修行と拠点
「此処は…?薄暗いな…。」
目が覚めると大人一人分くらいが横たわれそうな大きさの布の上にいた。周りにも幾つか同じような布があった。どれも所々破けて汚れている。
そうだ、俺は神様に異世界に飛ばされていた。それだけ覚えている。思い返せば長くなるが、思い返さないと状況を整理できないので仕方なく思い出すことにする。
―二時間前ー
「僕は神だ。」
「だから、何いってるの?」
俺は胡散臭い神と出会っていた。
(あぁ、誰かこの不審者を俺と違う牢獄に入れてください。できることなら土に埋めていただけると幸いです。)
あ、実体ないんだった。この人、怖い。助けてー、パパーン、ママーン。
って、両親の顔なんて知らないんだけど。
「大体、自分のこと神様とか言っちゃってますけど頭大丈夫ですか?」
「酷いなぁ。僕は本当に神なんだよ。とりあえず、君がこの世界にいるのは手違いだから、訂正しにきたんだ。君の両親からのお願いでね。面倒臭いけど、大親友の頼みは断れないだろ?」
え、両親?今俺の両親って言った?この人。
というかなんでこんな不審者と俺の親が大親友なの?
(納得いかない。)
「あはは、そんな怖い顔しないでよ。君の両親も神なんだから、神である僕と友達でも不思議じゃないだろ?」
「…貴方が神ということはもう認めてやりましょうか。テレパシーみたいなので話しかけてくるし。で?手違いって何?俺の両親が神?俺はその間に生まれたから神?神になったからには俺もお前みたいな不審者?ていうか―」
「わー!そんな一遍に質問しないでよ!答えられないから!!」
俺の疑問を全てぶつけようとすると、神様はそれを遮った。酷い。
「それじゃあ、一つずつ質問するね。」
「うん、それなら大丈夫かな。」
「…まず、手違いとは?」
「手違いっていうのは、君の両親が関わってくるんだけど…。まず、神である両親の間に生まれた君は神になるんだ。だけどまだ神見習いで、正式な神ではない。修行を積んで、周囲に神と認められるようになったら神になれるんだ。認められる、というか、人の信仰心が必要になってくるんだ。信仰する人が百人ほどいれば初心者だが神になれる。それで、君には神見習いとして修行を積んでもらおうとしたんだけど手違いで魔法という概念がない世界に送ってしまったんだよ。魔法という概念がなければ神の能力はどんな言葉でも片付けられない。」
おお、一回の質問で俺が聞きたかったこと大体聞けた。
というか俺ってば神の間に生まれてたのか。。あれは魔法じゃなくて神の能力だったんだな。
普通神と言ったら信仰心で生まれるものだと思っていたんだけど、どうやら違ったらしい。神の子供として生まれてから信仰心集めていく感じなのか。なんか、衝撃的。しかも信仰心ってポイントみたいな感じなんだ…。百信仰ポイントゲットで神レベルアップ、みたいな。嫌だ、神ってこういうものなの?
俺が黙り込んでいると、不振神は俺の心を読んだように言った。
「もちろん、信仰心から生まれる神もいるよ。そういう神は人の信仰がないと消えてしまう。僕らは信仰がなくなると落ちぶれるだけだから消えはしない。まぁ神様にもいろんな種類があるってことさ。とにかく君を今から修行に最適な他の世界に飛ばすから。頑張ってくるんだよ。」
え?飛ばすって今から?
「いってらっしゃい。」
神が放った言葉と同時に俺の意識は朦朧とした。
「待て、まだ、きき、た、いこと、がっ…。」
*
―あぁ、そうだ、そこで意識が途切れたんだ。まだ聞きたいことが幾つかあったと言うのに。
修行って、何すればいいんだよ…。
俺が一人で悩んでいると、人の気配があることに気づいた。足音や息遣いが聞こえる訳ではないけど、確かに人がそこにいる。扉の向こうだ。
「…誰だ。」
俺が問いかけてから少しの間をおいて扉が開いた。出てきたのは自分と同じくらいの歳の美形の少女だった。
「君は誰なの?」
俺がそう問いかけると少女は言った。
「僕は、キール。君が僕達のアジトの前で倒れてたから仕方なく此処に運んできた。」
アジト?ここは何かの組織なのか?神様め…、いや、俺も神の端くれか。でも名前とかいろいろ聞こうとしたらここに飛ばされたし。本当の名前が分かるまでは不振神でいいか。
とりあえず、運んできてくれたのだからお礼を言わなければな。
「そうなんだ、ありがとう。迷惑をかけたね。」
「本当、迷惑。目が覚めたんならさっさと失せろ。」
…はい?え、この子今失せろって言った?言葉遣い荒くない?嫌だ、何この子怖い。
「君みたいな女の子がそんな言葉使うのは駄目だよ。もっと丁寧に―」
「僕は男だ。」
「…嘘だよね?」
「本当だよ。何で嘘吐くんだよ。いい加減にしろよ。そして失せろ。」
声とか若干男の子っぽいなとか思ってたけど普通に女の子でも通用する声だったから世間で言う僕っ娘かと思ってたよ。いや、でもよく聴いてみたら男の子かな…。でも見た目が…いやいや、外見で人を判断する俺が間違っていたのか…?
俺が混乱していると、キールが開けっ放しにしていた扉の向こうから、ナイフを持った子供が現れた。子供だが、歳はあちらの方が上だろう。
「お前ら煩いぞ。静かにしろ。」
「あー、ごめん、ヒカル。だからナイフをこっちに向けないで。」
ヒカルと呼ばれた子供は東洋人らしい顔つきをしていた。こちらは美形の男の子。…いや、先ほどのように間違えるのが怖いので性別は気にしないことにした。
「全く、人が折角食事を作ってやっているのに…。」
「そのナイフで…?」
よく見たらナイフには血のようなものが付いていた。
…なんで?
「どうした。何か問題があったか?」
「え、い、いや、何でもないです!」
「ところでヒカル、ナイフに血が付いてるけど…どうしたの?」
流石キール、俺には出来ないことをやってのける男…!俺が聞きたくても聞けなかったことをあっさり言ってくれるぜ!
俺がキールを心の中で褒め称えているとヒカルが静かにこちらを見据えて言った。
「あぁ…これ、か。…知りたいのか?」
(怖い。目つきが怖いぞ、ヒカルさん。)
「知りたくなかったら聞いてない。で、その血は何。まさか人の返り血付いたまま調理してないよね?」
「あぁ。これはさっき狩った猪の血だから安心してくれ。」
(あ、血抜きでもしてたのか、納得…。)
「…ん?ちょっと待て。聞き逃しそうになったけど、今、人の返り血って言った?人を刺したナイフで調理してるの?」
「ちゃんと洗ったから心配するな。」
そういう問題じゃないと思うんだよね、俺。というより何故その歳で人を刺した。この世界ではそんなに不思議なことではないのか?
「なんだその顔は、文句あるなら食わなくてもい―」
「腹が減って死にそうなので食べます。」
ヒカルの言葉を遮っての即答だった。
そうだ、俺は腹が減っている。何せ、自分が濡れ衣着せられて賞金首になってたから安心して食べたり寝たりと出来なかったのだ。
俺の言葉を聞いて、ヒカルは調理を再開するために部屋を出て行った。
キールと二人になってしまったが、俺にも料理を振舞ってくれることが確定したのでさっきのように追い出されそうになることはないだろう。問題は会話なのだが…
俺が何を話そうか戸惑っていると、キールの方から話を振ってきた。
「なぁ、お前さ。」
「な、何かな?」
さて。何を話すのか、キールは。
「…名前、教えてよ。こっちが名乗ったのにお前だけ名乗らないのは、なんか、ムカつく。」
「…名前……。」
ほほう、そうきたか、キールよ。確かにお互いのことをまだ何も知らないからな。初対面で話すことランキング恐らく一位の自己紹介というやつだね?
「…あっ!」
そこで俺は重大な事実を思い出した。
俺、名前ないわ。あるのかも知れないけどわからない。あー、さっき一番最初に聞いておくんだった。名前聞かれたとき適当に偽名で答えるのが普通だったしな。
(あ、なんだ、偽名で答えればいいんじゃん。)
「…あー、えっと、テー…ティ、ティノ」
「アーエットテーティティノか。聞いたこともない独創的な名前だな。おーい、ヒカルーこいつの名前、アーエットテーティティノって言うらしいよー!!」
独創的な名前と勘違いされた挙句、間違いを訂正する前に大声で扉の向こうのヒカルに伝えられてしまった。
すると調理を終えたヒカルが、俺の偽名への感想を述べながら料理を持ってきた。
「す、素敵な、な、なまっ、名前だな。ふっ…。」
ほら、ヒカル必死に笑い堪えてるよ?違うって気づこうよ。アーエットテーティティノって何だよ。〈ティノ〉だよ。気づけよ。
ヒカルが思ったより早く料理を運んできたので俺達は猪焼きを食べることにする。
(なんだ、焼くだけか。なら俺でも出来るし。)
謎の対抗心が沸いてきた。
俺が早速猪焼きを食べようとすると、二人は俺を止めた。
「まだ挨拶してないぞ。」
「挨拶?食べるのに必要なのか?」
「ヒカルのお母さんの母国では、食事をする前に挨拶をするらしいんだ。ヒカルも幼いころお母さんに習ったらしいよ。だから、僕達は食事をする前に必ず“いただきます”と言っているんだ。」
「そう。感謝を込めて言うんだ。」
へぇ、そういう国もあるんだな。この世界に。
では、作ってくれたヒカルと食材に感謝して食べるか。
「じゃあ、いただきます。」
「あぁ。いただきます。」
「いただきまーす。ヒカルの料理だー、美味いんだよな、見た目に反して!」
「ん?何を言っている、キール。見た目も美しいだろう?」
確かに見た目は猪を焼いただけに見えるが、臭みがしっかりと取れてて、味が猪とは思えないほどだ。なんというか…。言葉では言い表せない美味しさだ。きっと手の込んだ料理なのだろう。
俺が素直に美味しいと言うと、ヒカルは満足げな顔をした。
暫く誰も何も話さないで黙々と食べていると、キールが何かを思い出したように口を開いた。
「あぁ、そうだ、アーエットテーティティノ。」
「その名前で呼ばないでくれ…。」
「何で?僕は独創的で素晴らしい名前だと思っているのに。」
もう面倒になってきたので、アーエットテーティティノで通すことにする。
そうだ、もしかしたら俺は本当にアーエットテーティティノという名前なのかもしれない。
俺が完全に諦めていると、ヒカルから嬉しい提案があった。
「アーエットテーティティノという名前は少し長いな。愛称のようなものはないのか?できればそちらで呼びたいのだが。」
きた!ここでティノと答えればいいんだよ!ヒカル様ありがとう!!
「ティノです!」
「ほう、ティノデスか…多少は短くなっているし、発音しやすいな。」
なんでだよ。
俺が悲しみに打ちひしがれていると、キールが話を戻した。
「思い出したんだけどさ、お前、僕達のアジトの前で倒れていただろう?」
「あー、そうらしいね。話を聞くところ。」
「それじゃあ、お前は何故アジトの前にいたのか覚えてないの?」
「覚えてる、けど…。」
神様に此処にとばされましたー。なんて言えない。
そんな事をキールやヒカルに話しても良いのだろうか。なんとなく駄目な気がする。
俺は神になるんだ、さぁ、信仰しろ!とか、そんな風に信仰心は集めてはいけないと思う。というより、俺実在してるんだけど。信仰もくそもないんだけど。どうやって信仰してもらえばいいの?宗教とか神社とか必要?
…待てよ。俺は別に信仰心を集めろとは言われてないよな?ということは、修行ってもしかして俺がこの世界に実体があるうちに何の神になるか決めるとか初歩的なことなのか?
「あー、わからない!!」
「な、何がだ。」
「修行って何だと思う!?」
「は?何言ってるの、ティノデス。」
思わず口にしてしまったがこの二人が知っているわけないよな。
「よく分からないが、ティノデスは修行の場がほしいのか?」
「え?あぁ、うん。まぁね。」
「なら、私達の組織で共に行動しないか?」
それは思ってもいなかった提案だった。
やはりここは何かの組織らしい。子供だけでやっているのだろうか?だとしたら何か、心配だ。
「どういった組織なんだ?」
「まだ大きな目標はないが、活動としてはダンジョンの深くまで潜って強くなること。このあたりは物騒で、先程も盗賊が襲ってきたからな。だが、まだ組織らしい活動はあまりしていない。これからやっと、と言った感じだ。今までは資金や武器を集める準備期間だった。暫くの目標は“冒険者”になることだ。ダンジョンに潜ることができないからな。」
成る程、確かに強くなる意味での修行ならいいな。
そしてヒカルが人を刺した意味がわかった。襲ってきた盗賊とやらを返り討ちにしたのだろう。そう考えるとなかなか強いな…。盗賊が弱かったのか?
「よし、やること見つからないし、その組織に加入するよ。」
「決まりだな。ようこそ、深青流星団へ。」
こうして俺は異世界で拠点と仲間を手に入れた。




