表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/107

4章 会談


 4章 会談

 

 ずんぐりむっくりな体に、モジャモジャの髭。

 小さいながらも身の詰まった体は凄まじい力を持っている。


 デックアールヴと呼ばれる妖精と共に洞窟の中に住み、夜になると外に出て武器を作り始める。

 太陽の光を浴びると体が破裂するとも、石になるとも言われていたが、現在は問題無い。


 ただ日焼けは彼らにとって不名誉であるだけだ。


 ●


 帝国東部。

 ドワーフ達の住処。

 

 荒々しく掘られた洞窟の中にある遺跡が淡く光を放つ。

 じわじわと往年の姿を取り戻しては朽ち果てを繰り返している。

 その回数は先程から増える一方だ。


 魔王ルシファーの力に反応し、遺跡が生き返っているのだ。

 悪魔の国、王都では悪魔達の力によって文明の遺跡が朽ちずに残っている否、そのまま使えると聞く。


 そのような事を考えながら文官は目の前の鍛冶仕事を眺める。 

 山の中から発掘された遺跡を流用した鍛冶場は成果を上げている。

 

 地面の中に埋まっていた金属の管。

 外に繋がっていたそれを修復し、加工場と繋げているのである。


 後で製鉄場も見ておかねば、と考えていると声をかけられた。

 作業場で雑用をしているドワーフである。


「ぶ、文官殿、会談は終わっただろうか?」


 鍛冶をしているドワーフに聞こえないよう、声を潜めながらコソコソと話しかけてきた。

 目が所在なさげに揺れている。


「まだいらっしゃってもいませんが」

「ぬうぅ」


 脂汗をダラダラと流すドワーフを睨みつける視線が奥から感じられる。

 そそくさと立ち去るドワーフを見送り、苦笑いを浮かべる。


 悪魔の国の王、ルシファーはまだ帝国に到着していない。

 到着した頃には、もっと多くの遺跡、遺物が蘇っているだろう。


「……公使殿」

「何かね」


 焼けた金属が荒々しく水に漬けられた。

 らしからぬ態度を受け流しながら文官は水筒を手渡した。


 太陽に焼けた肌、盛り上がった筋肉、背後に並べられた斧、

堂々たる髭、鋭い眼光、フシュウ、と吐く息は猛牛の如くだ。


 公使、と呼ばれたドワーフは、不甲斐無い醜態を晒すドワーフに苛立ちを隠せないようである。

 強奪するように水筒を受け取ると、一気に中身を飲み干した。


「魔王ルシファーともなれば致し方無いのでは」

「勘違いなされては困るな、あれは武者震いである。

かつては遅れを取り日の下へ焼け出されたが次こそは」

「……そうですか」


 何も言ってない、とは言わなかった。

 今日は外交官ではなく、ただの客人である。


 怒りと興奮覚めやらぬ、といった表情だったが、暫くして、

ふむ、と少し考え込み公使が不思議そうに聞いた。


「所で今日は如何した。修理が必要そうには見えないが」


 公使の言葉に文官は古ぼけた紙束を出す。

 それは遺跡と同じように明滅していた。


「手伝って下さい」

「……」


 これは遺跡から発掘された紙束だ。

 年月を重ねたことによって文字の判別すら難しい。

 だが今なら何が書かれているのか読めるのだ。


 文官はまっさらな紙束も取り出す。

 藁で作った粗悪な紙だが掘り出された紙よりはマシだ。


 実の所、帝国があるこの土地に関する情報は少ない。

 今の時代、何が切欠で遺跡が暴発するか判らない。


 そして文官の伝手の中で文字が読めるのは公使と使者だけだ。

 奴隷商人はまだ店仕舞の最中である。

 

 逃さん。

 文官の目はそう語っている。


「武官には使者さんの所に持ってって貰ってます」

「……他の仕事が」

「鍛冶王には許可を頂いてます」

「……そうか」


 別室に移ろう。

 諦めたような声で公使が言った。

 

 ●

 

 悪魔の国から国境を超え帝国に入る。


 エルフ、人間、ドワーフ。

 敵意混じりの視線を物ともせず、案内されながら森を進んでいく。

 赤い甲冑を纏った悪魔人間は、こちらに服従した素振りすら見せず淡々と仕事をこなしている。

 

 悪魔人間。

 

 悪魔の血を継いだ混血児。

 強靭な体を得ると同時に悪魔に対する絶対服従を誓わされる種族。


 人間や他の種族であれば職名で真名を隠すという手段が、まだある。

 かつての大戦争を人類は名前を隠す事で乗り切った。


 だが悪魔人間にそれは許されない。

 悪魔に出会うか、その時が来れば必然、悪魔の人形である。


 であるというのに目の前の男は木偶になる事も無く、ルシファー達を案内している。

 勿論、何事にも例外はあり、しかし、ルシファーには心当たりが多すぎた。


 森が開け集落が目に入る。

 質素な国である、とルシファーは思った。


 木と石で作られた建物。

 静かな湖面にはささやかな数の舟が浮かんでいる。


 隣を歩く男――総代――をちらり、と見た。

 耳や首に宝石を着け、自らを飾り立てる男。

 この男が入れ込む国にしては随分と質実剛健な国である。

 

「こちらへ」

 

 男が奥へと進んでいく。

 ある種、似つかわしくない石造りの宮殿が見えた。

 

 部屋へと案内される。

 簡素な作りながらも、確かな素材を使った調度品が目に入った。


 装飾が一切無い、素材の良さだけを活かした調度品と、部屋の設え。

 ルシファーはその感性に覚えがあった。

 

「すぐに飲み物と軽食を持って来ます」


 そう言って退室しようとする男にルシファーは声をかけた。

 

「名は」


 ルシファーは目の前を歩く男に興味を抱き、戯れに名を聞く。

 職名では無く、真名を聞いた。


 男が驚いた風も無く姿勢を正す。


「帝国騎士と申します。魔王ルシファー」


 そう言って山羊の角を持った男が跪いた。

 目には確かな意志があった。


「……愉快」


 そう言ってルシファーは笑った。

 

 ●


 魔王ルシファーと総代。

 西方公と代官。

 そして皇帝と騎士。


 各自、部下を控えさせ、部屋の中でまんじりと座っている。

 給仕の少女が2人、入ってくる。

 盆の上に水差しと杯が置かれている。


 皇帝は少女の手からそれらを取り上げた。

 仕事を急に取り上げられ、少女が不安そうな顔をするが、皇帝は気にせずに言う。 


「怖い顔のオッサンが怖い話するから向こうで勉強してろ。

用があるときはこっちから呼ぶ」

「は、はい。失礼します」


 そう言って退室する少女達を見送り、椅子へ座る。


「……オッサン」

「オッサン……」


 どこかショックを受けたような顔をするオッサン達を気にせずに、水差しから中身を注ぎ一口飲む。 

 薬草と水で作った微炭酸水、蜂蜜入り。


 水差しを騎士の方に向ければ、手慣れたもので、頂戴します、と杯を掲げられた。

 中身を注ぐと、礼の言葉と同時に口を付けた。 


「皆も」

「では」


 そう言えば、まず反応したのは悪魔側。

 総代が杯を2つ取り、中身を注がれたものをルシファーの前に置く。

 そして自分の分を、とした所で動きが止まる。

 代官が同じように2つ、杯を持っている。


「よろしいですかな?」

「どうぞ?」 


 そのような会話をして、代官は注がれた2人分の飲み物を持っていった。

 最後に総代の杯に飲み物を注ぐ。

 全員に飲み物が行き渡った。


「さて」


 騎士が口火を切る。


「杯も行き渡りました所で始めさせて頂きます。

本日の議題は王国、悪魔両国における一時停戦と言う事で相違ありませんか?」

「相違無い」

「問題無い」


 各国代表が頷く。

 まずは王国側から代官が説明を始める。


 歳の程、30後半程、恐らく騎士と変わらない年齢であろうか。

 真面目で実直、土地柄故か、武張った印象が前に出る男だ。


「本日は謁見をお許し頂き光栄の極み、皇帝陛下に於かれましてはご機嫌麗しく恐悦至極に存じます。

さて、一時停戦ですが、我々王国は2年間の停戦を求めるものである。

従って、こちらからは捕虜交換、身代金の支払いを提示したい」


 堂々たる口上である。

 ルシファー側は涼しい顔で聞いている。


 恐らくこの場が出来上がる前にある程度、話は詰まっているだろう。

 降伏では無い事、皇帝の所にルシファーからも手紙が来ている事から、互いに停戦を望んでいる状況の筈だ。

 

 そこまで長引かずに終わるだろう。


 代官の言葉に答えるのは総代、悪魔側の付き添いである。 


「その話、我々にどのような得が有るのか聞いても?」


 終わる筈であった。

 不意を突かれた代官が切り札と思わしき情報を出す。


「……捕虜の中にはそちらの将官も含まれておりますが」

「ダンタリオン殿の事で? えぇ、承知しています。

その上で、2年、こちらが停戦を呑むに値する理由をお聞かせ願いたい訳です。

こちらでは戦争も商売ですからねぇ」


 皇帝は代官の様子を見る。

 虚を突かれたような顔に少しだけ朱が注がれた。


「あなたは」 

「エルフと人間の混血です。そちらの言う同胞意識などに期待しないで下さい。

悪魔側にも誇りを尊ぶ連中はいますがさておいて、実利の話をします。

戦が止まると色々と止まる訳です、武器然り、奴隷然り。

それらを止めても尚、この協定が結ばれる意味はあるのかと、そういう話でして」


 総代の言葉に代官が顔色を変えた。


 何故今更。

 この場における帝国と王国、共通の疑問であった。


 第三者である帝国向けへのパフォーマンスかとも思ったが、それにしては西方公の顔色がいささか良くない。

 急いで騎士の耳に顔を近づけ、小声で話す。


「これは」

「……御明察通り、土壇場でひっくり返しに来てます」 

「何で」


 その言葉に騎士が首を振る。


「判りません、ってかアレは判ったら駄目な類です。

言葉通り商売目当てなのか混乱を楽しみに来たのか。ともかく」 


 騎士が一旦言葉を区切る。 


「何かありませんか、向こうの得になる話」


 悪魔から見て協定が得になるか、そうでなければ損してしまう、と思わせる物。

 この際、実態は置いておこう。

 そうかもしれない、と言うだけで向こうが勝手に考え込むことを期待するしか無い。


 皇帝は手元の呼び鈴を鳴らし、少女を呼ぶ。

 側に控えていたのかすぐに部屋に入ってきた。


 小声で持ってくる物を指示する。

 慌ただしくも静かに立ち去る少女に感動しつつ、皇帝はその場を眺める。


 ルシファーの顔色は変わらない。

 何を考えているのか場を眺めているだけだ。

 だが総代の言動を許容している事から、この協定、悪魔側にとってはどうでもいいものだと考えているのは判る。


 暫くすると少女が頼んだ物を持ってきた。

 再び少女の手から盆を取り上げ、追い出す。


 持ってこさせたのは軽食である。 


 カリカリに焼いた種無しパンで辛く味をつけた鶏肉を挟んだ物。

 それに絞った葡萄果汁。

 あと、別の杯に水。


 経験を積めばもっと上手くやれたのだろうが、今はこれが精一杯だ。


「……天使の国?」


 ルシファーが料理を見て不思議そうな顔をした。

 種無しパンと葡萄果汁は天使の国で重要な食べ物だ。


 先程と同様に皇帝が手掴みで料理を取る。

 それに倣って、次々と料理に手が伸ばされる。

 口に入れた途端、総代が飛び上がりそうになっていた。


「ん、辛かったか。冷えるので南部風にしたのだが」

「い、いえ、大丈夫です」   


 水を飲みながら誤魔化された。


 常識の範囲内の味付けでは有るが、ハーフエルフにはきつかったようだ。

 実の所、この味付けは皇帝の口にも厳しいものがある。


「文明の頃には辛い料理を悪魔風と呼んだらしいな」


 西方公が食事を堪能しながら言う。


 当然の事ながらこちらの思惑はバレたようだ。

 天使の国で重要とされているパンで挟んだ悪魔風と呼ばれる料理。

 挟撃の分かりやすい見立てであり、実態を投げ捨てた渾身のハッタリである。 


「総代」

「は」


 ルシファーが総代に何やら耳打ちをする。

 その後、こちらを向き緩慢な動作で言う。


「了解した。我が国はその協定を受け入れる」  


 その言葉と同時に代官が書類を3部、用意する。

 皇帝、ルシファー、西方公が書類に署名、花押を押す。

 1部づつ書類を持った所で皇帝は〆の口上を述べる。


「帝国は王国、悪魔両国に敬意を表すと共に、

停戦協定が本日、効力を生ずることを確認する光栄を有する」 


 こうして会談は終わった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ