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「ツイッター推理ゲーム殺人事件」<北白川通りのサイト・シリーズ>
光明寺 祭人
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『【拡散希望】「読者への挑戦状」聡明なる名探偵諸君へ。この事件の真犯人は誰? ~Xより』
「おっ、やってるやってる。今晩も盛り上がってんなぁ、ツイッターの推理バトル『Xからのつぶやき挑戦状』」
蒸し暑い真夏の深夜零時。京都市左京区北白川通りの裏手にある、おんぼろアパート「ツブレ荘」の一室での出来事だった。
エアコンなんて気の効いたものは当然ここにはない。安物の扇風機が無駄に温風をかき回す。京都は盆地なので地域全体に風通しが悪く、夏の湿気と冬の底冷えがハンパではないのだ。気候のよい中国地方のO県出身の俺には、まさに拷問である。
「ヒー、それにしてもアッちいなぁ、この部屋も推理バトルも」
その生温い暗闇の中で俺は、湿った万年床に寝そべって汗だくになりながら、ノートPCの画面を食い入るように眺めていた。ちなみにOSは古のWindows 98。暴走するファンクーラーから排出される熱気が、湿り気を絡めて俺の顔面に噴霧する。
Twitterとは、百四十文字以内の「ツイート」 (tweet) と称される「つぶやき」を入力し、それをTLという掲示板を通じて、フォロワーという仲間同士で共有する情報コミュニティサービスだ。
基本的に短文なので、ブログのコメント欄や2ちゃんねるのように論争に発展して炎上することも少ない。そんな、ゆるーいつながりが人気の秘訣だ。
北白川通りの突き当たり、白川の大通り沿いにあるK美術大学の演劇コースに通う俺、トオルが最近密かにマイブームなのが、このツイッター。
中でも、ユーザー名「解答紳士X(通称エックス)」とやらの推理ゲーム「Xからのつぶやき挑戦状」が抜群に面白い。
ルールはこうだ。出題者のエックスは、限られた文字数の中に推理小説まがいのクイズを書き、タイムラインにつぶやく。そして次回のつぶやきで「読者への挑戦状」と銘打ち、フォロワーたちに推理を募る。
ゲームの挑戦者であるフォロワーたちは、DMという機能を使って、エックスに自らの推理を送信する。
『推理に挑戦します。えっと、犯人はAさんですかね? 理由は――』
といった具合に。DMは当事者同士のナイショ話だから、フォロワー同士の推理がネタバレし合う心配はない。出題者のエックスは、そのDMの返信を、あえて誰もが閲覧できるタイムラインに流す。
不正解の場合は――。
『@TOHRU さんへ。すっかり常連さんですね。いつも挑戦ありがとうございます。でも、今回も残念。それだと論理が破綻してますよ。(・o・)<モヤット』
こんな塩梅だ。チッ、人をおちょくった顔文字が強烈にムカツク。
そして正解の場合は――。
『@hkcyclonejoker さんへ。 ヽ( ´▽`)ノ<☆スッキリ♪。・。・゜☆・。・。 正解っ! 嗚呼、完敗です名探偵。||| _| ̄|〇 |||』
ちなみにこれが過去問の抜粋だ。
『【さんすうのしゅくだい】★もんだい「5×5□×2=55-5」□の中にすうじをひとつきにゅうして、もんだいをかんせいさせましょう。※ちゅうい:ひだりはかけざん、みぎはひきざんです。~カズコせんせいより(了)』
他には。
『【レインボー家の陰謀1/2】 某日。それは小学三年生のSくんが、学校のおともだち「虹野にじのさん」一家の七つ子ちゃんのお宅にお呼ばれした時の事件だった。★気になる『虹野さんちの七つ子ちゃん』リスト・紅子ちゃん・蜜柑ちゃん・檸檬ちゃん・翠ちゃん・愛生ちゃん・藍子ちゃん・紫苑くん。(つづく)』
『【レインボー家の陰謀2/2】「あっ、そのお菓子おいしそう。ねえ、ひとつちょうだい」と、食いしん坊のSくん。「やだ」(了)★読者への挑戦状。本格推理のフー&ホワイダニット。児童虐待の凶悪犯は誰? そして何故?』
他にも。
『【容疑者29才の変身】 ★にじゅうきゅうさい。おとなのへんそうめいじんです。マッチをいっぽんだけうごかして、こどものさんさいにへんそうしてください。~マチコせんせいより(了)
などなど。
もりったー 創 @marunage_strike 4月4日
『@The_Tragedy_of_X エックスさーん、むずーい! 自信はないけどDMに推理を送信しました。モヤットだったらヒントくださーい』
『@The_Tragedy_of_X うーん、今回も難問ですねエックスさん(汗)』
こういった具合だ。
正解するまで永遠に答えが分からないのが、このゲームのムカツクところだ。
全然正解者が出ないのであれば「ケッ、ひとりよがりのアンフェアな問題やなあ」と諦めも付くが、毎回1~2名の正解者が出現する絶妙なさじ加減つうのが、ますますムカツキやがる。
ちなみに俺の勝率は……聡明なる読者諸君のご想像にお任せしよう。
その中でも抜群の正解率を誇っているのが――。
『@The_Tragedy_of_X やったー。いつも楽しい謎を、ありがとうございます。次回作も楽しませてください(^^)』
名探偵のしろむーさん。そして、その後を追うのが――。
『@The_Tragedy_of_X 簡単すぎてつまんないね。次回はもう少し手応えのある謎をたのんますw』
謙虚な前者と尊大な後者。実に対照的な名探偵だ。
良識人なしろむーさんとやらは、まあいいとして、このkoo±とやらが、とにかくタチが悪い。正解しては毒を吐き、不正解しては毒を吐く。
自称「解答紳士」を気取るエックスも、このkoo±の悪行三昧には、ほとほと手を焼いている様子。まさにアラシだ。
おそらく、名探偵ナンバーワンのしろむーさんへの嫉妬と苛立ちから来る暴言なのだろう。まったく器の小さい奴だ。感情的な男は嫌われるぞ、日本画コースのカワイコちゃんに。「なんのこっちゃ?」という方は、前回の「喫茶エルム街の悪夢」事件を参照して欲しい。
そしてこの夜、遂に彼らの積年の憤りが爆発した。
『@The_Tragedy_of_X こらエックス! なんだこのアンフェアな問題は。だいたい貴様ナニサマだよ。いつも高慢ちきな態度取りやがって。こう見えても俺にはハッカーの知り合いがいるんだよ。必ずやオマエの正体突き止めて、ブッ殺してやるから覚悟しとけよエックス!』
『@shiro_mow それから、しろむー。いつもオマエばっかり正解しやがって、ムカつくんだよ。こう見えても俺にはハッカーの知り合いがいるんだよ。オマエの正体も突き止めて、ブッ殺してやるから覚悟しとけよ、しろむー!』
『@bookood 落ち着いてくださいkooさん、これはあくまでゲームですから……』
『@shiro_mow さん、放っておきましょう。そんなアラシの戯言に取り合っては駄目ですよ。 @bookood』
『@The_Tragedy_of_X @shiro_mow あーん? コラてめエックス! 誰がアラシだって? もういっぺんいってみろ、このキザ野郎が! ガチ絶対マジブッ殺す!』
『@bookood さん。大人気ないですね。たかがゲームじゃないですか。しかし、そっちがその気なら――いいでしょう、返り討ちにして差し上げますよ。ええ、もちろん「完全犯罪」でねニヤリ』
炎上だ。
(つづく)




