第1話-稼動開始-
βテスト最終日、俺はいつもと同じように仲間のパーティーと敵の討伐をしていた。
敵はモンスタータイプの「ヘルコングLv30」
まぁ、超凶暴でゴリラの5倍はでかいやつだ。
もともと学校でも仲のよかった4人なのでチームワークは抜群だった。
まず、「格闘型」のリョウがスタンロッドで敵に反動をあたえる、すかさず「支援型」のテルがライフルで弱点を射撃、もがき苦しんでるところを「基本型」の俺、リクトと「援護型」の紅一点、ライカがハンドガンやらショットガンやら、ありったけの武器で攻撃し、敵のHPを減らしていく。
これが普段からのぶれない戦闘スタイルだった。
ヘルコングもすぐに片付いた。そもそも、敵のLVが30に対して、こっちは平均Lv60だ。レベルの上がりにくい「援護型」のライカでさえLv54もある。負けるはずがない。
それにこの1週間のβテスターの平均Lvが27なので俺たちのパーティーはかなりの上級パーティーだった。
ゲームを終了するとゴーグルモニターの時計表示が3時になっていた。すると、モニター内に小さな画面が出てきた。そこには、ゲーム開発担当の5人が映っている。しかし、俺を含む何人かは異変に気がついた。5人の表情がおかしい。口元を振るわせる者、冷や汗のようなものをかいてる者、ずっと下を向いてる者。
-PM3:03-
画面が出現して5人ともまだ何も喋ってない。「なんなんだ?」「どうしたの?」など会場内も不安な声が出てきた。すると画面に新たな人物が現れ口を開いた。
「βテスターの諸君、ごきげんよう。この映像は全国のβテスト会場に生中継で配信している。私の名はハリモト。このゲームの総指揮者だ。この一週間いかがだっただろう、この新感覚のゲームを楽しむことは出来たかな?」
なんだ、ただの挨拶か。と、会場の緊張が解けた。
「今現在、君たちはゲーム中ではないので、HPゲージも装備表示も出てないだろう。」
いま、ゴーグルモニターに映っているのは、時計とこのハリモトの生中継の画面だけだ。
「私は子どものころからゲームが大好きだった。もし、ゲームの世界が現実の世界なら?もし、自分の力で敵を倒すことが出来たなら?と、常に考えていたよ。しかし、最近はスマートフォンや携帯ゲーム機などの低規模なゲームでしか遊ばなくなった。私はとても悲しくなった。進化し続けるはずのゲーム文化が衰退していってるではないか....だから私は考えたのだよ。」
ハリモトは大きく息を吸ってこう答えた。
「現実世界をゲームしてしまえばいいとね。」
理解するのに時間はそうかからなかった。なぜならゲーム中でないにもかかわらず、モニターにはHPゲージが表示されている。
「驚いたか?すまないが話を円滑に進めるためにもう一度だけ驚いてもらう。」
するとハリモトも俺たちと同じゴーグルを装着し「インストール・ウェポン」と呟いた。ゲーム中に武器を出現させるときにいう言葉だ。ハリモトは小型のハンドガンを出現させ、開発者の1人の頭に突きつけた。ガンッッ!!!!!!ゲーム中によく耳にする発砲音が響き渡った。それと同時に信じられない光景が映った。普段ゲーム中に被弾した場合、損傷部が赤く点滅し、HPゲージがダメージによって減少するというだけだった。しかし、ゴーグルをつけていない開発者に、ハリモトが存在しないはずの銃で撃ったところ、開発者は血を流してその場に倒れた。ほかの4人の開発者もつぎつぎを撃たれては倒れた。
会場からは悲鳴がわいたが、ハリモトはかまわず続ける。
「どうだ?驚いただろう。これが私の夢であったゲームの具現化だ!」
むちゃくちゃすぎる。そのときリョウが叫んだ。
「おい、みんな!ゴーグルとるんだ!」
「いいのかな?」
ハリモトが小さく呟いた。
「そのゴーグルは君たちの命を数値化させて表示させているんだ。それがなければ武器も装備できない。回復もできない。」
ライカは震えながら叫んだ。
「あなたは私たちに殺し合いをさせるつもりなの!?」
おそらく会場の全員が考え、しかし考えないようにしたであろう疑問だった。
「いや、むしろ君たちは協力し合ってもらいたい。」
すると、モニター内に全国地図が表示された。その地図にはいくつかの円が記されていた。
「これは君たちのいる施設から半径30kmを表示した円だ。君たちがβテストに励んでいる間に、この円の中から一般人は何かしらの理由で全員退避させた。この円はドーム状の電脳空間となっている。つまりゲームフィールドだ。ゲームフィールド内には君たちが戦ってきた敵が出現するようになっている。」
「死ぬまで戦えってことなのか!!」と誰かが叫んだ。
「いや、20箇所ある円にそれぞれ8箇所ほどだが脱出ポイントを作った。そこから脱出できればゲームクリアだ。しかし、一度脱出に使ったポイントは封鎖されるから気をつけたまえ。一度に脱出できる人数は4人まで、つまり32人しか脱出できないからそこも気をつけたまえ。」
つまり、無条件でこの中の16人、4パーティーが死ぬということだ。
「ちなみにその会場は君たちのベースキャンプだ。その会場内には敵もあらわれない。食料に関することだが、フィールドに存在する食べれるものはすべて食べてくれて構わない。ベースキャンプにも定期的に物資を運搬するので、餓死によるゲームオーバーはないといっていいだろう。」
「説明は以上だ。それでは、βテスト終了と同時にThe fourth assist combatの稼動開始を宣言する!!!」
「諸君らの検討を祈る」と最後に呟き生中継の画面は消えた。残っているのは時計とHPゲージと装備表示だ。
会場にいたはずのスタッフの姿もない。おそらく、ハリモトが喋っている間に消えたのだろう。会場にはβテスターだった48人だけとなった。
誰一人と口を開かなかった。まだ現実か夢かもわからない状況を飲み込めないのだろう。
-PM4:00-
ハリモトの説明からしばらくたって、ようやくみんなはパーティーごとに固まった。
俺は3人に「どうする?」とたずねた。
「どうするもなにも....出口を見つけて脱出するしか....」とテルが言うとライカが「はやく...帰りたい...」と泣き出した。
リョウの「一度外にでてみようぜ。」との言葉で俺たちは外に出ることにした。
4人は一斉に「インストール・ウィポン」と呟き、それぞれの武器を装備した。
外に出るとみなれた街中なのに見事に人の気配がなかった。
「なんだ、思ったより敵少ないっていうか、敵いないな。」
「よかった..」とライカが安堵しかけたその瞬間、自動ターゲットロックオンシステムが作動し、敵の存在をゴーグルが教えてくれた。
「ライカ!サーチ頼む!」と俺が叫んだ。サーチとは援護型の特技のひとつで敵のLvなどを解析できる。
「うん!.........名前はクレイジーベア!Lvは48!!」
βテストではもっと強い敵もいたのだが、今回の戦闘は今までの戦闘とはわけが違う。今までならHPがゼロになっても一定時間待てばリスポーン地点から再出撃できた。でもこれからはできない。HPがぜろになる、それはそれは文字通り「死」を意味する。戦闘スタイルを変えたほうがいいと判断した俺は、
「まず、俺とテルでひるませるようにする!ひるんだらリョウが隙を突いてくれ!ライカは俺たちの回復に専念してくれ!」
3人は「了解!!」と告げるとすぐさま自分の仕事にとりかかった。
「リクト!テル!敵の弱点はおなかにある古傷だよ!」
サーチのよって判明した弱点に狙いを定め、俺とテルは集中砲火した。
敵は好戦的でないのか反撃してこない。
「リョウ!隙をみつけて突っ込んでくれ!」
「おお!!!」
リョウは飛翔という高く飛ぶことのできるスキルをみにつけているので、それを使って飛び上がり古傷に切りかかった。しかし、敵はすぐさま左手でリョウをたたき払った。
「ぐぁぁぁぁぁ!!!」リョウは建物に叩き付けられた。
「ライカ!!!回復を!!!」
「うん!!!!ウェポンチェンジ!!!」
そうすると、ライカは装備をショットガンから回復スプレーに変えてリョウを回復させた。あの一撃だけでリョウのHPは1/4まで減少していた。
「このまま戦闘が長引くのは良くないな。弾数も限りがあるし。」
普段のゲームならリスポーン地点に弾薬補給場所があり、戻れば弾薬を補給できた。しかし、それがフィールドにはない。おそらくベースキャンプに補給物資としてくるのだろう。
いち早く終わらせるために俺は装備をハンドガンから手榴弾に変えた。
「俺が手榴弾を使ってひるませるから、テルは古傷をロケランで撃ってくれ。」
「了解!」
俺は無謀ながらも敵に急接近し、足元に5つほど手榴弾を投げ込んだ。近づきすぎたため、相手のひっかきを喰らって2/3までHPが減ってしまった。
「下がれ!リクト!!」とテルが叫び、ロケランを発射した。見事に古傷に命中すると敵のHPはゼロになったらしく、敵は倒れて消滅した。モニターには-result-と表示されいつもの戦闘結果が記されていた。
俺を回復させるためにライカが寄ってきて震える声で「ずっと....つづくの?」と言った。
リョウが「大丈夫さ、早く出口をみつけて帰ろう。」俺は「回復ありがとう。」と言って、4人でベースキャンプに戻った。
これがこの恐ろしいゲームの最初のほうの記録だ。