宵の鬱
じりじりと、体が熱く火照るような、落ち着かない感覚に襲われる。 何度も寝がえりを打つうちに、ふっと想太さんの顔が頭の中に咲いた。
今日、唐突に部屋に入ってきて、しゃべって笑って食べて、そして何も残さず帰ってしまった想太さん。本屋さんでしか接点がないのに、どうしてか、よくしてくれる人。
「・・・っつ」
じわりと、胸から顔にかけて熱が広がっていく。
なんだ、なんなんだ。この感覚は。
焦って、布団の中へともぐりこむ。すっぽりと布団に埋まると、真っ暗な中で強烈に想太さんが見えた。
・・・これが、恋、というものなのだろうか。
小説で読んだことがある。こんな風に、意味もなく相手のことを考えてしまうものらしい。その人のことを考えるだけで、体中が熱を持ってしまうものらしい。
でも、まさか。
自分がこんな病にかかるとは思ってもみなかった。いや、今だって本当かどうか迷っている、疑っている。
だって、あたしのなかには常に暁のことでいっぱいだったから。他の人のことなんて、考える暇がなかったから。暁のことしか考えていないし、別の人が入ってくる隙間なんてないものだと思っていた。
「・・・」
無言で、息を大きく吐く。スッと、胸が軽くなるような、もやもやを吐き出してしまったような解放感があった。
暁が大変なことになってるかもしれないのに、想太さんとイチャイチャして過ごそうなんて思ってない。結ばれようとか、幸せになろうとか、そんなこと微塵も思っていない。
ただ、この気持ちがあたしの本物の気持ちなら。
なにもない天井に、そっと誓いを立てる。誰も知らない、あたしだけの秘密。
まっすぐな気持ちだけは持っていよう。恋のゴタゴタなんて、二の次。暁と再会してからでも遅くない。ただ、自分に嘘はつかないように。
誓えば、いつかはどうにでもなると楽観的になれて、母さんが見守ってくれているような気もしてきて、ふわっと眠りに世界に落ちていった。