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解答紳士X @The_Tragedy_of_X 7月21日
『@shiro_mow さんへ。ひとつ、ご提案があります。次回の「つぶやき挑戦状」は、お互いに問題を出し合って「名探偵VS解答紳士のつぶやき推理対決」と洒落込みませんか? もし、ご迷惑でしたらおっしゃって下さいね』
『@The_Tragedy_of_X エックスさん、なかなか面白い趣向ですね。OKです。とっておきの問題を用意してゲームに挑ませて頂きますね(^^)』
解答紳士X @The_Tragedy_of_X 7月21日
『@shiro_mow さんの器の広さに敬服致します。流石は希代の名探偵ですね、脱帽です。正々堂々フェアプレイで挑ませて頂きます。よろしくお願いします。開催日時は明後日の七月二十三日の午後十時からで如何ですか?』
『@The_Tragedy_of_X 了解です! こちらこそ、よろしくお願いします(^^)』
『@The_Tragedy_of_X @shiro_mow あーん? コラてめエックスにしろむー! 貴様ら、この俺を差し置いて、なに勝手に決めてんだよ。俺にはハッカーの知り合いがいるんだよ。貴様らの正体を絶対に突き止めて、ガチ絶対MAXブッ殺す!』
そして決戦当夜。七月二十三日の午後十一時四十分。
「ほぇー、今晩は一段と盛り上がってんなぁ」
俺のツイッターのタイムラインは今宵も「Xからのつぶやき挑戦状」関連のツイートで埋め尽くされている。しかも今回は、名探偵しろむーさんの方からも、エックスに対して問題が提示されている。前人未到の頂上決戦だ。過去ログによると、どうやらエックスから直々のリクエストらしい。
『@shiro_mow さん、惜しいですね。警察の証言に「抜け穴も覗き穴もなし」とあります。(・o・)<モヤット。で、そちらの問題ですが、「自らの手を切断して共犯者に握らせた」とか?』
『@The_Tragedy_of_X エックスさん残念。地の文に「共犯者はなし」とあります。あと殺害時間の矛盾も生じますね。で、そちらの問題ですが――』
『@shiro_mow さん、(・o・)<モヤット。で、そちらの問題ですが――』
『@The_Tragedy_of_X エックスさん残念! で、そちらの問題ですが――』
「――なんやえらい書き込みがハイペースやなあ。ほとんどチャット状態やないか。しっかし、どんだけ思考をフル回転させてはるねん。一度、こいつらの脳天カチ割って、灰色の脳細胞とやらを見てみたいわ」
白熱する一進一退の攻防戦。息をも付かせぬ展開だ。そんな二人の巧妙なロジカルツイートが、俺のポンコツノートPCのタイムラインに途絶えることなく流れてくる。
なぜなら今回は特別ルール。二人はナイショ機能のDMを使わずに、あえて皆が閲覧できるようタイムラインにお互いの推理を直接書き込んでいるのだ。
謎解きに参加したくとも、二人の問題と推理のレベルが高すぎて、とてもじゃないが横入りできそうもない。
その証拠に、他の常連のツイートは皆無だ。きっとみんな、俺と同じように固唾を飲んで勝負の行方を見守っているのだろう。
「バトルの立会人はエックスのフォロワーである俺たちつうことか。せやけど、今晩は珍しくアラシのkoo±も絡んできーへんなあ。まあ二人にハミにされてスネて不貞寝してるんやろう。いい気味や」
結局、その夜の推理バトルは深夜二時にまで及んだ。勝負の結果は両者不正解で次回に持ち越し。痛み分けだ。
二十三日午後十時から二十四日午前二時までの四時間に渡る長期戦。その間、互いの書き込みによる論理的展開は、一分たりとも途切れることはなかった。
翌日の午後。K美大「直心館講義室」の遥か後方のひな壇席で、俺は退屈極まりない舞台美術史のゼミの講義を受けていた。
「ふぁー、昨夜はエックスとしろむーさんの推理バトルに夢中でメチャ寝不足や。あーあ、早く講義終わらへんかなあ」
溢れ出るあくびをかみ殺しながら、携帯電話片手にネットのモバイルニュースサイトをぼんやりと眺める俺。その時――
「うそっ!」
【ネットの人間関係のもつれ? 美大生、ワンルームマンションで刺殺】
『今朝未明、京都市左京区百万遍のワンルームマンションにて大学生が変死体で発見された。
被害者はK美術大学ランドスケープデザインコース二回生の河本春男。二十歳。死因は刺殺。真正面からナイフのような鋭利な凶器で、複数回に渡り顔面等を突き刺された模様。
激しく揉み合った形跡もあり、他殺の可能性大。遺体の状況から昨晩の犯行と推定される。現在司法解剖にて詳細な死亡推定時刻を調査中。第一発見者は大学の同級生。
警察の調査によると、被害者はツイッターの某推理ゲームの常連であったことが、遺留品のノートPCにより判明した。
関係者の証言によると、被害者は同サイトにてアラシ呼ばわりされたことに憤慨。ゲームの出題者や他の常連に対して殺意を抱き、脅迫めいた書き込みをしていていたとのこと。
当局はネットの人間関係を中心に目下調査中である。
提供:連想新聞 20XX年07月24日14時28分』
「マジかよ。あいつウチの大学の生徒やったんか。しかも面識はあらへんけど、俺らと同級生やないか」
一気に目が覚めた。眉間に皺を寄せて携帯電話の画面を食い入るように覗き込む俺。間違いない、殺されたランスケの河本という男は、アラシのkoo±(コー)だ。だとすると、やはり――
【返り討ちにして差し上げますよ。ええ、もちろん「完全犯罪」でねニヤリ】
――真犯人はX (エックス)?
(つづく)