この世は幸せであふれていますか?(2)
――――願い・・・ねぇ。
私が望むものは何だろう。
「命をかけて叶えたい願いはある?」
『命をかけて。』ベタなセリフだと思う。しかし漫画や小説で読んだりするよりも妙に耳に残る言葉だった。たった1度の死で人の命は終わる。あっけないものだ。もちろんそれは人に限ったことではない。
きっとそのたった1度の死に何度も・・・何度も何度もさらされることになる。
そこまでして叶えたい願いなんて、あるのだろうか。
「無償で願いがかなうわけないよ。代償は必要でしょ。」
そんなことはよく分かっている。世の中はギブ&テイクなんだから。
「オブのくせに生意気。」
「え・・・まって。空気読んで。そのセリフ今なの!?」
オブに言われるのは気に食わなかった。
いや、違うか。分かってるのに言われたことに腹が立ったんだ。
「ねぇ。」
ティル・・・。どこかで聞いたことのある言葉だった。
遠い昔に・・・。誰かが、
「え、ちょ。ムシしないで、お願いだから!」
オブの声をよそに記憶を探る。
そうだ。そういえば・・・――――――
幼いころだった。
「レイン。」
自分の名前を呼ばれて顔を上げた。優しくて、わたしの大好きな声だ。
「なぁに、まま。」
満面の笑みでままのもとへと走る。その様子を見ていたままは笑みをもらした。
「もう、そんなに急がなくても。転んでも知らないわよ。」
「レインげんきだよ。だからころんだりなんかしないもん。」
ままの言葉に頬を膨らませる。怒っているふりをしていることはままにバレバレなのは分かっていた。
その後に笑いながら「まったく・・・相変わらずね。」と言いつつもわたしの頭をなでてくれるのが楽しみだったから。頭を撫でられるのは好き。撫でてもらえば悲しくてもつらくてもあたたかい気持ちになれる。
「そうそう、はい。コレ。」
そう言って渡されたのはスペードの形をしたプローチだった。模様もあって可愛い。
「なに?くれるの?」
スペードのブローチをままからわたしの手に移す。
「そうよ。それはままの宝物なの。いつか分かるときが来るわ。レインならきっと立派なティルになれるって信じているもの。」
そう言ったままの顔はすごく嬉しそうだった。
――――――――
なんでお母さんはティルを知っていたのだろうか。
今はもう亡くなっているお母さんにそれを聞くことはできない。
「・・・オブ。」
ムシされていじけていたオブに声をかける。呼ばれたことに首をかしげるオブに向かって私は・・・宣言した。
「私、ティル目指してもいい・・・かも。」
宣言といっても少し気恥ずかしくて目はまっすぐにオブを見ることはできなかった。素直になることは私の苦手分野である。
反応が返ってこないためよけいに顔が熱くなっていく。
「ほ・・・ほんとっ!?」
キラキラと効果音のつきそうな笑顔を向けてくるオブにいたたまれない気持ちになる。
「やっぱりパートナーが僕だから、」
「滅べ、この地球外生命体。」
顔にたまっていた熱は一気に消え去った。オブがパートナーという点はいただけない。ストレスがたまる自信しかない。
「パートナーって変えられないの?」
「な、なんてことを!!無理だよ。ひどいっ。この鬼畜、悪魔!」
「ありがとう。」
「ほめてないし。僕だって変えてほしいよ。」
どっちもどっち、だろう。パートナーがオブなのは気に食わなくても退屈はしなさそうだと思う。
少しだけ、この選んだ道の先に何が待っているのか楽しみだとおもっていることはオブにはいわない。
どうせ調子にのるだろうから。
何も知らない私は迷うことなくこの道を選んだ。
この先に待っているものに期待を膨らませていた。
Q.この世は幸せであふれていますか?
A.いいえ。それはありえません。
第1話完結!!
次からやっと旅に出ます。
個人的にレインは毒舌ツンデレにしようとしてます(これでも)。
オブは不憫キャラ一直線←