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08

-解決編08-


 何かを堪えるように、じっと俯く華子。そして、しばらくの沈黙の後、彼女は顔を上げながら重たげに口を開いた。


「ねえ、それって告白のつもり?」


「どうとでも好きなように取れや」


 俺は彼女の潤んだ瞳から目を逸らし、吐き捨てるように言った。


「まったくタイミング悪すぎやね、いっつもトオルはピントがズレてるというか――」


「ああ、オカンや妹や――親友にもよく言われる」


「でもね、トオルのそういうとこ。私、嫌いやあらへんよ――ありがとう」


「じゃ、じゃあ、自首してくれるんやな?」


 何かを拭い去るかのように、彼女はゆっくりと被りを振った。


「トオル。悪いけど――」


「――」


「悪いけど――本当に、本当にごめんなさい――」


「ハナ――」


「私には、世界のクロハナとしての、新進気鋭の映画監督としての輝かしい未来が待っているんよ」


「――」


「世界中の人々が私の感性を待っている。その運命の勢いは誰にも止められやしない。神様仏様、正義感溢れる昭和の熱血男前くんにもね。そやから、こんなところでモタモタするわけにはいかへんのよ。堪忍ねトオル」


「人としての道理よりも――あくまで芸術家としての業を押し通すつもりか」


「そういうことよ悪いけど。そして、この真相を知ってはるのは、トオル――あなたと、このトリックを暴いた張本人である、あなたの親友くんだけ。この二人を抹殺して口止めさえすれば、この謎は永久に闇に葬り去られるんよ」


 こんな猟奇事件を引き起こしてしまったにもかかわらず、その上、連続殺人など犯してしまったら彼女は確実に極刑だ。


 そんなことは絶対にさせてはならない。俺の命に代えても。


「それはちゃうで。このトリックを暴いたのはサイトやない、ワイ自身や。だからアイツには何の関係もあらへん」


 そう、けっしてサイトではない。正真正銘「ワイの悲劇」自身なのだ。本人がそう言うのだから間違いはない。


「あくまでシラを切り通すつもりみたいね。まるで昭和の演歌のような友情物語。涙ぐましい話やわ。でもトオル、その続きは、あの世でやってちょうだい。親友同士、二人仲むつまじくね」


 意を決したのか、華子の顔が再び般若の様相に変貌する。ナイフを握った彼女の右手に力が一際こもる。


「やめろ、やめるんやハナっ! こんなところで大の男を殺してまったら、オンナひとりの力でどうやって後始末するつもりや」


「心配後無用、ちゃんと策は講じてあるんよ。河本くんの友人である解答紳士Xはあなた――トオルだった。動機はもちろん椎名さんへの片思いからの逆恨み。そのトリックを暴いた私、華子は屋上に呼び出して自首を勧めた。でも、説得の甲斐なく、あなたはこのナイフを私に突きつけた。そして揉み合いになった挙句、わたしは誤ってあなたを刺してしまった。そう、いわゆる正当防衛ね」


「それ、本気で言ってるんか」


「もちろん本気よ。後は殺害後、エックスのユーザーネームとパスワードで、トオルの携帯からツイッターにログインする。こうしておけば、遺留品鑑定によってあなたはエックスであると断定される。どう、これで完全犯罪の成立よ」


「サイトの方はどうするんや?」


「引き篭もりの彼の方は、自宅アパートでの自殺を装った密室殺人を用意しているの。自殺の理由は、社会に馴染めないニートな自分と、唯一の友人の死を哀れんでの……ってとこかしら。本当は椎名さんに罪を擦り付けたかったんやけど……バレてしまってはしょうがないわね。予定を変更して、あなたたちにすべての罪を被ってもらうわ」


 灼熱の松麟館屋上。夏の強い西日が俺の胸を容赦なく突き刺す。その瞬間、生暖かい乱気流が、彼女の黒帽子をふわりと空高く吹き飛ばした。


 漆黒のロングウェーブへアーが、激しく淫らに舞い上がる。まるでメデューサの頭部で艶かしく乱舞する邪悪な蛇の大群のように。


「堪忍ねトオル」


 そして彼女は、硬直する俺の眼前で銀色のバタフライナイフを大きく振りかざした。


(次回エピローグ)


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