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-解決編 06-
「推理バトルの夜。私は椎名さんが彼のマンションに来ないことを知っていた。鉢合わせでもしたら修羅場やもんね。彼もそこは慎重に取り計らってくれた。クックックッ、まさか自ら墓穴を掘っているとも気付かずにね」
漆黒の令嬢が不敵な笑みを浮かべる。
「そして午後十時、推理ゲームは開催された」
「――」
「トリックはさっきの推理の通りよ。私のスマホを渡して『推理に集中したいから、文字打ちはお願い』って頼んだら快く引き受けてくれはったわ。けっこう彼、タイピングの名人やったのよ」
黒いレースの手袋をはめた左手で、スマホを打つジェスチャーをする華子。
「そしてタイミングを見計らって、私は彼をメッタ刺しにしたの。そう、このバタフライナイフで――」
右手にはナイフが握られている。夏の光を吸収した銀色の先端が、俺の喉元でゆらゆらと揺らめく。彼女の口元の端がニタリと吊り上る。
「私は血まみれでのた打ち回る断末魔の彼の手からスマホを奪って、城田アナとの推理バトルを続けた。そしてバトル終了後の午前二時過ぎにマンションから抜け出したの。誰かに目撃されたらどうしようかと心配したけど――フフッ、なかなかスリリングな脱出ゲームやったわ」
「――」
「そう、これがツイッター推理ゲーム殺人事件の全貌よ。長らくのご清聴、真にありがとうございました」
おどけた口調で恭しく会釈をする華子。だけど、そんな態度とは裏腹に、彼女の目元にはうっすらと光るものが。
そんな哀れな道化師に、俺が今、唯一できることは。
「自首するんや、ハナ」
その言葉が今の俺にできる、精一杯の手向けの花だった。
(つづく)




