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011. はじまり ― 永遠の一瞬 ―


 どこか、新婚さんが初夜を無事に乗り越えた朝のような、何とも言えない甘い雰囲気が僕とイリスの間を覆っていた。お互いが盛り上がりすぎたのか、自分たちのキャラではないような言葉を言っていた気がする。


「すまない、ヒロユキ。恥ずかしいところを見せたな」


 ごほん、と照れ隠しのようにたたずまいを直しながら、頬を桜色に染めたイリスが言った。


「い、いや、そんなことはないけど……」


 なにか、とんでもなく照れる。おそらく僕の顔も真っ赤だろう。


「とりあえず、今後のことを相談しようか?」

「こ、今後だと!? まだわたしたちには早い気がするが……だが、ヒロユキが」


 素っ頓狂な裏声で、狼狽えるイリス。どうやら、なにか勘違いしてしまっているようだ。


「い、いや、そういう意味じゃなくて。僕の行き先とかの話を、ね」

「あ、ああ。もちろんわかっているぞ! ごほん」

「そ、それならいいんだけど。ん。アルテミスさんにもさっき言ったけど、【神器】を破壊するのは結構危ないと思うんだ」

「……強大な魔力を感じた、ということか」


 調子が戻ってきたように、イリスが凜々しく、ふむと頷く。


「だから、どんなことが起こっても良いように、僕は魔法のことやみんなを護る力の使い方を学んでおきたい」

「うむ。【神器】を壊さないでほしいとは、準備が出来るまで待ってほしい、ということだったのだな」

「うん。だから、イリスの信頼のおける人で、そういったことを教えるのが得意な人のところに行ってみたいんだ」


 そういった意味では、ミチードが提示してきた妥協案は僕にとっても都合が良かった。イリス達に教えて貰おうと最初は思っていたが、城内で一緒にいることは、イリスにとっても僕にとっても安全とは言えない状況になってしまったからだ。


「……一人、心当たりがある」

「え、本当?」

「だが、そいつは……いや、多分大丈夫か……だが、確かにそこにいけば安全は確保できるか……でも、貞操の危機が……さすがに……」


 なんだか、どんどん恐ろしい言葉が聞こえてくる。


「だ、大丈夫なの?」

「うん? あ、ああ。変人だが腕は確かだ。すぐに書をしたためよう」

「なんだか……不安だ……」


 変人という単語と大丈夫という単語は、どう考えてもイコールにはなりそうにないが、この際贅沢は言っていられない。


「じゃあ、確認するよ。僕は、これからその人のところで、この世界のことを学ぶ。その間に、イリス達は安全の範囲内で【神器】の発見を目指してみて」

「うむ。おそらくあいつのところにいる限りは安全だとは思うが、油断だけはしないでくれ」

「うん。僕としては、イリスの方が心配だな。多分、敵は妨害を狙ってくると思うし、最悪イリス達の生命を狙ってくるかもしれない」

「大丈夫だ。わたしにはレンがついている。レンはこの国で一、二を争う戦士だ。それに生命の遣り取りは最後の手段なのは、敵も分かっているはずだ」

「それなら、いいけど……」


 逆に呪術の詳細が分かったことによって、敵が余裕をなくし、形振なりふり構わない行動を取ることも考えられる。


「もし何かあったら、すぐに言ってくれ。絶対に遠慮するな!」


 つい強い口調になってしまったが、イリスは素直に頷いてくれた。


「……何かなければ、逢いに行ってはダメか?」

「え?」

「もし、また挫けそうになったら……逢いに行きたい。おまえの笑顔がわたしの力になるのだ」


 照れたように頬を染めながら、上目遣いに見上げられる。……。胸が、痛い。


「う、うん。僕も、頼られたら嬉しいから……それに……僕も、イリスと逢えたら嬉しい」


 なんだこの甘酸っぱい雰囲気は。遙か昔に忘れた青春時代に感じたことのある胸の高鳴りが、僕の身体を支配していた。


 見つめるイリスの濡れた瞳が、そっと閉じられる。桃色の柔らかそうな唇から目が離せられない。

「……」

 イリスに惹きつけられるように、身体が勝手に動く。細い両肩に手を置く。白い高級そうな服越しのはずなのに、どこか熱さを感じる。これは、もう、止められない。

 少しずつ僕たちの距離が近づいていき――その距離が(ゼロ)になる――


「どこりゃぁぁぁぁぁ!! ここは皇の御前じゃぁぁぁぁあっ!!」


 ――一瞬前に、扉が蹴破られる。重厚で分厚く重そうな扉が、軽い板のように跳ね飛んだ。同時に転がり込んでくる影がひとつ。怒髪天を衝くレンさんだ。


「ヒロユキィッ、コロス!!」


 慌てて振り向いた視界の中に入ってきたのは、鬼と見紛う恐ろしい形相で、腰の直刀を抜刀しながら迫ってくるレンさん。


「い、いや、ここは冷静に、話し合いましょう、ね、ねっ!」


 わき上がってくる不安感。脳裏にちりちりとした感覚が、稲妻のように奔る。【暫定未来予知】スキルにより、レンさんの攻撃が未来視ビジョンのように視える。感じる攻撃の数は五つ。上下左右の四方からの一撃と、トドメの刺突。逃げ場が無い。


「イリス様に何をしている、この鬼畜めッ! 死ね!!」

「アホですか」


 ぱしんと、レンさんの背後からチョップを喰らわせるアルテミスさん。当たり所が悪かったのか、アルテミスさんの力が半端なかったのか、レンさんは悶絶しながら転げ回っていた。

 すっかり忘れていたが、そういえばこの二人、廊下でずっと待ってくれていたんだった。ちょっと申し訳ないことをした。


「ホント、あと少しだったのに」

「……姉様」


 ぽそりと呟いた一言に、もう苦笑いをこぼすしかない僕たちだ。しかし、本当に『あと少し』だった。あのままレンさんの妨害が入らなければ、きっと勢いのままキスしてしまっていたのだろうか。したんだろうな。

 どうやら、僕はイリスにぞっこんになってしまったようだ。三十のおっさんと、十四、五の少女か……完全にロリコン犯罪コースだが、きっとこの世界ではこんな年齢差が普通に違いない。うん、そうに決まっている。この世界に僕が染まってしまったのだろう。うん。そう自分で納得してみることにした。


 しかし、本当に惜しかったな。永遠に届かない一瞬エターナル・リグレット・モーメント、か。惜しい一瞬だった……。

ストックが尽きました。

とりあえず、これでプロローグ的な部分が終わりです。

次話からはまた新しい展開を書いていきたいです。

よろしくお願いします。

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