利用価値はどのくらいでしょうか?(2)
もくもくと歩き続けながらこれからのことについて考えてみる。
オブを杖にすることが最優先であることだけはわかっている。それからノクターンさがし。
しかし宛がない。
「レイン、レイン、」
「何。今考え事してるんだけど」
オブをにらむ。
「いや、だから・・・」
怒鳴ろうかと思ったら、ごんっ、という音と同時に頭に衝撃がはしった。あまりの痛さに頭を抱えてしゃがみこむ。
私がぶつかったのは家の壁だった。
「どうして言ってくれなかったの」
「言ったよ、言おうとしたよぉ!」
理不尽だ、と叫んだ。
それにしても、こんな森の中にたった1軒だけ家がたっているというのもおかしな話だ。こんなところにいったい誰が住んでいるというのだろうか。
「よし、入ってみよう」
「え・・・いいの?」
だめだとは思うけれど好奇心には勝てない。
とりあえず入り口にまわりこむ。さすがにこんな森の中にあるからだろうか。鍵はかかっていなかった。
「おっじゃましまーす」
ゆっくりと扉を開けて覗き込んでみる。
「不法侵入だぞ」
その声に肩がはねる。聞いたことのない少年の声。不法侵入というくらいだから少年が家主なのだろう。声のした方、後ろを見る。
そこには私と同じとしくらいの少年が立っていた。
「お前・・・『素質ある者』だな」
その言葉に目を見開く。この少年はいったい・・・。
「あなたは?」
不法侵入しておいてこんなことを聞くのも大概失礼だ。
それでも今知りたい。見たところ話の通じそうな相手だし。
「俺も同じだ。お前、名前は?俺はテムル=コンツェルテ」
「・・・私はレイン=スティル」
少年、テムルは少し考えるような仕草をしていった。
「じゃあ俺達は敵同士だな」
「ーっ!」
そのセリフがルーペの言葉とかぶった。イタイ。信じると決めたのに。
それじゃあ・・・この痛みは何?
「あんた・・・」
「テムルー。木の実取ってきたわよ」
間に入ってきたのはハムスター。羽がある・・・ということはテムルのパートナーらしい。
「あら、お客さん?珍しいわね。私はテルノ。よろしくね」
終始笑顔でひとなつこい。
テムルはため息をついた。こころなしか一気に雰囲気が穏やかになった。
「テルノ。ちょっと静かにしてろ」
そして再び私を見た。
「あんたノクターン持ってるか?」
「え・・・いや、ないけど。」
そんなに直球に聞くものではない気がするが。というかもし本当に持っていたとしても素直に言わないと思う。
「じゃあさっさと出てけよ。無駄な争いはしたくない」
そう言ったテムルの顔は少し嬉しそうだった。そのセリフを言ってみたかったんだろうな。思ったよりおもしろい人なのかもしれない。そう思った私の口元がゆるんでしまうのも仕方ない。
私の口元が緩んでいるのに気づいてか、テムルの顔は真っ赤になり自分の口元を手の甲で押さえた。
「テム・・・」「うるさい」
遮られてしまった。
「・・・外暗いからな。1日だけなら泊めてやってもいいけど」
驚いてテムルを見る。たしかに外は真っ暗だ。
どうやらテムルはいい人のようだ。根が真面目なのだろう。
「じゃ・・・お言葉に甘えて」
さすがの私でも家主より先に入るのは申し訳ないので1度外に出て、テムルが家の中に入ってから改めて中に入った。
お風呂も借りれてすごく助かった。テムルもなんだかんだで客扱いをしてくれた。
「テムルは旅に出てノクターンを探しにいったりしないの?」
ずっと気になっていた。家に住んでいるということは旅に出ていないことになる。家のある場所に関しては気になるところもあるが。
「あぁ。俺は別にかなえたい願いもないし。めんどい」
たしかに・・・。願いもないのならノクターンを探す理由がない。
「夢がないね。もっとこう・・・なんでもできるのに」
「なんでもって・・・あんた。まぁ、確かにそうなんだけど」
テムルは小さく笑った。
私たちはそのまま・・・いつのまのか寝てしまったようだ。
私が目を覚ますとテムルはまだ眠っていた。
「・・・ありがと」
寝ているテムルに小さくつぶやいた。それからオブをたたき起こしてテムルの家を出た。森の中を再び歩き始める。
「起きてからでもよかったんじゃない?」
世話になった身だし、とつけくわえるオブ。それでも私はこれでよかったと思っている。寝ているうちにいなくなるのが一番いいんだ。
「私はこ・・・っ!!」
後悔していない、とオブに伝えようとした時だった。
光の筋が目の前を横切った。
ここにきて初めて男子(オスを除く)が登場しました。
やっと展開が動き出します(たぶん)