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019. 大魔術士アヤ -3-



 二人を【覚醒アウェイク】という魔術で目覚めさせたアヤは、気絶した理由を僕の魔力の暴走のせいだと伝えていた。

 完全に犯人はアヤだったはずだが、いとも簡単に人のせいに出来るとは、見かけによらず恐ろしい少女だ。


「びっくりしたなぁ」

「いてて……ヒロユキ様、それで【鑑定ジャッジ】の魔術のほうは?」


 頭を押さえながら起き上る二人を見ていると、いったいどのような手段で意識を刈り取ったのか気になるが、藪蛇やぶへびになりそうなので気にしないことにする。


「【鑑定ジャッジ】は、使えそう……多分」


 魔術として使用することは難しそう――あんな恥ずかしい詠唱出来そうにないし、また暴走するのが怖いから――だったが、なぜかあの暴走でスキルとしての【鑑定ジャッジ】は修得できていてた。

 スキルを修得するためには何度も繰り返し修練が必要だと聞いたけれど、どうやら僕の場合は数回でいいようだ。


「では……!?」

「うん、見てみようか。アヤお願いできる?」


 ドタバタの最中で、既にアヤが出してくれていた個体識別情報票アイデンティファイ・カードは消えてしまっていた。

 ある程度の時間が経つと、本人が意識していない限りは消えてしまうそうだ。確かにずっと出っぱなしだとその扱いに困ったり、悪用されてしまうかもしれない。


 再度、具現化してもらった個体識別情報票カードを受け取り【鑑定ジャッジ】を発動させる。

 その感覚は先程の暴走の際に掴んでいる。


 要はあの暴走は、魔術の構成に失敗したため本来魔術に使われようとしていた魔力が行き場をなくし、その場にあるものに手当たり次第にぶつかっていき、その魔力が既に【鑑定ジャッジ】の性質を帯びたものであったため、あらゆるモノの情報が頭に流れ込んできたというわけだ。

 詳しいことは分からないが、そんな風に説明を受けていた。


 だから、何を対象にするか確実に決めておき、そこだけを注目することで魔力の流れを限定すれば、あんな暴走は起こらないと言える。

 手に持つ個体識別情報票カードに意識を集め、情報を読み取りたいと願う。鈴の音が響き、ウインドウが開いた。


「これは……?」

個体識別情報票カードの情報――とくにリードが知りたがっている部分を【鑑定ジャッジ】し【情報開示】で表示させたよ。この情報に間違いはないと思う。もし間違っていても、それはもう仕方ないよ」


 ウインドウには、アヤの名前と性別を表示させた。

 名前は【アヤ・オベリスク】。性別は【男】。本人の申告通りの結果だ。


 本来は【鑑定ジャッジ】スキルや魔術は万能ではない。

 もし相手が【防壁ファイヤーウォール】や【改竄】のスキルを使っていた場合、スキルのレベルの差によっては効果を発さない。

 基本的に、レベルの高いスキル効果が優先される。しかし、それを言っていたらキリがないので、無理矢理ここで話を終わらせたかったため、そのことにはあえて触れなかった。

 リードもおそらくそれは知っているはずだが、僕が良いと言ったことでそれを指摘するのを辞めたのだと思う。

 正直、僕はアヤが本当のアヤでもそうでなくても、どちらでもよかった。

 僕に魔術を、様々なことを教えてくれるというなら、本物でも偽物でも全く構わない。


「で、でも……なぜ、そんな姿に……どう見ても女性……」


 それは確かに気になる。

 そして何より、昨晩のことがフラッシュバックしてくる。もしアヤが【男】ならば、僕は昨晩男に『惚れた』と迫られ、あと少しでその誘いに乗ってしまうところだったということになる。

 この世の中にはそういう趣味の人がいることも知っているしそれを否定する気もないが、僕自身はノーセンキューだ。

 不気味な沈黙が暫くその場を支配し、アヤは仰々しくため息を吐いた。


「生まれた時の性別に、何の意味があるの?」

「ええええっ!?」


 なんか、とんでもなく凄い発言が聞こえた。人類の種という枠組みをバキバキに破壊するようなその一言に、絶句する。

 やれやれ、とわざとらしく首を振ったアヤが、突然光に包まれる。

 あまりの眩しさにとっさに眼を閉じ――再び開いたときには、そこにアヤはいなかった。代わりに金髪の美丈夫がそこにいた。


 百人が百人、彼を見れば美形と表現するだろうその美貌は、絶世の美男子といった表現でも物足りない。

 蒼い瞳に、腰まで伸びた見るからにサラサラそうな金髪。ローブに包まれたスラッとした長身のその身体は、筋肉で覆われているのが服越しにも分かる。


「……だ、誰?」


 答えは分かっていたが、それでも問うてみる。

 こんなイケメンが、あんな少女の姿になっていただなんて、こんな現実認めたくない。


「わたし。アヤ」


 声はさっきまでの少女と同じ声だ。しかし、そのギャップがなんというかとてもシュールだ。


「ほ、本当に……アヤ様だったのですね……」

「そう。心も身体も女になってしまったから、疑われても当然」


 そして再び、光に包まれ――。一瞬で、可愛らしい少女の姿になっていた。

 先程までの美丈夫の存在感はきれいに消え去っている。どうやら着ているローブは伸縮自在らしく、身体の大きさが変わってもフィットしたままだ。


「身体もって……、どうやってそんなことを」


 まさか性転換手術がこの世界では当たり前のように行われるのか。

 思い返せば、昨夜見てしまったアヤの身体は、完全に少女のそれだった。男なら付いていなければならないブツもキレイさっぱりなかったはずだ。

 僕の世界での性転換の技術水準がどの程度なのかは知らないが、あそこまで見事な身体は創りだせないのではないのだろうか。

 そこまで考えて、ふと気づく。この世界では僕の世界では想像も出来なかったようなことが平気で起こっている。


「まさか……魔法?」

「そう。わたしの生み出した魔法――正確には【応用魔術】。その名も【乙女の事情ハニーエステ】」


 【解析】スキルで探ってみれば、確かに少女の身体は魔力で覆われている。

 しかも結構な密度があることから大きな魔力がそこに込められていることも分かる。魔法のことはさっぱり分からないが、これほどのものを創り上げるためには筆舌に尽くしがたい苦労と困難があったはずだ。

 ≪新人類の目覚め(ニューヒューマン)≫や≪才能の無駄遣い(ゴクツブシ)≫という称号の意味が、今分かった気がした。


「……半端ないな」


 僕のこっそり呟いた感想に、アヤはどこか自慢げに薄い胸を張っていた。


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