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遂に牙城が崩れた。
『@The_Tragedy_of_Y すべてその通りです』
正解の場合、エックスはいつも「 ヽ( ´▽`)ノ<☆スッキリ♪。・。・゜☆・。・。 正解っ! 嗚呼、完敗です名探偵。||| _| ̄|〇 |||」とおちゃらけて受け答える。だが流石に今回は、心にそんな余裕はなかった模様だ。
どうやらサイトの推理は完璧だったみたいだ。こうして「ツイッター推理ゲーム殺人事件」の鉄壁のアリバイトリックは、新参者「ワイの悲劇(O県弁w)」によって木っ端微塵に粉砕した。
水を打ったように静まり返る「つぶやき挑戦状」リストのタイムライン。あまりの衝撃のせいか、さっきから誰もツイートしてこない。
すぐさま俺はサイトの携帯電話に連絡をした。
数回の呼出音の後――
『お掛けになった電話番号は電源が切られているか――』
「チッ、そうくるか。絶対わざとや。せやったらこっちや」
DMは、相互フォローをしないと使えない仕組みになっている。なので俺は「ワイの悲劇(O県弁w)」に向けて、直接タイムライン上からアプローチをした。
『@The_Tragedy_of_Y はじめましてワイの悲劇さん。フォローしました。凄いですね、あの事件の謎を看破しただなんて! あと俺・・・つうかワイもO県出身なんすよ! よかったら友達になりませんか?』
サイトは「友達」という言葉に飢えている筈だ。その思惑通り、すぐさまワイの悲劇から反応が。
ワイの悲劇(O県弁w) @The_Tragedy_of_Y 8分
『@TOHRU はじめまして三つ目がトオル殿。おお、ワイと同郷じゃって? そらーでーれーおどれーたーわー。ぼれーうれしーわー。ワイもリフォローしたけー、よろしゅーたのまー。じゃあ、なかよーしたってーよー!』
よし、これでヤツと直接ナイショ話が出来る。すぐさま俺はDMを送信した。
『なあオマエ、サイトなんやろ? そんなサル芝居とっくにお見通しやねんぞ。もったいぶった事してないで、さっさと答え教えてくれよ。真犯人はエックス? 城田アナ? それとも河本のカノジョけ? それに空間移動のトリックは? 悔しいけど今回もコウさんに降参や。頼む、教えてぐでー!』
ワイの悲劇からの返信が俺のDMへ。
ワイの悲劇(O県弁w) @The_Tragedy_of_Y 3分
『わりーけど人違いじゃー。ワイは単なる通りすがりのワイじゃー。すまんのー別人で。じゃけど同郷のよしみで、さっきエックス殿に送った内容を、そっくりそのまま、おめーさんのDMへ連続ネタバレツイートするけーの。じゃあの、後はたのんマスカットスタジアム(地元ネタw)。~昭和の男前殿へ♪』
「――なんで人違いのくせに俺が昭和の男前って知ってんねん! おのれサイトのクソガキが。まったくどこまでも人をおちょくりやがって」
そして待つこと数分。ド近眼の残念なイケメンから再びDMが届いた。
「つ、遂に、この事件の真相が明らかに……」
灼熱の「ツブレ荘」の湿った万年床で、胡坐をかいてノートPCの画面を凝視する俺。扇風機は明後日の方向を向いている。ノートPCの冷却ファンが温風を撒き散らしながら、唸りを上げて暴走する。
体が震える。鼓動が高鳴る。赤い半袖シャツを着た筋骨隆々な俺の背中に、冷や汗がだらだらと立ちこめる。
そして俺は生唾を飲み込みながら、震える指先でダイレクトメッセージのリンクをクリックした。
ワイの悲劇(O県弁w) @The_Tragedy_of_Y 3分
『【解決編(1)】真犯人は――』
電流火花が体を奔る。こうして俺は、この事件に隠された驚愕の真相に辿り着いたのだ。
<次回 解決編>