約束は守る必要ありますか?
「あー、あっつい。」
足元に落ちていた石を蹴り上げる。
あの後、ノクターンを探しに行くために旅に出ることになった。友人達には何も言わずに出てきたことを少しだけ後悔している。それでも理由を説明したところで理解してもらえないのは分かりきっていることで、引き止められるのも目にみえている。だから言わないことにしたのだ。
ギラギラとうるさい太陽に負けそうだ。
「オブー。ティルを目指す人はいっぱいいるって言ったよね。どのくらい。」
敵の数くらいは知っておくべきだと思う。
「えと・・・分かんないや。とにかくいっぱい。」
「役立たず。」
オブが固まった姿が横目で見えたが気にすることもなく道を歩く。
どれだけ歩けばいいのだろう。ノクターンのある場所も分からないためこれといった宛もない。ノクターンは全部で20個あるらしい。それを皆で奪い合うとか。
物騒な話だ。
「―――って、うわぁ!」
いきなり強い風が吹いて飛ばされそうになる。
「暑いとは言ったけどこんな強い風は求めてないって。」
涼しいことは涼しいけど、と付け加えておく。
「レイン、そんなことよりアレ!」
オブの『そんなこと』発言には気になるものもあったけれども『アレ』は確かにそれよりも気になるものだった。
「何・・・これ。」
思わず固まってしまう。大きな体。たくましい翼。どこぞの羽の生えた犬には似ても似つかない生き物。
「ど、ドラゴン!?」
いるの、と思ったがオブたちが存在している時点で何が起きても不思議ではないきがする。
鋭い目つきでこちらを見てくる。
「さっそく、キター!」
何が、といいたいところだがそれよりも「空気読めよ。」かなり緊迫した雰囲気だったはずだ。
「うわっ」
ドラゴンが手を伸ばしてくる。鋭い爪がついているそれは当たったらひとたまりもない。ギリギリで避けたもののヘタしたら死んでいた。手がかすった地面はえぐれている。
(どうしよう・・・怖い。)
柄にもないことを思ってしまう。
私には攻撃することも、逃げることもできないから。逃げてもすぐに追いつかれてしまうだろう。それどころか後ろを向いてしまっては避けることすらできない。
「レイン、はやく僕を杖に変えて。唱えて。」
何を唱えればいいのだろう。オブは杖になることができるのか。心の中で冷静に衝撃を受ける。しかし声が出ない。
「カプリチオ」
どこかで聞いたことのある声だった。
その声がした瞬間、ドラゴンの腕に何かが飛んできて切り裂いた。紫色の血が飛び散る。腕だけではない。どんどん、切り裂かれていく。
私に返り血が飛んでくる。
「ひっ」
怖かった。目の前の光景が。恐ろしかった。
その何かがドラゴンの額にあった星の部分に当たるとドラゴンは消えて紫色の血と星の形をしたペンダントだけが落ちていた。
少女が現れてそのペンダントを拾う。黒い羽の生えた猫も一緒だ。
少女は少しボブ気味のショートヘアで星の中にハートが描かれたヘアピンと何もついていないヘアピンを前髪につけてわけている。
一方黒猫は天使のような羽ではなく悪魔のような羽。オブとは正反対のものだった。
「久しぶり、レイン。」
そう言った少女は確かにレインのよく知った人物だった。
「ルーペ!」
少女の名前はルーペ=ライア。親友だったのだが長らく会っていなかった。というのも彼女は行方不明だったのだ。両親の都合で引っ越してしまい手紙も途中から来なくなっていた。彼女の親戚に聞いたところ行方不明になったというのだ。さらに彼女の両親も行方不明だとか。
おかげでルーペとは5年ぶりの再会だった。
ルーペと出会えたことは嬉しかった。たくさん話したいことがあった。
そう思っていた。思っていた、のに。
「なんか・・・ルーペじゃないみたい。」
先ほどドラゴンを切り裂いたのもルーペのはずだ。
記憶の中にいる少女は優しい雰囲気をしていた。しかし今は違う。暗くて、冷たい。言うなれば禍々しい感じがした。
「何で・・・。何でここにいる、ブラックコーヒー!お前はユリア様に捨てられたはずだろ」
黒猫、ブラックコーヒーとオブは知った仲らしい。珍しく怒りをあらわにするオブに驚きを隠せない。
「違うね。オレが捨てたんだ。それにオレはもうあのお方のものだ。オブにとやかく言われる筋合いはないね。」
ケケケッと笑いながらオブに言った。オブは一瞬悲しそうな目をしていたがすぐに戻ってしまう。
「さすがレイン、よね。そうよ。私はもう昔のような私じゃない。」
黙っていたルーペが口を開いた。ルーペは笑っている。目・・・以外。
「どういう、こと?」
意味が分からない。昔と違う?それはいったいどういう意味で・・・。
「さぁ。教える必要はないわ。だって・・・私とレインは敵同士でしょ?」
そう言われて動けなかった。
それと同時にオブの言葉がよみがえる。
『多くの素質ある者達が争ってティルを目指すんだ。』
素質がある者同士は敵。ブラックコーヒーというパートナーを連れているルーペはまさしく素質ある者だ。
ルーペは私の絶望的な表情を見て満足げに笑ってそもまま足を動かし始めた。
「行くわよ。ブラックコーヒー。」
ルーペの後ろをブラックコーヒーがついていく。
行ってしまう。ルーペが・・・。
「ルーペ!」
ルーペは振り向くこともなく去っていった。
私は立っていることもできずに崩れ落ちた。目から溢れてくるものがとまらない。
止まれ、止まれとまれトマレ。
「私達ずーっと一緒だよね。」「うん。」
「「約束。」」
幼いときに交わした約束は記憶の中で眠りについた。
Q.約束は守る必要ありますか?
A.あります。しかし時間がたってしまえば時効も適応されるでしょう。
(元)親友ルーペの登場。
決して2人はヤンデレなんかじゃないですよ。←
ブラックコーヒーって名前地味に気に入っていますw
ネーミングセンスがないことはいまさらなのですが・・・。