どうでもいいけどあなたが好きです。
作者の自己満足です。
「貴女の一言で多くの人が悲しい思いするってこと、わからないの!?」
「っ、」
美少女二人を中心に、周りにイケメンたちばかりの生徒会、そして野次馬の生徒たちという順番に広がる人口密度。
二人の美少女はお互い対面しており、ふわふわの可愛らしい女子生徒が生徒会の生徒たちを庇うように立ちはだかり、まるで説教をするかのように黒髪の美女に怒鳴っていた。そんな彼女を見る周囲はまるで洗脳されたかのようにうっとりとしていた。
もちろん、生徒会の奴等もだった。なんて優しい子なんだ…と言わんばかりに虚ろな目をする彼らは狂っているとしか言いようがない。その中には次期国王とまで言われている殿下までいるではないか。この国大丈夫か。
黒髪の釣り目な気の強そうな美女は彼女の言葉を聞いて同様で肩を揺らしていた。思うところがあったのかもしれない。そしてまるで自分の罪を認めるかのように俯いた。
それで調子のるのは当事者ではなく、周りの人間だった。
「やっと認めたかこの悪女め!!」
「我々がお前の言うことなんてずっと聞いていると思ったか!」
「とうとうお前の家も終わりだな!」
次々と飛び交う彼女を侮辱する発言に、流石に私もこれは図に乗りすぎていると思った。確かに生徒会の人たちはとても高い位にいるようなえらい人たちばかりだが、実際は彼女よりも下の立場なのだ。彼女の家の力をもってすれば一捻り程度。
だが、そんな家の長女でありしっかりと英才教育を受けてきた彼女、リリーシア・スティレッタも負けてはいなかった。
「外野は黙っていてくださりますか」
冷ややかに告げた彼女の顔は、まさに公爵家の娘だった。そして次期公爵家当主の顔だった。
その瞬間に何人の生徒たちが我に返ったことか。
「わたくしは、この方とお話をしております。本来ならば別室にて静かに話し合いをするべきでしょうが、残念ながら学生であるわたくしたちにはそのような時間はありません。そして同時に、学生であるわたくしにも皆様が仰られるようなくだらない茶番などする時間など作る余裕などありませんわ」
彼女の棘の含んだもの言い方に生徒会が動揺すると同時に喧しく反発をする。だがそれは、私の目にはなんとも滑稽なように見えてしまったのだ。
多くの暴言をまるで華麗に避けていくように、彼女は次々と理不尽な言いがかりをつけられては丁寧に且つ反論できないような言葉を返していった。
「まず、わたくしは、既に殿下の婚約者ではありませんわ」
「なっ、なんだと!?」
「え、そんな…っ」
対して大きくもない声が、やけに鮮明に響いて聞こえる。まあそれもそのはず。これはまだ、公に後悔していない情報なのだから。でもまあ、そろそろ伝えるべきことなのであろう。
彼女は淡々と冷静に事実を彼らに話していく。
「婚約は数年前に解消されておりますの。まあ階段から突き落とすだの悪口を言うだの、わたくしにはそのような低能な頭脳は持っておりませんし、そんなことしている暇がありましたら趣味に時間を捧げますわ」
「し、しかし、マリアがっ」
「まあまあ、殿方たちはたった一人の少女の責任としてすべて水に流そうとするのですか?」
「なっ、そういうわけでは!ただ、マリアがそう言っていたのだからっ」
「それですわ。それがおかしいんですのよ。どうしてそのマリアさんという女子生徒だけの言葉を鵜呑みにしたのですか?まさか、もし自分たちが間違った選択をしてしまった場合彼女だけが責任を被るという算段をしていらしたのですか?」
確かに、と思わせるような切り返しに、そのようなことはっ…となんとかして周囲の誤解を解こうとする生徒会。しかし、それに素直に従う生徒たちは、野次馬の中にはいなかった。
多くの生徒たちが思っていたことが、今、生徒会が『悪』と評されたことによって、今まで思っていた感情全てが入っていた箱のカギが壊された。
それはつまり、生徒たちの鬱憤がこの場で暴露されるということで。
「確かにさ、生徒会ってどこか偉そうなとこあるよね」
「そうそう。たった一人の女子生徒ばかりベッタリしちゃってさ」
「あれでも殿下なんのか?未来のこの国を背負う奴等ばっかなんだろ?」
「大丈夫かよ…」
それはまるで呪いを解かれた瞬間のように思えた。
周囲の変化にいち早く敏感に気づいたのが、騒ぎの中心にいた美少女、マリアだった。彼女はまるで親を探す小動物のようにあたりを見渡し、どういうこと?と小さく呟く。
「…さて。全て皆様の言い分は聞きましたことですし、最後にあなたの言い分を聞きましょう?マリアさん」
「っ、わ、私は、」
最後の砦となったマリアに自然と周囲の視線が向く。もちろん、滅多打ちにされた生徒会はすがるような熱い視線を送っている。
そんな視線を受けながらも、マリアはなんとか自分の意見をまとめようと俯いた。
「まあ、貴女の気持ちもわからないでもありませんわ」
「…え、」
「貴女は愛されたかっただけなのでしょう?今まで愛されなかったから」
「…え、…っ、まさか、」
「素直になりなさいな。この私が'チャンス’を与えてるのですよ?」
「っ、」
一人称が一瞬だけ変わったリリーシア嬢に気づいたものはいたのだろうか。いや、気づいたとしても特に気にせず先を進めようとするだろう。
だけど、きっとこれは重要なピース。恐らく一人称を変えたことによってマリア嬢に何かを伝えようとしたのだろう。そしてマリア嬢もその意図を汲み取った。
「…愛され、たかった…私は両親に虐待され、多くの同級生からは虐められてっ、怖かった、愛されたかったっ、誰かに無償で、愛されたかったの…っ」
ボロボロと泣きながら崩れ落ちる彼女のその様子は、まるで悲劇のヒロインだった。そしてそんな彼女を慰めるように彼女の肩を軽く叩くリリーシア嬢もまた、彼女を支える女性のようにも思えた。
その時のちょうどリリーシアがマリアに何か言葉を発したようだが、そこまではいくら私でも聞こえなかった。
彼女の嗚咽が食堂内に響き渡る。彼女の懺悔に感情移入したのだろう、多くの生徒が鼻を啜っていた。さらには生徒会は「すまなかった…」としきりに呟いているものだからホラーじみていた。
私はそんなカオス過ぎる食堂から一刻も早く脱出したくてたまらなかった。この混乱に乗じて今ならいけるかもしれない。ちょうど決着もついたようだし。
気配を殺して食堂から出ると、そこには待っていたと言わんばかりに食堂の入り口にたたずむ生徒がいた。
「…行かなくてよろしいのですか?」
私がそう告げると楽しそうにニヤリと笑うその人。
「俺にはあんな茶番は必要ないのでな」
「そうですか。貴方の妹…リリーシア様、すごかったですわ」
「そうか。リリーは次期当主になるからな」
「…本当に、本当によろしいのですか?」
私と話す彼は、本来ならばリリーシア嬢の家、スティレッタ家の家督を継ぐはずの長男。そしてリリーシア嬢の兄上なのである。
リリーシア嬢がキツメな美人であるように、彼レオンバルトもまた少しつり気味な目に逞しい細身の体を持つ美形だった。
そんな彼もまた英才教育を受け続けていたのだが、それは彼がこの学園に入学したことによって打ち切られた。いや、言い方が違う。入学したことをきっかけに家督継承の座を降りて妹のリリーシアに渡したことによって英才教育が必要なくなってしまったのだ。
「それは俺がスティレッタ家の次期当主にならなくていいのか、ってことか?」
「…それも、そうですが、その、彼女は、」
彼の射抜くような力強い瞳から逃れるべく、私はそっと目をそらす。あまり認めたくないし、正直考えたくもない事実でもあるが、実際確かめたいという思いが強いことに気付く。
「貴方は、彼女のことが、」
「…ああ、まさか俺までもがあの女に骨抜きにされたかもしれない、ということか?」
「…はい。うわさではそう聞いておりましたから。今なら間に合いますわ」
「間に合うというのは、俺がその女をどうにかしてやれるってことなのか?」
「…恐らく」
直後、大きく長い溜息が落された。そして全てのため息が出きったと思ったら、私の腕を掴み、グイッと私を引き寄せた。もちろんいきなりのことで理解が追い付かなかったが、彼に衝突する前に寸でのところで押し留まる。
そんな私の行動に眉間に皺を寄せるレオンバルトは、少し低めな声を出した。
「ここは大人しく抱きしめられるところだ」
「あ、やっぱりそうだったんですね」
勘違いじゃなくてよかった、と呟く私にもう一度ため息が落される。その溜息すらも色っぽく映ってしまうのは、私が重症なだけなのだろうか。
ぼんやりと彼を見つめていると、彼は不意にこちらに近づいた。何をするのだろうか、何も口にせず彼の行動を見守っていると、彼はその大きな手を私の頭に乗せた。そしてその乗せた手は止まることなくスルリと下へ下へ降りていく。私の頬まで行くと柔らかく包み、人差し指と中指が私の右耳に触れた。ピクリと反応する私を眺める彼の瞳は、どこか熱を孕んでいた。
彼の名前を確認するようにつぶやくと、まるでそれが合図のように、彼は私の唇に噛み付いた。情けない私の声が廊下に木霊する。
ようやく離れたと思えば、またすぐにくっつく二つの唇は、息継ぎをすることを許されない。はふはふとなんとか息をしようとする私に対して、目の前の彼はどこか余裕そうに笑う。それがまるで、手慣れているようで、なんだか別人のように思えた。
「な、…んで…っ」
「なんでもくそもあるか。俺はお前が好きだ。これ以上の理由が必要か」
目を見開く。薄々勘付いていたそれが、確信へと変わる。苦しかった息も忘れて、背の高い彼を見上げる。
「どうして、私を…?」
「好きになる理由はない。ただ、お前がいるだけで俺は幸せになれる。どこが好きとか、そういうんじゃない。お前全てが愛しい」
「っ、…馬鹿ですか…」
ああ、どうしよう涙が止まらないや。こうなったらいいのに、それを繰り返してきた日常が、変化をもたらす。知りたい、貴方を知りたい。愛されたい。きっとそれは、叶わないと思っていたのに。
それでも貴方と関わって少しの希望が生まれた。
「さて、お前はこの国に執着はあるか?」
「え?いえ、特には」
親もそこまで高い地位にはいませんし、と付け足すと、彼は満足したように笑った。そして優しく私の右手を取ると、「ならば話は早い」と楽しそうに呟いた。
「俺の国に来るがいい。俺の国はここよりも素晴らしいところだ」
「…俺の、国?」
「小さな国だ。でも確かに俺が立ち上げた国だ。そして小国ながらも強い国だ」
「まさか、そのために…」
「苦労したんだ。それでも民は俺についてきてくれた」
彼は笑う。あいつらに何か文句の一つでもいうか?と。
私は笑う。
「どうでもいいけど、貴方が好きですわ」
それから私が卒業した時、私は彼の国の王妃となり、彼の隣で生涯暮らすことを誓った。
やっぱり作者の自己満足で終わりました。
読了ありがとうございました。
※感想ありがとうございます!
誤字が多くありましたので、びっくりしました。
また、レオンバルトが何故国を立ち上げられたのか。一応不登校設定で、その不登校の原因が逆ハーレム女のせいではないかと噂がたっていました。しかし、実際は彼は国を立てているだけ。それも結構なコトですが。
国をどうやって立てたか。ご都合主義で権力とカリスマ性でなんとかしちゃえです。荒い説明すみませんでした!