣に立った。
帝国騎士と名乗った悪魔人間。
2人が胡乱な人形になる気配は無い。
「高貴な血筋か、それとも――」
「突き抜けた阿呆か!」
パイモンが声高らかに光弾を放った。
一瘤駱駝が跳躍し空を駆ける。
円の軌跡を描きながら、光弾が幾つも放たれ炸裂する。
背中合わせに武官と騎士が体勢を取った。
旗手は土埃に紛れながら槍を振るう。
穂先を止めたのは鉈のような大剣だ。
横に薙がれ、体勢を崩した所に大上段の振り下ろしが来た。
途端、騎士の足元が破裂し、新たな煙幕が上がる。
パイモンが真横から。攻撃を仕掛ける。
それに合わせ、旗手は敵を盾にするようにパイモンとは正反対の方向に回り込む。
体勢を低くし、紛れると同時に騎士がこちらに背を向け、守るように武官が位置を変える。
土煙の間から騎士が光弾を真っ二つにするのが見えた。
埒が明かぬと踏んだか、パイモンが一瘤駱駝を騎士に向かって突進させる。
加速と重量の乗った蹄鉄はそれだけで武器だ。
旗手は地面すれすれの下段に旗を構える。
敵の背後から、正面からでも敵の足元を絡め取るように構える。
蹄鉄と大剣がぶつかる。
騎士が剣を薙ぐと同時に地面に投げる。
一瘤駱駝が姿勢を崩し、横っ面を晒す。
その好機を逃す筈も無く、騎士が肩から一瘤駱駝に突っ込んだ。
一瘤駱駝が倒れパイモンが落ちる。
旗手は構えを変えない。
敵が背を向けるのを待つ。
悪魔の王、その手柄首に誘われるのを待つ。
じゃり、と砂を踏む音が聞こえた。
煙幕越しに武官と目が合う。
互いの口に笑みが浮かんだ。
武官は、目の前の男は。
後ろを気にもせず真っ直ぐに突っ込んで来た。
地面を擦った穂先から火花が散った。
雄叫びと笑い声が混ざった声が漏れる。
武官が槍を踏みつけ宙を舞った。
体勢を崩しながらも振り直した槍は尻尾で叩かれる。
着地。
武官の爪が旗手を狙った。
高らかな金属音、爪と戦旗。
再び、両者互いに組み合う。
「おい、俺は戦士か」
「ああ」
戦旗が限界を迎えた。
金属で作られた棒が切り裂かれる。
遅れて痛みとも熱さとも取れる感覚が走り、すぐさま冷めた感覚へと変わっていく。
体の力が抜けていく。
血溜まりに沈む前にふわりと体が浮いた。
パイモンの手が旗手の腕を引いていた。
●
2人を見送り、武官は戦場を見る。
勝鬨はまだ上がらない。




